第130話 報告
目次
第129話 背負うべきものおさらい
地下室
エマたちが立ち去ったあと、部屋に残されたノーマンはソファに座り、顔を両手で覆っていた。
ついさきほどまでのエマとレイとのやりとり、そして自分に向けられた彼らの視線を思い出す。
ノーマンはザジを伴い地下への階段を下りていく。
大きな扉をザジが開けると、そこにはシスロ、バーバラ、ヴィンセントの3人がいる。
その部屋には拘束された巨大な鬼がいた。
鬼の顔や体には拷問されたかのように棒が刺さっており、その前でノーマンや側近たちは落ち着いた様子で立っている。
ここに来るのは久しぶりだ、というノーマンに対して、俺はよく来る、とシスロ。
落ち着くんだ、とバーバラがシスロに続く。
そしてふいに、シスロはエマたちの話の内容が何だったのかをノーマンに訊ねる。
「色々」
しかしノーマンはそこで終わらず、詳しい内容を続ける。
「一つは鬼を絶滅させたくないって」
沈黙するシスロ。
やっぱり、とバーバラ。
それでボスは? とヴィンセントがノーマンに話の続きを促す。
ノーマンは、計画に変更はないと即答する。
そして続けて、邪血の少女が生きていたことを告げる。
ヤバくね!? と焦るバーバラ。
落ち着いた様子で、考えるので僕に任せろと答えるノーマン。
邪血の少女がエマたちと友達だそうだと冷静に続ける。
その思いもよらぬ情報に、唖然とするバーバラたち。
それは都合が良くも悪くもある、とヴィンセント。
発作
バーバラはエマの態度に違和感を覚えたことに納得していた。
しかしすぐにバーバラの内には鬼と友達だというエマへの怒りと共に疑問が湧いていた。
「鬼ってのはそういうんじゃない…! そういうんじゃないだろう…!?」
かつてエマたちと同じく、農園で平和な幼少期を過ごしたバーバラは、シスロと共に農園を出た後にラムダに連行され、実験体となっていた。
その記憶を思い出していたバーバラは突然の頭痛に襲われ、その苦痛に頭を抱える。
「ぐっ…あっ…!! 来た」
ヴィンセントとシスロがバーバラに駆け寄る。
「いつもの発作だ 畜生…!」
シスロがバーバラの様子を確認する。
ここ数日で側近全員の発作の間隔が狭くなってきていると言って、ノーマンに視線を送るヴィンセント。
薬の在り処を質問するシスロに、バーバラは部屋だと答える。
ヴィンセントは自分の分の予備があると言って薬をバーバラに分け与える。
薬の量が増えただけではなく、頻度が多くなった他にも症状の悪化も見られるとヴィンセント。
「思いの外 我々にも時間がないのかもしれない」
これが鬼なんだよ、とバーバラ。
(物以下 家畜以下 それが当然)
「これが鬼にとっての食用生物なんだよ 畜生…!!」
バーバラの叫びに意気消沈するヴィンセント、シスロ、ザジ。
「奴らさえ…鬼さえいなければ…!!」
バーバラは頭を抱えたまま、涙を流していた。
シスロはノーマンに、エマたちと会話してみて、彼らの主張には賛同できないものの、彼らが良い奴らだったと続ける。
「だけどさ」
ノーマンに視線を送るシスロ。
「ボスはこっち側だよな?」
不安げな表情で必死にノーマンに問いかける。
「ボスはボスだよな? 迷ってなんかないよな?」
「………」
シスロをじっと見つめて、沈黙するノーマン。
ヴィンセントの、そして蹲っていたバーバラの視線がノーマンに集中する。
「ここまでやったんだ 無論 後には退かないよ」
ノーマンの決意
2047年2月。
ノーマンは実験体のヴィンセントたちと一緒にラムダを制圧していた。
拘束した鬼に対してラムダの実験データの確認をするが、そのほぼ全てが食用児の記録だった。
「鬼が何を食べ どう変異し どう再生し どう退化し どう死ぬのか」
ノーマンは冷たい視線を拘束した鬼に向ける。
「鬼のデータが全く足りない」
震えあがる鬼たち。
地下室には鬼の各部位の実験サンプルが大量に保管されている。
拘束されている巨大な鬼も、実験サンプルの一つだった。
ノーマンは、僕は迷っていない、と自らに言い聞かせる。
そして自分が始めたことである以上、全て自分が背負うべきことだと考えていた。
エマもレイも優しいが、それだけでダメだとノーマン。
実際、GFでノーマンが出荷されることを選択しなかった場合、果たしてエマたちは脱獄できたか、と考える。
(僕に悔いはない)
ノーマンはエマたちやシスロたち、全食用児を救いたいと考えていた。
(そのためならばね 僕は神にでも悪魔にでも喜んでなるよ エマ)
