第138話 鬼探し1
目次
第137話 変換のおさらい
エマの仮説
レイは砂漠に倒れていた。
老化はさらに進み、もはやエマの記憶さえも失いかけており、このまま朽ちていこうとしていた。
そんなレイを、かつてこの世界を彷徨った挙句死んでいったであろう鬼たちの亡霊が取り囲む。
その時、レイの名を叫びながら倒れているレイのすぐそばの家具から飛び出してきたのは幼児の姿のエマだった。
「私わかったかも!!」
確信を持ってレイに呼びかけるエマに対して、レイの反応は、あんだって? と老人そのもの。
しっかりしておじいちゃん、とエマから平手打ちを食らうと、レイは気を取り戻し、同時に元の年齢に戻る。
「エマ!? 本物!?」
エマは本物だと言って、レイが言っていた通りだと声を弾ませる。
「”七つの壁”は時空でここは不安定で鍵は脳なんだよ」
レイがイマイチ理解できていない様子なので、エマは一から説明を始める。
この世界は時空がめちゃくちゃで不安定。
それが全て自分たちが知っている光景で繋がっている。
今自分たちがいる迷路とも言うべき場所は、自分たちの意識、無意識とリンクしているということで、つまり意識が介入している。
そしてこの世界に対して自分たちは意識を介入させることが出来るのだとエマは結論する。
「は!?」
エマの突飛ともいえる説明が信じられない様子のレイ。
しかしエマはめげずに、要は脳次第だと説明を続ける。
「私達が気づかなかっただけでこの場所ならできる この場所だったら時空も越えられるんだ」
エマの仮説に対して、レイは恐る恐るその根拠を求める。
「ない!」
しかしエマすぐに言葉を続ける。
「でもさっきちょっとできた」
先ほどエマが赤ちゃんと呼べるほどに急激に幼児退行してしまったのは、時間を巻き戻すことを強く考えて、それが止まらなかったためだった。
そして逆に、なぜレイは急激に老けていき、今は元に戻ったのか、とエマはレイに問いかける。
(引き金は俺の意識?)
レイには、今自分たちのいる荒涼とした砂漠には見覚えはなかった。
(「また10里もクソもねぇな」)
しかしすぐに、自分の意識が伝承の影響を受けていたことに思い至る。
10里ということで広い場所を探していたし、砂もまた伝承にあった単語だった。
そして幼児になったり老人になったり、荷物も服もその時々でバラバラだったことを思い出し、レイもエマと同じ、すべては潜在意識の投影だったという仮説に至る。
エマは自分たちが迷子になっていたのは、わからないという意識がこの世界に強く作用したことでこの場所をきちんと認識できていなかったからであり、本来この場所には正しい姿があるのだと述べる。
「それはきっと時間を止めて巻き戻したら現れる それがきっと『壁が現れる』ってことなんだ」
「ね できるよ 信じて 想像して」
呆然としているレイと手をつなぎ、エマは呼びかける。
「さあレイ ちょっくら時間を止めて巻き戻そう」
立方体
レイはエマの 全ては脳次第という飛び抜けた発想に思わず笑ってしまう。
「お前本当におかしいぞ」
そう笑いながら言ったレイの容姿は、幼児となったエマと同じくらいの年齢になっていた。
エマはそれに対し、試してみる価値はあるでしょ、と笑みを返してから目をそっと閉じる。
(小さな頃 何が無理とかできっこないとか考えたことすらなかった)
(思い出せ あの頃の感覚)
(できる 信じる 心の底から一分の疑いもなく)
(止めて 巻き戻す)
風車が回転を止める。
幼児姿のエマとレイは互いに両手をつなぎ、目を閉じて意識を集中していた。
太陽が破裂するように膨張し、家具や風車が舞い上がる。
砂漠だった辺り一面に勢いよく樹木が伸び始める。
二人が目を開けた時、辺りは一変していた。
四方を格子状になった平面に囲まれている。
これが正しい姿なのか、とレイ。
エマはこれこそが伝承にあった一辺10里の立方体なのかと呟く。
(マジでできた… マジで意識が空間に干渉しているのか)
