第78話 まず一匹
目次
第77話のおさらい
鬼達は、森での爆発から子供達の反乱を察知していた。
レウウィスは、いつもの狩りの時とは違った、デジャブを感じる彼らの戦術に思わずニヤリと笑う。
物陰に隠れてレウウィスを観察していたエマとオリバーは、レウウィスが動き始めたのに呼応して、小走りにその場を去る。
一方、森の中で鬼達の分断に成功したメンバーたち。
標的を見つけられず憤るルーチェは、手下に子供達を探す事を命じる。
ノウスとノウマもまた今日の子供達がいつもの狩られる一辺倒では無い事を面白いと感じ、余裕たっぷりに子供達の探索に乗り出す。
ルーチェ達を監視するように樹上から睨みつけていたジリアンは、昔、姉をルーチェに殺された時の記憶を思い出していた。
ナイジェルもまた、ルーチェにやられた弟(妹?)を思い出す。
ノウス・ノウマを監視するサンディ、ソーニャもまたそれぞれ、大切な者を奪われており、脳裏にその時の記憶が甦っていた。
目的としていた鬼達の分断に成功したのを知らせる合図である爆発。
ここから次の目的である、レウウィスを孤立させる為の15分を稼ぐ作戦が始まる。
ジリアンはルーチェの仮面に照準を合わせ、狙撃する。
銃弾を受けたルーチェは弾丸の起動から、樹上を指さして手下に捕まえるように命じる。
ジリアンは逃げることなく、両手に携えた銃器をルーチェ達に斉射する。
銃弾を食らって倒れていく手下たち。
とっさに地面に伏せ、銃弾をかわそうとするが、別方向から仮面にモロに狙撃を受けるルーチェ。
自分を睨みつけるナイジェルの姿を発見し、鬼の弱点を意識した攻撃がマグレによるものではないことを悟る。
リーダーである自分の命が狙われていと判断したルーチェだったが、仮面の防御力が銃弾を寄せ付けない事を知っており、自分も手下も再生するというアドバンテージもあって自分たちが彼らよりも優位に立っていると信じて疑わない。
(そう 何も知らない雑魚共が何発乱射しようとムダなんだよ)
ルーチェは手下たちに樹上で銃を連射するジリアンとナイジェルを捕えるように命じる。
ジリアンは登って来たルーチェの手下たちを打ち落としていく。
ルーチェは、ジリアンたちに怒りを覚えながらも、ジリアンの持つ銃の弾が切れる事を冷静に見抜いていた。
弾切れになるであろうタイミングを見計らい、ルーチェは手下たちにジリアンたちを襲えと命じるも、既に死体となっていた手下たち。
動かない手下たちの死体の中で立ち尽くすルーチェを、樹上から下りたジリアンが追い詰めていく。
ジリアンたちは、ルーカスから、手下の仮面は硬さこそ貴族のものと同じだが、構造的が違っており、目の周り以外は比較的簡単に破れることを聞いていた。
ルーカスの言う通りに作戦を実行し、見事にルーチェの手下を掃討出来たのだった。
ルーチェは為す術なく、ジリアンとナイジェルに追い詰められる。
「ゲームセットよ 覚悟しなお坊っちゃん」
ジリアンはルーチェの仮面を右手で外し、顔に銃口を突きつけるのだった。
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第78話 まず一匹
追い詰める
配下を失い、その場に立ち尽くしたままジリアンとナイジェルの接近を許すルーチェ。
ルーチェは二人に対してたかがGV出身者であり、脱走者でもない雑魚のはずだと顔を引きつらせる。
(いつもちょこまかと逃げ回るだけの…銃の扱いだって素人の…)
ジリアンとナイジェルは冷徹な目で淡々とルーチェに迫る。
雑魚のはずなのに、一見無駄な銃撃はわざとなのか。
そして、そもそもなぜ急所を知っているのか。
(かれが教えてくれたわ)
ジリアンの言った”彼”とは誰の事なのか、と疑問ばかりがルーチェの脳裏に浮かぶ。
刃物を取り出すが、すぐにナイジェルの銃撃により手元から弾かれる。
銃を構えたままルーチェを睨むナイジェル。
ルーチェは顔を引き攣らせてナイジェルを一瞥した後、その場を逃げ出す。
すぐに後を追うジリアンとナイジェル。
その光景からナイジェルは、楽しそうに笑うルーチェから逃げ惑いながら助けを求める子供達思い出していた。
ジリアンもまた、ルーチェに追い詰められ”10秒あげるよ”と余裕たっぷりに言われ、弄ばれた事を思い出す。
息を弾ませて逃げるルーチェのスネに銃弾が掠める。
また思い出すのは、走れなくなり地面に崩れ落ち泣き叫ぶ子供。
それをみて心底楽しそうに笑う鬼達。
舌打ちするルーチェ。
銃弾を受けた傷を再生させながら逃げる為にひた走る。
ルーチェもまた、自分たちが子供を楽しそうに痛めつけていた事を思い出していた。
必死に逃げながら、チクショウ、と何度も心の中で毒づく。
(なんでボクが食用人間なんかに!!)
