第141話 1000年前の”約束”1
目次
第140話 来たよ!のおさらい
続々と王都に集う鬼たち
バイヨン領。
大勢の従者を引き連れて、バイヨン卿の妻、バイヨン夫人がやって来た列車に乗り込んでいく。
バイヨン夫人が手を引く幼い子供から、どこに行くのかと問われた夫人は、みんなが集まる大切な祭りのために王都に行くのだと答える。
その頃、イヴェルク、ノウム、ドッザ、プポなど他の五摂家の領からも同じように次々と領主の家族たちが王都に向けて出発していた。
儀祭(ティファリ)の開催まであと3日と迫った11月7日。
イヴェルク公は部下から五摂家の家族が王都に向けて出発していることや、供物、そして〇〇の御膳が明日には届くという報告を受けていた。
走り回ってドッザ卿を捜しているプポ卿を無駄だと声をかけるのはノウム卿。
プポ卿は、ノウム卿が痛烈なドッザ卿への悪口を展開するのを前にして慌てるばかりだった。
自分の領に戻ればドッザとも別れられるので、儀祭の間は辛抱だとバイヨン卿が諫める。
そして正直を申せば、という前置きの後に続くのは、ギーラン様の方が私は良かった、という本音だった。
驚くノウム卿。
それは思っても口に出しては、と慌てるプポ卿。
バイヨン卿は幼い頃にギーランと相対した時のことを思い出していた。
美しく清廉で、民のことを真剣に考えていたギーランがなぜ野良に落ちてしまったのか、と悔やむ。
バイヨン卿の言葉をノウム卿とプポ卿は神妙な面持ちで聞いていた。
その頃、ギーランは大勢の兵を引き連れて王都に迫りつつあった。
”穴”の先に行く
立方体の内に収まっている”穴”の出現を前にして、エマとレイは必死で考えていた。
(四次元超立方体…? の中に360度球形の黒い穴…)
レイはこの”穴”はどこかに繋がっていると確信していた。
しかし同時、危険も感じていた。
ブツブツと思考をそのまま口に出し、必死に考えをまとめようとする。
そんなレイにエマは、大丈夫、と笑いかける。
「この先にきっと〇〇がいる」
だな、とエマに同調するように落ち着き、笑顔を見せるレイ。
二人は互いに手をつないで空いたもう片方の手で同時に立方体に向けて手を伸ばしていく。
「え」
気付けば床に寝転がっていたレイ。
急いで飛び起き、周囲を見回しているとレイ、と名前を呼ばれる。
ドアを開いてレイの前に現れたのはレイを見た驚きのあまり固まっているアンナ、トーマ、ラニオンの三人だった。
レイは、今自分がいる場所がアジト(楽園)であることに気づく。
部屋を飛び出たレイの後を、慌ててアンナたちもついていく。
レイは走りながらアンナたちに、今が何年の何月何日なのかを訊ねる。
エマは、アジトに戻されたレイと異なる場所へと飛んでいた。
自分の足元の暗い水面に映った自分や、太陽の昇っている空を見て、エマはついに昼と夜の世界に来たのだと確信する。
空から一つ目の竜のような生物が大きな羽音を立てて降り立つ。
遠くから近づいてくる一体の鬼がいる。
鬼がエマに近づくにつれて、どんどんその体が若返っていき、やがてかつて見た子供の姿になっていく。
「やっとあえたね エマ」
「ちゃんと入口から来たよ 〇〇」
「いったろう 『なんにもないけどなんでもある』 きみならこれるとおもってたよ」
レイの居所を問うエマに、家族の元へ帰ったと〇〇。
続けて〇〇は、レイが昼と夜の世界に来れなかった理由を、彼は自分の認識の壁に囚われていたからあと少しで届かなかったと説明する。
「つまりはきみがおもっているよりむずかしいんだよ じぶんをせかいにときはなつのは」
「イイ脳だね 君はとても美味しそう」
〇〇の言葉にビクつくエマ。
しかし〇〇から、何しに来たのかと問われ、これまでムジカやミネルヴァ、仲間たちから背負ってきた想いを胸に答える。
(私の望む未来 全食用児を解放したい 鬼を殺したくない ノーマンを一人で行かせない!!)
「私は…”約束”を結び直しに来たの」
第140話 来たよ!の振り返り感想
ついに対面
ついにエマが〇〇との対面を果たした。
果たして”約束”の結び直しは実現するのか?
