第126話 鼎談
目次
第125話 嘘吐きの同盟のおさらい
訪問の意図
鬼に囲まれたノーマンとザジ。
ノーマンは臨戦態勢のザジに刀を収めるよう言い聞かせる。
鬼の中の一人が、すまないね、と謝罪する。
「君があまりにも美味しそうだから」
それに対し、構いません、とノーマン。
鬼が食事に不自由していることをお察しすると気遣いを示しつつ、ここで自分たちを食べるより、同盟を結ぶことこそが人肉に困らない生活を手にできる唯一の選択だと続ける。
卿はどちらに? というノーマンの問いと同時に、部屋の奥から杖の音が近付いてくる。
鬼たちのリーダーらしき、杖をついた巨大な鬼がノーマンの前に姿を現す。
ノーマンは全く動じることなく、突然の訪問をお許し頂き感謝します、と挨拶をする。
ギーラン卿と呼ばれた鬼のリーダーは、次はノーマンと、部下の二人で来いと言ったが、まさかその通りに来るとは、と呟く。
まずは信頼だとノーマン。
「目的は同盟を結ぶことです」
ザジに”手土産”だと言って持って来させたのは、先日潰した量産農園の上級職員の首だった。
「よろしければ後で皆さんで召し上がって下さい」
「気が利くね 助かるよ」
そしてギーラン卿はノーマンとザジに席に着くよう促す。
ギーラン卿は本題に入ると前置きし、ノーマンに対して、鬼に対して何を求め、何をよこすつもりなのかと問いかける。
「欲しいのは戦力 差し出せるものは勝利 そして復讐の成就です」
提案
ノーマンは、700年前にギーラン家を陥れた王家、現五摂家の全ての首を献上することを約束すると宣言する。
現体制は王家と五摂家で成り立っており、それらを一掃することでギーラン家が政権に返り咲けると説明し、ギーラン卿を王にしたいと続ける。
ギーラン卿がその見返りをノーマンに問う。
「全食用児の解放 その上で食用児の自治をお認め頂きたい」
会話を聞いていた鬼たちが一斉にざわつく。
そんな鬼たちの疑問を察したように、ノーマンは、無論鬼の食料を絶つ意図はないと告げる。
そして、食用児は解放してもらうが農園の設備はそのままにするので、そこでラートリー家を好きにして良いと提案するのだった。
さらにノーマンは、ラートリー家の技術であれば髪の毛一本から何百もの人間の増産が可能であり、ラムダでの研究データも渡すと続ける。
「食用児も1000年の意趣返しというわけか」
ギーラン卿が呟く。
「それとも一族を追われた君の報復か? J・ラートリー」
それを聞いていたギーラン卿の側近が、ラートリー家は王家・五摂家と強く癒着しており、自分たちにとっても邪魔なので、食って排除出来れば一石二鳥だとギーラン卿に進言する。
「手を組みましょう 生き残るためにも互いの復讐のためにも」
書類を差し出すノーマン。
自分たちの陣営には権力中枢に近いラートリー家だからこそ得られた内部情報と、それに基づく策があるが、如何せん戦力がないため、現状の世界を倒すためには人間よりも強い鬼の戦力が必要だというノーマン。
そして、逆にギーラン家は戦力を持っているものの、勝つ術がなかったので700年もの間何も出来なかったと続ける。
「我らが組めば全てが叶います」
「700年待ち望んだ復讐と勝利を 共に忌まわしきこの世界を破壊しましょう」
ギーラン卿はかつて自分が政権の中枢にいた頃、理不尽に”野良落ち”の刑を受けたことを思い出していた。
そしてギーラン卿は、よかろう、とノーマンの提案を呑む。
しかし一族の命運を全て預けるというこの盟約を守れず、体制側にノーマンの策が通用しなかった場合にどうするかとギーラン卿がノーマンに問う。
それに対しノーマンは間髪入れず、その時は自分たちを食らえばいい、と返す。
それでいい、とギーラン卿。
そうしてノーマンとギーラン卿は書面に血判を押すのだった。
「共に新たな世界を築こう」
嘘吐き
ノーマンとザジはギーラン家の棲み処を出て森の中を歩いていた。
さきほどのやりとりを心配している様子のザジに、大丈夫、これでいい、とノーマンが答える。
ノーマンの言った自分たちに戦力がないこと、自治を認めて欲しいこと、農園設備を渡すことなど全ては鬼を駒とするためについた嘘だった。
(「食用児は無血でこの革命に勝つ」)
