第53話
第52話のおさらい
ソンジュはエマ達を追っていた鬼達と相対していた。
無数の犬型、そして猿型の鬼を槍で刺し殺していく。
そしてソンジュは、剣を持った追手の鬼のリーダーも訳なく倒してしまうのだった。
一方、B06-32地点に辿り着いたは良いが荒野だったことに焦りを覚える子供達。
叫んだり騒いだりして疲れて静かになった子供達。
しかしレイは冷静に次の方針として「閲覧できなかった情報」の表示を確認することを思いつくのだった。
これまでどうしても見ることが出来なかったペン型端末の情報。
それはB06-32地点に立つことで解放されるのではないかと睨んだレイは子供達と暗号を解いていく。
これまで、パスワードが解けなかった画面でレイはパスワードを入力し、見事に、無数の四角と円形によって形作られた地図が表示される。
地図だと理解したレイは荒野に隠された何かがある、と子供達に探すことを命じる。
探そうと動き出すと、レイのペン型端末の画面に表示された地図に変化が生じる。
それと同時に機械音とともに土を吹き上がり、ハッチのような入り口が露出する。
レイがバルブを回し、子供達はハッチ内のはしごを降りていく。
はしごを降り切った子供達の前には通路があり、その先を進むと廊下の両端に番号のふられた部屋が並んでいる。
一つの部屋から人のいる気配を感じたエマは覚悟を決めて扉を開ける。
そこには、ティーカップを片手にテーブルに組んだ両足を乗せた男がいる。
「長旅ご苦労 ようこそB06-32シェルターへ」
男は悠然と子供達を迎えるのだった。
第53話
エマ達をテーブルに足を投げ出し、椅子の背もたれにふんぞり返った姿勢で迎えた男は右手でクッキーをつまんでいる。
(人だ)
エマは目の前の男に言葉もなく見入っている。
(人間…人間だ!!)
(でも…)
子供達は男の振る舞いをじっと見つめている。
(お…お行儀が悪い…!!)
男はテーブルに足を投げ出した姿勢のまま、つまんだクッキーを無造作に口に放り込む。
白目で男の粗雑な振る舞いを見ている子供達。ラニオンとトーマだけは男のマネをしている。
(それに何だアレ…)
ドンが男が左手で持っているカップに注目する。
(カップ割れてね? 空じゃね?)
男の持つカップの底にはヒビが入っており、欠けて穴が空いている。
(エア茶!?)
(服の着方もだら…個性的で何と言うか…チグハグ…)
ギルダは男の服を見てムズムズしている。
(変な人だ)
(ぽくない)
(クッキー…)
子供達は皆、男に違和感を覚えている。
イメージと違う、と内心思うギルダ。
この人が…? と怪訝な表情のアンナ。
ミネルヴァ?
「あなたがミネルヴァさん?」
意を決してエマが男に問いかける。
「違う」
即答する男。
男の次の言葉を待つ子供達。
「お生憎さま」
男は再びクッキーをつまむ。
「俺はW・ミネルヴァじゃない」
「じゃあミネルヴァさんを出してくれ」
レイが男に真正面から語り掛ける。
「俺達はここへミネルヴァさんに会いに来たんだ」
「いないよ」
ボリボリとクッキーを咀嚼しながら男が答える。
「!!」
男の言葉にショックを受ける子供達。
「お気の毒さま ここにミネルヴァはいない」
(どういうこと?)
男の言葉に疑問だらけのエマ。
(やっぱりミネルヴァさんウソつき説……!!)