第129話 背負うべきものの振り返り感想
薬
ラムダで『強化』されたヴィンセント、バーバラ、シスロ、ザジ。
やはり力を得るための代償はあったんだなぁ。
どうやら定期的に発作が起こる度に薬を飲まないといけないらしい。
おそらく発作を放っておくと、単に苦しむだけではなく、最終的には死に至るのではないだろうか。
もしこの発作に根治の方法が全く無いとしたら絶望的だな……。
時間がない、という言葉は最悪、死を覚悟しているようなニュアンスにも受け取ることが出来る。
だからこそ余計に鬼に対する憎しみが膨れ上がっているとしたら、彼らの心情は非常に理解できる。
この体質が理不尽に実験体にされての結果なら、鬼に怒りをぶつけようとするのも当たり前だ。
エマとレイをいい奴だと評しながらも、決して彼らの主張は理解できないだろうし、したくもないだろう。
ラムダで彼らは筆舌に尽くしがたい苦しみを味わっただけではなく、おそらくはこの発作のせいで今後の人生を奪われたといってもいい。
もし死を覚悟しているとしたら、その前に鬼に復讐を遂げたいということなのかな。
それはもちろん、他の食用児のためにもなる。
この大義名分があることで、鬼への復讐は単なる殺戮ではなくなる。
彼らの体を治療する方法があるならいいんだけどな……。
時間がない、というのは鬼から治療法を聞き出すまでの時間、という意味もあったのかな。
でも鬼がそんな何の役に立つかわからない方法を研究しているわけがないしなぁ……。
ノーマンと側近の関係性
てっきりノーマンはバーバラたちにエマが何を言いに来たか誤魔化すのではないかと思っていた。
でもきちんと情報を共有するんだなぁ。
エマの言い分はバーバラたちを不愉快にさせるものであることは間違いないが、それでもノーマンは彼女たちにあっさりと打ち明けた。
ノーマンにとってはGFで一緒に暮らしたエマたちも大切だが、ここまで一緒に計画を推し進めてきたバーバラたちもまた大切な仲間だ。
これから鬼の絶滅という目標に向けて行動していくと考えると、むしろ後者の方が今のノーマンにとっては重要度は高いのかもしれない。
ノーマンには、全食用児を救うというあまりにも大きな理想の為には、自分の感情など必要に応じていくらでも捨てる覚悟がある。
あと、ノーマンと側近の4人はかなり情報を共有しているようだ。
計画に関してはもちろん、邪血の少女についても側近たちは知っていた。
もちろんノーマンの内だけにとどめてある情報もあるだろうけど、基本的には側近はノーマンと同じレベルの情報を持っているのではないか。
ノーマンがそれだけ彼らを信頼しているということであり、逆にだからこそ側近たちはノーマンを信頼している。
少なくともノーマンは巧みに情報を隠して側近たちを操るような指示の出し方はしていないし、今後もやることはないということだ。
ノーマンと側近たちの結びつきは強い。
楽園の住人は計画の詳細といった重要度の高い情報を知らされることはないだろう。
悲壮なまでのノーマンの決意
ノーマンの、食用児たちを誰一人欠けることなく守りたいという想いは本物だ。
彼はその実現の為にはキレイな理想だけでは絶対に無理だと理解して、今後次々と出てくるであろう、あらゆる障壁を打ち破り、越えていく覚悟を既に決めている。
たとえそれがエマたちと対立する道であっても、ノーマンはエマも含めた全食用児のためという動機により、計画の遂行を止めることはないだろう。
そして前回のラストでは、エマはノーマンから悲壮な気配を感じ取り、そんな窮屈な立ち位置から救い出そうとしているわけだ。
七つの壁に行くエマが、ノーマンの納得するような成果を持ち帰ることが出来るのか。
ノーマンによる計画は既に進行中であり、鬼の絶滅を防ぎたいエマにとって時間がたくさん残されているわけではない。
前回第129話の詳細はこちらをクリックしてくださいね。
第130話 報告
エマの主張
七つの壁を目指すと子供たちに告げるエマ。
子供たちは、わざわざ危険を冒さなくても鬼を絶滅に追い込めるのに、なぜ当初の予定通りに七つの壁に行くのか驚いていた。
そんな子供たちに向けて、エマは鬼の絶滅という方針に反対である胸を告白する。
エマは鬼は自分たち食用児にとって天敵であり、彼らの絶滅は正しいと認めていた。
しかしエマは、実際に鬼の町で生活している鬼、そして鬼の子供や赤子を殺すことが、果たして鬼にとってどれほどの恐怖と憎しみを生み出すのかについて言及する。
