第156話 終わりにしましょう
目次
第155話 復活のおさらい
鎮める
城下。
毒による急激な退化により暴走した野良鬼が王都の住民たちを襲っていた。
建物の屋根の上からアイシェが野良鬼を狙撃する。
銃弾はヒットし、野良鬼の動きを止めることに成功するのだった。
異変を感じ、逃げる足を緩めた鬼の子供たちに今のうちに逃げろとドンが叫んで促す。
「父ちゃん!! 母ちゃん!!」
野良化した二体の鬼は、その子供の鬼たちの親だった。
「誰一人殺させねぇ」
ドンは屋根の上から野良鬼の背に矢を撃ちこむ。
ギルダもまだ、弓矢でドンと同様に屋根の上から狙いをつけていた。
「でもこれだけの数殺さず動きを止めるって難しいわ」
アイシェの狙撃の精度、威力に感心するギルダ。
しかし野良鬼に負わせた傷は即座に再生していく。
逃げていた鬼の中の一体が頭を抱えて苦しみ始める。
瞬く間に野良化すると、周囲の鬼を襲うのだった。
ギルダは、ムジカとソンジュの、退化した鬼を人型に戻せる邪血の力に期待していた。
(この毒にももし効けば――)
ハヤトはこの状況でどうやってそれを為すのかと、今まさに野良鬼と対峙しているソンジュを見つめる。
突然自分の右腕を切り落とすソンジュ。
それを目撃した鬼の子供も含めてギルダたちも皆、驚いていた。
「試すにゃこれが一番早ぇ!」
ソンジュは自分の腕を野良鬼の口に向かって放り投げる。
口でキャッチし、咀嚼し始めた野良鬼を固唾を飲んで見守るギルダたち。
野良鬼は瞬く間に縮んでいき、人型に戻る。
「効いた!!」
喜ぶギルダ。
ソンジュが失った右手は、即座に再生する。
ありがとう、と礼を言いながら、人型に戻った鬼に駆け寄る子供たちにムジカが邪血を注いだグラスを差し出す。
「大丈夫よ 飲めば皆戻るしあなた達も退化しないわ」
子供たちはそっとグラスに口をつける。
よっしゃあ、と歓声を上げるドン。
この混乱を収束させる見通しが立ち、ドンは城内のエマたちにノーマンのことを託すのだった。
女王の急激な変化
核を失ったにもかかわらず立ち上がり、ノーマンに背後から襲い掛かる女王。
ノーマンを救うべくいち早く動いたシスロがギリギリのところでノーマンを突き飛ばす。
悲鳴を上げるシスロ。その右足は女王に食われて失われていた。
シスロに駆け寄るヴィンセント、エマ。
シスロの右足を咀嚼していると、女王の身体の形質が崩れていく。
その異様な変化に気付くレイ。
ノーマンとエマはシスロの治療にあたっており、女王の変化には気付かない。
女王は急激に膨張し、形態を著しく変化させていく。
「オイ 何か様子が変だ…」
その一部始終を観察していたレイが声を上げる。
形質が崩れた女王の肉塊は、爆発するように自分の肉を周囲に広げる。
肉の一部は城を飛び出て、外にまで達していた。
女王の肉は無数の腕に変化して、儀祭の間の床を埋め尽くしていた鬼の死骸を掴み上げる。
「食ってる…」
戦慄するレイ。
「気をつけろ!! こいつ…触れる物 手当たり次第捕まえて食ってるぞ!!」
ヴィンセントは女王の肉塊が、自分たちが毒で汚染したはずの鬼の死体を何の躊躇もなく体に取り込んでいくことに驚愕していた。
女王の触手を避けるエマ。
「どんどん大きくなってる…!」
女王は無数の鬼の死骸を取り込んだただの肉塊から、姿を徐々に変貌させていく。
(何あれ…あれも…”鬼”?)
