第115話 ジンとハヤト
第114話のおさらい
”ライオンのあご”を目指すことで一致したエマたち。55人もの大所帯で地下道を出発して3日が経過していた。
明らかに疲労が溜まっている子供たちに、銃を持って警戒にあたっているドンは心配そうな表情を向ける。
さらにエマも、子供たちの中でも年少者にとっては、集団の進むスピードが早いと感じているのではと心配するのだった
しかしエマをはじめとしてレイ、ドン、ギルダたちは常に鬼やラートリー家や、さらにはフクロウ型のカメラなどを警戒し続けており、疲労していた。
(休むもんか 守らなきゃ 急がなきゃ)
これ以上を家族を失わない為に、と前向きに自身を鼓舞するエマ。
森の中で食料の調達をするも、なかなかうまくいかないエマたち。
そんなエマたちに、GF出身の年少組が自分たちも探しに行かせて、と訴えかける。
エマとドンがキノコの種類を見分けるのに苦労している中で、年少組はわけもなく食べられるものと食べられないもの判断していた。
きのこの毒性を簡単に見抜いていく。
年少組が明らかに自分たちよりも知識が豊富なことにエマとドンはただただ驚いていた。
イベットは足跡を探していた。
もしサルを見つけることができたなら、サルが食べるものは人間も大抵食べられるというユウゴから教わった知識を思い出すイベット。
狙い通り、イベットたちは木にいるサルを見つけていた。
サルを見て喜ぶイベットとジェミマ。
サルが逃げていく。
その際に落とした木の実を拾い上げ、ロッシーは礼を言う。
「ありがとう 少しもらうね」
年少組の活躍のおかげで、ザルには山の幸が積まれている。
彼らの思いがけぬ働きぶりに驚くエマとドン。
ジェミマは何十人分の調達は私たちのほうと得意だ答える。
「この二年間で 色んなことができるようになったんだよ」
ジェミマはエマたちがシェルターを留守にしている間、ずっとユウゴやルーカスに協力することをを教わっていたのだった。
「私達 旅もへっちゃらだよ」
イベットたちは誇らしげに続ける。
「全員ユウゴとルーカスの弟子だもん」
イベットはエマに、しんどかったらエマたちもちゃんと休んでいいんだよ、と言い、その身を気遣うのだった。
出発して8日目。
当初は10日での到着を見込んでいたエマとレイだったが、予定通りに着くことは難しいと感じていた。
「でも全員無事で、全員生きてる」
エマは全員、現在の無事にで生きていることを喜ぶ。
そしてここまでは割と上手くいっており、素人相手にまず負けることはないと考えていた。
現在のように鬼やラートリー家を無視することで10日は無理でも、1日2日であれば距離が着きそう。
そしてエマは、自分も不安であったことをレイに告白する。
ユウゴたちを失い、フィルに関しても何もわかっていないことへの不安感。
しかしエマは、焦らずに目の前のことからクリアしていく、と結論する。
エマの考え方に感心していたレイ。しかしすぐに別の何かの気配に気づく。
エマとドンを伴い向かった先には、鬼がいる。
鬼の集団は子供を取り囲んでいた。今にも食べようとしている。
「え」
レイはその光景を前に、唖然としていた。
(人!!?)
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第115話 ジンとハヤト
出会い
森の中、野良鬼に四方を囲まれて槍を構えて対峙している二人の食用児の姿を発見し、エマたちは驚いていた。
何者なのか、何故ここにいるのか、という疑問が先にきて、その光景に目を見張るレイ。
しかしそんなレイを尻目にエマが弓矢を持って飛び出す。
「助けなきゃ」
それを合図にしたかのように、ドンとレイが弓に矢をつがえ、野良鬼に向けて射出する。
野良鬼に襲われ食われる直前だった食用児二人は、四方を囲んでいた野良鬼がほぼ同時に弱点である目から血を流してその場に倒れたのに気づく。
野良鬼に矢が刺さっているのに気づく頭にバンダナを巻いた食用児。
「動くな」
その食用児の背後、後頭部に向けてレイが銃口を突きつける。
「何者だ ここで何してる」
レイは周囲には他に誰の気配もないことに気づく。
そしてラートリー家の罠ではないと判断しつつも、彼ら二人が敵か味方か判断に迷っていた。
レイに銃口を突きつけられて両手を上げていた”バンダナ”は突如レイに向けて勢いよく振り返り土下座する。
「ありがとうございましたァッ!!」
その予想外の行動に、思わず呆気にとられるエマたち。
”バンダナ”は、食われるかと思った、と顔中を汁塗れにして叫ぶ。
「持ってた銃は食われるし姿隠してた布も食われるし」
きょとんとしているエマに向けて”バンダナ”が駆け寄り何度も礼を言いながら縋りついていた。
それを、命の恩人に失礼だ、と咎める口に黒い布を巻いた仲間の食用児。
二人は同時にエマたちを見てハッすると、人間!!? と驚きのあまりにのけ反る。
遅ェよ!! と突っ込むレイとドン。
レイは、すみません! と土下座する二人の大声を注意する。
気を取り直して、エマが二人の素性と何をしていたのかを問う。
”口元に黒い布”の食用児はジンと答え、”バンダナ”をハヤトと紹介する。
そして詳細は言えないが、とジンが答えている最中にハヤトがエマの首元の数字に気づきまた大声を上げる。
「ジン!! この人達だよ ヤベェマジだ!! GFの脱走者!!」
二人は自分たちがミネルヴァからエマたちを探すように命を受けていたことを告白する。
(ミネルヴァさん!?)