レイは自分が驚愕の体験したことを噛み締めていた。
そしてこの空間やこれまでの体験による考察について、ブルブツと独り言を言いながらまとめ始める。
「なぁエマ ひょっとすると〇〇は――」
わずかな時間でまとめた自分の仮説をエマに述べようとした時、レイは何かに気づく。
「おいアレ…」
レイの示した場所には、何やら妙な物体が浮いていた。
格子状の立方体の真ん中にさらに同様の立方体があり、その中には黒い球体がぴったりと収められている。
呆然とその物体を見つめていた二人だったが、すぐにレイが気づく。
「いや…これ…”穴”だ…」
進軍
楽園。
射場で、GF、GV組は的に銃弾を撃ち込んでいた。
的の真ん中を正確に撃っていく彼らの腕をシスロやバーバラが褒める。
ヴィンセントは猟場の脱走者のみならず、彼ら全員がきちんとした訓練を受けており、想定以上の戦力になると判断していた。
なぁボス、とノーマンにその判断への同意を求める。
ノーマンは同意しつつも、彼らが後方支援だと素っ気なく答えると早々にギーランたちの動向について話題を変えるのだった。
順調に全て計画通り、とヴィンセント。
「アレの用意は? 使えそうか?」
ノーマンからの問いかけにヴィンセントは即答する。
「恐らく間に合うと思う」
「では我々も動こう」
馬、そしてアダムに似た容姿の男たち。
「目指すは王都」
乗馬したノーマンを先頭に、バーバラ、ザジ、そしてたくさんのアダムに似た男たちが続く。
「進軍する!」
第137話 変換の振り返り感想
先へ
エマとレイが彷徨っていたのは、自分の意識が投影される場所だった。
荒涼とした砂漠は伝承を強く意識していたことによって生じていた。
それだけではなく、そこに至るまでの道のりが全てこれまで自分たちが見てきた光景で構成されていたのもそのため。
一気に幼児退行したり、逆に老化したりするのもまた意識の作用によるもので、要するにここは何でもありの空間だった。
それに気づいて、意識が介入できると分かっても、そんなすぐにそれが出来るものなのか。
エマとレイが賢いだけではなく、素直ということだと思う。
意識を研ぎ澄まし、正しい形で認識した世界はこれまでとは全く別だった。
なんというか床のグリッドから、次元とか、時空とか呼ぶにふさわしい感じがする。
そして立方体の格子の中に収められた”穴”が生じた。
ひょっとしてここを入口として、〇〇の元へ向かうのか?
とりあえず二人は正解を導き出すことが出来たようだ。
難関を越えた二人を、次回で待ち受けているものが何なのか。
ノーマン動く
いよいよノーマンたちが王都へ出発し始めた。
エマとレイはノーマンを止めるために、いよいよ先を急がなくてはならない。
さすがに敵の本拠地へ向かうということで、ノーマンはこれまで農園を潰していた最小単位の戦力である自分と4人の側近の合わせて5人ではなく、大勢の兵隊を引き連れている。
この兵隊たちはぱっと見アダムに似ている。おそらく彼らはラムダの実験体なのだろう。
……こんなに数がいたのか。痛ましいと同時に、これがかなりの戦力だと想像がつく。
GF、GVの銃の扱いを見て、想定以上の戦力だと言うヴィンセントたちだが、ノーマンが言う通り、彼らは後方支援であり、実験体たちが”楽園”の主戦力であることに変わりはない。
そしてノーマンが言っていた”アレ”とは何なのか。
ノーマンから「使えそうか」と問われて、ヴィンセントは「恐らく間に合うと思う」と答えた。
どうやらノーマンはギーランを王都へぶつけるのとは別に、十重二十重に策を練っているようだ。
自分たちの存亡がかかっている以上、絶対に失敗は出来ない。
いくら策を練っても足りないくらいだが、戦局はしょせん水物なので、事前に想定しきれない事態はいくらでも起こり得る。
果たしてこの戦いはどんな推移を見せるのか。
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第138話 鬼探し1
