第83話 13年越しの解答
目次
第82話のおさらい
ジリアンは、事前のナイジェルの言動から自己犠牲によって計画を死守する覚悟を感じ取り、ナイジェルが動く前にバイヨンの前に飛び出していた。
ジリアンは心の中でナイジェルに謝りつつ、”死んでも守る”というナイジェルの意思に反発する。
ジリアンはナイジェルと二人で戦うか、もしくはナイジェルがこのまま自分を置いてオリバのチームに知らせに行くことを期待していた。
ジリアンはバイヨンに向かって走りながら発砲する。
ジリアンの無鉄砲とも言える行動に、ナイジェルは目を見開く。
ナイジェルはジリアンの行動から、すぐにジリアンがナイジェルを殺させまいとしているのだと気付く。
ジリアンを槍で薙ぐ態勢をとるバイヨン。
ナイジェルはバイヨンに向けて銃撃する。それによってジリアンはバイヨンの槍による斬撃をギリギリでかわす。
ナイジェルはジリアンに悪態をつきながら、ジリアンと合流する。
バイヨンはジリアンとナイジェルを見つめながら頭部に受けた銃撃の傷の再生を待っている。
「余計な情は無くし、計画を何より優先すべきだと怒るナイジェル。
必死になってジリアンに食って掛かるナイジェルに対し、ジリアンは涼しい表情をしている。
そして、ナイジェルこそ自分一人見殺しにできてない、とジリアンは困ったように笑う。
ジリアンは、観念して二人で戦おう、とナイジェルに呼びかける。
バイヨンは、笛の音や、硝煙の匂いから、ナイジェルとジリアンがルーチェたちを殺したと指摘し、素晴らしい、と賞賛する。
「君達の仲間……彼らの健闘も見事でした」
バイヨンが過去形でおそらくサックとペペについて言及したのに瞠目する二人。
バイヨンは二人に向けて淡々と、鬼の殺し方をどうやって知ったのか、どう準備を行ったのかと問いかける。
バイヨンは今回の反乱の首謀者であるルーカスを捜索している。
二人はバイヨンの意図を察知し、その場から急いで逃げ出す。
ナイジェルはバイヨンから逃げているフリをしながら、バイヨンの求めているルーカスや、作戦通りにレウウィスからも遠ざかるようにを誘導しようと考えていた。
ナイジェルはジリアンと並走しつつ次の戦術を指示するが、ジリアンが足を止めたのに合わせて自分も走るのをやめる。
バイヨンはジリアンの背中を槍で切りつけていた。
そして、片手で首を鷲掴みにしてナイジェルに見せつける。
「この娘の命か首謀者の命か」
バイヨンは、ジリアンの命と首謀者の命のどちらをとるかだとナイジェルに告げる。
選択出来ず、ナイジェルは悔しそうに歯噛みする。
(言えるかよ そんな……選べるかよチクショウ!!)
バイヨンの手の内にあるジリアンは苦しみながら、ブツブツと何かを呟く。
ナイジェルはそのジリアンの呟きや視線を受け、驚愕の表情を浮かべる。
人質になっている自分を殺せというジリアンの望みを察したナイジェルは、覚悟を決めてジリアンに銃口を向ける。
ナイジェルの銃撃を待つジリアン。
その瞬間、ペペがバイヨンの背後から大量の煙を放出する玉を投げつける。
ナイジェルはバイヨンに生じた隙を突き、ジリアンを捕まえている右腕に銃弾を撃ち込み、手放したジリアンを救い出す。
血塗れのペペはナイジェルと並走しながら、策がある、とペペはナイジェルを誘導する。
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第83話 13年越しの解答
尾行
バイヨンから必死に逃げるペペとナイジェル。
ナイジェルは肩に担いだジリアンに心配そうな視線を送る。
そして、並走するペペに、”策”について問いかける。
ペペはまずは安全なところでジリアンの手当が先だと答える。
煙と不意打ちでバイヨンが自分たちの姿を見失っている隙に、というペペの言葉を、バイヨンは木の陰に潜んで聞いていた。
バイヨンは、背後から接近してきたペペにも、煙玉にも、自分のから逃れたと安心すれば重傷のジリアンの為に鬼の手が届かない安全な場所、本拠地へと向かうであろうことも全て判っていた。
わざと二人を泳がせて本拠地へと案内させる。
バイヨンの、本拠地に潜んでいるであろう首謀者を倒すという企みは順調に進んでいた。
13年前の”ゲーム”
村の広場で相対するエマとレウウィス。
レウウィスは、エマから持ちかけられたゲームという言葉に記憶を刺激されていた。
13年前、斧を手に戦う意思を見せるルーカスに対し、レウウィスは、ちょっとしたゲームをしよう、と持ちかけていた。
