第132話 誅伐
目次
第131話 入口のおさらい
儀式
エマたちはようやく発見した寺院の6つの塔の天井絵を見て、それらを全てつなぎ合わせることを思いついていた。
月の出ている夜に、金の水で満たされた容器に自分たちの血を流し入れるエマとレイ。
仲間たちがその様子を離れたところから固唾を飲んで見守っている。
そしてエマとレイは、自分たちの血を混ぜた金色の水にそれぞれヴィダを差し込む。
これで行けるの? というドミニクの質問に、一度試したからこれで行けるとドンが答える。
6つの塔の天井絵は”入口”へ入るための手順を示していると読み取ったエマたちは、絵の通りの手順を試していたのだった。
容器の前にしゃがんでいるエマとレイをギルダが心配そうに見つめている。
やがて容器に差し込んだヴィダの蕾が綻び始める。
その光景に、そろそろだ、とヴァイオレット。
「じゃあ行って来ます!」
満開に花開いたヴィダを前に、エマは仲間たちに笑顔を向ける。
次の瞬間、忽然と姿を消すエマとレイ。
一瞬の出来事に仲間たちは驚くばかりだった。
「!!? エマとレイは!!?」
「どこ!? 消えた!?」
容器に駆け寄る子供たち。
何が起こるかわかっていたドンとギルダは無言でその場に立ち尽くしていた。
扉の中へ
エマとレイは森の中に不自然に屹立している一枚の扉の前に立っていた。
やっぱりみんな消えた、とエマ。
レイは、ああ、と同意する。
「来たな またここに」
かつてこの扉を出現させる手順を試した時のことを思い出していた。
エマは扉に触れると、中央部に書いてある文字を目で追っていく。
以前扉の前に来た時と同様、その文字は全く見たことがないはずなのに、エマは読む事が出来た。
「『この先進むと引き返せない』」
「『引き返すならこの扉を今すぐこの逆側の面から開けて帰るべし』」
「『”入口”へようこそ』」
エマは遺跡で気を失った際に会った〇〇からかけられた言葉を思い出す。
(ちゃんとおいでよ つぎはいりぐちから)
その”入口”が今自分たちが目の前にしている扉のことであり、この先に〇〇がいるのだとエマは確信していた。
(”6つの天井絵”……その5つ目の天井絵は真っ黒だった)
そしてエマは自分が〇〇に会った、”昼と夜”の場所へ簡単に行けるわけではないとも予感していた。
(上等だよ)
「どんと来い!」
エマは覚悟を決めて扉を押し開ける。
(待っててノーマン フィル みんな……)
陛下と五摂家
2047年11月。
王都に五摂家の面々が集っていた。
一体の鬼、ドッザ卿がだらしなく床に腰を下ろしているのを不敬だとバイヨン卿が諫める。
陛下が来れば皆跪くから問題ないというドッザ卿の返答にいら立つバイヨン卿。
(これだから下賤の成り上がり者は…)
そんなバイヨン卿の様子を見て、親父同様堅苦しいと言葉をかけるはプポ卿だった。
プポ卿はバイヨン失踪から1年半、陛下の弟レウウィス太公もまた連絡がつかないと続ける。
「うちの息子のルーチェもノウム家のノウス・ノウマご兄妹も依然行方が知れぬまま」
ノウム卿はドッザ卿の言葉を黙って聞いていた。
ドッザ卿は同時期にここにいる面々の肉親が行方知れずになったことに対し、これは偶然なのかと疑問を口にし、バイヨンに話を振る。
それを受けて、何が言いたい? と疑問を返すバイヨン卿に、ドッザ卿が答える。
「何か? そりゃあお主の父が――」
「五月蠅い」
ドッザ卿の言葉を遮ったのはノウム卿だった。
「聞くに耐えぬ しばし黙れドッザ」
ああ? とケンカ腰になるドッザ卿とノウム卿を諫めるのはイヴェルク公だった。
「ドッザ卿も口を慎め 陛下の御成りだ」
従者を伴い、廊下から陛下がやってくる。
床に跪き、ひれ伏す鬼たち。
女王レグラヴァリマは玉座に腰をかけると、鬼たちに言葉をかける。
「面を上げよ」
第131話 入口の振り返り感想
鬼の首領と王家・五摂家の関係とは?
月の輝く夜に、血を流し入れた金色の水にヴィダを差し込むとヴィダが花開いて扉の前に飛ばされる。
ヒントがあったとはいえ、よくこの手順を試したよな~。
周りは森だったし、飛ばされるというよりも、なんというか、印象としては”裏側の世界に反転した”という感じ?