ノーマンは4人の側近に対して鬼との戦争となれば必ず食用児側に犠牲が出てしまうので、食用児はぶつけることなく、鬼には鬼をぶつけると説明したことがあった。
それに対し、共倒れさせるというノーマンの意図を読み取るヴィンセント。
ギーラン家はその駒の一つだった。
一方、ノーマンとザジが帰った後のギーラン卿は、この我が人間と同盟か、とさきほどノーマンと交わした書面を見つめていた。
(現王制の打破 我ら700年の悲願)
「まああやつならばやり遂げるであろう」
そしてギーラン卿は、書面に押されたノーマンの血判を舐める。
ノーマンは、卿もまた、食用児を生かす気などない、自分たちと同様に嘘吐きであると理解していた。
「美味い」
ノーマンの血を味わったギーラン卿。
血の一滴があまりにも美味であることから、ノーマンがただの人間ではないと見抜いていた。
ギーラン卿は、そもそもJ・ラートリーにしては容姿が若過ぎであることや、そもそもJ・ラートリーは何年も前に死んでいることを知っていた。
そして数年前に聞いたGFの特上3匹の噂の中の一人である可能性に思い当たる。
「あやつは王すらも食えない○○○の御膳」
ノーマンは、自分の肉、脳もまた卿の狙いの一つであると理解していた。
そしてノーマンたちを利用して復讐が成ったとしたら、約束は守られる事無く、まず自分が食われるとも知っていた。
(互いに手を組むのは表面だけ 肚の底では互いに相手の寝首を狙っている)
「せいぜい僕を食い殺す夢でも見ておくがいい」
「最後に笑うのは食用児だ」
第125話 嘘吐きの同盟の振り返り感想
緊張感の尽きない同盟
ノーマンにどんな戦略があるんだろう……。
ラストの表情を見る限りでは最終的に食用児が漁夫の利を得られるという算段があるようだけど、往々にして脳裏で考えた通りには事が進まないのがこの世の常だろう。
今回の作戦は失敗すればノーマンのみならず、楽園の全食用児がギーラン家の鬼の餌食となりかねない、とても危険な賭けのように見える。
命がかかっているからこそ、予想外の事態、最悪の事態というのは必ず起こる前提でまで備えなくてはならない。
多分、ノーマンにはかなり深いところまで考えた上で練った戦略があるのだと思う。
実際にラストでのザジとのやりとりで、しょせんは食用児と鬼とは、互いに相容れないことを前提としていた。
それでいながら、もはや後戻りすることなど叶わない同盟関係を結んだ。
すげー度胸だと思うわ。
もし自分なら、天敵と同盟を組みつつも、裏では互いに常に寝首をかこうとしている関係とか、よほど確信度の高い出口戦略がない限りは恐ろしくて結べない。
鬼だってノーマンの言葉を100%信じるバカではなかった。
同盟を結んだ当初から、もはやノーマンたち楽園を裏切るのが前提であり、そのタイミングをはかっていくだけという感じが見え見えだった。
ノーマンがエマ、レイを含めた極上の3人の1人であることを知っていたようだし、政権を打倒することが出来ないと思えば即座にノーマンに反旗を翻すのではないか。
鬼の方が戦力ははるかに上。
それに対してノーマンたちの優位性は情報だけ。
緊張感のある展開が続きそうだ。
王家と五摂家
今回の話で鬼の社会にも人間と同様に権力争いがあるということがわかった。
五摂家とか、日本の歴史上でもなんかそんな風に呼ばれたことなかったっけ、と思って検索してみたら鎌倉時代にあった。
やはり鬼にも体制があったんだな。
そして、そこからあぶれてしまい、体制を面白くないと思っている鬼もいるわけだ。
ギーラン卿は、元々は政権の中でそれなりの地位にあったようだ。
しかしおそらくは権力闘争に破れ、一族丸ごと政権から追放、そして”野良落ち”することとなった。
ますます人間社会っぽい(笑)。
ひょっとしたらそういった存在は、ギーラン家に限らないかもしれない。
他にも”野良落ち”している一族がいる可能性もある。
しかしだとすればギーラン卿があらかじめ接触して、同盟を結んでそうなもんだけど。
既にギーラン卿は、目ぼしい”野良落ち”の鬼を束ねている状態だったりするのかな……。
しかしギーラン家は今後、食用児であるノーマンに唆されるような形で体制側の鬼と同士討ちすることになるわけだけど、本当に命を懸けて戦えるのか?