ついにジリアンはルーチェを地面に仰向きに倒し、その腹を踏んで仮面を剥ぎ取った顔に直に銃口を突きつける。
かたき討ち
息を切らしながらジリアンを見つめるルーチェ。
特に抵抗することもなく、お前たちの勝ちだ、と自ら負けを認める。
しかしその内心では、この侮辱を許さないと考えていた。
時間稼ぎの為にジリアンとナイジェルを懐柔しようとするルーチェ。
(時間を稼げ あと2分…いや1分でいい バイヨン卿がこの方角から来る匂いがする 助けてもらえる)
(そうすればコイツは八つ裂きに)
「10秒あげるよ」
冷徹に言い放つジリアン。銃口を再びルーチェに突きつける。
「なんてね」
ジリアンは余裕たっぷりに自分を追いかけまわすルーチェを脳裏に思い出し、仲間は来ないし助けも呼べないと告げる。
「お前にやる時間なんて一秒もない」
待てよ、と二人の行動を止めようとするルーチェ。
自分は殺せても他の大公たちは絶対に倒せない、今なら許すと二人を説得にかかる。
「ムキになるなよ ただの”遊び”だろ!?」
自分の弟(妹?)が鬼に捕まって泣き叫ぶ様子を思い出し、ナイジェルはルーチェを睨みつける。
「やれ ジリアン」
その言葉に切羽詰まった様子のルーチェ。
「ボクを殺したらボクのパパが……」
「お姉ちゃん…こんなしょうもない奴に私達は」
ジリアンがトリガーに指をかける。
手を伸ばして抗い、助けを求めるルーチェの顔に、ジリアンが何発も銃弾を撃ち込む。
「殺せるなんておもってないわよ」
ルーチェを見ながらジリアンが呟く。
「他の3組はこんな…アンタみたいに」
奥の手は持っているが、5匹の中で一番弱いルーチェには使えない、と考えるジリアン。
「ここまで6分22秒」
ナイジェルがジリアンに声をかける。
「まず一匹 次急ごうぜ」
ソーニャ&サンディVSノウス&ノウマ
槍を持ったノウスとノウマに追われるソーニャ。
木に隠れたサンディがノウスとノウマを銃撃するが銃弾は当たらない。
「2匹ね」
先頭のノウマが呟く。
「あの子(ソーニャ)の他に隠れてもう一匹いる」
ノウスに振り向く。
ああ、と同意するノウス。
「上手く連携して追手を躱し身を守り合えている」
二人への銃撃は続く。
昨日までは猫をかぶってたな、と呟くノウス。
ノウマは少しの沈黙の後、いいねぇ、と口蓋を大きく割って笑う。
「かくれんぼの次は食用児本気のおにごっこ 楽しいねぇ」
しかし、今追っている二人の人間がGF(エマ)ではない為、殺したら本命のGFが狩れなくなるので殺さずに弄ぶと方針を定めるノウスとノウマ。
ノウスは、猫をかぶり腕を磨いても彼らに我々は殺せないと言いながらノウマにサインを出す。
サンディの隠れている木の幹を槍で胴薙ぎにするノウス。
それを直前に察知していたサンディは後方に倒れ込んみギリギリで槍を躱すが、銃が槍の斬撃を食らっていて壊されてしまう。
舌打ちをしながら着地するサンディ。
