第74話 特別な子
目次
第73話のおさらい
2031年5月20日、兄であり、ラートリー家35代当主のジェイムズの食用児救済活動に協力していたピーターは、その支援があまりに過ぎていることに不満を覚え、ジェイムズを裏切っていた。
1000年もの間、代々受け継いできた”約束”と、それによりもたらされた秩序を守る為に食用児を掃討する方針を立てたピーターは、バイヨン卿に話を持ちかけるのだった。
2041年、ミネルヴァが食用児に向けて残した録音を全て聞いたエマとルーカスは、黒電話の置かれていた机の奥からペン型端末にはめ込むメモリーチップを発見する。
ペンにはめると、中空に大量の情報が出力される。
そこにはミネルヴァの言った通り人間の世界に通じる”道”や、”支援者”と連絡をとる方法、”七つの壁”についてなどエマたちにとって必要な情報が詰まっている。
エマとルーカスは手分けをして情報を閲覧していく。
エマはミネルヴァが食用児に示した3つ目の選択肢である”七つの壁”について、それが一体どういうものなのかを知るのだった。
二人の読んでいない情報、『ラムダ7214計画』には、”西の果てに建設予定”、”新しい試験農園”という単語のみしか読み取れず、詳細は書かれていない。
何故この中途半端な状態で情報を残したのか疑問に思うエマ。
一方、これまでオリバー達に生きる希望を持たせる為に”人間の集落がある”と嘘をつき続けてきたルーカスは、ゴールディポンドから逃走した後の目的地を示された事を喜び、エマに感謝を述べる。
オジサンやルーカスが13年頑張ったおかげ、と謙遜するエマに、ルーカスは、それでもありがとう、と改めて感謝するのだった。
元居た風車小屋の部屋に戻った二人は、仲間たちにミネルヴァから得た情報を伝える。
これまでルーカスに騙されていたと言っても良いのに、歓喜に沸く仲間たちの様子にほっとするエマ。
ヴァイオレットはエマかにそれを問われ、人間の集落より人間の世界の存在の方が嬉しい、とシンプルに答える。
嘘をつかれていたことが悲しい、と言うペペに同意する仲間もいる中で、ルーカスをみんな信じてる、というポーラの一言にエマは笑顔になる。
エマはシェルターやGF農園に残してきた家族やゴールディポンドの仲間たち全員欠ける事無く逃げたいと願いつつ、しかしその選択では……、と一人密かに懊悩する。
しかし、今は掴んだ情報を早くレイに伝えたいと頭を切り替える。
風車小屋に集う仲間たちに、2、3日の間に行われるはずの次の狩りの時間までに計画の準備を整えるという方針がオリバーとルーカスにより示される。
ソーニャが、エマが加わったことで作戦に生じる変更点の説明の為に全員を集める。
しかしエマは、全員集合にもかかわらずアダムが来ない事を不思議に思いそれをヴァイオレットに問いかける。
ヴァイオレットは、アダムは言葉が分からないので後で分かりやすく説明するのだと答える。
さらに、彼の出身が不明であり、ほとんど喋らず、たまに同じ数字を口にするだけなのだと続ける。
「22194 22194… 22194」
アダムは少し離れた場所からエマ達を見つめながら、何故かノーマンの番号を繰り返すのだった。
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第74話 特別な子
新農園とアダム
エマはオリバー達の説明を思い出していた。
ゴールディポンドにいる子供のほとんどはGV農園の出身。
他の農園出身者はエマを含め3人。
エマは、その3人が自分、ルーカス、そしてアダムであると推測する。
アダムの言葉が分からないという特徴がエマの脳裏で引っかかる。
胸にある見慣れない紋章は量産農園のものなのか? と考えるエマ。
シェルターでレイと確認した資料の中にはアダムの胸のマークを見た記憶は無い。
ミネルヴァの残したメモリー内の情報にあった”西の果てに建設中の新農園”を思い出し、エマはアダムに視線を移す。
(ひょっとしたらアダムって――)
アダムは一人、エマ達とは離れた場所でブツブツとノーマンの数字”22194”を繰り返す。
生存
地球儀や船の模型が載せられた棚には本が詰まっている。
6時を示したデジタル時計が電子音を鳴らす。
モニターが点灯し、おはようノーマン、という音声が流れる。
そのモニターの前に立ち、ノーマンが笑顔で挨拶をする。
「おはようございます 博士(ドクター)」
バイタルチェックを求められ、ノーマンはモニターの隣の表示板に手をかざす。
