第86話 戦力
目次
第85話のおさらい
バイヨンがルーカスを狙っているのに気づいたオリバーが仁王立ちになってルーカスを守る。
バイヨンはルーカスの銃弾に斃れるも、オリバーの腹には深々とバイヨンの爪が食い込む。
ペペは地下壕から抜け出し、笛を吹いて仲間にバイヨン征討を知らせる。
そして、ザックを助けに再び森を駆けていく。
地下壕ではルーカスがオリバーの治療にあたっていた。
ナイジェルや周りにいる子供たちに指示を飛ばしながら手術の準備をするルーカス。
意識の無いオリバーに向けて、ルーカスは必死に声をかけ続ける。
そんなルーカスの背中を、一通り背中の治療を済ませて俯せの状態のジリアンが見つめる。
ジリアンは何とか意識を取り戻していた。
約束の時間まであと2分間となり、ナイジェルはエマの元に向かう。
エマの元へ向かったナイジェルを見送り、ルーカスはオリバーの治療を続ける。
ルーカスは治療を続けながら、作戦の遂行に戦力が足りないという事態の打開策を必死に考える。
しかし妙案は思いつかない。
仮にまだ戦局が分からないサンディ達が、ノウス・ノウマを斃すことなく全滅してしていた場合、最悪レウウィス・ノウス・ノウマの三体に対してナイジェル・エマだけで戦わなくてはいけない。
そんな最悪の事態を想定し、ルーカスはあらかじめナイジェルに”最後の手段”を教えていたのだった。
絶対的に戦力が足りない状況下で、ルーカスは自分の不自由な体を悔やむ。
その頃、サンディ、ソーニャ、ポーラ、ヴァイオレットたち4人はノウマによって散々にやられていた。
ポーラは右肩を槍で貫かれ、ソーニャは地面に血塗れで倒れ、サンディはノウスに頭を鷲掴みにされて執拗に打撃を食らっている。
まるで、ノウマを食べたことでその人格を取り込んだかのように一人二役でノウスが会話している。
より難敵と化したノウスに対して狙撃しても位置がバレる。
かといって一時撤退すればサンディ達の命が危ない。
どうしようもない限界状況にただひたすら焦るヴァイオレット。
その肩に、ポン、と何者かが手を置き、どうなってる? と問いかけたのはレイ。
そしてその背後にいるるオジサンもまた、ヴァイオレットに状況の説明を求めるのだった。
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第86話 戦力
レイの情報把握速度に驚くヴァイオレット
ヴァイオレットは突如目の前に現れた見慣れない二人を観察する。
そしてレイのコートがエマのものと、そしてオジサンの手袋がルーカスのものと同じであることに気付く。
(この二人もしかして――)
エマの元へと急ぐナイジェルは風車小屋地下からの螺旋階段を昇り切っていた。
出口の付近に立っているアダムに駆け寄りながら扉に開けてくれと呼びかける。
呆然としていたヴァイオレットはレイに状況説明を促され、人間の反乱とシンプルに答える。
さらにルーカスが13年かけた計画を決行したと続く言葉を聞いたオジサンは目を見開く。
ヴァイオレットは既に1匹――ノウマを殺したが、すぐにでもノウスを殺さないといけないと結論する。
「エマがルーカスが俺達全員がヤバイ」
「解った」
レイはオジサンに作戦の変更を呼びかける。
「あの鬼ブッ斃すぞ」
「えっ」
当然のように言ってのけたレイに呆気にとられるヴァイオレット。
(知るべきは敵の数 味方の数 それから)
ノウスを観察し始めたレイに、ヴァイオレットは取り乱しながらもっと説明を聞かないのかと話しかける。
「聞かなくても解るだろ」
レイは咄嗟に言葉を選んでいるヴァイオレットの情報に、意味のないものはないと答える。
ヴァイオレットはエマを知っており、エマからも自分たちのことを聞いている。
エマは反乱に加わっており、ヴァイオレットの知る限りでは生きている。
しかしレイは、再びサンディに拳を振り下ろそうとしているノウスを斃さなければそれすら危なくなる状況だと一気に説明してみせる。
一瞬でほぼ状況を正確に把握したレイに、ヴァイオレットは唖然とするのみ。
レイは2、3知っておきたいことがあるとヴァイオレットに質問を始める。
オジサンの狙撃
その二人の様子を黙って見ていたオジサンは、レイの”意味のない情報はない”という言葉を反芻していた。
(”13年” ”反乱を指揮するルーカス”)
オジサンはかつて自分もこの猟場にいた頃、自分を犠牲にして救ってくれたことを思い出す。
(お前…生きているのかルーカス!!)