てっきり飛ばされるにしても、もっと荒地のような寒々しいところではないかと前号では想像していたんだけど、少なくとも”扉”は儀式をやったすぐそばに発生するようだ。
この先もエマとレイがやってきた世界の続きなのだろうか。
しかし気になるのは、そもそもなぜそんなところに鬼の首領がいるのかということだ。
王家・五摂家と敵対しているのかな?
ひょっとして王家・五摂家によってこの世界に追いやられたとか?
そもそも1000年前に鬼と約束を結んだ人間はこの扉から入っていったわけだから、その頃から鬼の首領は七つの壁の先にいたと推察される。
現在、鬼の世界を牛耳っている王家、つまり今回出てきた女王には約束を結ぶ権限がないということだ。
言ってみれば、鬼の首領というのは日本における天皇陛下に近いのかなと思った。
天皇陛下はあくまで最高権威者であり、内閣の行うことには口出しできない。
内閣総理大臣こそが日本における最高権力者だ。そして総理大臣が任命する大臣が各省庁の長となる。
天皇陛下の政治における主な役目は確か、内閣の作った法律を承認することだったと思う(自信ない(笑))。
つまり政治にはほとんど関われない。
法律を承認しないことでその意思を政治に反映させられるはずなんだけど、それは許されていないんだよね……。
承認するかしないかの判断は出来ず、”承認する”の一択。
その意思を制度や国の方針に反映させることはできない。
だけど、どうやら鬼の首領は天皇陛下とは違って、王家・五摂家にはない特別な権限があるということなのだろう。
鬼の社会を直接治めることはしなくとも、少なくとも約束の管理は首領の領分らしい。
約束は、鬼の社会に対して食用児以外の人間を食べないように要請するという強い影響力を持っている。
だから1000年前に、それまで骨肉の争いをしていた人間と鬼とで住む世界を分けることができた(まだそこらへんははっきりしていないが、1000年前は人間と鬼が一緒の世界に住んでいたか、もしくはそれぞれの世界を自由に行き来できたのではないかと思う)。
その代わり人間側と鬼側が協力してかどうか、その経緯の詳細はまだ明らかにはされていないが、食用児の供給制度及びシステムが作られて、鬼は人間と戦わなくとも食人欲求を満たせるようになった。
つまり食用児を生贄に、両世界は衝突することがなくなった。
この大きな転換点を生んだきっかけこそが、人間の代表と鬼の首領の間で1000年前に結ばれた”約束”というわけだ。
鬼の社会の方針を大きく変える選択が許された地位にいるのが鬼の首領。
鬼の社会を実際に支配しているのは女王と五摂家。
この関係性は個人的に興味深い。
実際にエマとレイが鬼の首領に会えたら、彼(あるいは彼女?)の食用児に対する物腰などから、また色々と推察できそうだ。
少なくとも鬼の首領は、邪血の少女と同様に人間を食べなくても形質を保てる鬼である可能性は高い。
では一体、鬼の社会とは隔離されたような世界で何をしているのか。
数々の疑問が明かされるその時が楽しみだ。
次号はいよいよ扉の先に行くのかな。
七つの壁というくらいだから七つの関門が待ち受けているような印象を受けるけど、王家・五摂家とギーラン家の戦いが近い以上、そんなに時間のかかる展開にはならない気がする。
王家・五摂家が登場
まず触れるべきは、五摂家の面々だろう。
バイヨン卿、ノウム卿、ドッザ卿、プポ卿、イヴェルク公。
バイヨンとノウム、ドッザはまだ知らないけど、猟場での鬼の貴族との死闘を知っている読者には、エマたち食用児とこの三体の鬼との浅からぬ因縁があることを知っている。
猟場のバイヨン卿は五摂家メンバーのバイヨン卿の父親であり、ノウスとノウマはノウム卿の、そしてルーチェはドッザ卿の子供というのは面白い。
猟場の貴族鬼たちは、貴族中の貴族だったんだなぁ。
猟場での戦いから1年半経過してもまだ行方不明扱いになっているということは、まだ死体は発見されていないどころか、生死すら不明らしい。
エマたちに敗れ去ったレウウィスやバイヨンたちは、崩落した猟場の底に今も埋まっているわけだ。
猟場という貴族鬼たちの社交場かつ秘密の遊び場の存在は、鬼の社会からしたらエアポケットだったということなのか。
狩りの獲物となる食用児の運搬や、滞在する館の管理運営は貴族鬼自身ではなく、下っ端の鬼にやらせていたはずだ。
