第9話
第8話のあらすじ
鉄格子越しに口づけを交わすひなたと楓。
二人は鉄格子の内側で会話していた。
楓はこれまで付き合ったのは50人で、その内訳は同年代からおばちゃんまで幅広いことをひなたに告白する。
そして、ひなたの、つきあうという感覚がまだわからない、という言葉を楓は肯定する。
しかしひなたは楓が朝、自分と心中してもいいと言っていたと指摘し、一緒に死ぬことこそ独占欲のかたまりではないかと問う。
楓はそれに対し、死んでもいいくらい好きってことだが、誰が誰を好きでもよく、死んだら結局は別々だ、と答える。
そして唐突にブルーハーツのリンダリンダの歌詞を諳んじていく楓。
楓はそれが大昔に『男』が作った詩であり、檻に入れられてきた『男』が代々歌い継いできたのだと説明する。
その冒頭の歌詞を復唱し、いい詩、と評するひなた。
檻の外に猪の姿を見つけたひなたは、急いで扉を閉じる。
ひなたは、猪の駆除が終わったら家で歌を聴かせるという楓の申し出を無邪気に喜んでいた。
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第9話
下校
教師が校内放送で全生徒に猪が侵入した事、猟友会が駆除にやってくる事を伝え、速やかな下校を促す。
女子生徒たちは特に慌てた様子もなく、帰り支度をして下校を開始していた。
撃たれても責任が持てません、という放送に対し、教室にいた方が安全じゃないの、と突っ込む女子生徒。
帰り支度をし、下駄箱でどこに行こうかと相談している女子生徒は、候補に産婦人科を挙げる。
「産んじゃうわけ?」
「懲役免除でしょ。」
「究極の選択だよねー。」
運動場の鉄棒のあたりでたむろしている女子生徒たちに教師が、帰りなさい、撃たれるわよ、と注意する。
注意された女子生徒はうるせえよババァ、とぼそっと捨て台詞を吐く。
「教諭あの、軍の越権行為じゃないでしょうか。」
さきほどから校内全体に向けて帰るように促している教師に、別の若い教師が問いかける。
「あなた、この世界で生きたけりゃ『見ざる言わざる聞かざる』よ。」
そう言って、教師は女子トイレを見回り、まだ残っている女子生徒に帰るよう命じるのだた。
檻の前から猪が一向に去らないので、ひなたと楓はまだ檻に閉じ込められたままだった。
「まいったね。」
「しつこいね。」
ひなたは、満足させれば去ると考え、弁当の残りをあげていた。
しかし猪は変わらず檻の前からどく気配がない。
「余計なついちゃった。」
含み笑いをする楓。
「『オス』にもモテるのね~」
それをひなたは、言葉に気をつけた方がいい、と注意する。
「何でも言える楓を尊敬してるけど、ホントに危険だからさ…心配なんだよ。」
わかってる、と楓。
「その度に転校してるからね。」
こわくないの? とひなた。
「まあこわいけど。間違ってるのは社会だからね。」
楓が逮捕されたら先ほどの歌が聴けなくなる、というひなたに楓が、それか、と突っ込みを入れる。
猟友会
車が校内を徐行していく。
「いた…」
運転手たちは檻のそばに目標の猪と、そして二人の女子生徒を確認する。
「あれ? ヒト科のメスも2匹、檻の中にいるぞ。」
髭を生やし、まるで男のような外見の人物が運転席と助手席にいる。
「なんだよ 学生全員排除できてねーじゃん。」
助手席の人物は猟銃を持ちながら、呟く。
応援呼ぶか? と運転席の人物。
助手席の人物はそれを断り、と猟銃に弾を込め、照準を合わせる。
「猪に当たればいいんだろ。まあ、所詮ヒト科のメス2匹だし。」
助手席の人物は、一撃で猪を仕留める。
運転席の人物は無線で一匹は捕獲したが、もう一匹に関しては足跡が消えたと報告している。
「キミ達ダメじゃん。」
