第112話 追悼
目次
第111話のおさらい
地下道で就寝中だった子供たちは、ドミニクとアリシアがいないことに気付く。
荷物や武器がないことから、シェルターに向かったと判断したエマたちは銃で武装して地下道の外に探しに向かう。
外に出た途端、響く二発の銃声。
二人の仲間が森の中で立ちすくんでしるドミニクを発見する。
恐怖に表情が固まっているドミニクに近づいていく仲間の一人の頭に突如銃弾が命中する。
ドミニクの元に駆け付けたエマたちをアンドリューが発見する。
仲間を撃ち殺したのも、ドミニクの足を撃ったのも彼の仕業だった。
そしてアンドリューは、アリシアを人質にとっている。
ドミニクはその場から逃げ出そうとするが、足に銃弾がヒットして地面に転んでしまう。
エマたちは、顔が陥没しているアンドリューの異様な姿を前に呆然と立ち尽くしていた。
そんなエマたちにアンドリューはアリシアのこめかみに銃口を押し付けてみせて、跪くよう要求する。
アンドリューの要求に従い、銃を捨て、両手を挙げて正座するエマたち。
しかしザックやオリバーは少し離れた場所からその様子を見ていた。
レイはオリバーに視線を送る。
意図を察したオリバーは一つ頷いてみせてから静かに動き出し、アンドリューの背後に回っていた。
しかしその動きを察知していたアンドリューが背後のザックたちに向けて銃を撃つ。
アンドリューは怒りに震え、地面に倒れていたドミニクを蹴る。
ドミニクの悲鳴を合図にしたかのように、エマたちは一斉に目の前の銃を手に取りアンドリューに銃口を向けることに成功する。
アンドリューもまたエマたちに銃口を向ける。
そして余裕の表情で、君には撃てない、と笑う。
エマはアンドリューから名前を呼ばれた驚きに固まっていた。
アンドリューは、フィルに会ってエマのことを訊いたと言葉を続ける。
そしてエマたちのことを愚かしいほどに優しく家族思いだと言って、ニヤァと口元を歪める。
シェルターにユウゴとルーカスの様子を見に行こうとしたアリシアたちは銃を構えたアンドリューと接敵していた。
仲間の男の子二人がアンドリューを足止めし、女の子はアリシア、ドミニクと逃げる。
しかし三人の仲間は皆アンドリューを撃つ事が出来ず、ほぼ無抵抗で殺害されていたのだった。
憎むべき敵である自分を思いやるあまり、逆に自分に殺されてしまった子供たちのことを笑うアンドリュー。
ドンとレイが怒りに顔を歪める。
さらにアンドリューはユウゴとルーカスにも言及する。
死んだよ、というそのシンプルな言葉に、エマたちの時間が止まる。
アンドリューはあの二人は強かったとしながらも、互いを思いやるあまりに無駄に負傷し、結果自分たちもろともシェルターで自爆したにも関わらず自分だけは生きていると狂ったように笑う。
エマは歯を食いしばり、アンドリューに銃口を向ける。
しかしアンドリューは、撃てないよ、とエマの行動を見透かすように呟き、全く怯まない。
「私は人間で 且つ撃てば私はこのガキ共を殺す」
エマは銃を構えたまま固まっていた。
その視界ではアリシアが銃口をこめかみに突きつけられて泣いている。
「さぁ!」
アンドリューの一言を合図にしたかのように一発の銃声が響く。
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第112話 追悼
決着
アリシアを人質にとり、多数の子供たち相手に自分が優位であることを確信していたアンドリューは子供たちに向かって、天は自分の味方だ、と笑う。
ユウゴやルーカスの死、そして子供たちを残忍なやり方で殺害した憎むべき相手にもかかわらずエマたちはそんなアンドリューの高笑いを前に何もできずにいた。
怒りで半ば衝動的に銃口をアンドリューに向けるエマ。
その瞬間、アンドリューの肩、手、肘が正確に撃ち抜かれ、アリシアが解放される。
正確無比な射撃を見せたのはオリバーだった。
何が起きたかわからず、一瞬その場に立ち尽くすアンドリュー。
その隙にザックがオリバーの背後から駆け出し、アシリアを救いに向かう。
アンドリューは銃弾の飛んできた方向で自分に向けて銃口を向けているオリバーに気付く。
オリバーは冷静さの中にも怒りを滲ませた様子で銃を構えていた。
その脳裏に射撃の技術を教えてくれたルーカスやユウゴとの思い出が甦る。
(俺達をナメるなよ!)
その気迫を感じ取り、舌打ちをするアンドリュー。
エマはアンドリューの足元で倒れているドミニクを救うために走り出していた。
しかしアンドリューはエマの接近に気付き、ドミニクを踏み殺しにかかる。
アンドリューの思いっきり振り上げた足がドミニクの背中に向けて下ろされようとしていた。
その光景に、レイはユウゴとの別れ際の会話を思い出す。
(「子供が背負う必要はねぇ」)
(ごめんユウゴ)
レイはアンドリューの額を狙う。
(背負う覚悟はもうできている!!)
