第133話 あそぼ
目次
第132話 誅伐のおさらい
出兵
女王の左右に立つ従者が、玉座の前に控えている五摂家に対して、彼らを一堂に集めた理由を”最近続く、農園の盗難を収拾させるためだ”と告げている。
女王が五摂家たちに面を上げさせる。
ノウム卿が各地の農園で起こっている盗難について女王に説明する。
半年で増えた盗難によって、人肉が不足している。
他の農園から人肉を供給することで対策しているが、局地的に民の不満が高まっているのだという。
兵による鎮圧の必要性を提言するのはイヴェルク卿だった。
その次に、ドッザ卿が発言する。
「この通り 特にノウム・バイヨン両卿の領地は被害が大きい」
ドッザ卿に視線を走らせるノウム卿。
「実に災難お察し申し上げる」
ドッザ卿の白々しい態度にノウム卿は苛立っていた。
バイヨン卿は、問題は自分たちの領だけではなく、ラムダやその系列となる農園までも複数が破壊されている事実を伝える。
「陛下・諸兄の損害も馬鹿にはならぬでしょう」
本当に深刻なのは、その手口が完璧なことだとイヴェルク卿がバイヨン卿の言葉を補足していく。
農園破壊の手口は、まるで農園内部や警備態勢までも知り尽くしたように抜かりがなく、その狙いも明らかに知脳の高いラムダやその系列となる農園を襲っている傾向が見られる。
「新手の盗難賊徒」
犯人が誰なのかはわからないが、ラムダやその系列となる農園の人肉を食べているとすれば、その知や力は下等ではなく、自分たちに仇を為す一大勢力となる。
「げにゆゆしき」
女王が口を開く。
「いずこの輩も謀叛は赦さぬ 見つけて捕えて討ち尽くす」
そして王都で”誅伐隊”が組織されていく。
全軍の兵力を使って組織された誅伐隊を向かわせる先、”根城”の目星はすでについているのだという。
「誅伐じゃ 儀祭(ティファリ)までには片をつけよう」
女王の指令によってあっという間に組織された誅伐隊が王都から大挙して進軍していく。
その光景を離れたところから楽園のメンバーが望遠鏡で確認していた。
手紙をくくりつけたフクロウが飛んだ先はヴィンセントだった。
手紙を読んで一言、動いた、とだけノーマンや他の側近たちに向けて報告する。
よし、とノーマンはチェス盤上にあるコマを動かす。
「まず一手 計画通りだ」
8日後
白いコマは規定のコマ数なのに対し、黒いコマは大量に並べられている。
ノーマンは、自分たちが農園を襲うことで人肉の供給が滞り、それによって民の不満が高まれば王政がその対策及びその鎮圧に動かざるを得ないと読んでいた。
女王が誅伐隊を王都から出兵させた現状の事態を歓迎する。
自分たちの目的は王家及び五摂家の全員の首であり、ギーランをぶつけるためにも王たちの兵の数が邪魔だったのだという。
ノーマンはごっそりと黒いコマを盤上から取り除く。
「これでまず兵力を分断できる」
側近たちは、鬼が農園を破壊したのは自分たちの仕業とは知らずに、本来いないはずの鬼の犯人を追うと呟く。
ラムダを破壊した際に支援者であるスミーがそう細工したから、とノーマン。
そして、自分たちが襲った農園の位置などから鬼たちが自分たちのアジトを絞り込んでいると言って、ヴィンセントが笑う。
「そうボスに誘導されているとも知らずに」
ノーマンは、楽園の位置が王たちにバレることはなく、兵が向かうのは別の場所だと確信を持って口にする。
ラムダや系列農園を食われたなら王たちは最大限の派兵を行うという、現状起こっている事態をノーマンは見事に読みきっていた。
「それでいい…… その兵は賊徒(ぼくら)を討つことはできない」
「折しもじき儀祭(ティファリ)」
それは王家・五摂家が王家に一堂に会する祭事だが、多くの出兵があったので例年になく手薄な警備になると言うノーマン。
それじゃあ、とバーバラが表情を明るくする。
「決行は8日後 儀祭の最中 王・貴族を殺す」
色めき立つバーバラとシスロ。
「あと8日… 8日後には現実が一つ変わる…!」
バーバラが呟く。
ゲームスタートだと呟くノーマン。
次の一手を指そう、と白いコマを動かす。
「あとはアレだ ”邪血”の問題をどうするか」
ヴィンセントの一言で部屋の空気が一瞬で張り詰める。
”邪血”の生存は自分たちの計画の成就を妨げると言うヴィンセントの言葉に、ノーマンが答える。
「勿論 既に考えてある」
ドンとギルダの元に使わされたのはハヤトだった。
ハヤトは明るく「ノーマンが呼んでいる」とドンとギルダに伝える。
扉の先
扉を開き、その先に足を踏み入れたエマとレイは眼前の光景に呆然としていた。
レイは、自分たちは”七つの壁”を目指し、”入口”の扉を開けて入った、つまり扉の先だよな? とエマに確認する。
天井絵では真っ黒だったところだよね、と同意しつつ問い返すエマ。
「じゃああれは何だ」
戸惑うレイ。
「わかんない… どういう…こと?」
エマもまたレイと同様に困惑していた。
「GF…ハウス?」
二人が立っていたのは、懐かしいGFハウスの敷地だった。
第132話 誅伐の振り返り感想
意外な場所
なぜGFハウスが……?