「オッサン」
オジサンが動き始めたのを見てレイが呟く。
「まどろっこしい 下がってろガキ共」
オジサンはライフルを携えてノウスの姿を観察できるところへ移動しようとしていた。
「要は仕留めちゃいいんだろ」
ヴァイオレットは、あいつに狙撃は効かない、とオジサンに呼びかけていた。
さらに、ただでさえ動きが速いのに加えノウマを失った怒りでキレていると続ける。
知ってる、とだけ返すオジサン。
(それに…見ればわかる)
ノウスはサンディの頭に膝蹴りを食らわせたあと、地面に投げ捨てる。
「そろそろ殺すかァ ノウマァ」
手についた血を舐める。
「そうねやってノウス」
オジサンは藪に隠れてノウスを観察していた。
(あれノウスか まるで獣だ)
その尋常ではない様子に普通に撃っても気づかれると考えたオジサンは、気配もなにもかも全て隠さないといけないと考え、集中する。
地面にサンディを叩きつけようとしていたノウスは隠れている残り一人の気配を感じ取っていた。
(感じるわ 殺気気配焦り怒り…一匹じゃない 他にも――)
一瞬のうちに脳内でやりとりをするノウスとノウマ。
(何匹でも同じだ)
(俺の中にノウマがいる内にお前ら全員ブチのめしてやる!!)
ノウスはサンディを叩きつける動作の一瞬の間に、狙撃された瞬間にその位置を把握しようと意識する。
(さぁ!! 撃て!! その瞬間必ず見つける)
オジサンは意識を無にしてノウスに向かって銃を構えていた。
ゆっくりと引金に手をかけ、ノウスの顔面に見事に狙撃を成功させる。
(は?)
ノウスは大量の血を吹き出てバランスを失う。
(撃たれた? 馬鹿な…どこから? どこからも――)
そして空に手を伸ばしながらノウマの名を呼び、地面に勢いよく崩れ落ちる。
オジサンは立ち上がってその様子を観察していた。
「殺せた…!? どうして………」
驚愕するヴァイオレット。
「狙撃ってのはこうやるんだ」
オジサンはヴァイオレットに向かってそう言ってから、続けてエマの居場所を問う。
ヴァイオレットはただただ呆然としているところにオジサンから、触角チビだよ、と呼びかけられハッと意識を取り戻す。
「エマは――」
ヴァイオレットの言葉を聞くレイとオジサン。
カウントダウン
街の広場で向かい合うエマとレウウィス。
レウウィスは懐中時計を取り出してタイムリミットの10分が過ぎようとしているが仲間が現れないとエマに呼びかける。
「でもあなたの仲間も誰一人現れていないよ」
不敵な笑みを交えて言葉を返すエマ。
レウウィスは愉快そうに笑って、それは当然だろう、と答える。
「皆もうこの世にはいまい」
レウウィスはこれまでに二度、鬼の気配が消えてから笛が鳴ることを指摘する。
一度目の笛がルーチェ、二度目がバイヨン。
そしてノウスとノウマの気配が消えたので、三度目の笛がもうじき鳴ると宣言する。
タイミングよく笛が鳴り響き、ほらね、と言うレウウィス。
「”仲間”か」
レウウィスは鬼達に対してそんな気持ちは毛頭なかったが、いざ失うと些か寂しいと続ける。
特に付き合いの長かったバイヨンに関しては理解し合えるところも多く、”約束”以前には一緒に本物の狩りをしたと付け加える。
「哀れな男だよ ……実に」
(まさか君まで敗れるとはなぁ)
しかしレウウィスは、最期に”本物”の狩りを楽しめて楽しかっただろうし、本望だっただろうと呟いたかと思うとエマの背後に回り込み、背を向けた状態で両手を広げる。
「実に天晴だ!!」
エマは、いつの間に、とレウウィスに振り返る。
「君達は兎でありながら虎を斃したのだ」
レウウィスはエマに背を向けたまま続ける。
「素晴らしい それでこそ”人間”だ 一抹の寂しさも掻き消えるよ!!」
そして、だからあとは何人残るか、と言いながらエマに振り返る。