ソーニャたちが森で起こした爆発と同様に、ルーカスやオジサンもかつて爆発によって鬼たちの攪乱に成功していたのだった。
レウウィスは、バイヨン卿たちが自分たちがいる森にやって来るまで20分ほどなので、あと15分は邪魔が入らないだろうという計算をルーカスに披露する。
そして、鬼を殺し方を教えるのでその策を考えてみろという驚きの提案をする。
え、と呆気にとられるルーカス。
レウウィスは、ずっと知りたがっていただろう、教えてあげると余裕たっぷりな様子で続ける。
現状の人間と鬼との戦力差に加え、鬼には通用しない猟場の武器ひとつとっても人間側は狩られる一方であり、フェアではないと前置きして、レウウィスは自分の仮面に指さして見せる。
「目だよ 仮面の下 顔の中心 目の奥の核だ そこを壊せば我々は死ぬ」
レウウィスは、無言で自分を睨み続けるルーカスに対して提案する。
「まずは10分やろう 好きに仕掛け給え」
さらには、好きに使い給え、と他の子供達が持っていたはずの三挺の銃をルーカスに対して放る。
「×××も呼ぶといい 協力し給え」
レウウィスはオジサンの事に言及する。
「それから特別に面も外そう」
「なんで…」
なんでそこまで、と内心驚き、歯噛みするルーカス。
「言ったろう? 私は血湧き肉踊りたいのだ」
仮面を外したレウウィスは、ルーカスに向けて楽しそうに笑って見せる。
レウウィスは、お互いに命を懸け合わなければ狩りとは呼べない、私は狩りをしたい、と続ける。
「さぁ秘密の”ゲーム”だ 私を殺してみ給え」
作戦通り
13年前のルーカスとのやりとりを鮮明に思い出して楽しそうに笑い、アレか、とレウウィスは呟く。
「同じ”ゲーム” つまり15分のフェアな狩り」
エマはレウウィスに対し堂々と要求する。
「最初の10分 鬼は人間を攻撃しない」
レウウィスは、ルーカスに持ちかけた戯れを君が私に持ちかけるのか、と状況を整理したあと、よかろう、とエマの提案を受け入れる。
(よし これで…)
内心、時間稼ぎが出来てしてやったりのエマ。
「だが必要ない」
レウウィスからの思わぬ言葉にエマは固まる。
あの夜ルーカスがしたように、エマの目的もまた時間稼ぎだとレウウィスは看破してみせる。
エマが弾丸の消費を避ける為に自分に対して攻撃せず、逃げ回る。
エマも、そして一人で自分に挑み重傷を負ったルーカスも、一人で自分を殺せるとは考えていないだろう、とレウウィスは続ける。
「総攻撃」
レウウィスは、もし自分がルーカスならば全戦力で自分を叩くだろうと予想し、そのための時間稼ぎなのだとエマの思惑を言い当てる。
図星を突かれて固まるエマの表情を見て、フフ、とレウウィスは笑う。
そして、エマは強い子だが、ゴールディポンドにやって来て一日でルーカスにとんだ役目を負わされて大変だなと言ってエマに背を向ける。
エマはただ黙ってレウウィスを見つめる。
「よかろう 待つとしよう」
そう言って、レウウィスは大人しくレンガに腰かける。
「”15分”? いや”10分”か? 待とう 待った方が楽しそうだ」
レウウィスは、そうだ、”必要”ない、と思っていた。
(この反乱こそあの夜の”ゲーム”の13年越しの解答ではないか なぁルーカス)
かつてルーカスに、鬼を殺す策を考えてみろ、と投げかけた時のことを再び思い出す。
エマはレウウィスを見つめたまま、内心で計画通りレウウィスの足止め成功を喜ぶ。
「ただし待つからには来てもらわねば困る 私は今 とても昂っている」
「もし10分後 村に君の仲間が誰も現れなかったら――」
「その時は君一人で存分に楽しませてくれよ エマ」
楽しそうに笑うレウウィスを見て、エマの背筋に悪寒が走る。
待ち伏せ
バイヨンは、ナイジェルとペペが姿を消した木の根の前に立っていた。
(彼らの本拠地…首謀者はこの森の下にいるのか)
槍で木の根元にある扉代わりの板を切り裂く。
人一人分のスペースしかないのを確認して木ごと槍で切り払い、バイヨンは開いた地下壕に通じる大穴に飛び込む。
(何だここは)
遥か奥に通じている横穴。
穴の壁はレンガで補強されている。
地下壕も、そこに出入りする木を通じた通用路にしても、食用児によって造られたものではない、と察するバイヨン。
小童め、とピーターの顔を思い出す。
バイヨンは通路を進んでいくに従い、首謀者やさきほど地下壕に逃げ込んだナイジェル、ペペ、ジリアンの三人だけではなく、姿を消した他の食用児たちの匂いを感じていた。
バイヨンの行く通路の脇道に、銃を構えたオリバーと、そのすぐ後ろにナイジェルが待ち伏せている。
(脇道!! 待ち伏せ!!)