「サンディ!!」
ソーニャが銃撃してサンディを援護する。
ソーニャは考えていた。
鬼は、人間側に勝ち目は無いと考える。
それはただ単に人間をナメているからだけではなく、人間が鬼を殺す手段が無い為。
殺し方も知らず、仮に気付けても仮面は硬く再生もする。
集落に支給された武器も、普通に使用する限りは有効打になり得ない。
しかしそれも最弱のルーチェ相手にした場合くらいであり、他3組には通用しない。
そして、自分たちが今相手をしているノウスとノウマもその内の一組。
専用銃と特別弾
(まず動きを止めなければ)
サンディは追いかけられながら、後方から追って来るノウスとノウマを気にする。
異変を感じたノウスがその場に立ち止まり、ノウマも追うのを止めるようにと手で制する。
ノウマに対して、見ろ、と言うノウス。
「罠だ」
木の間にピアノ線が張り巡らされている。
ソーニャとサンディは罠の先の木に体を隠し、銃を構えてノウスとノウマを待ち構えている。
「成程…ステキよ」
ノウマが呟く。
「闇雲に逃げていたわけではなかったのね」
ああ、と同意するノウス。
「でもだから何だ」
サンディとソーニャに緊張が走る。
(その通りよ)
ソーニャは心の内で呟く。
罠にかけて動きを封じて追い詰める事が出来たところで、ルーチェ以外の3組相手にはその面すら剥ぎ取る事は叶わない。
(そう どうしようもない)
ソーニャとサンディは笑顔を作る。
(って思うわよね)
(だろうね)
回想。
風車小屋の部屋。
銃器類を広げたテーブルを挟んでルーカスと子供の頃のオリバーが相対している。
「面は剥げねば壊すしかない」
ルーカスが銃を手にオリバーに語り掛ける。
「けれど与えられた武器では壊すことができない」
「ならつくればいい 与えられた武器から」
「『奴らの面を壊せる武器を!!』」
サンディが構えている銃は、集落に用意された武器を組み合わせて作った特別製の銃だった。
成功と失敗を積み重ね、8年かけて作られたのは特殊弾5発と専用銃3挺。
(失敗は許されない 一撃で叩き割る この銃で…)
ノウスとノウマの様子に神経を尖らせるサンディとソーニャ。
(そして必ずあの二匹を仕留めるんだ!!)
仮面の下で、ニッ、と笑うノウス。
感想
伏線は残していったルーチェ
ルーチェを倒した。
前回心配だった奥の手なんて何も無かったのね。
タイトルでネタバレ。まぁ安心して読めたかな(笑)。
本当に弱かった。
ルーチェは小物臭そのままに雑魚だった。
ジリアンに倒され、腹を踏まれても力づくで起き上がる事すらできなかったのを見ると、その力は人間並みといって良いだろう。
鬼の中にもこんな奴がいるんだな。
ただ、今後の伏線となりそうな言葉を残して言った。
「ボクを殺したらボクのパパが……」
これは、親父は強いパターンか?
それとも権力が強く、あらゆる鬼を動員できるとか?