子供たちはその言葉によって、鬼の絶滅がどれほどの事態なのかを気付かされて、青ざめていた。
神妙な表情で、鬼を殺したくないし、自分以外にも殺させたくないとエマ。
続いて、ムジカやソンジュも殺すのかというレイによるエマの主張の補足に対し、GF組はハッと気づかされる。
エマは、自分の主張はわがままであること、みんなを巻き込むつもりはないことを付け加える。
ノーマンが鬼の絶滅作戦を止めないこと、鬼の絶滅以外に未来を切り拓く方法があるか不明であると前置きした上でエマは宣言する。
「だから私とレイでちょっと行ってくる!」
エマの主張を聞いていたみんなは、ただただ呆気にとられており、言葉を返すことができない。
「後悔しない選択をしたい 未来を選びたいの」
そう言ったエマに対し、ギルダは不安げな表情を返す。
しばし見つめ合っていたラニオンとトーマ。
やがてラニオンが口を開く。
「確かに俺たち想像が足りてなかったかも……」
それに対して、実際に町の鬼を見たわけじゃないからだとすかさずフォローするレイ。
「どれだけ憎くても…想像もしてなかった敵の一面ってのはあるしな…」
ラニオンの続いたのは猟場での死闘で右目を失ったサンディだった。
そんなサンディの言葉に、ソーニャは自分たちが仕留めた貴族鬼ノウマを抱きしめて泣き叫ぶノウスの姿を思い出していた。
喧々諤々
しかしその流れに楔を打つように、でも私は鬼が嫌い、と声を絞り出すジリアン。
ジリアンはエマたちの主張も、友人の鬼ソンジュとムジカへの思いもわかると前置きして、鬼よりもみんなやエマが大事と主張する。
「敵は容赦なんてしない 私はまず仲間を守りたい…!」
そう語気を強めるジリアンの脳裏にはこれまで猟場で鬼に狩られてきた仲間たちや、シェルター撤退戦で自分たちの犠牲となって死んでしまったユウゴとルーカスの顔が浮かんでいた。
「そのためなら…子供だって赤ちゃんだって…私は…私は――!」
ジリアンはポーラの胸に抱かれ、泣き崩れる。
「なんで…」
ジリアンが作った反対の流れにギルダが乗る。
「エマ ついこないだ鬼に殺されかけたばかりなのに」
アンナはエマが鬼に捕まった光景を思い出して青ざめる。
頭おかしいんだよ、とレイ。
「俺も最初そんな風に思えなかったし」
そのあまりにもさらっとした不意打ちの罵倒を聞き、エマは思わずレイに振り返る。
「ま でもそれがエマだよな」
苦笑交じりに呟くと、ドンはエマに向けてにっと笑う。
「しゃーねぇ 行って来いよ」
「ドン!!」
表情と声音でドンを咎めるギルダ。
しかしドンはエマとレイが出した結論を尊重する姿勢を見せる。
「そりゃ俺も”七つの壁”のあのリスクは避けられたらと思うけどさ」
ドンはエマの理想は嫌いではないことや、リスク背負っても悔いのない人生を歩むことが自分たちの選んできた”自由”だろ? とギルダに言葉を返す。
そして、止めてもどうせ聞かねぇんだろうし、と結論するドンに、子供たちは一斉に笑うのだった。
決意
でも、とギルダはエマに向き直る。
「エマが危ない目に遭う必要はないのに…すごく危ない道なんだよ…?」
そしてエマの手をとると、目をじっと合わせて訴える。
「なんで…どうしてエマばっかり…」
エマはそのギルダの表情や態度から、彼女が自分のことを心の底から心配しているの感じていた。
「ごめんね…」
ギルダをひしと抱きしめる。
そしてエマはギルダを抱きしめたまま、これが自分が自分に納得できる選択であること、そしてノーマンに自分を殺させたくないのだという決意を口にする。
エマの言葉の意味に、ギルダも子供たちも皆、ピンと来ていない。
「あいつはまた同じことをしようとしている」
レイがエマの代わりに答える。
その流れでエマは、ノーマンは命を捨てようとしているわけではないものの、自分たちのために心を殺して、全てを背負って全ての片をつけようとしているのだと説明する。
レイも、エマと同じくGFからの脱獄劇はノーマンが出荷されることを選び、そのおかげで自分たちが脱獄できたことは納得できないと主張する。
全然成功じゃない、とエマも続く。
「みんな頑張ったしまだ終わってもいないけど私達にとってはノーマンを行かせてしまった時点であの脱獄は本当の成功じゃないんだよ」
エマは、二度と同じ思いはしたくないのと、やらなければわからないということをノーマンに証明したいとみんなに告げるのだった。
その意味でも”七つの壁”へ行きたい、とレイ。