鬼と鬼が戦うというのは、人間と戦うよりも命を失う覚悟が必要だろう。
そもそもギーラン家の勢力が体制側より強いということはまずありえない。
ギーラン卿が700年の間体制側に対して反乱を起こせなかったのは、つまりそういうことだろう。
だからまともに戦ったなら負けることは確実な戦なわけだ。
体制側を打倒するには、数で劣っているギーラン家の戦力をこれ以上ないくらいに効率的に活かす必要がある。
そこで重要になってくるのがノーマンの情報なのだろう。
それに、そもそもギーラン家は追放から700年もの間ずっと野良鬼として体制に対する敵意をずっと育ててきた。
だとすれば、その恨みのエネルギーを爆発させる形で結構暴れてくれそうな感じがする。
ただノーマンに隙が生じれば即座に寝返るかもしれないという緊張感とは隣り合わせの同盟関係であることは間違いない。
ノーマンの思惑
ノーマンの提案した取引条件がすごいな。
自分たち食用児を解放するかわりにラートリー家を食ってくれとか……。
ラートリー家への復讐を果たしつつも、自分たちの安全を確保する見事な提案だと言わざるを得ない。
そして、こんなことをさらっと提案できるくらい、ノーマンは修羅場をくぐってきたのかなと思った。
ラムダでの経験、脱出した後の経験がどんなものだったのか、いつか知る機会もあるのかな……。
ノーマンは食用児に平穏をもたらすために必死だったからこそ、こうならざるを得なかったのだと思う。
GFでエマたちと平穏に暮らしていて頃からは考えられないくらいに冷酷な部分が垣間見える。
ノーマンには今回のギーラン家との同盟以外にも、まだ何か練っている策があるようだ。
一体どんな策を用意しているのか。楽しみだ。
現政権との戦いは近い。
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第126話 鼎談
ドミニクは既に松葉杖で歩く練習を始められるほどに回復していた。
それに対して、クリスは未だに意識が戻らずにいた。
エマはクリスの手をそっと握りながら、不安な表情でクリスの顔を見つめる。
その様子を見ていたレイは、体に特に問題のある個所はないので、じきに目覚めるだろうとエマを元気づける。
そしてレイは、それよりもノーマンだ、と話題を変える。
エマはヴィンセント、バーバラ、シスロから感じた鬼への強い憎しみを思い出していた。
彼らについて、陽気で良い人たちだと思っていたエマだったが、そんな彼らが憎しみ一色になることに恐ろしさを感じていたことをレイに告白する。
GPのオリバーたちも鬼に対して憎しみを抱いていたが、ヴィンセントたちのそれは果てのない憎しみだった。
そんな憎しみを抱くようになるほど、一体ヴィンセントたちは鬼からどんな目にあわされてきたのか。
彼らの鬼を絶滅させるという意思に触れてエマの胸に去来したのは鬼への同情ではなく、彼らの憎しみの深さに対する恐怖だった。
しかしエマはムジカや、街にいた子供の鬼たちが何も知らないことを挙げ、全ての鬼を絶滅させる対象だという彼らの考えを否定するのだった。
レイは、ああ、とエマの意見に同意する。
しかしすぐに、ヴィンセントたちのような被害を受けた当事者にはそんなことは一切関係がないとエマの主張に対する反論を投げかける。
さらに、ヴィンセントたちが苦しんだことは事実であり、そんな目に合わせてきた鬼を憎むなとは誰にも言うことができないと彼らの気持ちを代弁するのだった。
そして、そうやって憎しみが連鎖していくことが『戦争』なのだろう、とレイ。
一度始めたら止まらないから、人間同士でも何千年と繰り返してきた、とレイが口にするのを聞いて、エマの心はざわついていた。
自分の内から溢れてくる気持ちに耐えられなくなったエマがレイに反論しようとしたその時、外から歓声が上がる。
エマとレイはその歓声でノーマンの帰還を知ると、すぐさまノーマンの元へ向かうのだった。
漁夫の利
ノーマンは自室に戻る道中にヴィンセントたちに同盟締結成功という結果報告していた。
歓喜に湧くヴィンセントたち。
ノーマンは彼らに対して次の段階へ移ることを告げる。
そしてノーマンは、自分の部屋の前にエマとレイが待ち構えているのに気づく。
部屋に入った3人。
まずレイが話を切り出す。
それは『誰ひとり失わず鬼を滅ぼす』作戦に関してだった。
しかしその内容に関して見当がついていてレイは短く質問することで効率的に回答を得ようとする。
「”内乱”か?」
エマはレイの質問にまるでピンときていない。
しかしノーマンはレイに対し、話が早くていい、と軽く言って内乱を肯定する。
鬼同士での潰し合いだと分かりやすく言い換えて説明するノーマン。
ようやく理解したエマは、ノーマンが会いに行っていた『駒』も……、と驚愕していた。
ノーマンはそんなエマの言葉に、鬼だよ、と笑顔で答える。
そしてノーマンは、鬼の社会について解説していく。
鬼の社会は王、貴族、平民、その下と身分がある。
そして特に王家と、それに次ぐ地位の五摂家が農園の全てを管理している。
