第146話 王都決戦
目次
第145話 それぞれののおさらい
王都へ
王都へ向かう準備を済ませたレイは、自分たちが何としても食い止めなければならないのはノーマンが王と貴族を残らず殺してしまうことだとエマと確認する。
それは、王都の鬼を大虐殺してしまうことはもちろんダメだが、そもそも王や貴族といった鬼の社会を統治する存在がいなくなった場合、戦いを止めるための交渉の相手を失うことになってしまい、もはや平和への道は断たれてしまうためだった。
レイはノーマンが王・貴族が一堂に会する儀祭のタイミングで王都へ出撃したのは、彼が最優先で王・貴族を倒そうとするからだろうという推測を述べる。
エマたちはそれが実行される前にノーマンを説得しなければならなかった。
王都までの道のりは普通に行けば5日、リスクを負って危険な近道を急げば3日だった。
自分たちの足ならば間に合うと言うレイ。
しかしアンナはレイを呼び止めると、今が11月7日の午後、ティファリまでは2日半で、間に合わないと告げる。
それに加えてエマもレイも”七つの壁”という過酷な空間から戻って来たばかりで、王都への道のりを急ぐことはそもそも体力的にも難しいのではないか、と子供たちの間に不安が広がる。
そこにやってきたのは、馬に乗ったオリバーたちだった。
呆然としているエマたちに、後ろに乗るよう促すオリバー。
エマとレイは馬を操るオリバー、ザックの後ろに乗って、王都を目指していた。
乗馬がこなせることに驚くエマに対して、同じく馬で随伴するナイジェルとジリアンが、エマたちが”七つの壁”に言っている間に覚えたと胸を張る。
エマは特に鬼を救うことに反対していたジリアンまでもがなぜ自分たちに協力してくれるのかと疑問を口にする。
ジリアンは、仲間に危害を加える鬼は殺すが、ノーマン、そしてエマを助けたいのだと答える。
エマたちは王都への道を急ぐのだった。
不吉な予感
王都が見える場所でノーマンたちは作戦開始のタイミングを窺っていた。
王都の様子を近くで監視していた物見からフクロウの伝令が来ていた。
フクロウが運んできた情報をシスロが読み上げる。
王都軍は偽の地点へ向かっており、五摂家の親族の乗った車両は予定通り儀祭当日の朝に到着するという内容に対して一言、上々だ、とノーマン。
ノーマンから、例のアレ、と訊ねられたヴィンセントは、完璧だと答える。
「間に合った 持ってきたよ 後で確認してくれ」
計画は万事ぬかりなしだと意気込むバーバラ。
一方、楽園に残った子供たちはノーマンたちを心配していた。
ぬかりがないときほど危ないというヴァイオレットの言葉に、ルーカスが良く言っていたとポーラ。
ユーゴも言っていたと、さらに同調する声が上がる。
子供たちには、ノーマンが焦っているのではないかという危惧があった。
「私達が鬼に姿を見られたあの件が理由にあるのだろうけど…」
アンナはクリスティを救うための薬を鬼たちから盗もうとした際、見つかってしまったことを思い出していた。
それだけかな、とサンディが呟く。
「それだけがこんな急いでる理由なのかな」
前夜
夜。
ノーマンがバーバラやシスロたちに、薬は? と短く問いかける。
ちゃんと飲んでる、予備も持ってる、という返答に、それでいい、とノーマン。
「順調な時ほど用心だ あとはよく休め 休息も薬の一つだ」
「ありがとな」
立ち去ろうとするノーマンの背に、シスロが声をかける。