ショックを受けている子供達。
そんな子供達を察して、落ち着け、と声をかけるレイ。
「見たとこあんたもミネルヴァを知ってるよな 詳しく聞きたい」
レイは全く動じる事無く男に尋ねる。
「ミネルヴァは今どこにいる?」
「知らねぇ」
男は、カカカカ、と笑いながら答える。
「あんた何者だ? ここで何してる?」
レイは男を怪しむ姿勢を隠さずに問いかける。
「何者かって?」
男はワイシャツの胸ポケットを探る。
「”先輩”だよ」
テーブルの上で立ち上がり、エマ達も持っているミネルヴァのペン型端末をエマ達に見せる。
確認するようにレイもペン型端末を取り出す。
同じペンだ、と驚くアリシア。
せんぱい? とマルク。
「GFじゃあないけどな」
左手でワイシャツの裾をズボンから抜く。
左腹部にはエマたちの首にあるようなナンバーがある。
文字はアルファベットに似ている。
(認識番号? おなかに…)
男の腹部をじっと見るエマ。
レイは黙って男を見つめている。
先輩
「13年前”グローリーベル”って農園から逃げて来た」
「仲間と一緒にペンを頼りに」
同じだ……、と呟くロッシー。
私達と同じ…、嬉しそうなジェミマ。
男は、そうだ、とエマたちに歩き出す。
「俺はお前らと同じ ミネルヴァを探してここへ来た。」
脱走者…いたんだやっぱり! とラニオンとトーマ。
自分達のような、農園から奪取して「外」で生きている人間がいたことを実感する子供達。
男はペンを元の胸ポケットにしまい、しかし、と言ってテーブルの上にしゃがむ。
「実際来てみたらミネルヴァはいねぇし待てど暮らせど現れもしねぇ」
「嘘つきって思ったね」
(ですよね!!)
アリシア、マルク、クリスティが強く同意する。
「でもこのシェルターには感謝した」と男。
水・食料・電気・居住スペース、その他、世界についての情報、資料など全てが揃っていたと続ける。
「ミネルヴァ万歳だ」
男は満面の笑みを浮かべて見せる。
その男の表情を見て子供達にも笑顔が広がる。
(13年…)
レイは冷静に男を見つめながら考えを巡らせる。
(13年現れていない…?)
「それで今仲間の人達は…?」
子供達の間に安堵が広がり、表情の和らいだエマが問いかける。
男は一瞬の間の後。
「死んだよ全員 今は俺一人だ」
「……」
一気に不安げな表情になるエマとギルダ。
「ああ~っ 暗くなるな暗くなるな」
男は慌てて子供達をなだめるように声をかける。
「全部昔の話しだ」
「でも……、と表情に不安を浮かべたアンナ。
そんなアンナにしがみ付くジェミマとロッシー。
アシリアは男を驚愕の表情で見つめている。
「見ろ今は疾うにミネルヴァ探しもやめてこうして楽しくやっている」
男は子供達に誇らしげに語ってみせる。
「えっ探すのやめちゃったの?」
クリスティが問いかける。
「それよりお前らは?」
クリスティの問いかけに答えず質問する男。
「お前らこそ何者だ」
不穏
あ、とラニオンが声を出す。
俺達は――、ドンが説明しようとする。
「待った」
男は両手を胸の前で掲げる。
「”GF出身”で”7日前逃げてきた15人”とかそういうのは結構」
驚く子供達。
「見りゃ判るし既に知ってる」
エマは男を不安げに見つめたまま言葉を出せずにいる。
(「7日前」「15人」そんなことまで)
レイは冷静に事態を把握しようとしている。
要はな、と男が切り出す。
「なぜお前らみたいなド素人のザコが15人全員一人も死なずに生き残っちまっているのかってことだ」
呆然としているエマ。
え、と声が漏れるドン。
「いいか? ここはシェルターだ」
男は胸の前で手を広げる。
「さっきも言ったが水・食料・部屋…全部揃ってる」
「だが限りがある」
男の威圧的な表情にビクついてエマに抱き着くクリスティ。
自分の取り分が減るのは嫌だ、男は主張する。
男は俺はここに先に来た先輩であり、俺の家だ、と続ける。
そして、それから、と前置きする。
「お前らは死ぬ どうせ死ぬいつか死ぬ確実に死ぬ」
「弱いからだ」
そんなこと、とドミニクが反論するが、いや弱い、見ればわかる、と男は即座に否定する。
「死の淵になど立ったこともない」
「そのくせ基礎の基礎だけをわずかに齧った程度で生きていける気になっている」