この二人がそう判断するなら、そっくりな場所ということではない?
おそらく建物の外観から、周囲の環境まで同じなのだろう。
エマもレイも肉眼ではなく、意識だけがハウスを見ているとか?
これはある種の試験みたいなもの?
だとすればあの扉の先には開けた人間の心の内にある最も大切な場所が出て来るなんて仮説も成り立つと思う。
でも二人は意識を失ったわけではなく、仲間たちの前で肉体ごと姿を消したんだよな……。
つまりエマもレイも今、GFハウスを肉眼で見ている。
実際にその場にいる……。
やっぱり、これは扉を開けた人物へ課す試験じゃないかと思う。
でも今の所どんな可能性もありうる。
扉の先は誰が開けてもGFハウスのある場所。
で、GFハウスはわざわざそこに建設されたとか?
そういえば以前ゴールディポンドで、GFハウスが人間世界に通じる道のある場所だという情報で得た。
それが関係してるのかな?
決行は近い
ノーマンは王たちが兵を動かすのを待っていたのか……。
で、8日後に手薄になった王の根城に潜入し、儀祭の最中の王や五摂家を討つと。
どうやら支援者スミーの細工によってラムダを破壊の容疑者はノーマンたちではなく、王たちに不満を持つ鬼によるものだと勘違いさせることに成功してるようだ。
王たちの勘違いを誘うことに成功するとノーマンは確信していたのだろう。
ノーマンの作戦の前提として、まず一連の農園破壊の背後に食用児の関与があると王たちに気づかせてはならない。
それはあくまで王たちに不満を持つ仕業ということにできなければ、王たちの動きは変わって来る。
目的が反乱分子の鎮圧だから多くの兵を動かすわけで、もし潜伏している食用児を見つけ出すということであれば、きっと王都から兵を出すのではなく、各地の鬼に食用児を探すように通達を出せば良いだ毛だからだ。
その場合、王都は兵に守られて盤石なままとなり、とても王や五摂家を暗殺することなどできない。
しかしノーマンには王が多くの兵を王都から出すことを読みきっていた。
スミーの細工とはそれほどまでの精度だったのだろう。
王都から出兵した大軍は、鬼の組織だった反乱を鎮圧に向かっている。
ノーマンにはその先すらもわかっているのか?
ひょっとして、農園を襲った容疑者候補としてギーラン一族が上がっている?
だとすれば王たちの軍とギーラン一族がぶつかることになる。
つまり、ノーマンの目論見通りだ。
王たちが、実は密かにギーラン一族が生きていたことを知っていてもおかしくはない。
かつて自分たちと同様に栄華を極めていた彼らが、最低の暮らしをしているのを放置して、楽しんでいたのかも……。
しかし逆に、もしギーラン一族が生きていることを王たちが知らなかったら、すぐに両軍がぶつかることはないと思う。
その場合ノーマンはどんな手を打っているのだろう?
