第102話 見つけたよ
第101話のおさらい
シェルターを出て52日、目的地であるD528-143に着いたエマたちの前には遺跡が広がっていた。
クヴィティダラの竜の目で昼と夜を探すべし
一行は古文書にあったこの一節を思い出し、竜の目とは何なのかという疑問のヒントを遺跡に見出そうとしていた。
そんな中、エマは石柱の内の一つの壁に掘り込まれた矢印を見つけて、その先にあった石壁に目の様な文様を発見する。
気づけばエマは空を見上げていた。
大きな竜の様な生物が空を飛んでいる。
同時に、エマの脳裏に次々とイメージが流れ込んでくる。
それらのイメージから、エマはある仮説に至ろうとしていた。
そこに突然、かこのこうけいだよ、と声がかかる。
『いまきみはみているだけ』
『ちゃんとおいでよ つぎはいりぐちから』
再びイメージに囚われるエマ。
夜のように暗い海のような地平とは逆に明るい空という光景に、古文書にあった”昼と夜”のことなのかと思い至る。
『ここはなにもないけどなんでもある』
『いりぐちはどこにもないけど どこにでもあるから』
エマは子鬼に向かって手を伸ばすが、小鬼によって一瞬で吹っ飛ばされる。
エマは宙を舞いながら、”昼と夜”の世界にぽつんとある建物や、黄金の水の上に浮く岩を視界に捉えていた。
そして、エマの意識は急速に現実へと引き戻されていく。
ヴァイオレットが、しっかりしろ、とエマの頬に平手を食らわせる。
エマは他のメンバーに、さきほどのイメージを見たかと確認するも、芳しくない反応から先ほどのイメージを得たのが自分だけだったことを知る。
石柱の内の一つによじ登り遺跡を見下ろすエマ。
辺りを俯瞰すると、遺跡が目の形をしている事に気付く。
(やっぱり夢なんかじゃない)
エマは先程見たイメージには意味があると確信する。
エマはレイに、自分が見たさきほどのイメージや、昼と夜が一緒になった場所を目撃したことを告げる。
そして、七つの壁を越えた先にいるとされる鬼の首領にも会ったと続ける。」
エマはムジカからもらった目の如きデザインのペンダントを持ち、それをじっと見つめる。
そして昔の方が現在の遺跡よりもペンダントの形が似ていると感じていた。
そして、ムジカからもらったこのペンダント――”お守り”は一体何なのか、そもそもムジカとは何者だったのかと考えていた。
そしてエマは少なくとも先程見たイメージの中に七つの壁に辿り着く為のヒントがあるという結論に行き着き、他のメンバーに見たもの全てを話すのだった。
しかし、”どこにもないけどどこにでもある入口”という謎を解くことが出来ず、レイは一旦シェルターに帰る事を提案する。
”北へ10里 東へ10里”といった伝承の続きの部分の謎解きが分かるかもしれないので、一度シェルターに戻り今度は黄金の水があった場所であるゴールディポンドを調べようと今後の方針を定める。
かくして一行はシェルターへの道を戻るのだった。
既に脱獄してから3カ月半を経過しており、エマはタイムリミットを強く意識していた。
往路で52日間、復路でも同程度日数がかかるとすればシェルターに帰る頃には脱獄してから半年となる。
(あと一年半 一年半以内に必ず――)
『おいで』
子鬼は背後に竜を携えて呟く。
『おいで』
前回第101話の詳細はこちらをクリックしてくださいね。
第102話 見つけたよ
鬼の街を駆け巡る噂
鬼の街。
市場らしき場所を鬼や小鬼が往来する。
街中では密かに、農園が襲われたという噂が流れていた。
バイヨン領の量産農園が二つ、”奴ら”による盗難に遭ったのだという。
高級農園の肉を食わせろという不満を持っているという”奴ら”は、しかし高級農園の警備の固さのため、量産農園を襲っているのだと街の人々に解釈されていた。
「要はお貴族様への鬱憤が晴らせりゃいいってことか」
「バイヨン家もおかわいそうにな」
「ご当主様が失踪されてからもう一年以上だ」
時間は既にGP崩壊から約1年7カ月後となる2047年9月まで経過していた。
噂の中には、バイヨン失踪の原因を、その直前にGF高級農園から脱走した食用児の集団と結び付けて考える者もいる。
しかし、そもそもそれから二年もの時が経過しているので、脱走した食用児たちの生存は信じられていなかった。
成長
シェルター。
ソーニャ、ロッシー、ナットがモニタールームで周辺を監視している。