「無知でおめでたいザコそのものだ」
容赦なく言い放つ男に対して、子供達は睨んだり不安げになったり様々な表情を見せる。
「俺が保証する」
男は自信たっぷりに子供たちを見下す。
「お前らは死ぬ」
「この世界で生き残ることなど到底不可能」
ピストル
黙って聞いていたレイが切り出す。
「あんたのかつての仲間のようにか?」
男は、そうだ、とレイを見ながら答える。
「どいつもこいつも弱いから死んだ」
「そして俺だけが生き残った 俺だけが生き残れた」
「13年」
「俺だけが」
エマが不安げに男の言葉を聞いている。
他の子供達も怯えている。
「俺は学んだ」
「生き残る術を」
生き残るすべ? とエマに抱き着いたままクリスティがオウム返しする。
「ムダを省くことだ」
「仲間=ムダ」
「希望=ムダ」
「情け=ムダ」
「全部ムダ」
男はエマ達を睥睨して威圧する。
エマはバンッ、とテーブルに手を打ち付ける。
「そんなことない!」
いやムダだ、と男は冷徹に否定する。
男はコートを脱ぎ捨てて背中から素早くピストルを抜く。
その所作を見てレイがハッ、と反応する。
「エマ!!」
男は右腕をエマの首に回して羽交い絞めにし、右手のピストルをこめかみに突きつける。
一瞬の出来事に動けない子供達。
エマは恐怖で固まる。
「仲良しこよしのザコの群れなんざ何よりムダだ」
男はエマ達を睨みつけて冷徹に言い放つ。
「よこせ」
何のことか分からないレイ。
「ペンだよお前らの」
エマにピストルを突きつけたまま男が言い放つ。
「俺が貰う お前らが二度と地下に入って来れないように」
「俺はムダが嫌いだ だから悪いが出てってくれ」
「さ ペンを置いて出て行け」
男が続ける。
「さもなくばここで死ね」
ペンを持つレイ。
レイに子供達が集まっていく。
感想
男はやはりミネルヴァではなかった。
エマたちと同じく脱走した食用児だった。
本当に仲間がいたということなら、ソンジュの言っていた”盗難”によって農園から出たパターンではないことになる。
13年前ということは大体24~25歳くらい?
随分荒んでるけどこれって演技っぽい感じがする。
エマ達とは違い、男の仲間は生き残ることが出来なかった。
男はムダだから切り捨てた、と言ってたけど、本当は追手や野生の鬼から守り切れなかったとかそういう話じゃないかな。
心が荒んだのは自分が無力だった自分が許せなかったからとか?
エマ達を脅しているけどこれは試す、もしくは油断するなということを学習させるためではないか。
ペン型端末で解けなかったパスワードが解けて地図が表示された。
その時にすぐにハッチが出現した訳ではなかった。
これって、地下へのハッチを出現させたのは男による操作があったからじゃないか?
しかし、それならば男は一体どうやって地下に入ったのか、その時誰によってハッチ出現の操作が行われていたというのか。
やはり誰かが操作した、というのではなく、パスワードを解いた状態でハッチの部分に近づくと自動的にハッチが出現するという線の方が納得できる。
つまりペン型端末が鍵であり、それを無くせばもう地下にはいけないということ。
でも男が悪い人間には見えない。
自分たちと敵対しようとする対象に対してわざわざ接触して会話するかな、と思った。
以上、約束のネバーランド第53話のネタバレ感想と考察でした。
第54話の詳細はこちらをクリックしてくださいね。
地上に建物は不可能ですね。
何も無い荒野と言っても、鬼が全く通らないとは
限らないし。
シェルターは言われて見ると
監獄の様に見える。
モニターは古く見える。21世紀の半ばなら、もっと最新式の
バックトザフューチャみたいな感じの。
テレビモニターはレイ達が見た、立体映像のみたいな…
さすがに空飛ぶ自動車やスケボーは無いでしょうが。
確かにご指摘の通り、レイが持つペン型端末の立体映像と、男の背後に無数にある分厚いモニターには技術的な隔たりがあるように感じますね。
恐らくペン型端末は”人間の世界”から来てるはず。
つまり”人間の世界”の技術力は恐らく立体映像が使われている程度には高いものではないかと思います。
あと、立体映像技術がある文明なら空飛ぶスケボー的な乗り物はあってもおかしくない感じがします。