驚き、ただ呆然とジンとハヤトを見つめるエマたち。
安堵
滝と崖の間にあるスペースに子供たちは待機していた。
そこまでジンとハヤトを連れ帰ったエマたち。
傷の治療を受けたジンとハヤトは”脱走者たち”の存在に興奮していた。
それをまるで理解出来ない様子で見つめる子供たち。
エマは、ボスがミネルヴァであり、食用児を農園から解放して一大集落を築いている、とジンとハヤトに確認していた。
肯定するジン。
「ボスはすごいんです! 」
ハヤトはミネルヴァが神様のようで、たった半年でいくつもの農園を潰し、何百人もの食用児を救いまとめているのだと笑顔で答える。
それを聞き、すげぇ、と感嘆するラニオン。
トーマも、さすがラートリー家前当主、と呟く。
ハヤトは自分たちも含めて全員がミネルヴァに救われたのだ、と襟元のマークを見せる。
「あのマーク…」
イベットが呟く。
それはアダムの襟元に入っているマークと位置もデザインも似ていた。
ナットから、ミネルヴァが自分たちを探しているのか、と確認されたジンはそれを肯定する
「放送は届きましたか?」
ルーカスが受け取った放送の直後、アンドリューたちによるシェルター襲撃を知りそれを心配したミネルヴァはジンとハヤトを偵察に向かわせていたのだった。
エマたちの力になり、力を借りたいと言っていたとミネルヴァの意向も合わせて伝えるジン。
「ミネルヴァさん…」
子供たちの間に笑顔が広がっていく。
オリバーは放送で聞いた場所へ向かっていたところだと答える。
ジンはそれなら是非アジトへ案内させて欲しいと真剣な視線をオリバーに向けるのだった。
そして、アジトには食料や医療設備もあるのでケガ人の治療にも万全だと続ける。
ギルダは既に何個も農園を潰しているなら、アジトが鬼、ラートリー家にはバレていないのかと問いかける。
敵の襲撃は受けたことがないのに加えて、強い味方が守りを固めていると答えるジン。
「俺達にはまさに楽園です」
そしてハヤトは確信をもってそれに続く。
「何よりあの人がいれば ボスがいれば俺達は無敵なんです」
子供たちの間に安堵が広がっていく。
エマもまた楽園や、そもそもミネルヴァの生存自体に心底安堵していた。
(この世界にまだ味方がいた おれもこんなにも心強い 嬉しい)
安堵する仲間たちの中でレイはその表情を引き締めていた。
「なあジン アジトはここからどれくらいだ」
隣にいたドンも、表情をいくらか強張らせて質問する。
「えーと何だっけ ”キリンの首”? からは近いのか?」
それらの質問の意図に気づくアンナ。
”ライオンのあご”ですよ、と答えるハヤト。
その答えに反応するレイとドン。
ジンは”ライオンのあご”はあくまでアジトまでの中間地点にすぎずそこから更に二日歩いた先にあるのだと答える。
さらに、正確な位置は一部の仲間しか知らないのだという。
レイはドンを見て頷いて見せる。
ハヤトの襟元の食用児であることを示すマークや、ミネルヴァの放送、そして”ライオンのあご”のことも知っているという事実からジンとハヤトの話が嘘ではないことを確信したレイとドン。
ようやくドンは両手を高くつき上げて喜び、レイもまた、疑ったことを謝罪して案内を頼みたいとジンに握手を求める。
緊急事態
アンナから、部外者を直接隠れ家に連れていっていいのか、と問われたハヤトは、もちろんです、と答える。
「それがミネルヴァさんの望ですし みなさんは俺達の恩人ですから!」
子供たちの間に笑顔が広がる。
そしてジンとハヤトに小さい子供たちが一斉に抱き着いていく。
エマは礼を言い、ハヤトと握手する。
「よろしくお願いします」
ジンはアジトへ直接向かえば3日で到着すると説明する。
レイから銃を使えるかと問われ、一応、と元気よく挙手するハヤト。
ジェミマたちチビッ子が負傷したドミニクに、もう少しのがまんだと呼びかける。
エマもいまだ意識の戻らないクリスティにもう少しだと元気づけようとするが、その容態が悪化していることに気づく。
サンディはクリスティの容態が急変していると叫ぶ。
ムジカからもらった薬も既に塗っているがそれでも浅い呼吸、弱い脈、酷い高熱、とその症状は悪化していたのだった。
一刻も早い治療を、と焦るアンナ。
しかし抗生物質はもう切らしてしまっていた。
「まずい…」
ザックが深刻な表情で呟く。
「このままではクリスは助からない」
体力、免疫ともに落ちている現状ではミネルヴァのところに着く3日を乗り切れないと予測していた。
「明日の朝までもつかどうかも……」
「打つ手無し…だと?」
呆然とするレイ。
エマは残酷な宣告を受けて思考が停止していた。
(死ぬ? クリスが? 待って 嫌だそんなの絶対に…!!)