異常なし、とソーニャが判断を下し、狩りに出られることをロッシーがオリバー、ドミニクらの狩り組に伝える。
GF農園を脱出してから1年8カ月が経過した現在、誰ひとり欠けることなくシェルターのメンバーたちは日々を生きていた。
鬼やラートリー家の追っ手に見つかるリスクを抑えるため、シェルター内に畑を拡張するなどの工夫をして、シェルターを守るという高い意識を見せる子供達。
しかし、支援者からの連絡は最後に通話して以来途絶えていた。
”七つの壁”探しは続いている。
2046年7月、クヴィティダラからシェルターに戻ったエマたちは、早速エマの見たという寺と金色の水がある場所を割り出そうと、寺に関する記述のある書物を片っ端から調べた。
エマの見た景色と寺の形を地形や文化圏などと照らし合わせていくことで得られた情報を元に、その半月後、エマたちは再度旅立つ。
「まず東側 確かめたらまた一度戻ってくるから」
その7か月後となる2047年2月、何も成果を得られなかったエマたちはシェルターに戻ると今度はすぐに西側の候補地を割り出す。
そうして得られた情報は、金の水の場所候補地は7か所、寺は3か所。
寺に候補地は全て、なんと鬼の街の中にあったのだった。
潜入
鬼の人混みの中に、やはり小さな鬼の集団が街を行く。
その鬼の集団は他の鬼とは違い、服の裾が地面に着くほど長く足元が完全に隠れている。
その集団がすれ違った子鬼は、食用児の腕だけが詰まっている透明な容器を両腕で抱くようにして抱えていた。
「このお肉も量産肉なんだよなぁ…」
その子鬼は容器を持ち上げ、中をじっと見つめる。
「俺達食べたことどころか見たこともないんだよなぁ 高級農園の人肉」
「美味いのかなぁ やっぱり違うのかなぁ」
そう呟きながら子鬼は歩いていく。
その子鬼の後を歩く、さらに幼い子鬼は、ふと振り返る。
するとちょうど、すれ違っっていった集団の中の一人の鬼の服の裾がふわっと持ち上がり、自分とは全く違う形の足を目撃するのだった。
「兄ちゃん へんな足! へんな足!!」
幼い子鬼は、前を行く兄の子鬼の服を引っ張って、すれ違った鬼の集団を指摘する。
あれぇ? と幼い子鬼。
兄が振り向くと、そこには既にだれもいなかった。
全力で駆けていく鬼の集団。
警戒するように、壁に背をつけて周囲を窺う。
「急ぐぞ」
その中の一人が呼びかけ、その後、集団は何事もなく門を出ていく。
集団は、門から離れた大木のあたりで足を止める。
「危なかった……!」
仮面を外したエマが呟く。
小鬼の集団は鬼に変装していたエマ、レイ、ドン、ギルダ、ザック、ヴァイオレット。
エマたちは鬼の面を被り、足元が見えなくなるくらいに裾の長い服を着て、鬼の街に潜入していたのだった。
歩き方には気をつけようってあれだけ言ったのに、とギルダがドンに注意する。
ごめん、と眉根を寄せ、頭をかくドン。
まぁまぁと二人を諫めるのはザック。
エマはナイジェルたちに作ってもらった変装が全くバレなかったことを喜んでいた。
レイも、仮面を見つめながら感心している。
「けど あの限られた資料からこの出来… GV組ヤベェな ダテに猟場で鬼の研究しまくってねぇ」
成果
シェルターに戻ったエマたち。
その表情は明るい。
同じく笑顔でエマたちを迎える子供達。
留守にしていた間、誰ひとり欠けていないことを確認する。
「それで? どうだった? あったのか?」
ユウゴが緊張を滲ませてエマたちに問いかける。
ニッと笑うエマ。
「見つけたよ あのお寺と金の水!」
感想
あの場所
新章開始。
いきなり1年半の時間が経過。当然ながらその変化は大きいので新鮮な印象で読めた。
結局、エマが見た、あるいは見せられたあの映像の中の寺と金の水がある場所を約1年半探し続けていたのか……。
自分は前回、GPの跡地に行くのかと思ったけどナチュラルに違ってて笑った。
もっと探索の描写があるかと思っていたから、これは思い切った省略の仕方だなぁと思った。
前回エマはフィル達の出荷が開始されるであろう期限に関して危機感を抱いていたけど、まさかそこまで時間が飛ぶとは……。
そこらへんをダラダラやるよりは良いという判断か。
飛ばした期間半は、小説とか番外編で何かしらの補完エピソードを作るのにちょうど良い気がする。期待したいところだ。
今回で新章となった物語は、前回エマだけが見た映像の中の金色の水に囲まれた寺を約1年半もの探索の末に発見したところから始まる。
あの寺にエマたちは潜入できるのか?
