第95話 帰ろうぜ
第94話のおさらい
立ち上がったエマの手にある4連の銃を見て、レイはいち早くその意図を察し、レウウィスを包囲して一斉斉射を呼びかけていた。
オジサンもまたエマの銃が閃光弾を発射することを思い出す。
レウウィスに銃を撃ちこみながら、レイは斃せるという手応えを感じていた。
レウウィスはエマが撃つ閃光弾を普通の銃弾として認識するはずなので閃光をモロに食らう。
その目論見通り、閃光を食らって再び視覚を失い、銃弾の一斉斉射を全身に食らうレウウィス。
「やはり人間は良い」
ニヤリと笑う。
オジサンが、ついにレウウィスの目を狙撃によって撃ち貫く。
最期の瞬間、レウウィスの脳裏に走馬灯のように甦った記憶の中に、ソンジュとムジカがいる。
レウウィスが大の字に倒れてピクリとも動かない。
その様子に、レイ達は勝利を実感し、快哉を叫ぶ。
もはや立って意識を繋ぐので精いっぱいのエマだったが、その視線は喜びに沸き返る仲間達を見つめていた。
そして、これで猟場を巡る悲劇が終わるという感慨に浸る。
レウウィスの打撃で全身を壁に打ち付けられたアダムだったが、アダムは平気で立ち上がる。
それを見て、レイはアダムのその異様なタフネスぶりに一体何者なのかという疑問を持つ。
エマも仲間たちにもケガがないことを喜んでいたが、力尽きて地面に崩れ落ちる。
塹壕ではオリバーが意識を取り戻していた。
起き上がる事さえ困難な体で戦況を気にするオリバー。
そこにナイジェルがやってくる。
他の仲間たちに先駆けて一足先に塹壕に着いたナイジェルのミッション完了の報告で、塹壕に子供達の歓喜が響く。
間もなくペペ、ヴァイオレット、エマを背負ったオジサンが現れる。
ルーカスとの再会の喜びもそこそこに、オジサンは、屋敷にいるバイヨンの手下に気付かれる前に素早く逃げることを提案する。
まだ負傷者がいる為に治療にあたっていた子供達はここを動けないと考えていた。
ボスを斃したなら、屋敷の残りの怪物を斃せないのかという提案を受け、オジサンは、手下たちの数や特徴など、戦いを有利に進める為の情報がないから戦うのは危険だと一蹴する。
ここまでに出た負傷者たちに大量に薬を使っていた為、塹壕の薬の備蓄は枯渇しようとしていた。
レイは、ここでは止血などの最低限の応急処置をして、すぐにシェルター向かうことを提案する。
それが出来なければエマは死ぬと直感していた。
ナイジェルは、エマがここに4日かけて来たと言っていたことを思い出す。
オジサンは、最短距離でいけば一日半で戻れる道もあるが、その道は来た時に通ってきた道よりも険しく、大勢の子供達や、負傷者を伴っての踏破は困難だと見ていた。
「置いて行って」
オリバーは薄く笑いながら、自分たち負傷者を置いてシェルターへ向かうことをルーカスに提案するのだった。
第95話
オリバー達のワガママ
オリバーにとって、ルーカスはかつて自分のことを鬼から助けてくれただけではなかった。
猟場から逃げようと言ってくれたルーカスに対して、オリバーはそれをよしとせず、猟場を潰すことを望んだ。
そしてルーカスはそれを受け入れる。
その時点から猟場を終わらせる為の長い戦いが始まったのだった。
ルーカスはオリバーからの自分を見捨てて逃げてほしいという言葉を聞き、驚き立ち尽くしていた。
何を言っている、と問うルーカスに、オリバーは、言葉通り、エマ以外の7人の重傷者を置いて行って欲しいと繰り返す。
そうすれば全てが解決する、とオリバーは説明を始める。
オジサンとレイがエマを連れて最短の道を行く。
他の子供達はルーカスがかつてGPにやって来た際の、シェルターまでの3週間の道のりをナイジェルとヴァイオレットの護衛によって安全に帰る。
自分たち7人の重傷者がいないことでそれが実現できる、とオリバー。
顔を伏せるヴァイオレット。
「バカな…!!」
ルーカスは嘆くのみ。
オリバーは、自分を助けてくれただけではなく、知識、技術、生きる目的、家族を与えてくれて、あくまで自分たちのワガママであった猟場を潰したいという願いを聞き入れて共に戦ってくれたことで、自分たちがどれだけ救われたかと口にする。