脳裏にはクリスティの笑顔が浮かぶ。
エマの肩に手を置いたのはハヤトだった。
まだ手はある、と真剣な表情でエマに呼びかける。
ハヤトはこの近くにある農園からクリスティを救うために薬を盗むのだと答えるのだった。
「さぁ手引きします 農園へ潜入しましょう」
感想
半年
どうやらミネルヴァは10年以上前から食用児を救っていたのではなかったようだ。
ハヤト曰く、その活動の開始時期は「たった半年」前からだったらしい。
そんなわずかの間にかなりの数の食用児を救っていたことに対する驚きもあるけど、しかしそれ以上にそれまで何をしていたのだろうかという疑問を強く感じた。
半年前ということは、まだエマたちが黄金の水に囲まれた寺院を捜していた時期にあたる。
GF農園を脱出したり、まだ猟場で戦っている最中は食用児解放活動は始まっていないということだ。
猟場の地下でエマはルーカスと共にミネルヴァからのメッセージを聞いた。
だから少なくともそれ以前にミネルヴァはラートリー家から離れていたってこと。
いや、そもそも今はアンドリューたちに潰されてしまった鬼の世界の各地に点在していたシェルターを用意していたのもミネルヴァだったのであれば、かなり前にミネルヴァは食用児のために活動していたということだろう。
随分と肝心の食用児解放運動に着手するのが遅いような……。
それまでミネルヴァは簡単に農園を潰せるほどの力を蓄えていたということ?
何がきっかけでミネルヴァが直接農園から食用児を救い出すようになったのかはわからないが、エマたちにとって好材料であることは間違いない?
もし懸念するとしたらミネルヴァの「楽園」に行ったなら、エマたちがGF農園にフィルたちを助けに行こうとしても「楽園」の戦力低下を招くとしてミネルヴァが自由を許さない方針を示すことくらいか。
農園にいる食用児は大切だけど、救った食用児たちのことも真剣に考えるならエマたちのような戦力には離れてもらいたくないと思うんだよなあ。
でもそれも万が一の可能性に過ぎない。かなり捻くれてるし、穿ちすぎな予想だと思う。
むしろミネルヴァはエマたちがGF農園にフィルを救いに行く作戦を支援してくれる可能性の方が高いとみる方が自然か。
七つの壁を越えて鬼の首領に会いに行って約束の結び直しをするというのも、ミネルヴァが猟場に残した情報から推測するなら別に止めたりはしないよな……。
よってエマたちがミネルヴァの「楽園」に対して懸念すべきことは特にないと思っていいんじゃないだろうか。
ただ、早いとこミネルヴァたちに合流してもらいたい一方、焦らして欲しい気持ちもある。
フィルたちを救って鬼の世界の脅威をなくし、人間の世界で暮らすというのがエマたちの大目標だ。
GF農園を出て以来、ずっと目標としていた「ミネルヴァに会う」ことはそのための目標だったことになる。
ずっとミネルヴァを追ってきたわけで、その歓喜の瞬間までもうちょっとくらい苦労があった方が面白いかなーと思った。
新しく登場した二人の実力は?