そして彼らは一体何を得るのか?
フィルたちが出荷開始となるまでの期限が近い。
ここから物語は七つの壁から鬼のリーダーに会うところまで一気に行われるのか。
成長したエマたち
みんな随分と大きくなってる!
子供にとっての1年半は大きい。
そりゃみんな成長するわな。
当然全員成長していたけど、特にソーニャ、ドン、ナット、ポーラあたりは髪型が違うので新鮮に感じる。
ラートリー家の追っ手に見つかることなく、誰一人欠けるかけることなく生きているとは……。
いくらシェルターのダミーが無数にあるとはいえ、見つからないのは幸運だと思う。
GF出身者たちの高い知能とGV出身者たちが加わってのチームワークが生存を助けているのは間違いないだろう。
最近気付いたが、約束のネバーランドは読んでてイラつかない。
というのも、こういった集団が出てくる話で自分がイラつくことがあるのは、話を転がしていくために作者が作中に配置する、自分勝手な行動をするバカの存在があるからだ。
そういうバカは、バカのくせに自分で勝手に判断し、その結果として集団に犠牲を出し、集団そのものを危機に陥れるたりする。
この約束のネバーランドでは一切そういうキャラが出て来ないし、その片鱗すら無いのでイラつかずに安心して読めるわけだ。
そうなると逆に、あまりに完璧すぎるという批判が出てくるのかな……。
全員の解放など目指さずに、自分たちだけ逃げようという一派が現れて集団が割れる展開があってもおかしくないと思うけど、でも既に食用児全員解放ということで全員一致したんだよな。
大人の集団だったら、ひょっとしたら全員一致とはならなかったかもしれない。
集団の大半を占めているのか子供だからこそ、食用児全員解放という理想を追うことでまとまったのかも、なんてことを思った。
とにかくこの集団で特筆すべきはチームワークだろうな。
無数の書物から寺の位置を推測し、寺を探して東に西に奔走する内に、エマたちも随分と逞しくなった。
エマ達は鬼の街に鬼の変装をして潜入していたけど、随分と慣れた様子だった。
それもそのはずで、西にある三つの寺の候補地は全部鬼の街の中だったという。
三度も鬼の街への潜入経験を積んできたというのはあまりにもさらっと出てきた情報だっけど、これってマジですごいと思うわ。
エマたちは鬼の弱点を知っているとはいえ、同時にその恐ろしさも知っているのに、よくもまあ見つかったら即アウトの状況に三度も自分たちを追い込めるよなー。
彼らはその繰り返しにより、すでにコツを掴んでいるように見える。逞しいわ。
それだけ、目標の達成に関して必死ということか。
人間は鬼とは足の形が全く違うので、足を見られたら一瞬でバレてしまう。
なので変装している服の裾で足元まで覆うようにして隠している。これも潜入するにあたって事前にきちんと考えたことのようだ。
GPで常に鬼を研究してきたGV組のおかげで鬼を騙せるほどの変装セットが出来たらしい。
出来たものは、レイが感心するほどのクオリティ。
当初は、子鬼サイズと思われる変装セットは盗んだり、奪ったりしたのかと思った。でも考えてみれば、子鬼を襲ったりするのってエマたちのイメージに合わないよなぁ。
エマたちには、鬼とはいえ、子供を殺すイメージはない。
そりゃ見つかったら対処するしかないんだろうけど、穏便な方法で手に入れたと信じたいなーと思っていたところだった。