読み取った情報が表示板に列挙されていく。
『正常ね 朝食を出すわ』
モニターから音声が流れ、表示板の下の小さなシャッターが上がる。
出てきた食事を受け取り小さなテーブルに座ったノーマンは胸の前で手を組む。
いただきます、と言って食事を摂り始める。
薬が入った容器持ち上げて観察するように見つめるノーマン。
食事に使っているフォークを誤って床に落としてしまうと、すぐに引き出しが開く。
その中にはフォークが一本入っている。
「………」
引き出しを暫し見つめた後、ありがとうございます、とノーマンはにこやかにフォークを受け取る。
テスト
デジタル時計は8時を示す。
機械に囲まれた部屋の中央に座るノーマン。
ガラスで区切られた廊下からは、研究者らしき二人の白衣を着た男性がノーマンを見つめている。
頭に無数のコードが繋がれたヘッドホンのような機械を身につけたノーマンは、板面がほぼ画面で空いたスペースにボタンやトグルスイッチの並ぶ机に向かっている。
部屋の中のノーマンに向けて、設問の数、解答時間は変わらないが、問題の難度は前回よりも上げたと音声が流れ、テストの第一問が開始される。
画面に向かい集中するノーマン。
計り知れないポテンシャル
「結果は?」
テストを受けるノーマンをあらゆる角度から映した無数のモニターを眺めながら、やはり研究者が傍らの研究者に問いかける。
問われた男性は、計200問を全問正解だと答える。
問題のレベルをどんどん上げているにも関わらず一問も誤答が無いと付け加える。
白衣の男性は、GFでのテストのレベル自体が高いが、さらにその上のレベルのテストでも測り切れ切れていないのか、と呟く。
(”特別な子”―― この施設に選ばれるわけか――)
テストを終えたノーマンは、研究者二人に前後を挟まれて廊下を歩く。
ノーマンは、通り過ぎる部屋のガラスの中をさり気なく覗く。
自室に戻ったノーマンはテーブルに向かって本を読んだり、パズルをしたり、チェスをして時間を過ごす。
(会いたい エマにレイにみんなに会いたい)
ノーマンは、GF農園のみんなが一人残らず無事に脱獄出来たかどうかを心配する。
里親
ノーマン出荷の日。
農園を出て、建物でママに言われるままに扉の前で待つノーマン。
扉が開く。
「え」
ノーマンは目の前の光景に思わず声を上げる。
そこには本棚や冷蔵庫、蓄音機を載せたテーブルがある部屋が広がっており、その中で笑みを浮かべながら立つスーツの男がいる。
「こんばんは 初めましてノーマン」
男はノーマンに穏やかに挨拶をする。
鬼に殺されると覚悟していたノーマンは、人間、それも大人の男から迎えられ呆気にとられる。
もういらしていたのですか? とママが男に問いかける。
男は、少し早く着いた、と答える。
「ノーマン」
男に向けて手を伸ばすママ。
「こちらラートリーさん あなたの新しいお父さんよ」
(え? 里親?)
驚くばかりのノーマン。
男は、ノーマンとは歳が近い為、ピーターと呼んだら良い、と返す。
そして、ピーター・ラートリーから研究を手伝って欲しいと告げられたノーマンは研究とはどういうことなのかとピーターを驚いた様子で見つめる。
いっぱい勉強ができてよかったわね、とママはノーマンに語りかける。
笑顔を作っていたママは、目でノーマンに有無を言わせぬ圧力をかける。
ノーマンはママと目を合わせながら、これはやはり出荷の一形態であり、ピーターもまた捕食者側なのだと直感する。
「大好きよ愛しい子」
ママがノーマンを抱きしめる。
「新しい檻(おうち)で幸せにね」
不安げな表情のままママに抱かれるノーマン。
探れ
ノーマンは自分の立場はまだ食料に過ぎず、単に飼われる先が変わっただけなんだと理解する。
しかし、GF農園で出荷されるのが決まり死を避けられないものだと覚悟した時とは違い、まだこの施設では生きていられると考えたノーマンは、笑顔でピーターと握手を交わし、この施設にやってきたのだった。
(生きていればまたエマ達と会うことができるかもしれない)
ノーマンは、この施設において自分は何をどうすれば生き残れるのか、そして何をどうしたら収穫されてしまうのかを考える。
その為に、とにかく探る事を意識して行動していた。
鬼はどこかにいるのか。研究者のような男たちは何者なのか。
何故、他に自分と同じような立場の食用児がいないのか。
(『研究』? いやこれは実験だ 僕を使った)
研究者に前後を挟まれて廊下を歩くノーマンは、ガラス内側を覗く。
(実験?)