「父親がいたなら…こんな感じだったのかなぁ…」
ルーカスのことを、自分たちにとっての恩人であり、師匠であり、兄であり、そして父だと言うオリバー。
負傷者の一人であるジリアンが、みんなでそれを決めていた、と会話に加わる。
治療にあたっている子供達の中の一人である女の子も、最初から、とオリバーやジリアンの言葉を肯定する。
オリバーたち9人の戦士は事前に、全員が生き残ることは第一としつつ、しかしそれが難しくなった場合はルーカスと他の子供達だけは外へ逃がすことがこの戦いを始めた自分たちの責任だという合意を形成していた。
驚愕したまま、言葉を失うルーカス。
全員で帰る
「覚悟はとうにできている」
オリバーは、足手まといになりたくない、とルーカスを見上げる。
「ルーカスが…皆がエマが…生き残るために俺達をここへ置いて行ってくれ」
ルーカスは歯噛みする。
心の内で、オリバー達の言葉の中の自分を、親ならば我が子に復讐などさせるものか、と否定していた。
ルーカスはオリバーから猟場を潰したいと聞いた時、GPを出た後のことを考えて恐れていた。
脱出した後は、人食いの怪物がいる中で怯えて暮らすことになるのか。
ミネルヴァは味方であるとは確信しておらず、逃がしたはずのオジサンも死んでいるかもしれない。
そんな自分の内に湧いた恐怖から逃れる為にオリバーたちの復讐心を利用したと、ルーカスは自分のとった行動を評価していた。
「だめだ…置いて行けない…君達を置いて行くなんて――」
「誰も置いて行かねぇ」
エマの傍らに座っていたレイが呟く。
「エマは助ける 全員でも帰る」
オジサンは、そうじゃないとエマが納得しない、と同意する。
レイは自分がナイジェル、ヴァイオレットと共にオリバーや子供達を護衛してシェルターまで帰ると宣言する。
それじゃエマは、というナイジェルからの問いかけにレイは応えず、オジサンを呼ぶ。
「あんたにエマを任せていいか?」
オジサンはレイの顔を見つめて、一瞬の間の後、任せろ、と答える。
「お前の親友は俺が必ず連れ帰り助ける」
オリバーは自分達ケガ人は動けず、そんな中3週間もつか不明だとして、レイの提案は危険だと食い下がる。
「でもまだ生きてるだろ!?」
テオが叫ぶ。
「生きてる限り諦めちゃダメだ!! 俺もできることは何でもするから…!」
他の子供達もテオの言葉に同調する。
ナイジェルは吹っ切れたような笑顔で、自分も誰かを犠牲に生き残るのを拒否する。
その隣で、ヴァイオレットはアダムがいるし何とか出来る、と笑う。
「ここじゃなくてもまだ死ねる ここまでやったんだ 全員で帰ろうぜ」
レイが口元に笑顔を浮かべてオリバーに説く。
「決まりだ」
ニヤリ笑うオジサン。
オリバーやジリアンを始めとした重傷者たちはレイやオジサン、子供達を説得する言葉を失う。
緊急破壊装置
方針が決定したことで、手当と準備を済ませるぞ、と早速指示するオジサン。
ルーカスはナイジェルにエマのペンを渡す。
「”最後の手段”エマなら今使う 全員無事に逃げ切るために」
ナイジェルは受け取ったペンを使い、GPの制御室へ向かう。
コンソールを操作し、プロテクターの内側のボタンを押す。
<緊急破壊装置作動>
音声と共に、30分のカウントダウンが開始する。
短時間の内に準備を完了させたレイたちは、急いで脱出を開始する。
屋敷の手下の鬼達は、そろそろ狩り終了の音楽を鳴らす頃かと動き始める。
その頃には既にGPの自壊が起こるまでに10分を切っていた。
ビービー、という警報が鳴るが、鬼達には何の事なのかが分からない。
巨大なファンの間を抜け、子供達が脱出していく。
その気配を察知した鬼がいたが、一瞬でレイが弱点を撃ち抜き事なきを得る。
外に出た子供達は、今度は森の中を進む。
村にも警報が響いていた。
脱出する子供達の脳裏にGPで過ごした日々の想いが去来する。
