第93話 決着
第92話のおさらい
突然のアダムの登場に戸惑うレウウィス。
アダムまるで念仏のようにノーマンの数字である22194を唱え続ける。
思わぬ援軍に驚くレイとエマ。
その怪物をブッとばせというどこからか飛んできた指示に従い、アダムはレウウィスに強力なパンチを叩きつける。
アダムの膂力によって空高く飛ばされるレウウィス。
正面からの人間の攻撃によって腕を折られ、殴り飛ばされている事実に戸惑う。
そして、アダムが新農園(ラムダ)からの試食品であったことを思い出していた。
エマは心強い援軍のアダム、ヴァイオレットの合流に喜びを見せる。
「今だ!! お前ら!! チャンスだ狙え!!」
僅かに弛緩した空気を締めるオジサンからの指示が飛ぶ。
それに従い、エマ達は構えていた銃で中空を舞っているレウウィスを狙う。
レウウィスはこの状況をまずいと感じていたが、自由落下に身を任せる事しかできずにいた。
エマの一斉斉射を受けるレウウィス。
しかし着地したレウウィスを停止させることは出来ない。
レウウィスは素早い行動で銃弾を避け続ける。
エマはヴァイオレットにもうすぐ閃光弾の効果は切れるが、目に限らず攻撃を当てろと指示。
エマの指示を理解したヴァイオレットは笛でアダムの注意をひきつけて、投げまくれ、と声を張る。
その言葉に従い、アダムは巨大な瓦礫をレウウィスに投げつける。
それを躱しつつ、レウウィスは再生能力低下をエマたちに気づかれていることがやりづらく感じていた。
心の内で自身の身体にガタがきているのを認める。
エマたちから食らわされた電撃で全身にダメージを受け、閃光弾で視神経を失った。
そして銃撃によって手を飛ばされる。
しかしレウウィスは、自身の身体がここまで動いたのが久しぶりだと感じ、この状況を全く悲観してはいなかった。
かつて多くの人間を葬ってきたレウウィスは、体中に銃弾を受けながらも、折角何百年ぶりに楽しいのにここで斃れる私ではないと不敵に笑う。
レウウィスは踵を返してエマ達から離れていく。
両陣営ともに、レウウィスの視覚が回復すきるまでがチャンスだと思い、この策をしくじれば自分たちの負けだと感じていた。
エマ達は、レウウィスに銃撃が効果的だと感じていた。
しかしそれだけでは決定力に欠けることもわかっていた。
向かってくるレウウィスに対してエマは閃光弾を投げ込む。
しかしピンを抜いた音からその位置や方向を把握していたレウウィスは閃光弾が光を発する前に顔を防護する。
レイからの銃撃も察知していたレウウィス。
素早くレイの弾を躱すが、屋根の上にいるオジサンに下あごを撃ち抜かれ、驚愕する。
アダムも立て続けにレウウィスに向かって崩壊した家の瓦礫を投げつける。
レウウィスはアダムを単調だと評していた。
複雑な思考や動作が難しいかなと笑う。
「よく見給え その先には二人がいたはずだよ」
エマとナイジェルはアダムの投げた石柱が当たる寸前で何とか避ける。
死力が回復してきたレウウィスは、アダムの鳩尾を殴って家の外壁に吹っ飛ばす。
その衝撃にオジサンはバランスを崩して屋根から落ちそうになる。
(アダム!! オジサン!!)
エマは二人の危機を感じていた。
レイはレウウィスが今にも視力を回復しかねないと警戒し、これが最後のチャンスだと考えて、撃ち尽くすぞ! と指示を飛ばす。
その掛け声に従い一斉斉射を行おうとするエマ達。
しかし次の瞬間、レウウィスの爪がエマの腹を背後から抉っていた。
驚愕の表情を浮かべるエマ。
「残念、時間切れだ」
レウウィスはエマの背後から声をかける。
「エマーーーー!」
悲痛な叫びが辺りに響く。
前回第92話の詳細はこちらをクリックしてくださいね。
第93話 決着
瀕死
レイはレウウィスに背後から爪で腹部を貫かれたエマを呆然と眺めていた。
そしてレイの脳裏には食用児として生まれ、ハウスに監禁されてきた呪われた人生の中で、楽しい思い出であるエマとノーマンとの時間が走馬灯のように甦る。
今まさにレイは特別だったエマとノーマンの二人を失う危機を前にしていた。
レウウィスに腹部を貫かれたエマは、刺された状態のまま持ち上げられる。
レイのみならず、ヴァイオレット、ナイジェル、オジサンもその様子を前に硬直するのみ。
やがてレウウィスの爪の湾曲に沿ってエマの身体から徐々に爪が抜けていき、エマは夥しい鮮血と共に地面に崩れ落ちる。
「エマーーー!!!」
レイ、ナイジェルがエマに駆け寄る。
「ありがとう 本当に楽しかった」
レウウィスはうつ伏せに倒れているエマの背中に手を当て、感謝を述べる。
エマ以外の戦士たちがレウウィスに向けて一斉に銃を構える。
その表情は憎しみで歪んでいた。
「君には 君達には最大の敬意を払おう」
レウウィスの言葉を合図にしたようにレイがレウウィスに向かって走りながら銃を連射する。
レウウィスは銃弾を全て爪で受け止めていた。
ナイジェル、ヴァイオレット、そして屋根の上からオジサンも銃弾をレウウィスに向けて撃ち込んでいく。
「うおおおおおお」
吠えるナイジェル。その目は涙に濡れている。
レイは背後に倒れているエマを心配そうに見つめながら、起きるんだと心の中で呼びかけ続ける。
意識下
エマは場所の感覚を失っていた。
ただただ傷口だけが痛み、血が抜けていく。
体は重く、動かない。
そして睡魔がエマを襲う。
俯せに倒れたままのエマの耳に話し声が聞こえてくる。
(ウォルター アニー…… ダイナァ…)
オジサンが女の子の亡骸を抱いている。
その傍らでルーカスが泣いている。
(オジサン? ルーカス?)