ジンとハヤトはミネルヴァの命により「楽園」からエマたちを探しに来た仲間だった。
前回はミネルヴァとは関係ない別の食用児の組織のメンバーじゃないかと思っていたけど、やはり自力で農園を抜け出すことはとても特殊な事例のようだ。
ジンとハヤトもまた、ミネルヴァにこの半年の間に農園から救われていた。
どうやらこの二人は量産農園で意識もなく繋がれていたわけではなさそうだ。
しかしエマたちが二人を疑っているのに気づいていなかったり、ドンがわざと「ライオンのあご」を「キリンのクビ」と言ってみたりして試していたのにも無頓着だった。
この二人が高級農園出身で日々頭脳を鍛えられていたなら、もう少しエマたちの自分たちを怪しむ反応を察して違う返答ができたのではないか。
ジンとハヤトは高級農園出身という訳でもなさそうだ。
農園の種類
量産農園というとてっきりその全部が前回出てきたような形態で食用児は自我も意識もない悲惨な状態なのかと思っていた。でもジンとハヤトを見ると色々種類があるということらしい。
彼らが量産農園出身と決まったわけじゃないけど少なくとも高級農園出身ではないだろう。
ここはかねてから疑問に思っていたところだった。
確か高級農園、量産農園に関してはソンジュから聞いたんだった。
高級農園は4つしかないし、それ以外は量産農園にカテゴライズされるなら高級農園にいる以外の食用児は全部悲惨な状況にあるのかと思うとかなり怖かったんだよなあ。
前回の「楽園」でミネルヴァたちを歓待する子供たちの数を見れば、自分が考えている以上に、農園の種類にもいろいろあるということらしい。
当然と言えば当然か。
量産農園で育った食用児は品質が低く、低い身分の鬼の食事なのだろう。だから供給量を多くするために「量産」しなくてはならない、と。
ジンとハヤトは多分その上のグレードの食用児ということかな。
しかしそもそもエマやユウゴたちがその実例なんだけど、他の高級農園の食用児も農園の真実を知って脱出を実行しているグループがあるはず。
エマたちやユウゴたち以外の脱走グループが、今もミネルヴァを探しながらどこかに集落を築いているかもしれないと思うとわくわくする。
というか、前回はジンとハヤトはそういう集落の食用児だと思ってたんだな……。
だから今回、この二人がミネルヴァからの使者だったことを知って嬉しいと同時にちょっとがっかりな気分でもある。
運良すぎねぇ? と。
まぁエマたちは”ライオンのあご”に向かっている途中だったし、ジンたちはエマたちに会うためにその延長線上を進んでいたわけだろうから不思議ではないのか。
しかしエマたちのシェルターの位置がわかっていたとしたらミネルヴァが迎えにいってやれば良かったのに……。
農園潰すよりも楽でしょ。
緊急ミッション
クリスティの容態悪化によって農園潜入して必要な薬を奪取するという緊急ミッションが発生した。
ジンとハヤトの実力がわかるわけだ。
野良鬼に囲まれてしまっていた時点で、エマたちよりもその力量が低いことはほぼ間違いないといっていいだろう。
おそらく農園に直接乗り込んで破壊活動を行うのはミネルヴァ以下あの一癖も二癖もありそうな4人の従者ではないか。
もしジンやハヤトのような普通の食用児が作戦に参加するとすれば、実際の戦闘ではないっぽい。
それでも「楽園」からエマたちを迎えに行く役目をもらうのだからそこそこ運動性能は高いのかな?
それでも、この半年で銃の撃ち方は覚えたとしても、エマたちとはくぐっている修羅場が比較にならないのではないか。
実際ジンとハヤトはエマたちが自ら農園を脱走してきたことにリスペクトを惜しまなかった。
つまり「楽園」ではミネルヴァによってエマたちの行動が偉業として知れ渡っているということだ。
エマたち以上の動きは期待しない方がいいだろう。
でもクリスティの容態を見て農園から薬を盗むという選択肢がすぐ頭に浮かぶという事は、農園に潜入するノウハウは知っているようだ。
次の話では農園潜入ミッションか……。
少数精鋭でいつものメンバーが行くんだろうけど、面白い展開になりそうだ。
メタ的な予想だと、この話の流れならクリスティが死ぬことは考えにくい。
つまり薬の奪取には成功する。しかし潜入したメンバーの中で犠牲が出ないとは限らない。
今のところエマたちの中で名前のあるメンバーは死んでいないから、犠牲になるとしたらジン、ハヤト?
ひどい予想だけど、今のところ特にそういったフラグもないし少なくとも対アンドリュー戦よりは安心して見ていられる展開であって欲しいところだ。
以上、約束のネバーランド第115話のネタバレを含む感想と考察でした。
第116話に続きます。
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