実験
ヴィンセントが何か科学薬品を薬剤を調合している。
できたのか、というシスロからの問いに頷くヴィンセント。
「全くボスは天才だよ いやそんなちゃちな言葉ではおよそ足りない それ以上だ」
シスロはノーマンの事を思い出していた。
「なあ…これでいいんだよな いや…何でもねぇ 忘れてくれ」
そして話題は邪血の少女に移り替わる。
見つかるかな、というシスロに、ヴィンセントは、ボノーマンがギーランさえ見つけ出したから見つかる、と即答する。
その間、ヴィンセントは一つ目のネズミにピンセットで何かを与えていた。
「殺せるかな」
「殺すさ それもただボスを信じればいい」
何かを食べたネズミの肉体が爆発的に膨張する。
この結果に、成功だ、と口元を歪めるヴィンセント。
「すべてはボスの計画通り 王都も邪血も何も心配いらないんだ」
ソンジュとムジカの捜索
ドンたちは捜索を行っていた。
本来鬼がいないはずの裏ルートを進むドンたち。
ギルダはハヤトが発見した足跡は、その大きさや隠そうとした痕跡がないこと、4足歩行に見えることから、小型の野良鬼ではないかと判断する。
次に、犬が焚火のあとを発見する。
「これ人間の骨だ…ソンジュ達じゃない…」
焚火のあとから人骨のようなものを拾い上げるドン。
それを見たギルダとハヤトは震えあがる。
ハヤトはドンとギルダの豊富な知識を素直にほめたたえる。
しかし二人は、すごいのは自分達では見逃してしまうような、どんな細かい手がかりも見つけるアイシェとあの犬たちだと考えていた。
アイシェが銃の名手なのかというギルダの質問に、仲間内でも随一とハヤト。
今やアイシェは遠くの小さな的であっても100発100中なのだと続ける。
(ユウゴかよ…!)
ハヤトは、アイシェが優れているのは五感なのだと解説を続ける。
「鼻がいい 耳がいい 目がいい…」
犬と食事を摂っていたアイシェは、何かに気づく。
そして突然、ドンに向かってナイフを投げる。
ナイフはドンの首元に迫っていた毒蜘蛛に命中するのだった。
「あのっ… ありがとう!」
お礼を言うドンに特に答えることなく、アイシェはそっぽを向く。
「完璧な同伴者ね」
「探索としても護衛としてもそして刺客としても」
「あと 監視としてもな」
ドンとギルダの背後、少し離れて犬が歩いている。
犬は常に二人にじっと監視するような視線を向けていた。
(隙がない… 犬とアイシェに常に見られている)
「守れるかしら……」
(ソンジュとムジカ…)
不安を覚えたギルダが呟く。
弱気なギルダの言葉をドンが、ちがう、と訂正する。
「どう守るかだろ」
そうね、ごめん、と自分の頬を軽く張るギルダ。
ドンは何とか、アイシェと意思疎通をとろうと考えていた。
人の言葉がわからないからといって諦めたくない、とドンはアイシェと犬にフレンドリーに話しかける。
しかし、3匹の犬に追い掛け回されて失敗してしまうのだった。
夜になってドンとギルダは森の中で寝袋で休んでいた。
明日こそ、とアイシェとのコミュニケーションを諦めないドンの姿勢にギルダも同意する。
二人が休んでいる間、アイシェは一人起きていた。
翌日も捜索は続く。
今度見つけた足跡も、野良鬼のものだった。
ギルダはその足跡のつき方などから、付近に巣があると判断していた。
さらにドンは、このまま進むと町に出てしまうと、元来た道に戻ることをメンバーに提案する。
突如犬たちが吠え出す。
その様子に、アイシェは何かを感じ取っていた。
どうした? とドンがアイシェに問う。
「………」
アイシェはドンを一瞥すらせず、何かを考えている。
「しかしアレですね」
のんびりと歩くハヤト。
「鬼から逃げなきゃいけないのに鬼を捜すって大変ですね」
ハヤトの真上、木に擬態していた野良鬼が今にも彼の頭を食べようとしていた。
アイシェは冷静に銃を構えて、戦闘態勢をとる。
