第136話 迷路
目次
第135話 捜索のおさらい
捜索依頼
ノーマンの部屋。
ドンとギルダはノーマンからラートリー家や王に先を越される前に、という理由でソンジュとムジカの捜索と保護を依頼されていた。
ノーマンはソンジュとムジカを保護する理由として、エマの帰還が遅れた場合、王や貴族を殺しつくしてしまっていたら彼と彼女に頼るためだと説明する。
そしてソンジュとムジカが王やラートリーに捕まることは死を意味しているため、自陣に招くことが出来るのであれば既に彼らと知り合いであるドンたちならば可能だとノーマンは続ける。
ソンジュとムジカと会ったのは2年前だというドン。
ノーマンはソンジュとムジカが通りそうな場所をリストアップした地図をテーブル上に広げる。
そして王兵が捜索している拠点や鬼の集落や都市、そして一般の鬼が普段近寄らない森や山道、穢れと呼ばれる場所など王が立ち入り禁止区域に指定している場所があると次々に”そこにはいない”と予測できる範囲を列挙していく。
「あっ! ここ」
ギルダが指をさしたのは、かつてソンジュとムジカに会った地点だった。
GF周辺もまた禁制区域の一つだとノーマンが答える。
次にノーマンは、逆にソンジュとムジカが逃げやすい範囲として、王家に知られていない隠れ里、地下坑道、洞穴、逃げ道が多く隠れて進みやすい地形など挙げる。
そして、先ほどの禁制ポイントと逃げやすい範囲を照らし合わせて、彼らがいそうなポイントを絞りこんでいた。
この絞り込まれた範囲にソンジュとムジカがいる可能性があるとノーマンは自信を見せる。
「追われる者がどう逃げるかは同じく追われる者が一番わかっている」
ノーマンは改めて、護衛をつけるので、ソンジュとムジカを見つけ出して欲しいとドンとギルダに依頼するのだった。
決意
ノーマンの部屋を後にして、二人は階段で会話していた。
少し前まではノーマンがソンジュとムジカを殺す気だったにも関わらず、今度は自分たちに彼らの保護を依頼してきた。
これはよく捉えれば考えなおしてくれたということだが、そうではないなら自分たちはソンジュとムジカを殺すために仕掛けられた餌だとドンは冷静に状況を整理する。
部屋を出る前、ドンとギルダはノーマンの依頼を受けていた。
ノーマンに本当はソンジュとムジカを殺すつもりで、自分たちはそのための餌だろう、と追及したところで答えは返ってはこない。
自分たちが行くことを拒否したとしても、先ほどのポイントを楽園の人間だけで虱潰しに捜して、発見されたソンジュとムジカは殺される。
それならノーマンの話に乗り、自分たちで捜してソンジュとムジカを守るということでドンとギルダの意見は一致する。
同行者
旅支度を整えたドンとギルダ。
「参りましょう!」
二人に同行するのはハヤトだった。
護衛はハヤトのことだったのか、とハヤトに握手を求めるドン。
しかしハヤトの護衛としての実力を子供たちが真っ先に疑う。
ハヤトは、自分は全く護衛にならない、とそれを全く否定せず、もう一人の同行者を紹介する。
「護衛のアイシェ 彼女は銃の名手で彼女の犬は探索の名手です」
アイシェはドンたちを一瞥することすらなく、三匹の大型犬を愛でている。
ドンとギルダはアイシェに挨拶をするが、彼女はプイ、とそっぽを向くのみ。
ハヤトは慌てて、彼女には話しかけても通じないのだと説明する。
彼女もラムダ出身なのか? というギルダに、ハヤトは、彼女はちょっと特殊で、と前置きして説明を始める。
ノーマンや側近のバーバラたちが禁制区域の森に行った際、そこで鬼に飼われていたアイシェをノーマンが救ったのだという。
アイシェは鬼に飼われていたため、鬼の言葉を理解し、話すことが出来た。
それでいながら鬼を憎んでいる。
ハヤトの説明を聞き、彼女にソンジュとムジカを殺させてなるものかとドンとギルダは決意を固める。
(私達自身のためにも ムジカ達のためにも エマとレイのためにも そして…ノーマンのためにも)
そして4人は楽園を出発する。
ドンはエマの言っていた言葉を思い出していた。
(「もうノーマンに自分を殺させたくないんだ どうかノーマンをお願い」)
(エマ レイ心配要らねぇからな こっちは全部――)
ドン達がソンジュとムジカ捜索に動き出していた頃、レイは門の先の空間を彷徨っていた。
「くそっ…!」
レイの表情には焦燥感が滲み出ている。
その腕には、エマらしき赤ん坊が抱かれていた。
第135話 捜索の振り返り感想
レイ、かなりの窮地なのでは……?
エマが赤ん坊になってる?