しかし鬼の街を脱出後、エマたちのやりとりからナイジェルたちが作ったことが判明して納得した。
これこそエマたちらしいやり方だと思う。
今後もGV組の能力は随処で役に立ちそうだ。
特に戦闘能力に関してはあのGPでの死闘を潜り抜けた分、間違いなくGVの方が高い。
GFもGVも持ちつ持たれつでやってるみたいで良かった。
変な派閥とかが出来ていないだけ、大人よりも賢くて笑った。
鬼の街
鬼の街が出てきた。
そこでは市場が形成され、食用児はもちろんのこと、それ以外の食品も取引されている。
おつかいに来たらしき子鬼が店に行き「お肉ください」の一言で普通に出て来るのが透明な容器に詰められた食用児……。
おそらくそれは食用児を扱う店だからなんだろうけど、あまりにも普通にやりとりしてて、改めて人間と鬼が根本的に相容れないことに気づかされる。
捕食する側と捕食される側なんだよな……。ソンジュもエマたちが食用児じゃなければ食っていたかもしれないわけだし。
しかしそれ以外は、鬼の生活は人間の生活ととても似ているように感じた。
町に住む鬼は、当然ながら言語を解する知性鬼たち。
建物を修理する鬼もいれば、背中に籠を背負って往来する鬼もいる。
大人の鬼はきちんと各々の仕事をし、子供は無邪気に走り回っている。
街では噂話が流れている。その内容は量産農園での食用児の盗難。
そういえばこれに関してはソンジュが言及していたっけなぁ。
街で噂話をしている連中はバイヨンやレウウィスのような貴族ではない、言ってみれば一般人らしい。
身分階級の差により生活が違うという点も人間と同じだ。
おそらく少数の貴族と多数の一般人で構成されているのだろう。
鬼の世界の各地にこうした街はどれくらいあるのか。
”奴ら”
冒頭の噂話の中にあったけど、どうやら各地の農園で食用児を盗んで回っている勢力がいるらしい。
“奴ら”と呼称されていただけだから、それが数人の集団なのか、それともそれなりに大きな組織なのかはまだ判別ができない。
ただ、どうやらその”奴ら”は、街で生きている鬼たちとはちょっと異なるようだ。
”奴ら”は言ってみれば、農園から食用児を常習的に盗難する犯罪者なわけで、エマたちはもちろんのこと、生活の中で食用児を正規のルートで手に入れている鬼達の中でも非常に困った存在であることが推測できる。
こうして話に出てくるということは、いずれエマたちとぶつかりそうな気がする。
というか、そもそもエマたちはGFだけじゃなく鬼の世界にある全ての農園を解放することが目的なんだからぶつかるのは当たり前か。
でも、実はその農園を襲っている”奴ら”というのが鬼ではなく、実はそう思わせておいて”支援者”だったら面白いよなー。
エマたちとの連絡は途絶えているけど、GP崩壊を受けて、エマたちの望みを推測して自分の意思で遊撃隊的な動きをしていたとしたら最高にかっこいいんだが、そんな都合の良い話はないわな……。
おそらく”奴ら”はエマたちの強力な敵になるんだろうけど、一体どのタイミングで登場するのだろう。
とりあえず次回はいよいよ寺か。
エマたちは1年半もの長きに渡る探索の末、ようやく発見した次の目的地。
果たしてエマたちはそこで何を発見するのだろう。楽しみだ。
以上、約束のネバーランド第102話のネタバレを含む感想と考察でした。
第103話に続きます。
コメントを残す