完全にバグってやがる、とレイ。
ヴィンセントは呆然と女王を見つめながらも、これが毒と補給による形質変化により、細胞が完全に暴走たのかと女王の身に起きている事態について仮説を組み立てていた。
デタラメな生態
「どうする このまま放置はできんだろ」
女王から視線を離すことなく、レイが呟く。
ノーマンは、女王の核の破壊を間違いなくこの目で確認したのに、と驚愕していた。
ノーマンの言葉を受けて、レイは『核を壊しても死なない』もしくは『王・王族には核が複数存在する』と目の前の女王の身に起きている現象の原因を推測する。
(”王の血は別格”)
ノーマンは意を決した表情になると、ヴィンセントにシスロ達を連れて先にアジトに戻るように指示する。
「………ボスは?」
シスロの応急処置を行う手を止めずに、ザジとこの場に残り、女王を何とかしたら追いかけるノーマン。
食い下がるヴィンセントにノーマンは必死の形相を見せる。
「ここは危ない 早く…! 頼む!!」
臨戦態勢をとるザジ。
ヴィンセントは、シスロ、バーバラを抱えたラムダ兵とともに迷いなく儀祭の間を後にする。
女王の変化は一旦落ち着いていた。
次は何だ、と女王の動きを警戒するレイ。
女王からエマたちに向けて腕が伸びる。
「来るぞ!!」
ノーマンに向けて伸びてきた腕をザジが切り落とす。
『エマ レイ ノーマン お久しぶり』
切り落とした腕から声が聞こえる。
バタバタと動く腕にはシスタークローネの顔が浮かんでいた。
(なんで)
驚愕するエマ。
『おのれ女王』
『陛下』
『ギーラン様ァ』
『父上 母上』
『エマ』
『レイ』
『ノーマン』
女王の表面に浮かぶ無数の顔は、これまで女王が食べてきた食用児や鬼だった。
あまりにも異様な姿の女王を、ノーマンたちは呆然と見上げていた。
(わからない 一体何が起きている あれを…一体どうすればいい?)
ノーマンには、次にどう動いたら良いのかわからなかった。
やがて、女王の表面に亀裂が走る。
中央が縦に大きく割れると、中からカッ、カッと足音が聞こえる。
割れ目から姿を現したのは女王だった。
しかしその頭部、顔には目、口はおろか、一切凹凸がない。
まるでマネキンのようにつるんとした顔は、一連の現象に驚愕しているエマたちを確かに見つめていた。
第155話 復活の振り返り感想
ラスボス
まさにサブタイトル通りのド派手な復活。
原因はわからないけど、今のところは「女王の血は特別」と納得しておくのが適当なのだろう。
ただでさえ鬼の生態はデタラメなんだし……。
しかし、まさかの第二形態との戦いか……。この展開は前回から予想はしていたけど、こういう形になるとは。
エマ、レイ、ノーマン、そしてザジでこの局面を乗り切れるのか?
まともな戦闘能力を有しているのはザジのみ? それともラムダにおける実験の被験者であるノーマンにも白兵戦は可能なのか?
今度の女王はこれまで以上に怖い。ラストのコマの静かな佇まいがまさに嵐の前の静けさという感じ。
そして何より、これまでこの場にいた鬼が食らってきた人や鬼の顔が女王の表面に浮き出す演出は、まさにラスボス感たっぷりという感じだ。
簡単に対処できる相手ではないと、その演出の数々が、言葉よりも雄弁に物語っている。
この完全体の女王との戦いは、誰かの犠牲なしに乗り切れない局面となることは必至だろう。
となるとその候補は最前線で戦うことになるであろうザジが第一候補になる。
もしザジがやられるとしたら、側近の中でも、いや複数いるラムダ兵の中でも彼だけ突出して異様な理由が描写されるのかも?
食用児軍の中で最も戦闘能力が高いザジが破れることになれば、他のメンバーが正面から戦って敵うわけがない。
その場合、知恵を使うのだろう。
犠牲の第二候補はノーマンかな。
それも、まずザジがやられて、その次に渾身の策を繰り出したノーマンが破れると言う感じ。
そうなると、エマ、レイに完全にその心の内を明かして、ある意味GF以来の完全な再会を果たしたのは、そのフラグだったことになるか。
そんなことになって欲しくはないけど、でもラスポスっぽい女王に全くの犠牲なしに勝たれてもなんかもったいないな……。
メタを踏まえた予想とも言えない予想に過ぎないが、少なくともザジはかなり危ない気がする。
この局面で、もし何か女王に対して試してみるとすれば、やはりノーマンたちが持ってきた秘密兵器? だろう。
この王都への奇襲に間に合わせたというそれが、果たして何だったのかまだ明かされていなかったはず。早く知りたい。
まさか鬼に対して撃ちこんだ毒の事ではないよな……?
毒ではなかったとしたら、マジで何のことだろう……?