最初に訪れたGFハウスもどきも常軌を逸した空間ではあった。
そこでもエマとレイは子供になったけど、すぐに戻った。
まるで〇〇の悪戯みたいな空間だった。
でも今度の場所はGFハウスもどきよりも遥かに過酷なようだ。
エマが赤ん坊になってしまってから、一向に戻らず、時間が経過してしまったのだろうか。
いつもは冷静なレイの焦った表情が事態の深刻さを物語っていると思う。
レイの年齢には変化がないように見える。
しかし前話でレイは老けていた。実際に流れる時間ではなく、あくまでレイの体感している時間として、相当長い間この空間を彷徨うことになるのではないだろうか。
正直、こんなところに迷い込んだらと思うと、メチャクチャ怖い。
荒地に刺さった無数の風車が回転し、煙か、はたまた砂塵のようなものが常にもうもうと舞い上がっている。
こんなところに閉じ込められたら普通は気が狂うと思う。
前回、随分と不穏なナレーションで終わっていた。
特にレイはここを抜けるためにかなり苦労するのだろう。
そもそもまだレイとエマの身に何が起こったのかが描かれていない。
何が起こり、そしてどうやってここを切り抜けるのか。
知恵が試される。
ノーマンの思惑は?
少し前まではソンジュとムジカを殺そうとしていたノーマンが、ドンとギルダに対して、二人をを保護するために力を貸して欲しいという。
ドンとギルダがそれを素直に信じるとノーマンは思っていないだろう。
捜索に向かった二人がソンジュとムジカを守ろうと動くことは見抜いているはず。
ソンジュとムジカを発見したら、同行者のハヤト、そしてアイシェのどちらかが何らかの動きをみせるのか?
それとも少し距離をとって楽園の誰かが尾行するとか?
アイシェはどうなのかな……。
ハヤト曰く鬼を憎んでいるというし、ソンジュとムジカを見つけたら銃を向けそう。
でも実は彼女は純粋にノーマンに依頼されていた護衛任務を果たすだけで、案外ハヤトが食わせ者だったりするかも?
何にせよ、ノーマンがソンジュとムジカを救おうとするであろうドンとギルダの考えを読めないはずがないと思う。
楽園に連れて来させるよう、何かしら手を打っているはずだ。
果たしてソンジュとムジカの捜索はどういう結末を迎えるのか。
ドンとギルダもまた、エマやレイと同じくノーマンにこれ以上殺しをさせないことも動機として行動している。
しかしノーマンもまた、鬼を全て滅ぼすことがエマたちのためだと信じているんだよなぁ。
この両者の意見がぶつかるのは、何とも複雑な感じ……。
新キャラアイシェ
面白いキャラが出てきた。人気出そうな予感がする。
銃の名手で、三匹の大型犬を従えている。
それだけでかなりの戦力だとわかる。
鬼に飼育され、鬼の言葉しかわからない女の子か……。
人語は解さないが、ノーマンには忠実ということなのかな?
護衛としては文句なしだろう。
窮地に陥っているエマたちの謎解きと同時に、ドン達のソンジュとムジカの捜索も面白くなっていきそう。
前回第135話の詳細はこちらをクリックしてくださいね。
第136話 迷路
彷徨う二人
モニター室の矢印の先へと進むエマとレイ。
ずっと同じようなところを歩き続けていた二人は、すでに矢印のモニター室には32回、モニター室自体には通算で154回訪れていた。
同じような場所だが、しかしその中は少しづつ違っていた。
部屋の出現に法則性を見出すことが出来ないでいた二人は、この空間が複雑な迷路であり、ここを脱するための糸口がつかめていないことに不安を覚えていた。
この空間は時間や物理法則までもが不安定だった。
一瞬で幼いころの自分に退行し、しかしすぐに戻る。
レイはこの空間特性が、まるで来た者を嘲笑っているかのように感じていた。
そしてこの空間のでたらめさ、攻略のとっかかりのなさに、まるでここにいるのが幻覚か夢の類なのではないかと疑うほどに参っていたのだった。
腰を下ろし、休憩する二人。
ふとエマが、こんなことができる〇〇ってそもそも一体何なんだろう、とレイに問いかける。
それに対して、知るかよ! とイラつきながら、レイは開けた缶詰を手渡す。
レイは自分の分の缶詰を開けながら、自分なりに”七つの壁”の正体についての考察をまとめ始める。
まず北へ10里
つぎに東へ10里
つぎに南へ10里
つぎに西へ10里天へ10里 地へ10里
砂の間で矢が止まり
日が東へ沈むとき
地が哭き壁は現れる彼と我らを隔つもの
即ち七つの壁なり
レイはペン型端末から引き出したこの伝承を見て、全部同じ距離なら元の位置に戻ってしまう、と言ったトーマや、ノーマンが、七つの壁という場所はない、と言っていたことなどに対して、多分そういうことではないと呟く。
レイは”彼と我らを隔つもの”という一節を挙げて、これまで〇〇が自由に超えているのに、自分たちが超えてられていないものは何かという疑問をエマに投げかける。
