第152話 刻限
目次
第151話 勝つのはのおさらい
攻め続ける
つかつかと部屋に入っていくザジ。
女王の身体はギーランたちから受けた傷の自然な修復が続いている。
女王もイヴェルク公も、しばしザジに目が釘付けになっていた。
(人間!?)
(何だこいつ…)
ザジは身体を脱力させたかと思うと、一瞬で女王に飛びかかる。
今の鋭い一撃に対して、女王は長く伸ばした爪でザジを防ぐことで精いっぱいだった。
次々にやってくるザジの攻撃。女王はかわし続ける。
しかしそんな女王を上回る速さでさらにザジの連撃が襲うと同時に、今度は天井からシスロとバーバラが登場する。
戦いの前、ノーマンはシスロ、バーバラ、ザジに間髪いれずに攻めるよう告げていた。
鬼は再生、変異、身体強化のために細胞分裂を起こす際に莫大なエネルギーを消費する。
そのため、定期的な補給を必要としていた。
そんな短期決戦型である鬼を倒すためには、補給をさせる暇なしに攻め続けるしかない。
女王の反撃
ザジ、シスロ、バーバラはギーランとの戦いで消耗している女王に補給の間をつくらせずに攻め続けろという命令を遂行していた。
バーバラは女王の攻撃が見えることに驚いていた。
(確実に鈍くなってきてる)
(ボスの言う通りだ こいつ相当消耗してる)
ザジの刃が女王の頬を切り裂く。
(こやつら…崩せぬ)
女王は眼前の3人の人間の戦い方が、自分が崩れることを狙ったものあることに気付いていた。
補給しようとするが、ザジたちの攻撃をかわすことが精いっぱいでその暇がない。
シスロたちはザジを攻め、自分たちを守りと、役割をわけて戦っていた。
(ザジなら決める やってくれる)
「図に乗るなよ」
ザジの目の前から女王が消える。
一瞬のうちに、バーバラの腹に深々と爪を突き刺すのだった。
兵器
そのままバーバラを食おうとする女王。
しかし事態に気づいたザジが短刀を投げつけて、間一髪のところでバーバラを捕まえている手を腕ごと切り離す。
力無く床にうつ伏せに倒れるバーバラ。
ザジは一瞬のうちに怒りを爆発させたかのような叫びとともに、女王へ真正面から突っ込んでいく。
それを待っていたとばかりに笑う女王。
それら一連の流れを見ていたシスロがザジのフォローのためにザジの元へ向かう。
足元がふらついたことで、ザジのナイフをかわせなくなった女王は、そのナイフの切っ先を手の平で受ける。
しかし女王はすぐに攻撃に転じようとするが、その瞬間ナイフを食らった右手の手の平に衝撃が走る。
女王の反応を見てニヤリと笑うのはヴィンセントだった。
「うっ」
女王の従者が苦しみ出す。
そしてすぐにイヴェルク公も苦しみ始める。
(なんだこれは もしや)
一瞬のうちに、イヴェルク公は、これが毒による作用だという結論に至っていた。
その頃、街中では野良鬼が発生していた。
「始まった……!」
ドンは、それがノーマンが研究していた、鬼に強制的に退化を促す毒による効果だということを知っていた。
同じくそれを知るギルダもまた顔を歪める。
イヴェルク公はザジが部屋に入ってくる前に撃ち込まれた弾丸や、ザジの持つナイフの刃に毒の効果があると気づく。
毒に苦しむ従者。
「やった…!」
バーバラは床にうつ伏せに倒れたまま、女王達にも効いている様子
であることを喜んでいた。
ノーマンは事前にこの毒が全ての鬼に同じように効くとは限らないと説明していた。
王、五摂家に関しては、取り込んだ邪血によって効果がないかもしれない続ける。
しかし実際効いたのだ、と笑うヴィンセント。
(どうだ 体中の細胞が暴れて今 最悪の気分だろう!?)
第151話 勝つのはの振り返り感想
互角以上の攻防
ザジたちがかなり女王とイヴェルク公を追い込んでいる。強い。
そして対鬼の毒。
これは、勝利は目前と言って良いのではないか?