突如現れた幻が薄れていくと、今度はまた新しい幻が現れる。
(許せない)
幼いオリバーがルーカスを前にして悲しみと憎しみに顔を歪ませて泣く。
(この猟場を終わらせたい)
その背後でザックとポーラも泣いている。
(オリバー ポーラ ザック?)
幻はどんどん現れては消えていく。
鬼に片手で体を捕まえられてしまった子供が手を伸ばして目の前のナイジェルに助けを求める。
(いやだこわい 助けて)
ナイジェルは手を伸ばすだけで何も出来ない。
ジリアンは仲間の亡骸の前で、地面に伏して泣いている。
自身の手を見つめるヴァイオレット。
きょうだいを失ったばかりのテオがその悔しさに涙を流す。
シェルターで”HELP”と書かれた壁を前にしているオジサン。
仲間の亡骸を背にペペが仲間を伴って走り去る。
そして、血にまみれた手斧を持つレウウィス。
エマはレウウィスを斃すために立ち上がらくてはと自身に呼びかける。
(エマ)
ギルダがエマの頭に触れる。
いつしかハウスの仲間たちがエマを取り囲んでいる。
(帰らなきゃ家族の元へ)
(エマ)
フィルがエマに呼びかける。
(情けないわねクソガキ)
シスタークローネが吐き捨てる。
エマは、私にはやることがあるんだ、と気を取り直し、自身の体を動かそうと試みる。
(ダメ! 動いて! 戻って!)
しかしエマの意識は沈み始め、倒れている自身の体からどんどん離れていく。
(いやだ! 死ねない 死にたくない!!)
いくらそれを拒否しても意識の沈下は止まらない。
エマは自身の体に向かって手を伸ばしたまま意識の底へと沈む。
そこに何者かが泳いで近づいていく。
エマの手をとった人物。それはノーマンだった。
驚いているエマに向かって、ノーマンは笑顔で何かを呼びかけている。
エマはノーマンが何を言っているのか分からない。
そんなエマを、ノーマンは手を引いて泳ぎながらどこかに誘導していく。
水面から手が伸びている。
(そうよエマ 諦めてはダメ)
その手はママ、イザベラだった。
(さぁいらっしゃい)
エマはママの手を掴む。
(あなたはまだ――)
体がグイッと引き上げられる。
(私はまだ)
エマは立ち上がっていた。
その手にはシェルターから持ってきた4つの銃口を持つ銃がある。
(望む未来を叶えてない!!)
オジサン、ヴァイオレット、ナイジェル、レイはエマが立ち上がっている事に気付く。
最後の攻撃
レイはエマが手にしている銃をじっと見つめる。
立っているのが精いっぱいなエマは、手の内にある銃が何なのか、それで何が出来るのかを仲間たちに伝えることが出来ない。
どう伝えようかとエマが逡巡を始める前に、レイが叫ぶ。
「包囲!! 今度こそ最後だ!! 撃ち尽くすぞ!!」
(レイ……)
レイの号令から、エマはレイが自身の意図を汲んでくれたことを感じていた。
(そうそれがいい それがいい!!)
戦士たちがレウウィスを包囲して銃を撃ち込んでいく。
エマは4連の銃をレウウィスに向けて構え、引金を引く。
無数の銃弾がレウウィスに向けて飛んでいく。
レウウィスの視界には、それら一発一発がスローモーションに見えていた。
これらの銃弾は問題なく止められると判断したレウウィスは、戦いの終わりを感じ、名残り惜しささえ覚えながら銃弾を処理しようとする。
(ん?)