しかしレイは何かに気付き、引金を引かない。
エマたちに向けて罵詈雑言を吐き散らすアンドリューの背後に、大顎を開いた野良鬼が接近していた。
エマはドミニクを抱き、鬼から逃げるためにアンドリューから飛ぶようにして距離をとる。
アンドリューは振り向いて鬼の接近に気付くも、既に逃げる余裕はなく、上半身から野良鬼に食われてしまう。
アンドリューの悲鳴が上がる。
エマたちはその隙に洞窟まで撤退するのだった。
訃報を知る子供たち
洞窟に帰り着いたエマたち。
アンドリューによる犠牲者たちの躯は回収され、顔に布をかけられて仰向けに寝かされていた。
洞窟で待機していた子供たちはエマたちからユウゴとルーカスの訃報を知る。
「立派な最期だった 俺達を守って最期まで――」
オリバーの一言。洞窟内は静まり返っていた。
ジリアンはルーカスやユウゴと過ごした楽しい日々を思い出していた。
そして、その二人はもういないことを実感し、大声を上げて泣き始める。
それが呼び水となり、子供たちの間に悲しみが広がる。泣きだす子供たち。
ポーラは泣いているジリアンを抱き締める。
「いいよ今だけは泣こう 今だけは」
慟哭が洞窟内にこだまする。
エマは一人、歯を食いしばって悲しみに抗っていた。
真相
レイは一人森の中を探索していた。
そして樹上に”目標”を見つける。
見事に矢で打ち落としたのは、フクロウ型のカメラだった。
カメラを洞窟に持ち帰ったレイは、なぜアンドリューが自分たちの位置を補足できたのか、そして監視カメラの死角を縫ってシェルターが強襲されたのかという疑問の答えだと結論付ける。
「もっと早く気づくべきだった 思えばこいつはずっと近くにいた 尾行されていたんだ…!」
そしてレイは、既に仮の住まいとしている洞窟もラートリー家に割れている可能性を考慮して、洞窟の投棄を主張する。
住む場所もなしに、これから一体どこに行ったらよいのか、とギルダ。
ナットが、あてもなくさまようのか、とあきらめ気味に呟く。
立ち直る
「オリバー」
エマはここがよい機会とばかりにオリバーに目線を送る。
オリバーはルーカスから渡されたメモを全員に見せて、その内容を説明するのだった。
ミネルヴァ、もしくは支援者、つまり味方が生きている可能性に徐々に元気を取り戻していく子供たち。
しかし安全を確保できる住居を失った事実に変わりはなかった。
「家も仲間も奪われた 大人達も…」
黒い短髪の少年が泣く。
「苦しい…! 悔しい…! 俺達に安息の生活はないのか…!」
彼の苦しい胸の内を吐露する言葉に、子供たちはただ黙って意気消沈していた。
「うん ないよ」
そんな空気を打ち破るかのような明るい調子でエマが少年の言葉に同意する。
「だからそれを手に入れるために私達は戦っているんだ!」
笑顔で言い切るエマを、子供たちは呆然と見つめている。
エマはフィルと約束した2年という期限まで残りがあと2か月だと強く意識していた。
「あと2か月 それまでに必ず世界を変える」
(「お前達なら世界を変えられる」)
ユウゴからもらった言葉がエマを奮い立たせていた。
「私達ならできる やるんだ!!」
悲しみに沈んでいた子供たちはいつしか全員が、背筋を伸ばして主張するエマに向き直っていた。
「ユウゴ達の分まで!」
頷く子供たち。
そしてエマは、そのためにルーカスの遺したメモの場所へ全員で行こうと続ける。
生きていた
「あの放送 あのシェルターにも届いたかな」
その呟きに、黒いスーツに眼鏡の男が、そのはずだ、と同意する。
「始めるぞ ジェイムズ」
感想
突破したものの……
とりあえず、これ以上仲間を失わなくてよかった~。
前回は読後感がきつかった。子供たちの行く末が気になっている人ほど読んでて辛かったのではないか。自分もどっちかといえば、確実にそっち側だと思う。
だからこそ気になってしょうがなかったわけだが。
アンドリューの末路は哀れなものだった。
本来、人間として倒すべきは鬼だというのに、任務とはいえ子供たちを保護するどころか容赦なく殺戮した、その報いを受けた。
まさか子供たちは鬼に救われることになるとは思っていなかっただろう。
具体的な年齢は明らかにはされていないけど、この集団の中ではどうも最年長っぽいオリバーが見事にやってくれた。
その冷静さは猟場でリーダーとして長年やってきただけある。さすがだわ。やはり頼りになる。
ただあれだけ何人も自分たちの仲間が無残な形でアンドリューの犠牲になったにもかかわらず、最後まで誰も憎むべき敵の命を絶てなかったというのは気になる。
確かに子供たちの倫理面というか、心は守られたんだけど、今後また人間の敵に遭遇したらどうなるのか。
今後のためにもここで誰かが「背負って」おくべきだったのではないか。
正直、この先のサバイバルに不安は残る。
多分、この分だと白井先生は子供たちに殺生はさせないつもりなのではないか。
子供たちが主な購読者だし、自分たちが生きるためとはいえ、主人公たちがあまりバンバン他人を殺しまくるというのはよくないよね……。