ガラスの内側の部屋には頭部に手術痕があったり、体が異様に発達している異形の食用児がいる。そして、鬼が点滴やぬいぐるみを用意し、甲斐甲斐しく彼らを世話している。
(この農園は一体何を創り何を育てている)
生き抜く意思
自室の、自分を監視しているカメラが恐らくは6個であると推測していたノーマンは、部屋にいる限りは音声も拾われて常に監視・管理をされていると考える。
食事の時に支給されるフォークやナイフはプラスチックで武器にはならない。
さらに、窓が無く、水路、通気口なども人が通れるサイズではなく、部屋の出入りも自由に行うことは出来ない。
さらに、右手首には発信機がつけられている。
現状においてノーマンが導き出した結論。
”脱出は不可能”
(それが何だ 絶対にここから抜け出してやる)
洗面台の前に立つノーマン。
(このΛ(ラムダ)7214から…!!)
ボタンを外したシャツの下に、アダムの胸にあったのと同じマークがある。
ノーマンは鏡の中の自分の目を見つめる。
(生きて生きて生き延びて僕は必ずエマと皆と会うんだ!!)
強く誓うノーマン。
感想
生きていた
ノーマン生きてた! エマやレイたちと再会する時が楽しみだわ。
子供達は狂喜するだろうな。
これで、気になっていたノーマン退場時の最後の表情の意味が繋がった。
あれは鬼に攻撃される直前ではなかった。ピーターの姿に驚いていたのだった。
今回の話の感動は、やはりあの時点でピーターの姿をシルエットであっても出さなかったから生まれたんだろうな。
漫画の通り、ノーマンの驚く表情だけという演出がベストだった。
ノーマンの生死もそうだけど、何を目撃したのかという謎も気になっていたから、個人的には常にノーマン生存の可能性を忘れずにいられたから。
そして、やはりノーマンはとびっきり優秀な子供だった。
研究者(?)達が驚きを隠せないほどの優秀で、まだそのポテンシャルを測りかねている様子だった。
そんな天才ノーマンがエマ達に合流したらパーティは大幅に強化される。
だから、というのもおかしいけど、すぐにエマ達と再会することは無いんじゃないかな。
そもそも新型農園は西の果てにあるというし、ゴールディ・ポンドやシェルターとの位置関係は分からないけど遠そうな印象を受ける。
アダムは何故ノーマンの番号を知っているのか
こうなってくると気になるのはアダムだろう。
ノーマンはこの施設に連れて来られて以来ずっと監視され続けており、とても外に出られる境遇には無い。
ということは、ノーマンとは施設内で接触があったということになるのではないか。
しかしノーマンがアダムと接触する機会があったのだろうか。
案外、ガラスの向こうの廊下を歩いているノーマンの首元を見て覚えただけとかだったりして(笑)。
でもそれだけであってもエマにしてみたら、とっくに諦めていたノーマン生存の可能性を知らせる情報だから喜ぶのではないか。
まだエマはアダムがノーマンの番号を繰り返し呟いていることを知らない。
近々、それを知ったエマがアダムにノーマンの番号を、どこでどうやって知ったのかを問い詰める展開が来るのだろうか。
色々な仕込みが終わった感
この話の前までは、メインはエマと猟場を壊そうとしているレジスタンス側と、別れたエマの元へ行こうとゴールディ・ポンドに潜入しようとしているレイとオジサン側の二つのグループで話が構成されていた。
そして、ミネルヴァから情報を得たことで謎の対象はより具体的になっていき、話は一気に広がった。
そこに、新農園から脱出しようとするノーマンの視点が加わる。
ここ数話で色々な仕込みが終わったように思う。
次からいよいよ鬼との戦い、もしくはその準備となるのか。
敵は限られているとはいえ、バイヨン卿やレウウィス太公は強そうだ。
子供達の中から犠牲が出てしまうのは必至だろう。
それとも、ルーカスやオリバーたちの知恵で鬼達に何もさせる事無く完封できるのか。
以上、約束のネバーランド第74話のネタバレを含んだ感想と考察でした。
第75話に続きます。
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