「ここまで連れて来てくれて」
ボスがいたから自分たちが生きてここまで来られた、とヴィンセント。
こんな体になって、時間もないがボスのおかげで世界を変えられるとバーバラ。
「俺達はここで果てても新しい世界 その先へ ボスや食用児が行ける」
「それが俺達の何よりの願いで希望なんだ」
それまでシスロたちの言葉を黙っていた聞いていたノーマンが口を開く。
「馬鹿を言うな」
自分たちは無血で勝利する、戦死は誰一人許さないとノーマン。
そして先にシスロたちが言ったような感謝は勝ってから言えと続ける。
「僕達は新しい世界をつくる そして全員で見るんだ この目で」
「僕達は自由だ!! 今こそ1000年の苦しみを終わらせるぞ!!」
ノーマンの発破を受け、オオオオオ、と兵たちからも雄叫びが上がる。
その後、ノーマンは外に出て一人、夜空を見上げていた。
思い出すのはエマとレイのことだった。
ハウスにいたころの、無邪気に笑う二人の顔。
そして次に思い出すのは、ムジカを殺すという方針に対して表情を曇らせて反対し、それでもなお自分に必死に向き合おうとしてくれるエマだった。
「レイ…エマ…」
「つっ…」
ノーマンは突如頭を抱えてその場にしゃがみこむと、激しく咳き込む。
(ちっ…またか…)
口元を押さえていた手を離す。
ノーマンは、手の平にはべっとりとついた血を寂しさと諦めが入り混じったような表情で見つめていた。
(ごめんね)
2047年11月10日の儀祭当日。
五摂家の面々が王の元に集い、儀式は粛々と進行していた。
城下町では鬼たちが大人も子供も祭りを無邪気に楽しんでいた。
ノーマンは閉じていた目を開く。
「始めよう」
王都へ入るための橋の内の一つが爆破される。
第145話 それぞれのの振り返り感想
作戦開始
王都までの道を馬で飛ばすエマたち。
間に合わないのではないかと思われた状況で、オリバーたちの備えが功を奏した形になる。
ぼーっとしないで、自分に出来ることを探してそれを実行していたオリバーたちは偉い。
仕事できるわ。元から頭脳が優秀なのに加えて、ルーカスの教育の成果でもあるのかな。
何も考えていない、指示待ちだけの人間には到底無理な働き。
指示待ち傾向が強めの自分には彼らが眩しい……(泣)。
これでエマとレイはノーマンの説得に間に合うだろう、と思っていたら……。
何とエマたちがノーマンに接触する前に王都に入るための橋の一つが爆破された。
作戦開始となってしまったようだ。
これ、説得が間に合うのかな?
ノーマンの作戦がどんなものかはわからない。
ただ、長期戦ではなく短期決戦の可能性が高いのではないかと思う。
例えば、この爆発で王都に混乱が生じた隙に、爆破を合図にしたギーランたちが一気に王や貴族たちの集う場所に攻め込むとか?
戦力の規模感はわからないけど、間違いなく王たちの方が兵の数が多いことは明らかだ。
そんな相手と戦う場合、まず長期戦になることは避ける。
つまり一気に王たちの首を獲りに行く、電撃作戦しかないと思うんだけど……。
不吉なフラグ?
お祭りを無邪気に楽しむ鬼たち。その描写の直後に爆発。
大げさではなく、テロの構造を垣間見た思いだ。
そして、ルーカスやユーゴの言葉を思い出す子供たち。
「ぬかりがない時ほど危ない」
ノーマンは作戦を緻密に構築し、この機会を待っていた。
しかしヴァイオレットたちの不吉な会話……。これはフラグかな?