「……空間と…時間?」
レイはかつて寺で目撃した立方体と砂時計の絵がヒントだったことに気づいていた。
東西南北天地が空間であり、”砂の間で矢が止まり”は時間の静止を、その後半は時間を指していると推理する。
”前後左右上下”6面+時間の1面、合計7つの世界を規定する”物理的限界”。
”時空”という”物理的限界”が”七つの壁”の正体だとレイは結論する。
その結論に圧倒されるエマ。
そして、”壁は現れる”という一節について、何がどう現れるのか、迷路を抜けるためには時空を超えなくてはいけないのかと頭を抱えてしまう。
レイは”砂の間で矢が止まり日が東へ沈むとき”という一節は時間を止めて巻き戻すことを表現していると睨んでいた。
しかしそんな荒唐無稽なことが人間にできるわけがない。
それに仮にできたとしても”壁”をどのように越えるのかわからないとレイは弱気になるばかりだった。
「”七つの壁”の見当はついた でも益々どうすりゃいいかサッパリだ…」
エマもレイに感応するように、不安げな表情を浮かべていた。
どうすればこの迷路を脱出できて、”七つの壁”を超えて〇〇の元に辿り着けるのかと自問する。
レイは早くこの迷路を抜けて、〇〇に会って帰らなければ、ノーマンの計画阻止に間に合わないと焦っていた。
「…それにこの迷路 迷えば迷うほど感覚がおかしくなってくる」
レイはこの空間は、気を抜いたら場所はおろか、自分さえも見失いそうな感覚に襲われていた。
迷路の終着点
二人は、その部屋がこれまで通過してきた部屋とは何かが違うと感じていた。
ドアを開けると、先が壁で埋まっており、どこにも繋がっていない。
レイは傍らの観音開きになっている窓を開く。
するとその先には砂漠が広がっていた。
二人が出てきたのは、砂漠に点在する家具の内のひとつからだった。
砂漠のあちこちには地面に刺さった無数の風車が回転している。
空には太陽が昇り、遠くでは砂嵐が巻き起こる。
レイは、ようやく見たことのない場所に出ることができたと少し安堵していた。
エマは眼前に広がる砂漠から、”砂の間で矢が止まり 日が東へ沈むとき”という一節を連想していた。
「ここ砂も太陽もあるよね…」
時間を止めて巻き戻すことが出来れば、と周囲を観察する。
そしてエマは、とりあえず砂嵐に矢を射ってみることをレイに提案する。
ダメ元でもいいから試そう、とレイはそれを肯定する。
「うわっ」
突然エマが急速に幼くなっていく。
最初は、またか、と事態を重く見ていなかったレイだったが、エマが乳幼児に近い状態になってしまったことでこれまでの現象とは違うことに焦っていた。
レイは幼いエマを抱き上げ、一端、部屋に戻ろうとする。
しかし次の瞬間、エマの顔にパズルのピースのような亀裂が生じたかと思うと、エマの体は全てパズルになって風にバラバラに舞い上げられていく。
レイはいなくなったエマのことを探して砂漠を彷徨っていた。
しかしいくらエマのことを探しても見つからない。
レイは力が抜けてしまったかのように地面に跪く。
(ああ…もう…俺は)
次の瞬間、幼くなっていたエマとは逆に、レイは急速に年をとっていく。
体中に深い皺が刻まれ、まるで老人のようになってしまう。
そしてレイは、いつしか自分の周囲に何体もの鬼の幽体がいることに気づく。
レイはそれらから、6つの天井絵の最後の”昼と夜”の絵に鬼が描かれていなかったのは、この迷路には鬼も来ていたが、彼らはこの空間を抜け出せずに朽ちていったそのだと理解する。
「俺は誰だ」
ついに危惧していた通り、レイは自分を見失い始めていた。
(ごめんエマ…ノーマン もうだめだ俺は…)
(エ…何だ…誰だそれは…誰――)
「レーイ!!」
倒れていたレイのそばの家具から子供の姿のエマが飛び出してくる。
「私わかったかもしんない!!」
第136話 迷路の感想
ついに光明が
ここ1カ月くらいは不穏な感じで話が進んでいたけど、ここにきてようやく光明が見えてきた。
突破口を開くのはエマのようだ。
レイもここまでかなり謎に迫っていただけに、最後でエマにいいところを持ってかれた感がある(笑)。
レイの推理すごいよなー。
空間の特性と寺院の壁画絵やマークを関連付けるとか、俺ならこんなの絶対気づかずに死んでるんだよなぁ。
しかしあと一歩、どうしたら”時空”を超えられるのかがわからないわけだ。
そんなの無理もないわ。人間からしたら常軌を逸し過ぎてる。
しかしエマとレイは、砂漠に辿り着いた。
まだわからないが、この砂漠で伝承をヒントに謎を解くことで、この世界から抜けられるかもしれない。
これは、〇〇のところまであと一歩のところまで来ている?
次回、エマが何を理解したのか。
そしてそれはこの切迫した状況を切り拓く鍵となるのか。
楽しみだ。
前回第137話の詳細はこちらをクリックしてくださいね。
コメントを残す