猪を仕留めた人物が檻に近づいていく。
「下校の連絡あったよね?」
アナウンスは聞いてたが、檻に閉じ込められていた、と楓。
すぐ帰ります、とひなたも続く。
「なぜ檻に入った? そこに誰がいたか知ってるよな。興味があったのかな?」
いえ、何も、とひなた。
「私たち帰りますんで。」
「キミらの年頃なら興味はあるか。」
猪を仕留めた人物がさらに問いかける。
「ヒゲの生えた女はめずらしい?」
「……いえ。」
その人物は他に銃を持った仲間がうろついていて危険だし、足が悪いなら送っていくと楓に申し出る。
「……大丈夫です。友達と帰りますから。」
「ダメダメ。仲間といっても粗暴な連中ばかりで何するかわからない。」
だったら一緒に送ってもらおうよ、とひなたが口にするが、猪を仕留めた人物は冷たい言葉を浴びせる。
「キミは歩けるでしょ?」
「……はい。」
じゃあまた明日、と楓は車に乗り込む。
『男』
ひなたは水道の蛇口の栓を閉じる。
「帰るか。ひとりで。」
楓の唇の柔らかさを思い出しながら校庭を歩いていると、声が聞こえる。
「…助けて。」
振り返るひなた。
(…猪はさすがにしゃべらないし。)
声が聞こえてきた方向に足を運び、確かめる。
「……誰かいます?」
そしてひなたは、積まれたタイヤの間に腰を下ろしている人物を発見する。
「誰!?」
「誰って 僕を知らないの?」
その人物は座ったままひなたの質問に答える。
「僕は、『男』だ。」
見つめ合う二人。
感想
閉塞感
ここにきて、この世界のきな臭さ、危うさがより濃く立ち込めてきた。
閉塞感
ここにきて、この世界のきな臭さ、危うさがより濃く立ち込めてきた。
言論弾圧があるのはわかっていたけど、下手すると命に関わるかもしれない。
楓は何でも言ってしまうことが原因で何度も転校したのだという。
転校で済むと考えるべきか。
いや、楓が触れていた通り、ある主張が目立っているだけで転校せざるを得ないようなこの世界の方がおかしい。
滅びゆく世界だからこそ、統制が厳しいということなのか?
それともまた別のところに理由があるのか。
『男』?の登場
これまで丁寧に世界観の構築が成されてきたが、ついにここにきて物語に動きが出てきた。
これまでひたすら『男』が絶滅した世界が描かれてきたが、それを打ち破るキャラの登場だ。
絶滅したはずの『男』がなぜこんなところに……?
ここまでの物語の常識では、そもそも『男』が存在することがおかしいし、それになぜ学校の敷地内に、裸足で上着(セーター? ニット?)だけのまるで無防備な恰好でしゃがみこんでいるのか。
いきなり謎だらけ。
この人物は『男』を自称しているけど、実は『男』ではないとか?
猟友会のハンター二人は外見は髭も生えていたし、かなり『男』っぽかった。
現在でも女性を男っぽく、男性を女っぽくするホルモン治療? があるらしいから、この世界でもそういう技術がもっと進歩した形で存在してもおかしくない。
ちなみに猪を仕留めたハンターはやけに楓だけを車に乗せたがっていたけど、何か嫌な感じがした。
あの二人のハンターの会話を見るに、彼女らは決してモラリストというわけでもなさそうだ。
歳の割りには経験豊富で、色気がある楓に対して何か良からぬことを考えていそうな感じがする。
単なる杞憂ならいいんだけど、もし何かあったなら、今回の『男』の登場といい、物語の動きが激しくていい感じだと思う。
果たしてこの『男』はなぜこんなところにいたのか。
そもそも彼は本当に『男』なのか?
かなり楽しみ。
以上、たかが黄昏れ第9話のネタバレを含む感想と考察でした。
第10話に続きます。
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