一応、ノーマンもうまくいっている時ほど危ないということは分かっていて、気をつけているようなんだけど……。
それでも実際の現場に立たないとわからないことはたくさんあると思う。
ノーマンもそんなことはわかった上で、作戦を練りに練っているはず。
それでも現実はままならず、綻びが生じてくるものなんだよな……。
それがノーマンたちにとって致命的なものにならないことを祈るのみ。
鬼に惨殺されていく様子は鬱になる……。
覚悟
どうやらラムダの実験体たちは自分たちが普通に寿命を全うできるとは思っていないようだ。
薬でなければ収まらない発作の様子はいかにも辛そうだったし、前回のラムダ兵の様子から、おそらく間隔も縮まってきているのだろう。
側近たちは、この戦いに勝っても、自分たちが鬼のいない世界を生きることは考えていないのではないか。
しかし、何としてもこの戦いに勝利して、自分の代わりに他の食用児を生かすことで、自分が生まれた意味を見出そうしているように見えた。
そんな彼らに悲壮感はない。それどころか、ノーマンに感謝の意を示す彼らからは、使命に殉じることへの充実感(とまで言ったら言い過ぎか)のようなものを感じた。
ノーマンはそんな側近たちを、戦死は許さないと諫めた。
これはノーマンの本心だし、また、彼らの士気を高めるためでもあるだろう。
でも実は、心の奥底では、彼らを止めることは無理だとも思っているんじゃないかな……。
無血での勝利のための作戦を練りに練ったノーマンだが、作戦が上手くいないまま、鬼と直接交戦する可能性を考えていないということはあり得ない。
戦うことは覚悟しているだろう。
その場合、おそらくその戦闘力の高さから先頭に立って戦うであろう側近たちの戦死を全く考慮したことがないわけがない。
それに、どうやらノーマンもまた自身に先が無いことを自覚しているっぽいんだよなぁ。
ノーマンが吐血したのは病気?
それともラムダでの実験の結果なのか……?
他の実験たちと症状が違うように見える。確か吐血はしてなかったような……。
ただ一つ言えそうなのは、結局ノーマンは、発作の間隔から自分たちの死が迫っていると予感している側近たちと同じ境遇にあるということだと思う。
当初は、無血での勝利を目指すノーマンを見ていて、いざ作戦が想定通りにいかず仲間たちが死んでいく事態になったならものすごく脆そうだなと思っていた。
しかしノーマンの吐血とその後のエマたちへの謝罪の描写から、死を覚悟して戦い抜く覚悟が見えた気がする。
つまり、ノーマンも側近たちと同様に死を覚悟してるよなぁ。
だからこそ、王や貴族を一網打尽にする一点突破の槍の切っ先となり得る。
戦いは始まった。果たしてノーマンたちの運命は。
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第146話 王都決戦
作戦開始
粛々と進行していく儀祭。
祭りに湧く城下町。
しかしそんな平和な光景も、王都の橋が一斉に爆破されて一変する。
混乱する城下を尻目に、ノーマンたちは城の内部にいる見張りを制圧。
そして城内のセキュリティコントロールを司る部屋を確保したヴィンセントが城を開門する。
ギーラン家の面々が侵入後、すぐに閉門し、城の封鎖を成功させるのだった。
王都の推定される全ての兵の数は5000。
その内、事前にノーマンが4000を王都から出兵させていた。
それにより残った兵数は1000。
その配分は城下に700、城内に300だったが、その内700の兵は混乱する民衆は、爆破した王都の外へ通じる橋などの対処に追われており、ノーマンたちにとってはほぼ無力となっていた。
城の完全封鎖に加えて、王都への橋も全て落してたことで王都は孤立。
城内の300の兵は50のギーラン兵でも真正面から突破できる。
事前の想定通りに作戦が進行しているのを確認し、ヴィンセントはシスロとバーバラに撤退指示を出すのだった。
ギーランと女王・五摂家の再会
ギーランたちは城内にてノーマン、ザジと合流していた。
見事な手際だ、とノーマンを褒めるギーラン。
ノーマンは笑みを浮かべ、ギーランの王・五摂家への復讐を促す。
女王、五摂家、その家族たちの会する部屋では、儀祭が一時中断していた。
外で何が起こっているのか報告が一向に来ないため、ノウム卿は部下に外の様子を見てくるよう指示する。
部屋の外に通じる扉を開こうとする部下。
しかし扉は中途半端に開かれたまま、部下はなぜかその場に立っている。
そんな部下の様子を五摂家たちは不思議そうに見つめていた。
「賊――」
扉が開く。
同時に、部下は崩れ落ちる。
扉の前にはギーラン兵が陣取っていた。
その中の一体のギーラン兵が部下を刺していたのだった。
悲鳴を上げる五摂家の家族たち。
「久しいのぅ」
五摂家たちにそう語りかけながら、ギーランは口元に巻いていた布をとる。
イヴェルク公は賊の正体は賊徒などではないことに気付いていた。
「ギーラン…!!」
復讐
(ギーラン…様?)