直感的には、そう簡単に都合よく希望が叶えられるとは思えないかな……。
もし〇〇が首を縦に振ったとしても、何か代償があるのは間違いないだろう。
エマの願いを聞いてあげるから代わりに何かが欲しいとか、何かをやってくれ、という条件を提示されるか、もしくは別に条件はないが、”約束”の変更とともに自動的に何かを失うことになるか。
つまり、エマは”約束”の結び直しにあたって、何かしらの強い葛藤に直面することになると思う。
〇〇はエマの脳が美味しそうだ、と言っていた。
やはりそこは鬼なんだな。
戯れにエマの脳を求めて、その反応を見て楽しむとかありそう。
でも仮にエマがそれを了承したとしてもやらないんじゃないか。
食欲よりは、昼と夜の世界は滅多に人が訪ねてこない空間だろうから、暇を何とかしたいのではないか。
昼と夜の世界に住んでいることで、他の鬼とはまるで次元が違う超然とした存在に見える〇〇。
果たして彼はエマの願いを聞き入れるのか。
残念ながらレイはあと少しで昼と夜の世界を訪問できなかった。
しかし親切なことにアジトへ飛んだので、これからはアジトに残っている仲間たちと行動することになるわけだ。
これは子供たちにとっては良いことだろう。
下手をすれば二度と帰って来れない可能性があったが、レイはその状況から見事に生還できた。
そして今後は子供たちの頭脳として働くことで、彼らの生存率は上がるはずだ。
今のところ状況は良い方向に向かって動いていると言えるのではないか。
慕われていたギーラン
どうやらギーランは現五摂家の内、少なくとも三人から今もその身を惜しまれる存在だったようだ。
ギーランが五摂家から退いたのは謀略のためだったはず。
直感したのは、やはりドッザ卿による陰謀かな。
ドッザ卿はノウム卿が憤っていたように、横暴で素行が悪いのに加えて、現五摂家の中でギーランの代わりに入っているようだ。
今のところ自分が権力を得るためにギーラン卿を陥れたというシナリオが自然と浮かんでしまうだけの材料がある。
とはいえミスリードの可能性も十分にあるので全然あてにはならない。
今後、ギーランの過去が描写される機会があるはずだ。
一体ギーランに何が起こったのか。
楽しみが増えた。
前回第140話の詳細はこちらをクリックしてくださいね。
第141話 1000年前の”約束”1
”ごほうび”
以前、ペン型端末を起動して鬼の頂点に立つのが〇〇だと読み取っていたエマたち。
レイは、〇〇と新たな約束を結ぶことを思いついていた。
しかしどんな”約束”を、どう結ぶのか、鬼は人間が食べたいのに、とナットが問う。
それについてはここ、とエマが展開している情報のある箇所を指さす。
そこには人間と鬼とで交わされた”約束”が一つではないことが記述されていた。
人間は”鬼”を狩らない代わりに”鬼”も人間を狩らない。
互い世界を棲み分ける。
これは”人間”が”鬼の王”と交わした”約束”であり、実はもう一つ、”人間と鬼達”が”〇〇”を相手に交わした”約束”があるのだった。
それを利用すれば結べる 俺達は鬼世界から逃げられる、とレイ。
「”約束”を結び直しに来た」
エマは昼と夜の世界に辿り着き、鬼の首領にここへ来た理由を述べていた。
「いいよ」
即座に要求を承諾する姿勢を見せる鬼の首領。
その予想外の反応に、エマはにわかに信じられず呆然としていた。
「いいよ なにがのぞみ?」
それが冗談や聞き間違いなどではなく本当に”約束”の結び直しをしても良いという返答だと気づき、エマは戸惑っていた。
(軽い… 思ってたのより全然軽い… あれ?? いやいいんだけど)
「ただしぼくにも”ごほうび”をちょうだい」
鬼の首領の一言に、一気に表情を曇らせるエマ。
揺れるユリウス
「『ごほうび』?」
「ああ 望みを叶える代償だ」
人間側の代表者に向けてイヴェルク公が答える。
「望みを叶えたければ彼に何を望まれても断るな」
二人は、昼と夜の世界へ向かうための入り口である”門”を前に立っていた。
約1000年前、人間と鬼の激しい戦いが続いていた。
疲労の色が濃い兵士たちを鼓舞するのはラートリーという騎士だった。
彼が兵士たちを指揮し、鬼に戦いを挑む。。
そんな日々は着実に人間側の損耗を拡大し続けていた。
ある夜、人間側のリーダーたち車座になって、一堂に会していた。
敵の拠点を落として勝利を収めたが、兵士は大勢が失われている、次はどう勝つ、と今後の方針を話し合ううリーダーたち。
若き騎士が、和平というアイデアを口にする。
その大胆な提案に一同は驚いていた。
それは鬼たちが了承しないだろう、という声に、方法は考える、と騎士は本気の姿勢で答える。
これまで通りの徹底抗戦の方針を突き進むべきだと主張するリーダーもいる。