それにより王家と五摂家が人肉の供給を初めとして鬼の社会バランス自体お握っている。
よって、権力と富が王家と五摂家に集中している。
そうなると鬼の中には、年々広がる王家や五摂家との格差に不満を持つ鬼が出てくるう。
ノーマンは、まずそういう鬼を利用するのだという。
鬼の旧名門
レイは、その具体的な方法及び利用する鬼がどんな連中なのかと問いかける。
ギーラン家という元貴族と答えるノーマン。
続けて、ギーラン家について解説していく。
ギーラン家は700年前に王家と現在の五摂家に無実の罪を着せられて潰された鬼の旧名門だった。
追放刑を受けたギーラン家は、人肉を食べられない身分となって歴史的には野良鬼に堕ちて滅びたとされていた。
しかし実は王家と五摂家への復讐の機会を狙うために、700年もの間隠れ住みながら農園や市井より人肉を盗んでは食べて、ギリギリのところで人の姿と知能を保ってきたのだった。
その話を聞きながら、ギーラン家に同情しているのか、浮かない表情を浮かべるエマ。
レイは人と鬼が組めるのか懐疑的だった。
ギーラン家を同盟の相手とすることに関して大丈夫なのかとノーマンに問う。
うまくやるよ、とノーマン。
利用価値がなくなれば食われるリスクもあるものの、自分たちもまた鬼の共倒れを狙っている。
つまりそれは駆け引き以外の何物でもなく、お互い様であると答えるのだった。
そしてノーマンは、ギーラン家が復讐を果たすまでは手を出してこないと確信している様子で説明する。
ギーラン家にある王家と五摂家に復讐を遂げようという強い執念と、復讐を遂げるその時までノーマンたちに手を出せない『もう一つの事情』があるのだという。
以上のことから上手くやれれば食用児は誰も死なない、と結論するノーマン。
食用児が独力で鬼と全面戦争をするより何百倍もリターンは大きいとそのメリットを主張する。
レイもその点に関しては完全に同意していた。
邪血の少女
化かし合いなら僕は負けない、と覚悟を決めるノーマン。
必ず無血で食用児が勝つと力強く主張するのだった。
エマはノーマンから得た情報を整理する。
ノーマンが進めているのは鬼同士を同士討ちさせて漁夫の利を得る作戦。
社会のバランス握る王家、五摂家を突き崩し、鬼の社会自体を不安定にさせる。
そうして鬼の社会と農園が崩壊すれば鬼の退化を一気に促せるので、絶滅が現実的となる。
しかしエマは、でも、とノーマンに切り出す。
「そうじゃない鬼もいるんだよ」
エマは、鬼の中には人を食べずとも退化せず、新しく食べた物の影響を受けない種族がいると話し始める。
そういう鬼が大勢いた場合、ノーマンの作戦が土台からひっくり返る、とレイ。
だから聞いておきたかった、と言ってさらに質問を続けようとする。
それにね、とエマもまた自身の胸に閉じ込めてきた想いをノーマンに伝えようとしていたが、ノーマンの様子を見てピタリと言葉を止める。
ノーマンは鬼気迫る表情をしていた。
軽くショックを受けた様子で、なぜエマとレイがそれを知っているのか、そしてその話をどこで知ったのかとノーマン。
二人はそれを機にソンジュとムジカについて説明を始めるのだった。
話を一通り聞き終えたノーマンは驚愕していた。
「……見た? 会った? エマたちは彼女に会ったの?」
「まさか…信じられない…”邪血の少女”の一族はまだ生きていたのか」
第126話 鼎談の感想
邪血の少女の一族
ノーマンは邪血の少女というキーワードを知っていた。
この驚きっぷりはどうしたことなんだろう。
自身の作戦の根本を揺るがすような存在の鬼がいることを知っていたら、そもそもそんな作戦は実行しない。
ノーマンは、ムジカのような存在がいることを知っていたが、その数が種族だけで人間の脅かすほどではないと知っていたということだろうか。
ノーマンの様子を見ると、エマとレイが知っていたことと同じくらい、邪血の少女の一族がそもそも生きていたことに対する驚きは大きいように見える。
邪血の少女の一族というのは鬼の中でもかなりレアな種族なんだろうな。
ひょっとしたら本来の鬼とは彼らのことだったのかもしれない。
現在幅を利かせている鬼は、人肉を食べないと人の姿と知能を保てない以上、元々は一個の細菌に過ぎない。
それはつまり、本物の鬼ではないということ。
より純粋な存在としての鬼である、邪血の少女の一族が鬼の源流とかなのかな……。
しかしムジカやソンジュも人間っぽさがあった。
ソンジュはあくまで宗教上エマたち食用児を食べなかっただけだった。
自然に生まれた人間なら口にするようだし、油断のならない相手だと思う。
この流れだと、来週には邪血の少女とその一族に関して、概要くらいは知れるだろう。
そうなると色々繋がってきそうな気がする。
来週が楽しみ。
以上、約束のネバーランド第126話のネタバレを含む感想と考察でした。
第127話に続きます。
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