バイヨン卿は、まだ五摂家だった頃のギーランのことを思い出していた。
しかし目の前の醜い鬼がギーランだとはにわかには信じがたい様子で呆然と立ちすくむ。
プポ卿は背後の父と母に下がるように促す。
しかし突如、プポ卿の目にナイフを突きたてる母。
(母上…? な…ぜ…)
プポ卿は一体何が起こっているのかわからないまま絶命する。
「おのれ何奴!!」
鋭く叫ぶノウム卿。
「家族と思うたろう?」
ギーランが答える。
「姿声 匂い そして”面”」
「家族は食ろうた」
プポ卿の頭部を拾い上げる。
ギーランは、五摂家の家族の形質を奪ったギーラン兵に家族全員を演じさせていた。
面を外した家族たち全員が、実は家族ではなかったことに気付き、五摂家は言葉を失う。
その様子に高笑いをしたあと、ギーランはプポ卿の脳を仮面ごと食べ始める。
「野良に落とされ700年 我ら一門 この日をどれほど待ちわびたことか」
形質の変化により、ギーランの背が激しく波打つ。
「忘れたことなどない 受けた仕打ち… 屈辱」
バイヨン卿は今は亡き家族の面を拾っていた。
その手は怒りと悲しみに震えている。
「次はぬしらじゃ」
ギーランが面を外す。その頭部には、かつて五摂家だった頃と同様の豊かな長髪が生じていた。
「我らが怒り 存分に味わわせてやる」
「笑止」
女王は一切取り乱すことはなかった。
第146話 王都決戦の感想
残酷すぎる……
五摂家の家族を事前に食っておいて、その奪った形質で化けていたとか……。
これはとんでもなく残酷な策だと思う。
恐らく家族はそこまで戦闘能力が無かった?
そうじゃないと家族全員を食えないだろう。
完全にギーラン&ノーマン同盟軍のペースで事態は進行している。
しかし順調すぎるだろう。
ラストの女王には王たる威厳があった。
ここから女王たちによる反撃となるのか?
プポ卿は力を一切発揮することなく退場したものの、女王や五摂家の面々は個々の戦力として強力であることと予想している。
というか、ここまで一気に追いつめられると、この事態を突破するには個々の能力に頼るしかないと思う。
しかしこの危機に際して、女王はなお威厳ある態度を一切崩していない。
それはギーランたちを殲滅できる自信からなのか。それともすでに死を半ば覚悟しているが、王として恥じない態度をとっている?
女王は強いと思う。血のつながりがあるレウウィス大公に匹敵していてもおかしくない。
それに、五摂家の面々も家族を手に掛けられたことで怒りに燃えている。
女王・五摂家とギーランとの戦いは激しいものになりそうだ。
エマは間に合うのか?
ノーマンの手際が鮮やか過ぎる。
しかし女王・五摂家を殺させてはならない立場にあるエマとレイにとっては、この事態は良くない。
すでにギーランは女王・五摂家と相対している。
仮にエマとレイがすでにノーマンの軍に紛れていて、王都に侵入出来ていたとしても、女王・五摂家とギーランの戦いが始まる前に止めることはもう無理だろう。
女王・五摂家がこのままギーランにあっさり敗れるとは思えない。
しかしエマとレイは女王・五摂家の全滅を避けるために早くノーマンに約束の結び直しが済んだことを報告し、戦いを一時停止させる必要がある。
果たしてエマとレイは鬼の絶滅を食い止めることはできるのか。
以上、約束のネバーランド 第146話のネタバレを含む感想と考察でした。
第147話に続きます。
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