そんな中、一部の人間を差し出してみてはどうか、とユリウスが意見を述べる。
隣の女騎士はそれを即座に否定せず、完全に食料を絶たなければ鬼も交渉に応じるということか、とユリウスに確認する。
それに頷くユリウス。
ユリウスは、さながら庭に果樹を植えるために苗を渡すように、予め人間を差し出せばよいと主張を続ける。
「例えば悪人…奴隷でもいい それに怪物達をあがめ与する者などを… それかあるいは――」
そこまで言って、自分がさらに非道なことを言おうとしていることに気づきユリウスは口を噤む。
そんなユリウスを諫めるリーダーたち。
ユリウスはすぐに、どうかしていた、忘れてくれ、と素直に主張を引っ込める。
女騎士はそんな殊勝な態度のユリウスを、すべては疲弊した兵たちを想ってのことだと庇っていた。
最初に和平を提案した騎士は、一度でもそうした形で人間を差し出したなら永久に要求されかねない、とユリウスの策を却下する。
そして騎士は、全人類の力を結集して始めたこの戦いに、ようやく勝ち目が見え始めているとその場の士気を上げる。
「先祖代々続いたこの戦争を俺達の代で終わらせる 食われない世界を掴み取るんだ!!」
その夜の会議は鬼との戦闘継続という方針でまとまるのだった。
疲労
翌日以降もユリウスは、あと少しで勝てる、と自分と兵を鼓舞しながら必死で戦っていた。
しかしある夜、野営しているところを強力な怪物に襲われてしまう。
それまで勝ち目が見えていた戦況が一瞬で覆されてしまい、鬼との戦いは人間側に勝ち目が薄いことを実感していた。
兵士の中の誰かが、襲い掛かって来た怪物が、王家、王族だと叫ぶ。
(王家… あの強さ…)
ユリウスはある強力な敵の名に思い当たる。
「レウウィス大公だ」
大地は兵士の屍で埋め尽くされていた。
「月が綺麗だねぇ
そんな中をレウウィス大公は悠然と歩き、剣を構えたユリウスに迫っていく。
「さて 残るは君だけか」
レウウィス大公の迫力にユリウスは明らかに気圧されていた。
そしてその瞬間、彼は自分が全てに疲れていることを自覚する。
(帰りたい!! うんざいだ!!)
その脳裏に浮かぶのは辛く厳しい戦いの日々。
そして失っていった大切な戦友たち。
(民の為? 兵の為? どうでもいい 私が疲れたんだ)
あと少しで勝利できると自分たちを鼓舞していたが、ではそれがいつなのかとユリウスは自問自答していた。
そして、それは全てが幻想でキレイ言に過ぎないと結論する。
(終わらせるんだ 今!! 私が!!)
むしろ勝ち目が見えている今こそが好機だと思い至ったユリウスは剣を捨てて、兜を脱ぐ。
「レウウィス大公とお見受けする」
「王陛下に会わせてほしい 取引がしたい」
第141話 1000年前の”約束”1の感想
ユリウスの提案
ユリウスがラートリー家の開祖なのか……。
ラートリー家の象徴であるフクロウを肩に乗せてるし、まず間違いなくユリウスのが人間側の代表となって、その後1000年間続く”約束”が結ばれるのだろう。
ユリウスは仲間たちを前に、人間側の犯罪者を鬼に差し出す、と言った後、何かを言い淀んだ。
それが人間の養殖、つまり食用児システムの提供なのだろう。
あまりにも非道なアイデアだからこそ、ユリウスは口に出すのを躊躇ったのだと思う。
あの会議の場で口が滑りそうになったということは、実は以前から考えていたんだろうな。
そもそも果樹の例えはまさに食用児システムのそれと同じではないか。
恐ろしいアイデアだが、そんなことを思いついてしまうほど鬼に追い詰められていたということでもあると思う。
世の中には強い人間ばかりではない。
どんな犠牲を払っても、どんなにみっともなくても生きたいという彼の欲望を自分は完全に否定することはできないかな……。
レウウィス大公の強さ
レウウィス大公は無敵の強さだな。
若いだけに、1000年後よりも好戦的で、身体能力もよりしなやかで強靭に見えた。
彼が人間に負けることはありえないだろう。
戦いを楽しんでいるようだし、人間側の提案に乗って和平に応じる必要性もないだろう。
しかしここから”約束”は結ばれるわけだ。
ラスト、ユリウスからの提案をレウウィス大公が受け入れたとはまだ決まっていないが、これが人間と鬼が”約束”を結ぶ流れの起点だろう。
王の血族であるレウウィス大公が、鬼の社会全体のことも考え、自らを律してユリウスの提案を呑むとか、まぁあり得ないということはないだろう。
鬼側でも人間と同様に、人間たちとの長い戦いに疲労して和平を望む声があったとか?
果たしてここからどう”約束”が結ばれるに至るのか。
以上、約束のネバーランド 第141話のネタバレを含む感想と考察でした。
第142話へ続きます。
コメントを残す