つまりそこで働いていた下っ端の鬼も猟場の崩落に巻き込まれて全滅したということになる。
1年半経過して、実は生きていた下っ端の鬼が記憶を取り戻して猟場の存在とそこで起こった悲劇を報告、なんてご都合展開はないと思うが、どこかでバイヨン卿もノウム卿もドッザ卿もエマたちによって大事な家族の命を絶たれたことを知るところになる気がする。
だってそっちの方が面白そうだし(笑)。
ぜひ五摂家メンバーにはその情報を知って欲しいなー。
主人公たちへの復讐に燃える敵の存在は物語を盛り上げる。
あとレウウィスが女王の弟だったのも驚いた。
”太公”という呼称には何となく身分が高いイメージがあったけど、まさか最高権力者の弟とは驚いた。
そうなるとエマたちはバイヨン卿、ノウム卿、ドッザ卿、そして女王レグラヴァリマの肉親を奪ったことになるのか……。
この事実が鬼に知れたら、鬼との共存を望むエマにとっては、その道が困難になることは間違いなしだろう。
エマの危惧した人間と鬼との戦いで生じる憎しみの連鎖に、すでに自身もガッチリと組み込まれていたわけだ。
それを知ったエマが一体どういう反応を示すのか。
怒り狂ったレグラヴァリマたちを前に何を主張するのか。
すげー楽しみになってきた(笑)。
あとレウウィスが女王の弟だとわかったことで新しく明らかになったのは、女王もまた、1000年以上生きているということ。
レウウィスは1000年前に約束が結ばれる以前、人間との命を懸けた狩りの日々を懐古していた。
つまり1000年前からずっと生きてきたということだ。
約束が結ばれた頃から女王が現在の地位だったのかはまだはっきりしないが、今のところ1000年前から女王だったのではないかと予想している。根拠は特になし(笑)。
少なくとも五摂家はギーラン家が陰謀によって没落したことで、少なくともその椅子の一つは入れ替わりがあったはずなんだけど……。
新しく五摂家の中に入ったのはドッザ卿かな。
バイヨン卿が『下賤の成り上がり者』と称しているし、今まで物語に出てきた情報を素直に組み合わせるなら700年前のギーラン家との入れ替わりは多分ドッザ卿だろう。
この見立ては結構有力だと思うけど、何分まだ数ページしか出てきていないので、ぱっと見の第一印象なども含まれる以上ムダな考察になるかもしれないけど、でもそれが楽しい(笑)。
前回第131話の詳細はこちらをクリックしてくださいね。
第132話 誅伐
誅伐隊の決起
女王の従者は、目の前でひれ伏している五摂家に、一堂に集めた理由は”最近の農園の盗難を収拾させるためだ”と告げる。
「よい」
面を上げよ、と女王。
ノウム卿は、各地の農園で連続して起こっている盗難について説明する。
ここ半年で増加した盗難は、各地に人肉の不足を招いた。
現状では他の農園からの供給により何とか対策しているが、局地的には民の不満が高まっているのだという。
イヴェルク卿がその流れで、兵による鎮圧の必要性を女王に提言する。
「この通り 特にノウム・バイヨン両卿の領地は被害が大きい」
そう発言したのはドッザ卿だった
ノウム卿は思わずドッザ卿に視線を走らせる。
「実に災難お察し申し上げる」
ドッザ卿のあまりにも白々しい態度を受け、ノウム卿は明らかに苛立っていた。
問題はラムダやその系列農園が複数が破壊されている事実だとバイヨン卿。
「陛下・諸兄の損害も馬鹿にはならぬでしょう」
本当に深刻なのは、その手口が完璧なことだとイヴェルク卿が続く。
農園破壊の手口は、農園内部や警備態勢を詳細まで知っているかのように抜かりがなかった。
しかし、明らかに知脳の高いラムダやその系列農園を襲っている傾向が見られる。
イヴェルク卿はこれを、新手の盗難賊徒、と結論づける。
犯人が誰かはわからないが、少なくともラムダやその系列農園の人肉を食べているなら、その知や力は決して下等とは言えず、自分たちに仇を為す一大勢力である可能性に言及するのだった。
「げにゆゆしき」
事態を重く見た女王が続ける。
「いずこの輩も謀叛は赦さぬ 見つけて捕えて討ち尽くす」
王都では”誅伐隊”が組織されつつあった。
王都の全軍で組織された誅伐隊は、既に向かわせる先の目星がついているのだという。
「誅伐じゃ 儀祭(ティファリ)までには片をつけよう」
女王の指令は、あっという間に誅伐隊を王都から進軍させていた。