彼ら、彼女らにとってGPは、日々、仲間たちと一緒に笑い合う瞬間もあったことで、鬼に狩られ続けた悲劇だけを彼らの胸に残したわけではなかった。
警報は鳴り続け、やがてカウントダウンは0になる。
レイたちはもう既にGPを離れ、鬼の潜む森にまで到達していた。
「あんたらすげぇよ…」
レイがGPの方角を見つめたまま、ルーカスたちに声をかける。
小さな秘密の鬼の猟場ではあったが、逃げることなくそれを破壊した。
猟場で殺される食用児はいない、とレイ。
「世界を変えた…その一歩だ」
その脳裏には、ハウスでエマが言った言葉が思い出されていた。
(変えようよ世界 これはそういう脱獄なんだ)
そして同時に、ハウスに残してきたフィルたちを想う。
(フィル達の奪還 GFの解放 1000年前の約束 これは世界を変える脱獄)
(俺達も――)
「じゃあ無事に戻れよ」
エマを担いでいるオジサンがいち早くシェルターに向けて先行する前に、レイに声をかける。
レイは、オッサンも、と返す。
GPには大量の水が流れ込んでいた。
2046年1月29日、水は村も何もかもを飲み込み、ついにゴールディポンド密猟場は水底に沈むのだった。
感想
オリバー達が仲間に
やはり見捨てないわな。
わかってたけどよかったわ。この感じならみんな無事にシェルターに辿り着けそうな気がする。
身動き出来ずに全体の逃走を鈍らせるであろう負傷者たちは置いて行くとオリバーたちは事前に決めていた。
それも、そもそもこの密猟場を潰すことはオリバーたちの発案からだったのか……。
ルーカスはあくまで逃げる事を提案しようとしていた。
でも結果的には、その時もし逃げていたら全滅していたのではないかと思う。
オリバーたちもまだ戦いの術をロクに知らず、他の子供達はおろか自分の身も守れなかっただろう。
密猟場で食用児たちの命を牛耳る憎き貴族鬼たちを斃せるほどにオリバーたちが成長したことは必要だったのだと思う。
シェルターまで彼らが無事に辿り着ければ、エマたちは多くの心強い仲間を得たことになる。
シェルターに残っていたドンたちとどう絡むか、そしてこの先、どういう風に活躍するのかが楽しみだわ。
しかしここまで名前有りの登場人物が大量に出て来るとなると作画が大変だろうなー。
これを週刊連載するぽすか先生の作画スピードの速さは本当に神だと思うわ。
GP破壊
奥の手とはGPの破壊装置だったのか。
鬼との戦いでもし負けていても、きっとどうにか起動させたんだろうな。
そうすることでオリバーたちの悲願である密猟場の破壊はとりあえずは為る。
しかしそういう自殺のような使い道ではなくて良かったわ。
今回の様な使い方はGPを食用児の為に残した”ミネルヴァ”にとっても本望だっただろう。
食用児が暮らす為の施設だったはずが、逆に鬼が食用児を狩り続ける施設となっていた悲劇。
だがその悲劇はもう生まれることはない。
手下の鬼たちは特に脅威にもならずに、多分散っていっただろうな(笑)。
むしろ、エマたちによって主人を失ったことを露とも知らずに、いつもの作業を行っていた彼らが何かかわいかった。
あいつらもきちんと知能があって、人間の様に日々をある程度のルーティンで生きている。
中にはいち早くGPの自壊に気付き逃げた個体もいただろう。しかしそれに巻き込まれて溺死した個体の方が数多くいそう。
オリバー達は見事に復讐を果たした。長きに渡る戦いに決着をつけることが出来た気持ちは果たしてどんなものなのだろう。
喜びに浸る暇もなくシェルターへの逃避行という次の大仕事が彼らを待っている。
それをやり遂げた時こそ、初めて彼らが勝利の美酒を味わうのだろう。
次はラムダ編突入かな? そしてノーマンと再会することを期待したい。
でもその再会はもう少し後でもいいかも。感動の果実は後々の楽しみにしたいとも思う(笑)。
以上、約束のネバーランド第95話のネタバレを含む感想と考察でした。
次回第96話に続きます。
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