ルーチェの親父は、今後どこかで出て来るかもしれない。
覚えておいて良いと思う。
ルーチェ以外の3組は強い
ルーチェ自身も知っていたし、交戦中の子供達も皆知っていたように、やはり他の3組は強さの桁が違う模様。
ルーチェの言葉から、鬼としてもまずレウウィス大公の事を口にするあたり、大公が一番強いんだなと思った。
集落に用意された銃では基本的には鬼を倒す事は出来ない。
ただ、前回ジリアンとナイジェルがとったような戦法を使えば倒せることもあるわけだ。
しかし、ルーチェ以外の3組の鬼に対しては、普通の武器ではそういった活かし方すら出来ない。
今回のサンディとソーニャの様に、追ってくる鬼をただ牽制するだけといった用途に限られてしまうようだ。
ノウスとノウマは銃弾すら避けているようにも見える。
サンディとソーニャを追って躍動する筋肉は、肉弾戦では決して勝てない事を悟らされる。
罠にかかって動けなくなったノウスやノウマに飛び掛かっても、仮面を剥ぎ取るどことか、逆に掴まれて引き裂かれてしまう。
しかも、ピアノ線に気付く注意力、洞察力がある。
油断はしているが、抜け目は無い。
まだ描写はされていないが、恐らくはバイヨン卿の強さも相当なものだろう。
強さの順列としてはレウウィスが一番で、その次がバイヨンかな?
バイヨンと戦うのはザック、ぺぺ、ポーラ、ヴァイオレットの全員か、この内の数人かになるだろう。
バイヨンもまたルーチェと同様に配下がいる。それも自身と似た、ルーチェの配下とはまた異なるタイプの鬼だ。
ルーチェの配下より知能がありそうな外見をしている。
仮に4人で立ち向かったとして、専用銃は3挺しかないから一組に対して一つになる。
専用銃以外の対鬼の武器があったとしても、果たして力も知も併せ持つであろう相手に勝てるのか。
とりあえず、本当に専用銃がノウスとノウマに有効かどうかがバイヨンやレイウィスを倒すための試金石となるだろう。
専用銃による特別弾が効くということは、ルーカスの鬼を観察する目が確かであり、恐らくは他に用意しているであろう奥の手もまた有効となる可能性があるからだ。
前回、普通の銃で配下を片付ける事が出来たのも、まずはルーカスの観察眼があったから。
ルーカスの観察眼から導き出された戦法を実行できるジリアンとナイジェルも大したものだと思うけど。
ノウスとノウマに対する勝機は?
ただ、つけ込む隙はあると思う。
それは、サンディとソーニャをハズレだと見做している事。
彼らは通常の狩りと同様に狩る人間の数をきちんと守ろうとしているようだ。
彼らが通常の周期から外れて狩りを行っているのは、GF農園からの脱走者という特殊イベントに触発されたからであり、その狙いはあくまでもエマだった。
エマ以外は殺さないつもりであるということは、その方針を守り続ける限りは鬼が全力は出せないということ。
さらに言うなら、サンディ、ソーニャは今回の狩りを絶対に失敗してはいけないラストチャンスだと理解しているが、ノウスとノウマにとってはただのイベントに過ぎないという事。
鬼からしたら、GF農園からの脱走者を狩れ! というイベントなのだ。
まさか自らの身を守らなくてはいけないとは露ほども思っていない。
子供達が本気を出してきているとはいえ、心には余裕がある。
まさか自分たちの用意した武器以外の武器があるとは思っていないだろう。
ここまでのサンディとソーニャの動き、そして二人を追うノウスとノウマの動きを総合すれば、サンディ達の思惑通りに事が進んでいると言っても良いだろう。
ノウスとノウマを油断させたまま倒せるかどうか。
一匹は専用銃で倒せたとして、残り一匹は怒り狂ってもはや狩りのルールなど忘れ、殺意を充満させて襲い掛かってくるはず。
その容姿から考えると、ノウスとノウマはカップルの鬼だ。
片方を失えば、残された片方は相当な怒りに駆られるはず。
それに対する対策も考えてあったりするのかな?
鬼達の性格を知り尽くしていると思われるルーカスがそれを看破していないとは思えない。
何かしらあると信じたいところだ。
以上、約束のネバーランド第78話のネタバレを含む感想と考察でした。
次回第79話に続きます。
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