王都で起こった変化を、王都を望遠鏡で監視していた楽園のメンバーが手紙をくくりつけたフクロウを飛ばしヴィンセントに伝える。
それを読んで一言、動いた、とだけノーマンに向けて報告する。
よし、とノーマンがチェス盤上のコマを動かす。
「まず一手 計画通りだ」
読み通り
白いコマは規定のコマ数だが、相対する黒いコマは陣地に隙間なく並べられている。
ノーマンは、自分たちが農園を襲い、人肉の供給が滞れば、民の不満が高ま理、王がその対策や鎮圧に動かざるを得ないことを読んでいた。
自分たちの目的は王家及び五摂家の全員の首であり、そこにギーランをぶつけるためには王たちの兵力が邪魔だったのだという。
ノーマンはたくさんあった黒いコマのいくらかを盤上から取り除いていく。
「これでまず兵力を分断できる」
王たちは農園を破壊したのは食用児であることを知らずに、いるはずがない鬼の犯人という幻影を追う。
ノーマンは、ラムダを破壊した際に支援者スミーが、ラムダを破壊したのを鬼に見せかけるように細工したからだと呟く。
ヴィンセントは、襲った農園の位置などから鬼たちが自分たちのアジトを絞り込んでいるとニヤリと笑う。
「そうボスに誘導されているとも知らずに」
ノーマンは、楽園の位置は王たちにバレることはないと確信していた。
そして、王の兵が向かう先は別の場所だと続ける。
ラムダや系列農園を食われたら、王たちがその犯人を制圧するために最大限の派兵を行うとノーマンは読みきっていた。
「それでいい…… その兵は賊徒(ぼくら)を討つことはできない」
「折しもじき儀祭(ティファリ)」
王家・五摂家が王家に一堂に会する祭事の時期にあたるが、王都から多く出兵させることができたので、王とは例年になく手薄な警備になるとノーマン。
それじゃあ、と表情を綻ばせるバーバラ。
「決行は8日後 儀祭の最中 王・貴族を殺す」
ノーマンの宣言に、バーバラとシスロはにわかに色めき立つのだった。
「あと8日… 8日後には現実が一つ変わる…!」
興奮するバーバラ。
「ゲームスタート」
ノーマンは、次の一手を指そう、と言って自陣の白いコマを動かす。
「あとはアレだ ”邪血”の問題をどうするか」
ヴィンセントの一言が緊張感を走らせる。
”邪血”の生存は自分たちの計画の成就を妨げると言うヴィンセントに、ノーマンは勿論既に考えてあると答える。
何も知らないハヤトがドンとギルダの元に来ていた。
ハヤトはノーマンが呼んでいることをドンとギルダに伝える。
扉の先
扉の先に足を踏み入れたエマとレイは、目の前に広がる光景に、ただただ呆然としていた。
自分たちは”七つの壁”を目指して”入口”の扉を開けて入った、とレイがエマに確認する。
「つまり扉の先だよな?」
エマはそれに同意して、天井絵では真っ黒だったところだよね、と問い返す。
「じゃああれは何だ」
レイは、ただただ戸惑う。
「わかんない… どういう…こと?」
困惑するエマ。
「GF…ハウス?」
二人の目の前には、GFハウスがあった。
第132話 誅伐の感想
一体何が起こっている?
エマとレイが扉の先で目撃したのは何とGFハウス。
ただそっくりな建物が立っているだけなら一瞬驚くだけで、次の思考に移れるだろう。
しかしただ驚いているだけの様子から、周囲の敷地までも同じなのだと思う。
これは本当にGFハウスに通じていたということなのか?
てっきり扉を開く人によって行き先が違うのだと思っていたけど……、ひょっとして扉の先がGFハウスのある位置であることは決まっている?
つまり、GFハウスの建っている位置が特殊ということなのか?
まだ情報は全然出ていないので、実際は精神だけが目の前の光景を見ているなどのオチが無いとは言い切れない。
8日後
思ったより時間が無い。
ノーマンが女王と五摂家を誅殺する予定の8日後までにエマとレイは帰ってこれるのだろうか。
今の所、全てはノーマンの読み通りに動いているから、おそらく8日後というタイムリミットも正確と見て良いだろう。
ノーマンは、8日後に儀祭が予定通りに執り行われると読んでいる。
もし兵が出兵して王都の守りが薄くなったことで儀祭を延期しようものなら、女王の権威は毀損するだろうから決行するだろうという読み?
果たしてノーマンには局面がどこまで見えているのか。
現実はゲームでは無い以上、往々にしてイレギュラーは発生する。
コメントを残す