ドンとギルダが慌てていることから、ハヤトは自分の窮地に気づく。
鬼に気づいて悲鳴を上げる。
ドンの投石が野良鬼の頭に当たる。
思わぬ展開に、アイシェは呆気に取られていた。
ドンは続いて指笛を吹き、野良鬼の気をひきつける。
ハヤト、アイシェはギルダの合図をきっかけに、ドンと反対方向へ逃げることに成功したのだった。
その後、一人反対方向に逃げていたドンもギルダたちと合流していた。
疲労困憊のドン、ギルダ、ハヤト。
ハヤトは涙ながらにドンに礼を言う。
しかしなぜ野良鬼を殺さずに、危ない目にあってまで逃げる選択をしたのか、とドンの身を案ずる思いから涙ながらに質問する。
それに対しドンは相手が一匹だけで逃げられる地形だから、貴重な銃弾の浪費を防ぐ、人間の痕跡を残さない方が良い、と理由をいくつも上げてみせる。
それに対して、じゃあ弓で殺せばいい、というハヤトにドンは笑いながら答える。
「まぁ殺さずに済むならそれが一番いいかなって」
予想外
夜。
ハヤトが薪を収集に出かける。
それを見届けたギルダがドンにこそこそと話しかける。
「ねぇドン 昼間のアレ気づいた? あの足跡…似てた そっくりだった…!」
ギルダは見つけた足跡の中に、ソンジュとムジカが連れていた馬のような生き物のものらしき形を発見していた。
アイシェはドンたちとは離れた場所で寝転がっている。
こんなに早くソンジュとムジカの手がかりが出てきたことにドンは焦る。
慌てるドンを、まだわからない、とギルダが諫める。
「でもどうする これがマジでムジカ達だったら――」
(じき出会う……)
ギルダはムジカを守るために自分たちがすべきことを考える。
「そう…ドン だから――」
突如ドンとギルダのそばには何者かが立っていた。
「なるほどあんた達…」
アイシェはしゃがんで、固まっている二人に冷たい視線を向ける。
「邪血を逃がすつもりか」
第138話 鬼探し1の感想
ノーマンの策
ノーマンの策が見事に当たった。
アイシェが人語をわからないという設定にしておいて、ドンとギルダの本音を探らせようとしていたようだ。
ドンとギルダはアイシェが人語を解さないと知っていてたからと言って、彼女の目の前で会話していたわけではなかった。
二人とアイシェの距離は普通は会話が聞こえるような距離ではない。
ハヤトが言っていた、アイシェは五感が優れているという評価をドンとギルダはもっとしっかりと気に留めておくべきだったのかな……。
アイシェが人語をわかっているかもしれないと疑う心が一つもなかったことがドンとギルダの失策だったということか。
アイシェが人語を話せないことは偽りの設定だったことが明らかになった。
それを画策したのはノーマンなのは間違いない。
しかし、ドンとギルダにアイシェを紹介する際、彼女は人語を解さないと説明するハヤトに不自然な点はなかった。
今回の話でもハヤトに怪しいところはない。
ひょっとしたらハヤトはアイシェが人の言葉を理解できていることを知らなかったのか?
もしそうだとしたら、エマたちが楽園に来る前からアイシェが人の言葉を理解していることを知っている人間は限られていたことになる?
それは何の為なのだろう。こういう事態に使える人材を確保しておくためなのか?
つまり、ノーマンはアイシェから他の楽園メンバーとのコミュニケーションの機会を奪ったということになるのだろうか。
それか、ハヤトもアイシェが人語を理解することを知っていたけど、知らないふりをしていた?
そっちの方が無理がないと思う……。
そうなるとハヤトの人を騙すスキルがあまりにも高過ぎる。
それは意味、アイシェが人の言葉を話せる以上の衝撃かもしれん……。
ノーマンの策に見事にはまったドンとギルダは、果たしてソンジュとムジカを救えるのか。
以上、約束のネバーランド第138話のネタバレを含む感想と考察でした。
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