まだ局面は始まったばかり。
今の所ノーマンの思惑通りの展開のようだけど、事態の全てが当初の読み通りに動くということはあり得ない。
何かしらのイレギュラーは生じて来るはず。
実際に、邪血の少女の生存を知り、ノーマンはドンとギルダに接触を図って早速その対策に動こうとしているようだ。
でもドンやギルダがソンジュとムジカのいる場所を知っているわけではないし……。
気になる展開が続く。
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第133話 あそぼ
ハウスそっくりの場所
扉の先に、かつて自分たちが暮らしていたハウスがあることにエマとレイは困惑していた。
自分たちがここに来る時に使った扉はもうどこにもない。
レイは、もう自分たちが引き返せないことを実感していた。
二人はハウスの玄関まで歩くと、互いに意を決したように視線を交わす。
レイが扉を開けると、ハウスの内部もまた、外観と同じくハウスそのものだった。
エマはかつてハウスで生活していた頃のことを思い出し、懐かしく感じていた。
(ハウスだ… 本当にそのままハウスだ…!)
レイは銃を構えて警戒していた。
しかし彼もまた、エマと同様にここがハウスそのものであるのと同時に、しかし何かが妙であることも感じていた。
先にエマがその妙なことの正体に気づく。
「音がない…」
それに同意するレイ。
「誰もいないのかな?」
エマの疑問に対し、レイは確かめることを提案する。
「キャハハハハッ」
突然、2階から笑い声が響く。
反射的に上を見上げる二人。
じっと声が聞こえた先を見上げていると、黒いボールのようなものが弾みながら階段を降りてくる。
それはエマたちの前でピタリと静止する。
「ボール…?」
エマは黒い物体に対する印象をそのまま言葉にしていた。
捻じれた空間
「あそぼ」
黒い物体にぎょろりと目が生じる。
エマたちは驚き、黒い物体から距離をとるために後ろに飛んでいた。
すると突然、エマの着地しようとした床に扉が出現する
エマは落とし穴のようになった扉の先に落ちていくのだった。
レイはそれに気づき、エマを助けようと手を伸ばす。
しかし手は届かず、扉はすぐに閉ざされる。
さらに扉は、まるでそこに存在していなかったかのように消えてしまう。
「レーイ」
床下に落ちたはずのエマの声が2階から聞こえてくる。
急いで階段を上り、返事をしろ、とレイはエマに呼びかける。
「!!」
突如、空間が歪んでいくのを感じるレイ。
(何だこれ)
レイには何が起こっているのかわからなかった。
「レイ」
廊下の先から自分を呼ぶ声を聞いて、そちらを見ると意外な人物がそこにいた。
「ママ…?」
ママはレイを愛おしそうに見つめていた。
その足元には、じゃれついている大勢の幼い子供たち。
「おかえりレイ」
ママは近寄ってきたレイをそっと抱きしめる。
「大きくなったわね……」
レイはママの抱擁を受け入れていた。
しかしすぐに我に返ると、ママを引き剥がして距離をとる。
「誰だお前」
「あそぼ」
「あそぼ」
子供たちはレイに一緒に遊ぶことをせがむ。
レイは彼らの中にコニー、ハオ、セディといった、すでに出荷されてしまった面々が混じっているのに気付く。
そこでレイはすぐに違うと思い直し、誰だお前たち、と再び問いかけていた。
「レイもあそぼ」
コニーの偽物たちは不気味に呼びかける。
するとレイは一瞬のうちに幼くなる。
「えっ」
レイは小さくなった自分の手の平を見て、何が起こったのかを知る。
「おいで私の可愛い子供達」
ママの呼びかけにより無数の扉が一斉に開く。
そこからは大勢の子供たちが出てくる。
子供たちはレイを取り囲み、あそぼ、と楽しそうに繰り返していた。
レイはその光景に恐怖する。
そんなレイの様子を見て、笑うママ。
ママや子供たちは、一瞬で骸骨に変わっていた。
「さあみんなで仲良く遊びましょう」
ママの外見をしていた骸骨は、子供の骸骨たちに呼びかける。
大勢の子供の骸骨に追いかけられて、レイは必死で逃げる。
進む先
エマは廊下を駆けまわっていた。