ここまで、つくづくノーマンの策がハマっているなぁという印象だ。
確かにノーマンの見立て通り、直前のギーランとの戦いにより消耗した女王は、再生にエネルギーを割かざるを得ず、その戦闘能力を低下させていた。
何と言っても恐るべきなのはザジだ。彼の初撃を爪でガードした際の女王レグラヴァリマにはこれまでのような女王の余裕は無かった。ザジの攻撃は現時点で、彼女が最も肝を冷やした一撃だったことが伺える。
実験の結果、身体能力が著しく強化されたとはいえ、人間がそんな攻撃を繰り出せるとは……。
そもそもザジに関しては、女王レグラヴァリマ、イヴェルク公でさえその風体、雰囲気に異様さを感じている様子だった。
女王の引き攣った表情は、ザジの斬撃の鋭さを物語っている。
どうやら攻めをザジに任せて、シスロと、バーバラは守りを固めるという作戦だったらしい。
バーバラが手痛い傷を負ってしまったが、しかし毒が効いたことによって戦いは一気に終局に近づいたと表現して良いだろう。
そして今回重傷を負ってしまったバーバラは大丈夫なのか?
意識ははっきりとあるようだが、果たして彼女はどうなるのか?
毒
鬼に退化を強制する毒、恐るべし。
ノーマンたちは、とんでもない兵器を研究開発で生み出してしまった。
すでに城下町の鬼たちも毒を飲んでいたらしい。
つまり残念ながら、エマやギルダたちはノーマンたちによる虐殺を未然に防ぐことはできなかった。
この毒には、あっという間に野良化してしまうほどの効き目があるようだ。
鬼たちにとっては絶望的なまでに脅威であり、食用児からすれば福音だろう。
ノーマンは王家や五摂家など、邪血の影響下にある鬼には効かないかもしれないと危惧していたが、それは杞憂だった。
女王にもイヴェルク公にもバッチリの効き目。
さらに、この毒には鬼の形質を破壊するというが、とりあえず人体には何も影響もないというのだろう。
しかし油断してはいけない。女王がここで終わるとは思えない。
ザジが乗り込む前に、室内に撃ち込まれた弾はただ闇雲に行われた射撃というわけではなかったのか。
ノーマンのやることに無駄はなかった。
ひょっとして間に合ったというのはこの毒のことなのか?
もっと他にとんでもない兵器があることにも期待したい。
前回第151話の詳細はこちらをクリックしてくださいね。
第152話 刻限
中央広場
ギルダはレイから、アジトの施設では強制的に鬼を退化させる毒薬を大量生産するは不十分であることを聞いていた。
毒薬は少量しか生産できていないのではという推測したギルダは、その前提に基づいて、ノーマンが少量の毒薬を最も効果的に城下に混乱をもたらすために使うはずと仮説を立てるのだった。
ソンジュは、少量の毒薬で最大の効果を得られるであろう場所は、『中央広場』だと指摘するのだった。
中央広場には退化した鬼が何体もいる。
屋根の上に登り、広場とその周囲の様子を確認していたアイシェは、他の場所は中央広場のような惨状になっていないことをギルダに報告する。
しかし、アイシェは、急速に退化している鬼の個体数がどんどん増えているのを感じていた。
「時間が経つほどどうにもできなくなるぞ」
ギルダたちは、被害を食い止めようと行動を急ぐ。
戦いの結末
女王と食用児の戦いは佳境に入っていた。
ザジは巨大なナイフを振りかぶって、女王に飛びかかる。
そんなザジを女王は爪で横に一閃する。
素早く頭を下げてかわすザジ。その動きが早かったため、被っていた紙袋が頭から離れてしまう。
ザジが間一髪でかわした女王の爪は、彼の被っていた紙袋を引き裂いていた。
女王は続けて、もう片方の爪でザジを攻撃しようとする。
しかし、その腕にシスロが鎖を巻き付けて動きを止めるのだった。
「行け!! ザジ――!!」
ザジは叫びながら、女王の目元をナイフで横薙ぎにする。
それは見事に女王の目元を切り裂いていた。
そうして、抉りだされた目玉は床に落ちるのだった。
女王の際限なき欲望
女王レグラヴァリマは誰よりも強く、美しく、高みに君臨するという望みがあった。
そして、1000年前”約束”のために、本来は無条件で首領に捧げるべき最上の人肉を、自分が食べたいという欲求を抱いていたのだった。
ある日、女王は王を不意打ちにしてその脳を食し、王に成り代わった。
女王にとっては王はもちろんのこと、親兄弟も糧に過ぎなかった。
しかし女王が唯一手に入れることができなかったもの。それが”最上物”の肉だった。
女王は、農園設立以来の最上物と呼ばれるノーマンの存在を知っていたのだった。
女王の前に立ったノーマンが挨拶をする。
「初めまして 女王陛下」
「そうか…お前が黒幕か……22194」