無数の銃弾の中に奇妙な型の銃弾を見つけたレウウィス。
それが発射されていたのはエマの手持ちの銃からであるのに気付く。
(まずい恐らくあの弾は――)
エマの撃った銃弾はレウウィスの前で弾けると、眩い閃光を放つ。
(やられた)
閃光を避ける為に目を閉じると無数の銃弾をもろに食らい、目を閉じなくても閃光と銃弾を食らう。
既に再生を繰り返し消耗し切った体では、これ以上銃弾を食らっても再生は不可能。
レウウィスは既に詰みの状況であることを悟っていた。
一斉斉射の銃弾が悉くレウウィスの体にヒットする。
(私の負けだ)
戦士たちは尚も銃を連射している。
「やはり人間は良い」
レウウィスが呟く。
その目を銃弾が貫いていく。
屋根の上にいるオジサンがレウウィスの目を正確に狙撃していた。
レウウィスの肩からパルウゥスが逃げていき、レウウィスは地面に崩れ落ちる。
感想
お約束
ついに決着。
レウウィスみたいな化け物相手によく勝ったと思う。
レウウィスの散り様、良かったと思う。
最後まで大物感の余韻を残して物語を去っていった。
ここでエマが立ち上がるのがいかにもジャンプ的展開だ。
お約束といったら響きがあまり良くないけど、でもこれがいいんだ。
面白いし、嫌いじゃないんだけど、ただもうこういった往年のバトル漫画的な展開は控えて欲しいところではある。
個人的には、この漫画には熱いバトル展開を期待してるわけではない。
もしバトル展開があったとしても、もっとリアル寄りであって欲しいかな。
普通の子供が頭を使って窮地を切り抜けるというのがこの漫画に期待されているものではないか。
気合で立ち上がるとか、怒りで強くなるとかそういうのは基本的には無しの方向を希望したい。
敵は何でもありでいいけど、味方はあくまで普通の人間、普通の子供であって欲しい。
しかし前回予想したように、エマが身体を引き裂かれることがなくて良かった。
レウウィスはエマを刺して持ち上げていたけど、もしレウウィスが掌を返してエマに爪を刺していたら、エマの自重によって頭の先まで真っ二つになっていたということ?
いや、その場合そもそも持ち上げられずにエマの頭まで爪で切り裂いていた。
爪の背が上を向いていたからこそエマの身体を持ち上げられた。
即死ではなかったとはいえ、重傷なのは間違いない。
暫くは治療に専念することになるだろう。
……まぁ、そもそも主人公が死ぬというのはまず無いんだろうけど、でもこの漫画に関しては斬新な展開を期待しちゃうんだよなぁ。
意識下に出てきたママとクローネ
意識を失った主人公のその意識下で、これまで関わって来た色々な人たちが出てくる展開は色々な漫画にある表現だと思う。
しかし、死にかけていたエマの意識を回復させるのにクローネとママが出てきたのにはちょっとジーンときた。
これはエマにとっては二人は敵だけど、その心の奥底では彼女たちをハウスで一緒に過ごした家族と認識していたということではないか。
長年疑い無くママと慕ってきたイザベラに関しては分かるけど、まさかハウスの現実に気付いた後に出会ったクローネに関しても味方として出て来るとは……。
クローネのセリフは憎まれ口ではあったけど、その表情は優しいんだよなぁ。
エマは彼女の中にある優しさに気付いていたのだろうか。
実際、クローネはただ必死に生きてただけで、鬼から見たらその立場はエマ達と大して変わらない。
そして最後にエマの意識を引き上げたのはママだった。
エマにとってそれだけ存在が大きく、求めてやまないということだろうか。
母を求める子供としての心理?
ハウスの仲間たちじゃなくママを最後に登場させたことにはそういう意味があるのかな、と思った。
それとも、ママのような敵からハウスの仲間たちを救わなくてはという焦燥が、意識を取り戻すきっかけとなったということ?
いやこれもあまりに強引かな。
確かなのは、エマにとって今なおママへの気持ちは心の底に根付いているということだ。
ハウスに人間の世界への道があるということは、ハウスに残っている子供達と一緒にママも人間の世界に逃がせるということでもある。
エマはママと敵対しているとはもはや考えておらず、一緒に人間の世界で暮らすことを考えているのではないか。
長年ママとして慕ってきた人を完全に敵として見ることなんて出来ないよなぁ。甘いとかじゃないくて、普通の人間として当然の感情だわ。
というか、主人公は甘いくらいでちょうどいい。
オジサン
復讐を果たしたオジサン。
個人的にはレウウィスとの戦いでオジサンが死ぬという展開も予想していたけど、それが外れて良かった。
会えずに死ぬ、もしくは会えたとしても死に際という展開は結構好きだから、個人的にはちょっと残念(笑)。
それに、死に際に本名を言うのって恰好良くないかな? 結構新しいと思うんだけど……。
とりあえずレウウィスを斃したことでルーカスとオジサンとの再会の光景も見られるし、やっと本名も出て来ると。
多分再会も本名も来週かな。楽しみだ。
以上、約束のネバーランド第93話のネタバレを含む感想と考察でした。
第94話に続きます。
コメントを残す