無数にある扉の内の一つを開き、その先に向かっていっても、同じ廊下にある別の扉から出てしまう。
「レーイ!!」
レイの身を案じつつ、エマは廊下を走り回る。
エマは一刻も早くレイと合流する必要性を感じていた。
扉の内の一つを適当に選択し、そこに弾を連射する。
その銃撃音は、骸骨から逃げ回っている真っ最中のレイの耳に届いていた。
銃で破壊した扉の先には穴ではなく、白い壁がある。
その白い壁に向かって思いっきり飛び蹴りすると、見事に割れて穴が空く。
そこから覗き込むと、エマはついに大勢の骸骨から逃げ回るレイを発見するのだった。
エマは壁の穴を横から普通に覗いていた。
にもかかわらず、レイにはエマが上に開いた穴から下を覗いているように見えていた。
奇妙に歪んだ空間で、互いの場所を確認できたエマとレイ。
しかしお互いの位置を確認した瞬間に、突如空間が崩壊し始めていた。
二人はあえなく落下してしまう。
下に向かって落下している最中、エマは無数に開いている扉の内側から、子供の骸骨や動くぬいぐるみが自分たちを観察していることに気づき、ぞっとしていた。
二人が落下した先には床を埋め尽くすほどのぬいぐるみがあり、それがクッションとなっていた。
ぬいぐるみから顔を出したエマは、レイが幼くなっていることに気づく。
なんで? とエマに問われ、知らないと答えるレイ。
「てかお前こそ」
レイに言われ、エマは自分もまた小さくなっていることに気づく。
しかし今度はレイが元の姿に戻っていた。
(何なんだ ここは一体何なんだ)
エマも元の年齢に元に戻っている。
「あそぼ」
「あそぼ」
「あそぼ」
ぬいぐるみたちが二人に呼びかける。
「あなた…」
一体のぬいぐるみに向けてエマが話しかける。
「あの時の〇〇だよね?」
エマはかつて自分が昼と夜の同居する空間で会った〇〇に言われたことを思い出していた。
(「そしたらあそぼ」)
周りのぬいぐるみが、あそぼ、あそぼ、と繰り返す。
「ちゃんと”入口”から来たよ」
「私達 ”約束”を結び直したいの」
エマは周囲を観察しながら〇〇に呼びかける。
「ここは何? あなた今どこにいるの?」
「ぼくはずっとあのばしょにいるよ」
〇〇からの返答が聞こえる。
「ななつのかべのさき」
「ななつのかべのさき」
「みつけてごらん」
「ぼくを…」
辺りを観察する二人。
大量のぬいぐるみの中に、上蓋が開いた状態の昇降口を見つける。
そこを覗き込むと、下に降りるための梯子が続いている。
昇降口の入り口付近には缶詰などの食料が大量に置いてある。
さらに壁には”この先深さ注意”といった注意書きが無数に貼られていた。
「ななつのかべは」
「このなかにある」
第133話 あそぼの感想
昇降口の先はシェルター?
扉の先にあったハウスは、やはり本物ではなかった。
これが現実なのか、精神世界なのははまだわからない。
ママやコニーが出てきたことから、ここはエマやレイの記憶に基づいた形をとっているように思える。
もしそれがこの空間のルールであれば、昇降口の先にはシェルターそっくりの空間が広がっている?
そこにはユウゴやルーカスがいるのだろうか。
今のところ〇〇がエマとレイを揶揄っているとしか思えないが、この空間は昼と夜の世界に招いてもいい人間かどうかをジャッジしているような気がする。
これはあくまで勘に過ぎず、根拠はない。
入ってきた人間の記憶を使い、試験を行うイメージ?
今回は〇〇がエマとレイを相手にただ遊んだだけ。
つまり、この空間のチュートリアルみたいな意味合いなのかなと思った。
一言でいえば”何でもあり”な空間ということを知ったエマとレイは、より一層気を引き締めることだろう。
そして実際、七つの壁に行くまでの道のりも一筋縄ではいかないはずだ。
この先でエマとレイを待ち受けているものは何だろう。
体力よりは知性や精神を試されそう。
とりあえず次回、謎の昇降口の先には何があるのか楽しみ。
以上、約束のネバーランド第133話のネタバレを含む感想と考察でした。
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