捕虜にした鬼に改造を施した生体兵器かな? と妄想したこともあった。まぁ仮にそういうブツだったのであれば、薬で眠らせれば運べるかな? でも、そもそもそんな改造を施せるような施設や器具があったのかという話だし……。
とにかくノーマンたちに他に何か隠し玉が無い限りは、この、ある意味以前よりも異様さ、そして凄みを増した女王と戦えるとは思えない……。
おそらく、復活の際に毒に冒された鬼の死体を構わず取り込んでいることから、毒には完全に耐性がついていると思う。
エマたちの想像を遥かに超えた生物の女王と、果たしてどんなラストバトルを展開していくのか。
邪血の力
ソンジュが引きちぎった腕ごと形質退化を起こした鬼に食わせて、その症状を鎮めて見せた。
まさかこんな荒っぽい方法を実行するとは。
そして引きちぎった腕がこんな一瞬で復活するのか……。
ソンジュもムジカも邪血として、こういう体質を持っているとすれば、一個の生命体として相当強靭だと思う。
ただ、果たして何の代償もなしに腕をこんな超速度で再生させることができるのか?
これは再生の際に体力というか、エネルギーを確実に減らしていると思う。
これを繰り返したら弱っていくだろう。
子供たちには血を飲ませていた。
これも血を放出し過ぎたらその体力はどうななるんだ? という懸念がある。
血の消費は、むしろ腕の再生よりも力を消耗しそうなイメージだ。
それに邪血が一つの村を救うほどの力を持っているとしても、それは複数の邪血による仕事だったような……?
果たしてソンジュとムジカだけで城下の鬼をどのくらい救えるのか。
中央広場の周辺の鬼だけ形質退化を起こしているならまだソンジュとムジカだけでも余裕で対処できるということなのか。
鬼の子供に飲ませたように、形質に異常が起きていない鬼にも飲ませないといけないし、城下町の混乱を鎮めたあと城で女王と対峙する猶予がソンジュとムジカに残されているのか?
復活した女王相手に勝つ可能性が最も高いのは、儀祭の間の中ではザジかもしれないが、王都全体の中から選抜するならソンジュではないだろうか。
ひょっとしたら女王との戦いで絶体絶命のピンチに陥ったエマたちの元に、城下町の混乱を収めた直後のソンジュが駆けつけるという展開になる?
ソンジュの戦闘能力、再生能力もさることながら、ひょっとしたら邪血の血が女王の異常な体質に作用して破壊を起こすなんてこともあるかも?
逆に、さらに完全な存在になってしまう可能性の方が大きいと思うが……。
戦いはいよいよ最終局面に差し掛かったようだ。
果たして女王との戦い、そして城下での退化した鬼を救う戦いはどんな顛末を迎えるのか。
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第156話 終わりにしましょう
復活した女王
元は女王だった物体の裂け目から、のっぺらぼうの女王らしき生物がエマたちに向かって。
女王の姿に驚愕するエマたち。
エマは女王の姿から、以前、寺院で見たのっぺらぼうを連想していた。
レイは女王が、まるで虫が羽化したようだと感じていた。
(女王…だよな?)
そもそもあれが女王なのかを疑う。
女王は最高級GF第3飼育場の特上3匹――エマ、レイ、ノーマンが目の前に揃っていることを喜んでいた。
そして今回自分の身に起きた何もかもを赦すと言い、ラムダの食用児、GFの脱走者もみんな自分の手に戻ると続ける。
「皆 妾が食らうのだ」
女王は一瞬でザジの背後に回って抱き締める。
ザジはすぐに振り返って手元の大型ナイフで女王を脳天から胴体にかけて真っ二つに断ち切る。
しかし女王の肉体は即座に再生を始めていた。
トン
すでに元通りとなった女王が、ザジの首に軽く手刀を当てる。
ザジは派手に吹っ飛ぶと、壁に激突するのだった。
気を失ったザジに駆け寄り、その容態を確認するノーマン。
女王は一瞬の間を置いて、笑いだす。
のっぺらぼうだった顔のあらゆる部位に口が生じて、笑い声を発している。
銃を構えたエマに女王が語り掛ける。
「撃つか? 63194」
そしてレイにも、81194、と呼び掛けて、二人の動きを完全に補足していることを知らせる。
エマもレイも、女王に銃を向けたまま一切動けずにいた。
恐怖に硬直するエマたち
ノーマンはザジがやられてしまったこと、女王の体力が完全に回復したことはもちろん絶望的だが、何より問題なのは割られた頭部に脳も何もない、つまり弱点らしき部位が確認できなかったことだと考えていた。
(顔がない目がない核もない? だとしたら一体どうしたら――)
しかしレイの見解は少し異なっていた。
女王は自分たちを一人一人きちんと把握している。
つまり何らかの方法できちんと周りを見ているということで、目も核もないとは限らないと感じていた。
エマもまた、女王の核が動く、あるいは他の鬼とは別の位置にあるのかもしれないと銃を構えたまま女王と倒すために前向きに思考を巡らせる。
そしてエマの脳裏に、圧倒的な力を誇ったレウウィス大公との戦いが過る。
(銃なんて多分撃っても効かない でも!)
