第75話 不屈の葦
第74話のおさらい
エマはオリバー達の説明を思い出していた。
風車小屋にいる子供は全員がGV農園の出身。
他の農園出身者はエマを含め3人。
エマは、その3人が自分、ルーカス、そしてアダムであると推測する。
アダムの言葉が分からないという特徴がエマの脳裏で引っかかる。
胸にある見慣れない紋章は量産農園のものなのか? と考えるエマ。
シェルターでレイと確認した資料の中にはアダムの胸のマークを見た記憶は無い。
ミネルヴァの残したメモリー内の情報にあった”西の果てに建設中の新農園”を思い出し、エマはアダムに視線を移す。
(ひょっとしたらアダムって――)
アダムは一人、エマ達とは離れた場所でブツブツとノーマンの数字”22194”を繰り返す。
出荷されたはずのノーマンは、どこかの施設で部屋を与えられて、テストを受ける日々を送っていた。
テストの様子を監視していた研究者然とした男は、施設に来て以来、GF農園にいたころよりも難しいテストを受けさせており、どんどんその難度を高めているにも関わらずノーマンが全く誤答しないことに驚いていた。
ノーマンは研究者から、施設に選ばれた”特別な子”と称される。
思わぬ形で生き残ったノーマンはエマ達に会いたいと考えていた。
そして、自身が出荷された、本来なら死んでいた日のことを思い出す。
ママにGF農園の外に連れられたノーマンが相対したのは鬼ではなくピーター・ラートリーだった。
ママはノーマンにピーターの養子になるように告げる。
ピーターはノーマンに、自分の研究を手伝って欲しいと握手を求める。
訳が分からない様子のノーマンだったが、すぐにこれは形を変えた出荷だと気付き、にこやかにピーターと握手をするのだった。
自分はまだ捕食者たる鬼たちによる囚われの身である事に代わりはないが、生きていればエマ達と会えるかもしれない、と生存の為にノーマンは頭をフル回転させていた。
ピーターが言っていた”研究”という言葉に違和感を覚えたノーマンは、これは自分を使った実験だと推測する。
テストの後、部屋に戻る為に研究者に前後を挟まれて廊下を歩いていたノーマンは、ガラスの内側を覗いていた。
ガラスの内側の部屋には頭部に手術痕があったり、体が異様に発達している異形の食用児がいた。
そして鬼が点滴やぬいぐるみを用意し、甲斐甲斐しく彼らを世話していたことからこの農園が何かを創り、育てていることを知る。
自室には監視カメラが6個はついており、食器はプラスチック。
窓が無く、水路、通気口なども人が通れるサイズではなく、部屋の出入りも自由に行うことは出来ない。
おまけに、右手首には発信機がつけられている。
現状においてノーマンは”脱出は不可能”だと結論していた。
しかしノーマンは、ボタンを外したシャツの下、アダムの胸にあったのと同じマークを鏡に写しながら、それが何だ、と闘志を燃やす。
ノーマンは、この農園、”Λ(ラムダ)7214”からの脱出を誓うのだった。
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第75話 不屈の葦
レウウィス大公の恐ろしさ
ラムダ7214にいたアダムは、鬼の手によって出荷されようとしているその時、廊下を白衣の男と一緒に歩くノーマンの首元の数字をじっと見つめ、22194、と何度も繰り返し呟いていた。
街の外れの森で、エマは木の幹に設置された的目がけて銃を連射する。
その全てが的の中心を捉えたのを見て、サンディが、ヒュウ、と口笛を吹く。
エマの手に合う武器はあったのかとソーニャがエマとサンディに声をかける。
コレとコレなら使えそう、と答えるエマ。
「こりゃ頼もしい」
的の中心から煙が出ている的を手に、ザックが呟く。
なー、と同意するサンディ。
「みんな…知ってたんだね鬼の殺し方」
エマの言葉を肯定するサンディたち。
サンディは、自分たちがそれを知っていることも、鬼を殺す気でいる事も鬼には知られていないと答える。
逃げ回るしか能の無いザコとして振舞ってきたと言うソーニャ。
これまでの狩りでは自衛の戦い、逃走に徹して情報収集を行い、その裏で着々と準備を重ねてきたと言い、その過程で命を落とした同志がいることにも言及する。
そして、この作戦は、ルーカスやソーニャたちが家族、同志を失いながら受け継いできた全ての結晶なのだと説明する。