漫画デスノートだって主人公は人を大量に殺害するけど、最終的には仲間だったキャラに殺されて報いを受けた。
今アニメやってるけど、からくりサーカスで主人公の仲間として活躍するキャラも、非常に魅力的だが殺人を犯した過去のあることが明らかなキャラは、やはり最終話前までに死んで物語から退場している。
少年漫画において、いや、よく考えてみればこうしたフィクションにおいて、殺人を犯したキャラは何の報いも受けずにのうのうとは生きていられないと考えるべきだろう。
社会的影響を考慮しなくてはならないという面はおそらくあると思う。
作者の価値観からか、それとも編集からのアドバイスからかは作品によって変わってくるのかもしれないけど、フィクションを作るうえで確実に守るべき一線というものが存在している。
人間を殺す覚悟ができず、実際に実行もできないというサバイバルにおいて不利な点に関して、逆に、エマたちが最後までまともな形で生き残る可能性があるのだと前向きに受け取りたい。
今後、対人間の殺生をしないというのは一種の縛りプレイということで、ハラハラ要素が増えたと思うようにしていっそ楽しもうと思う。
……なんか漫画業界の暗黙のルール的を探るような、メタな視点からばかりの感想で正直どうなんだろう(笑)。
訃報
アンドリューによる子供の死はエマたちを打ちのめした。
そこに、これまで頼りにして来たこのグループの支えであるルーカスとユウゴの訃報。
最後まで彼らの生存を信じたかった子供たちが悲しみに暮れる様子は見ていて辛い。
泣きの表情がマジで悲しそうなんだもの……。
彼らの悲しみの大きさは、ルーカスやユウゴを慕う気持ちの強さの裏返しでもある。
子供たちは賢いので、ルーカスやユウゴの気持ちを無駄にしないためにも生きるための行動を決して止めないだろう。
フクロウのカメラ
武装集団が子供たちに気づかれることなくシェルターを強襲し、またアンドリューがエマたちを追ってこれたのもフクロウのカメラのせいだった。
確かに、森に逃げるエマたちを追うようにフクロウが飛んでいる描写があった。
あれは伏線だったのかぁ……。正直全く気付けなかった。
つまり、そのくらいの技術がある世界ということだ。
2046年の話だし、2018年よりもより高度な技術であってもおかしくない。
そもそもエマたちを導いているペン型端末だって、かなり高度な技術が詰め込まれたアイテムだし。
猟場のシステムも高度に見えたし、ラムダの施設ではおそらく食用児を改造する人体実験らしきものが行われているようだが、そこでの研究だって相当高度な技術力でもって運営されているのではないか。
今後もエマたちはフクロウのカメラのような技術の警戒をしなくてはならないってことか。
レイはよく気づいたなぁ。
このグループの頭脳、いやそれ以上の働きだと思う。
今話におけるオリバーに次ぐファインプレイだわ。
そして、ただでさえ鬼が生息する世界で生きることが大変なのに、こうした技術力を駆使して追ってくる人間の存在が露わになったことで、エマたちの生存がより難しくなったということでもある。
でも逆を言えば、今回生存が明らかになったミネルヴァたちと接触すれば、高度な技術を自分たちの目的遂行のために活かせる可能性があるということだ。
ジェイムズはどこかの基地に潜んでいるっぽいので、人間の世界で常に技術の供給を受けられるピーターたちよりも技術面で不利である可能性は高いと思う。
でもエマたちは銃器と生活物資しか持っていないし、生存確率を上げていくためには支援者の生き残り及びジェイムズに会うことは彼女たちの急務となってくるだろう。
目的地へ
ミネルヴァ……ジェイムズ=ラートリーはどうやら生きていたようだ。
それに少なくとももう一人仲間がいるようで、エマたちはそれをまだ知らないけど、仲間も棲み処も失い、絶望しかけている彼女たちの行く末に光が差してきたと言ってよいだろう。
とはいえ、まだまだエマたちの苦労は続く。
とりあえずの住居もフクロウのカメラのせいであっという間に投棄する羽目になったことで、仮住まいを探さなくてはならない。
しかし読者視点ではジェイムズが生きてるということが分かっているけど、エマはそれを知らないのに絶望に呑み込まれず、前向きに仲間たち全員に道を示してみせた。
やはりリーダーとして立派なものだと思う。
次回以降は全員でルーカスの遺したメモの場所を目指すわけだ。
目的がはっきりしていてよい。
いきなりジェイムズか、もしくは支援者と接触できるサクサクの展開なのか。
それともまた一悶着あるのか。
少数での行動ではないから、今回のように野良鬼に発見されたらかなりまずいだろう。
エマたちには可哀想だけど、でも緊張感のある展開だと読んでて楽しいんだよなー。
次回以降の展開に期待したい。
以上、約束のネバーランド第112話のネタバレを含む感想と考察でした。
第113話に続きます。
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