(何かヒントを得る意味じゃ充分だ!!)
レイも女王に銃を撃とうとする。
ザワッ
女王の姿が歪む。
エマとレイは女王への圧倒的な恐怖心によって、身動きがとれずにいた。
銃を構えたまま硬直するエマに近づいていく女王。
「よい子じゃ」
エマと目を合わせて、まるで愛しい子と相対しているように、エマの顔に自らの顔を寄せる。
(動け動け動け)
レイもエマと同じく、女王に銃を向けたまま金縛りにあっているかのように動けない。
「エマ!! レイ!!」
叫ぶノーマン。
突如、女王の左側面を何本もの槍が貫く。
エマのそばから吹っ飛ばされていく女王。
救援
槍の飛んできた方向は部屋の上だった。
部屋の上部には、壁が破壊された箇所があり、青空が覗いている。
そこに立っていたのはソンジュとムジカだった。
「待たせたな」
二人の到着に、エマとレイは顔をほころばせる。
エマは恐怖に硬直しながらも、その手に握ったソンジュから持たされていたスイッチを何度も押していた。
ソンジュとムジカはその信号を受けてやってきたのだった。
床に降り立つソンジュとムジカ。
ムジカはエマとレイの無事を確認し、城下に撒かれた毒は民衆たちでも対処できるよう処置してきたことを二人に報告する。
女王の反撃を警戒するソンジュはエマたちに背を向けたまま、ドンとギルダは抜け道を通ってじきに王都から出ると告げる。
ソンジュは、ドンとギルダからエマたちの元に行くようにと懇願されていたのだった。
「ありがとう…!!」
笑顔を浮かべるエマ。
ノーマンはソンジュとムジカの登場に驚いていた。
そんなノーマンにムジカはただ微笑み、ひとつお辞儀をする。
女王はソンジュと相対して、自分の身体を貫く槍を無造作に抜いていた。
女王の弟
(あの姿…)
ソンジュが呟く。
「遂に内実ともに化物に成り果てたか」
そして女王の様子から、和平も交渉も見込めないと続ける。
儀祭の間の様子から、ムジカは五摂家が全員死んだことを理解していた。
ムジカは、もう間に合わないが、交渉による解決ならイヴェルク公、プポ卿がその相手として妥当だと考えていた。
「誰かと思えば…ソンジュ」
女王は、食用児の肩入れをするとはどういう風の吹き回しだと続ける。
「まぁよい 邪血の始末と脱走者の奪還 今日一日で片がつく 吉日だ」
「ああ 俺達もあんたとケリをつけに来た」
ソンジュの隣にはムジカも立っていた。
(700年 もう充分逃げ回った)
女王に呼びかけるムジカ。
「終わりにしましょう」
ムジカの脳裏に一瞬で過去がよぎる。
「女王 あんたは今日ここで俺が殺す」
ソンジュは槍を構えて戦闘態勢をとる。
女王の口元に生じる笑み。
「殺す? お前が? 私を?」
両手の爪を構える。
「げに愚かな弟よ」
第156話 終わりにしましょうの感想
食用児で最強クラスであろうザジを一撃で倒す女王の強さ。
その強さと、得体の知れない威圧感にエマたちは恐怖し、身動きがとれずにいた。
それでも必死に女王を倒す方法を考えていたが、当然思い浮かばない。
ザジによる女王の頭部を割る一撃を食らってもまるで応えていないのを目の当たりにしたことで、一気に恐怖が広がった感がある。
頭部を割られて全く応えていないのと、一瞬で修復してしまったのを見れば、そりゃこんなのを何とかしないといけないんだから絶望しかないわな。
このまま全滅か、という状況でソンジュとムジカ登場。
もう食用児には女王は手に負えない。
ソンジュ以外に女王を相手できるのはザジだったが、ザジは戦線離脱……。
ソンジュ、そしてムジカに全てが託されたわけだ。
ソンジュの戦闘能力+ムジカが何か女王に決定的な打撃を与える方法を持っていたりするのだろうか。
ソンジュは女王の弟だった。
ソンジュの佇まいなどから、すでに登場時から彼には何か特別な背景があると思っていたから、そこまでの驚きはなかったりする。
気になるのは、一体何が原因で女王と敵対しているかと言うことだ。
おそらくムジカを捕えようとする女王達に反発したのかな?
そのあたりの過去は次回以降で明かされるだろう。
ソンジュとムジカの関係性は、守る者と守られる者という印象だった。
しかし実はもっと深いものなんじゃないだろうか。
果たして女王との戦いはどうなる?
以上、約束のネバーランド第156話のネタバレを含む感想と考察でした。
第157話はこちらです。
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