「敵の強さは充分わかっている でも勝つのは私達よ」
油断は禁物だとザック。
特にレウウィス大公には、と続くザックの言葉にエマはその容貌を思い出す。
ルーカスとかつての仲間たちは当初、鬼に対抗出来ていた、とサンディ。
リーダーであるルーカスの親友=オジサンが上手に指示を出して戦略的に立ち回った結果、一人も欠ける事無く猟場を生き延びることが出来ていたのだという。
すごい集団だった、普通は不可能、と真剣な表情でソーニャとザックが称賛する。
「でもレウウィスに目をつけられた途端――壊滅させられた」
サンディの説明にエマは表情を強張らせる。
レウウィスはルーカスの仲間を一人ずつ、見せつけるように嬲り殺しにしていったのだ、とザック。
ソーニャはそれらのレウウィスの行動を、狩りを楽しむために、ルーカスやオジサンの憎悪を煽り、鬼に対して強い殺意を持つようにする為だと説明する。
「実力は別格 その上イカレ野郎で何をしてくるかわからない」
計画に狂いが出るとしたらあいつだ、とザックは結論する。
エマはレウウィス大公に関する説明を聞き、殺されたモニカ達の事を思い出す。
憎しみにエマの表情が歪む。
予期せぬ事態
街中でご飯だとジリアンが子供達に呼びかける。
賑やかな食事の時間。
エマは路地裏に座り込み、天を仰いでいるテオに食事を持っていく。
テオはあまり元気の無い様子で昨夜ヴァイオレットが来て自分に一発ビンタしてきた時のことを話し出す。
ヴァイオレットはビンタを食らわせた勢いのまま、食事と着替えをしろというエマからの伝言を伝える。
それから落ち着いた様子で、ごめんな、と一言謝罪する。
「オレはあんたとあんたの兄姉を見殺しにした」
他人ではなくなると精神的に辛いのと、猟場の子供達はバラバラであると鬼に思わせておきたかったのもあり、テオだけではなく、助けられない他人全てに対して見て見ぬフリをして来たとヴァイオレットは告白する。
「でももうそれもおしまい 次の狩りで全て終わらせる」
怪物を殺し、今生きている全員で猟場から逃げると宣言するヴァイオレット。
ついさっき兄姉を亡くしたテオにとっては何故今日ではなかったのか納得出来ないかもしれないが仇をとろう、とヴァイオレットはテオに真剣な表情で呼びかける。
「あんたの兄姉の分もオレの姉弟の分も」
その言葉に、少なからずここにいる全員が同じように失い、辛さや悔しさに塗れているのを知ったとテオはエマにその悔しい心情を吐露する。
殺されてしまったモニカとジェイク、斧を渡されていたにもかかわらず何も出来ず、鬼達が嗤っていたことも悔しい、とテオ。
顔を歪めて涙を流すテオの隣でエマは辛そうな表情でじっと話を聞いている。
出来るかな、とテオが呟く。
「終わらせたい…俺も終わりにしたい…!」
テオはエマを見つめる。
できるよ、と返すエマ。
「敵がどんなに京大で私達がどんなにちっぽけでも何度踏みつけられ奪われても私達は立ち上がる」
「人間は弱くない!」
夢物語にはしない、早ければ明日にもあるであろう次の狩りで終わらせる、そのために食べて力をつけなくちゃとエマ。
テオはその言葉に触発され、パンに噛り付く。
一生懸命食べているテオの隣で、この猟場を全員で生き残り、シェルターへ帰るという想いを新たにするエマ。
広場ではオリバーが、その場に集まっている子供達全員に計画について知らせようとしていた。
その時突然、大音量の音楽がスピーカーから鳴る。
驚く子供達。
「音…楽…?」
激しく動揺するオリバー。
狩りに向かう鬼達。
その中にはレウウィス大公も、そしてバイヨン卿の姿もある。
早すぎる、と驚愕するオリバー。
嘘でしょ、とジリアン。
なんで…、とポーラ。
ニッ、と笑うレウウィス大公。
「密猟者が来る!! 全員武器を手に配置につけ!!」
オリバーの呼びかけで弾かれたように動くメンバーたち。
ペペは両腕に子供を抱えて駆けだし、ヴァイオレットは子供達を誘導する。
銃とロープを持ち走るポーラ。
感想
機が熟したと判断したか
オリバー達がこれほどまでに動揺しているということは、これまでの狩りの周期から明らかに逸脱した異常事態だという事だろう。
ラストのレウウィス大公の笑いを見ると、これは明らかに狙ってやったことだろう。
これは、恐らくは盗聴かな?