それに気付き、バイヨンは槍を構えようとするが、槍の柄が壁に当たり思うようにいかない。
もたつくバイヨンに素早く近寄るもう一つの影。
(右にもか!!)
ルーカスがバイヨンの右足を攻撃する。
バランスを崩すバイヨン。
「今だ!! オリバー! ナイジェル!!」
ルーカスが叫ぶ。
(大丈夫 仲間は必ず来る!!)
エマは緊張した面持ちで仲間を待っている。
ルーカスの合図で、オリバーとナイジェルはバイヨンに向けていた銃の引金を引く。
(くだばれバイヨン!!)
三発の銃声が響く。
感想
せめぎ合い
バイヨン卿がわざと逃がしたのに気づかず、ナイジェルとペペは本拠地へ逃げ帰る。
二人に本拠地まで案内させるという知能と冷静さを持つバイヨンは強敵なんだなと改めて感じた。
しかし13年の月日は、ルーカスにこの事態をしっかり想定させていたらしい。
地下壕でバイヨン卿を待ち受けるナイジェル、オリバー、そしてルーカスの3人の動きは、このケースを想定していたとしか思えないほどに息の合ったものだ。
オリバーたちに気付き慌てるバイヨンの様子から、まさか案内させているはずの人間たちが、自分を誘き出し、待ち構えているとは想像すらしていなかったようだ。
このルーカスたちによる渾身の迎撃・不意打ちが成功するか、というところで今回の話は終わりか……。
毎度のことながら、何とも気になるところで次回に持ち越しになったもんだ。
来週まで待つのが辛い。
マジで楽しみ。
レウウィスの小さなミスは蟻の一穴となるか
レウウィス大公の大物っぷりが終始際立っていた。
ルーカスはレウウィスから直接、鬼の殺し方をレクチャーされていたのか……。
本来、一方的に獲物をいたぶれるだけの戦力差があるにもかかわらず、あえてその優位を捨てて自分が死ぬリスクが無いと満足できない。
この気質は13年前とは言わず、もっと昔から変わらないのだろう。
戦闘凶のレウウィスらしい行動だと思う。
よく理解できる。
しかしレウウィスは、まさか深手を負わせたルーカスが生き残っているとは思ってもいなかった様子だった。
他の鬼に、ルーカスに対して鬼の弱点を教えて遊んだことを報告まではしていなかった。
鬼の弱点を知ったルーカスが生存していたことが鬼たちにとっての最大の誤算と言えるだろう。
ルーカスは13年もの膨大な時間で反乱軍を組織し、硬い仮面を突破して鬼を全滅させる為の戦略を練りに練った。
全てはルーカスが生存していたからできたことだった。
現に、人間側はルーカスの授けた、あるいはオリバー達と練った戦術によってルーチェやノウマを倒すことに成功した。
もしレウウィスがルーカス生存の可能性を考えて、自分たちの弱点が人間側に知れ渡っているかもしれない旨を他の鬼たちに伝えていれば、人間たちによるルーチェやノウマの打倒には至らなかったかもしれない。
ルーカスに止めを刺さなかった。
万が一生存しているかもしれないルーカスに、鬼の弱点を伝えていたことを他の鬼に報告しなかった。
この、大物であるレウウィスにとってみれば果たしてミスと言えるかどうかも微妙な”二つのミス”こそが、最終的にゴールディポンドに巣食う鬼の全滅に至る蟻の一穴となるのだろうか。
レウウィスの昂り
レウウィスはエマの提案が過去、ルーカスに対して自分が持ちかけたゲームの内容そのままということにすぐ気づいた。
自分を倒すために、13年という、レウウィスたち鬼にとってみれば短くとも、人間にとってみれば永い時間をかけた壮大な作戦が動いている。
今、自分に対して仕掛けてきている策がルーカスの13年越しの解答だと理解した時、レウウィスは、どれだけわくわくしたことだろう。
自分の死の危険を孕んだ戦闘に飢えていたレウウィスにとって、ルーカスから仕掛けられたゲームに昂るのは当然だろう。
事前の作戦通り、エマはレウウィスから10分の時間を奪うことに成功した。
しかし、その間に広場に誰も仲間が来なかった時にはエマを地獄が待ち受けている。
概ね人間側の作戦通りに事態が推移しているとはいえ、まだまだ余裕など到底持つことはできない。
果たしてソーニャとサンディはノウマを失い怒れるノウスを倒せるのか。もしくは逃げることが出来るのか。
ルーカス、オリバー、ナイジェルによるバイヨンへの不意打ちは成功するのか。
他のメンバーたちはエマの元に結集出来るのか。
白井先生、出水先生、今週も引きが上手すぎです……。
待つのが辛い……。
以上、約束のネバーランド第83話のネタバレを含む感想と考察でした。
第84話に続きます。
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