エマはノーマンが鬼の同士討ちを実現させる前に、出来るだけ早く帰ってくると改めて宣言する。
「でももしもの時は皆も後悔しない道を選んでくれ」
ラニオンとトーマの頭に手を置くレイ。
「あとどうかノーマンをお願い」
エマとレイの覚悟を秘めた言葉に対し、バカ、とギルダが呟く。
「もしもの時なんて聞きたくない 絶対生きて帰って来て 嘘でもいい 約束して」
「嘘はつかない でも約束する 何が何でも無事帰ってくる 帰ってくるよ」
エマの力強い言葉を受け、わかった! とエマの手をとるギルダ。
そして覚悟を決めた様子で元気に言葉をかける。
「留守は任せなさい! 思う存分行ってらっしゃい!」
エマはギルダだけではなく、その場にいる全員がとても温かい視線を自分に向けてくれているのを感じていた。
「うん」
エマはギルダに向けて明るく返事をする。
旅立ち
ヴィンセントがノーマンにエマの出立がいつなのかを訊ねる。
「『月が出れば今夜にでも』だそうだ」
淡々と答えるノーマン。
夜空には星、そして月が煌々と輝いていた。
旅支度が完了したエマとレイは、容器を満たしている黄金の水、そして鬼がグプナに用いるヴィダを用意する。
見送りの子供たちはその光景を離れた場所で見つめていた。
その中の一人、ヴァイオレットが、これを試すのはあの時振り、と呟く。
「じゃあみんな 行ってくる」
エマとレイは黄金の水の前にしゃがむと、自らの左手にナイフの刃を近づけていく。
(〇〇に会いにいざ”七つの壁”へ!!)
エマは脳裏に、以前迷い込んだ精神世界で会った鬼や、竜のような生き物のを思い浮かべていた。
第130話 報告の感想
二人
エマはこれがわがままだからと同行者をレイだけにしたようだけど、これでいいのか?
七つの壁がどういうところか、何が待ち受けているかわからない以上、いざという時の犠牲は少数にすべきということなのか。
きっとギルダは……、いや、他のメンバーに関してもエマについて来てほしいと言われたら着いていくだろうな。
みんな良い奴らだから、エマにそう言われなくて寂しいとすら思ってそう。
でも七つの壁に行く手順がわかっているなら、後から追いかけることも可能だと思う。
エマとレイがピンチになった時、駆け付ける展開はあるのではないか。
熱い展開を期待したい。
特にGV組は戦力になるからなー。
オリバーとかザックなんかは優れた戦闘能力を持ってるから、マジで後追いで助っ人になる気がするわ。
GF脱獄の反省
GF脱獄に関してエマもレイも成功だとは思っていなかった。
ノーマンの犠牲を容認せざるを得ない状況に追い込まれた時点で失敗だったということなのか。
あそこでノーマンを引き留め、強引に作戦を前倒しして脱獄を決行していたら一網打尽になっていた可能性は高い。
結果的に今はノーマンと再会できたので、ノーマンは生存しているし、GF組は脱走に成功したのもあって、あの時の選択は正解だったことになる。
しかし楽園でノーマンと再会できたのは全くの偶然であり、本来GF組はノーマンが生存しているなど夢にも思っていなかった。
狙って引き寄せた結果ではないので、エマやレイからしたら失敗なんだろうな。
ノーマンは彼らの中では一度死んでいるのだから。
今回、楽園のリーダーとして鬼と相対するノーマンの関しても、やはり出荷を前にした時と状況は同じだとするエマとレイ。
果たして七つの壁で満足のいく成果を持ち帰り、ノーマンの心を救うことができるのか。
七つの壁を目指す上でのリスク
エマとレイが黄金の水、そしてヴィダ、ナイフを使って儀式めいたことを行おうとしている。
これが七つの壁を目指す上で必要な手続きなのだろうか。
ノーマンには伝えていた出立予定日は”月が出たら”ということだったし、おそらく七つの壁に行く為の儀式だろうう。
戻って来れるかどうかわからないというのは、魂が抜けるとかそういうことなのか?
それとも別次元に行く入口を開くとか?
その手続きに関して情報は共有されているようだ。
ドンは”あのリスク”、ギルダは”それは危ない道”と言っていた以上、それは間違いない。
いくら探しても七つの壁を現実で見つけることができなかった以上、もっと別次元のところにあるものと考えたらいいということなのだろうか。
次回、答えがわかる。楽しみた。
以上、約束のネバーランド第130話のネタバレを含む感想と考察でした。
第131話の詳細はこちらをクリックしてくださいね。
コメントを残す