バイヨン卿とピーター・ラートリーは繋がっている。
となれば、風車小屋のレジスタンスのメンバーが集まっていた部屋に限らず、街の全ての箇所に盗聴器があっても全然おかしくないと思う。
あと、同時並行でスパイもあるかも。
GV農園出身者以外の存在はエマ、ルーカス、そしてアダムの3人。
何故か一人、量産農園から不自然な形で猟場に出荷されたアダムがひょっとしたらスパイなのかな……。
鬼達はオリバー達に対してずっと諜報活動を行い、子供達の力や鬼に対抗しようとする機運が最高潮になるのを待っていたということか。
これまで、決まった周期で行われる狩りで、毎回数人の犠牲者だけで済んでいたのは、人間の抵抗しようとする力を極限まで高めようという鬼の企みだった?
強い相手を求める描写がされていたのはレウウィス大公だけだったが、他の鬼もまたレウウィス大公の提案に乗っていたということなのか……。
鬼はオリバー達に、かつて鬼に対して有利に戦いを進めていたオジサンとルーカスのチームを狩った時と同等の力を期待しているのだろう。
オジサンが鬼に破れてシェルターに逃げ帰ってから10年くらい?
その間、鬼達は次の仕込みを着々と行っていたのだとしたら何て残酷なんだと思う。
これは、鬼と人間の生きる時間のスケール感が全然違うから出来る事だ。
鬼にとっては娯楽のために10年やそこらの時間を一つの計画に費やすことに躊躇は無いだろう。
鬼達が何もかも上だった。果たしてエマ達に勝ち目があるのか。
勝機はあるのか
勝ち目があるとしたら、鬼がこの狩りを娯楽として見做している点にあるとは言えないか。
ひょっとしたらスリルを増す為に、レジスタンス側の作戦の詳細をわざと知らないまま狩りに出向くかもしれない。
盗聴した情報をチェックするのは一部の鬼だけ、もしくは使役している人間だけにしておき、盗聴で得られた情報の中からレウウィス達に実際に伝えられるのは”レジスタンスの戦う機運が最高潮になった”という情報だけならば、オリバー達の作戦が通用する可能性があるのではないか。
好敵手を求めるレウウィス大公ならばそれくらいのフェアな戦いを望みそうな気がする。
生きるか死ぬかの戦いがしたいのならば充分あり得ると思うんだけど……。
いや、無理があるかな。
やはり作戦を知った上で狩りに出向いているという方が自然か……。
少なくともレウウィス大公以外の鬼達は知っているだろう。
それに、作戦の詳細を知っていたとしても、実際にそれを体験するのとはまた違う。
作戦通りの攻撃が来ても、せめて死なない程度の備えは必要だろう。
あと、作戦を見て”ああこれか”と楽しむ余裕も持ちたい?
鬼の力は単純に、物理的に強大だと言える。
恐ろしいことに知性も相当ある。
長期的に物事を成し遂げる戦略的視点を持ち合わせているとしたら脅威以外の何物でもない。
人間と鬼は”約束”を結んだとはいえ、1000年間の時間を経て徐々に鬼は人間(ラートリー家)を浸食していった?
そして、実質的には人間の世界を支配していると言っても良いのかもしれない。
第76話からいよいよ子供達の死力を尽くした反撃が行われる。
多くの犠牲の上に、忍耐を重ねて紡ぎ出された結晶である作戦は果たして鬼に一撃を食らわす事が出来るのか。
鬼達にとってイレギュラーがあるとすれば、オジサンとレイの存在くらい?
今後、絶望的な流れの話しか想像できない。
以上、約束のネバーランド第75話のネタバレを含む感想と考察でした。
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