現状はエマ一人。人間がここまで辿り着くのかと楽しそうなレウウィス。
「それともみんな死んでこのまま君一人かな?」
エマは沈黙している。
「さぁ10分経つ」
レウウィスは懐中時計を見ながらカウントダウンを始める。
「あと3秒」
「2」
エマはレウウィスに銃口を向ける。
「1」
感想
心強い戦力
レイとオジサンの有用さを見せつけた回だった。
ヴァイオレットは、僅かなやりとりで状況を把握したレイの頭脳や、あれだけ手を焼いたノウスの超反応をものともせず狙撃を成功させたオジサンに驚愕するのみ。
レイに関してはさすがGF農園の頭脳担当と言えるやりとり。
そして何よりオジサンの攻撃能力の高さには驚いた。
ポーラやヴァイオレットはノウスに殺気を察知されていたということだろうか。
オジサンは無心かそれに近い状態になってノウスを狙撃したように見える。
一体どこで得た技術なんだろう?
猟場から逃げたあと13年もの長いサバイバルの中で培ったものなのか。
それともシェルター内の書物から得た知識に基づいているのか。
何にせよ、ヴァイオレットの反応を見る限りでは、オジサンの狙撃技術はルーカスやその仲間たちには無い強力な武器ではないだろうか。
オジサンとレイはレウウィスとの戦闘において心強い戦力になる。
レイとオジサンはヴァイオレットの導きで街に向かう。
レウウィスとの戦闘の最中にどんな状況でエマとの再会を果たすのが楽しみだ。
いよいよレウウィスとの戦い
仲間を失ってもなお変わらず泰然としている大物感。
実に猟場編の”大ボス”という感じがして良い!
次々と仲間の減っていく気配を感じながらも、ついにレウウィスは全く焦る様子は見せななかった。
その態度から、エマに向かって言っている言葉は全て負け惜しみなどではなく本音であることを感じさせる。
レウウィスはエマの背後に一瞬で回り込んでみせたけど、動き早過ぎ。
こんなのどう対処したらいいのか。
まともに戦ったらあっという間に負けるのでは?
やはりレウウィスは他の鬼とは毛色が違う。明らかに戦闘能力が飛び抜けている。
仮に策を使うなら、事前に街に仕掛けた何らかの罠に上手くレウウィスを誘導するくらいしか思いつかない。
正攻法では無理なのは明らかだ。
今のところ、オジサンの狙撃技術はとても重要に思える。
狙撃するにしても、まずは特殊弾による仮面の破壊から始まるわけだが、残り2発だったか?
そうなると、高速移動するレウウィスに対してその少ないチャンスをモノに出来るのかどうかがカギになってくる。
あとはルーカスがナイジェルに伝えていた奥の手の存在が気になる。
それは本当に最後の手段であるらしい。
おそらく街の、ひいては猟場自体の破壊を伴うような危険な手段か。
レウウィスを斃す為というより逃げる為の時間稼ぎに相当する策なのかもしれない。
攻撃手段か攪乱か、どちらにせよ、猟場の環境に多大な不可逆的変化をもたらすであろうことは間違いないと思う。
最終手段とはそういうものだ。
最終的には発動することになりそうなそれは、果たしてどんな仕掛けなのか。
今後はそこらへんにも注目していきたいと思う。
鬼の言動の随所から感じる人間っぽさ
以前も感じたが、やはり知性鬼ってどこか人間くさいな。
懐中時計とか鬼の文明なのか? そもそも時間の概念は人間と同じなのか?
着ている服のデザインや制作は一体誰がやってるんだろう。
人間の世界から輸入したものなのか……。
最近は、人類と鬼の祖が同根とか妄想したりする(笑)。
以上、約束のネバーランド第86話のネタバレを含む感想と考察でした。
第87話に続きます。
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