女王は、首領にノーマンを差し出さずに済ますため、自ら命令してラムダにノーマンを送ったと明かすのだった。
その間も、ノーマンを食べたいという強い欲求が女王を突き動かす。
しかし女王は、動かない目玉でノーマンを見上げるのみ。
その体は一切動かない。
「(ずっとお前を食いたかった)」
女王は鬼語で叫ぶ。
ラムダが燃え落ちたと聞いた際には怒りで我を忘れた、と続ける女王。
「(誰にも渡さぬ!! お前は私の人肉なのだ!!)」
悲願の成就
「(お前の肉?)」
鬼語で返すノーマン。
「(我ら誰一人もはや鬼の食糧ではない)」
そう言って、女王を見下すのだった。
「やれザジ」
ザジはノーマンの命令に従い、すぐさまナイフで女王の目を突き刺す。
あとはお前達だけ、とシスロ。
残るはイヴェルク公と、女王の従者だけだった。
イヴェルク公は床に跪き放心していた。
(イヴェルクを殺せば全て終わる)
いつの間にか儀祭の間に集まっていたはヴィンセント、大勢のラムダ兵がイヴェルク公たちを取り囲む。
ノーマンは、誰かに服の裾を引っ張られたのに気付き、振り返る。
そこにいたのは、幼い姿のエマだった。
エマは悲しそうな、寂しそうな表情でノーマンを見つめる。
そして彼女の後ろには、彼女と同じ表情をした幼い頃のノーマンが自分を見つめていた。
ノーマンは何も言葉を発することができない。
ただ悲しそうなエマと自分を見つめていた。
何もかもが終わっていた
エマとレイは廊下に降りて、目的の部屋まで走っていた。
廊下のあちことに鬼の死体が横たわっている。
「あそこだ」
レイの示した部屋の扉をエマがあけ放つ。
部屋は、鬼の死体で床が埋め尽くされていた。
イヴェルク公も斃され、その中の一体となっていた。
エマは眼前の光景に、絶句していた。
「残念」
エマたちに振り返るノーマン。
その表情はどこか寂しそうだった。
「間に合わなかったね エマ」
第152話 刻限の感想
事態の収拾をどうやって図るのか?
王家・五摂家の排除を止めようとしていたのに、エマとレイは惜しくも間に合わなかった。
予想外だった……。
女王が斃されても、イヴェルク公の処刑前には辿り着くと思っていたのに……。
到着したら全てが終わっていたとか、甘くないな。
ここから、エマが首領と約束を結んできたという報告を受けて、ノーマンはどういう反応をするのだろう。
ノーマンからしたら鬼は存在自体が許せない。
鬼を絶滅させる方針は正しいと信じている。
幼いエマと自分の姿は、つまりノーマンの内にある罪悪感の象徴か。
ノーマン自身、これで良いと心から思っているのだろうか。
その割には表情が浮かない気もする。
エマやレイの要望を裏切ったことに対する後ろめたさなどではなく、もっと大きな悩みを抱えてそうだ。
そして王家、五摂家、つまり統治者を失った鬼の社会は今後どうなっていくのだろう。
彼らの代わりにソンジュとムジカが鬼たちを統治するなら、案外以前よりマシな社会になりそうな気もする。
鬼が形質を保つ為に人肉を必要としないようになれるんだっけ?
邪血の力が、一体どうやって使われるのか、おそらく術者であろうムジカに、何のリスクもないのかなど気になるけど、少なくともソンジュとムジカが統治すれば圧政はないんじゃないか?
いや、でも鬼の全員が全員、いきなり彼らに従うことはないだろうな……。
統治ってそんな簡単な話じゃない。
ここからどうなっていくのか注目だな。
特別な食用児
ノーマン、普通に鬼語が分かるんだな。
女王との鬼語でのやり取りを見て、呆気にとられたわ。
食用児史上最高の逸材らしいし、他言語の習得があっという間であってもおかしくはないか。
そもそも鬼であるギーランと交渉をまとめてたもんな……。
でもその際は鬼語ではなかったような?
ギーランと交渉するために学んだ、というより、ラムダで学習したと考える方が自然か。
やはりノーマンに関して謎が多いな。
まさかノーマンがラムダに入れられたのは、女王の命令によるものだったとは……。
思ったより大きな力が働いていた。
本来は首領に献上されていたが、それを防ぐ為になんとか知恵を絞った結果なのだろう。
ノーマンはそれほどまでに、特別な存在だった。
首領の目から守るために、そしてノーマンをさらに完璧にするためにラムダに入れた?
やはり、彼に対しては実験は行われなかったということか。
実験の被験者になることで等級が下がったら意味無いしな……。
とりあえず、ラムダに収容されてから脱出してコミュニティを形成するまでの話を読みたい。
その内描写される時が来るのだろうか。
以上、約束のネバーランド第152話のネタバレを含む感想と考察でした。
第153話に続きます。
コメントを残す