第44話 平穏
第43話のおさらい
零たち一家は朝食を摂りながら、朝の情報番組にゲストとして出演するパピコをテレビで見ていた。
女性アナウンサーは、パピコを世界一の有名人と言っても過言ではないのではないか、と評する。ツイッターのフォロワーは8千5百33万人、アメリカのタイム、ニューズウィークの表紙に同時掲載など、パピコの人気ぶりを紹介する。
零は母に、今度連れて来なさいといわれるも、パピコは忙しそう、答えは素っ気ない。
母は礼がパピコに捨てられないかと心配するのだった。
父はパピコが出演しているシャンプーのCMが良く撮れていると感想を述べる。
零はCMのパピコを見つめていた。
零は通学路で何人ものパピコの髪型を真似た同年代の女の子と遭遇していた。
電車の中吊り広告もまたパピコがモデルのものばかり。
学校に到着すると、中島は世間でピンクの髪が流行っているに驚いていた。
そしてETEは政府にブロッキングされて以来一週間、何も起こっていないとつづける。
「お前の彼女…世界救っちゃったじゃん。」
下校時、中島は零にディープフェイク、中国のモザイク外しといったエロと絡めたAIの話題を出す。
中島の話が一通り終わった後、零が呟く。
「AIって生まれたとたん人間の性器ばっか覚えさせられて、そりゃ反乱もいつか起こすわな、ターミネーターじゃないけど…」
街頭の巨大モニターは、朝、零がテレビで観たパピコのシャンプーのCMを映す。
コンビニに入る二人。
中島が指さしたのは雑誌のラックだった。
そこにあるあらゆる雑誌の表紙は全てパピコ。
零はその光景を眺めていた。
零は、マスコミがたむろするパピコの自宅マンションに来ていた。
マスクと帽子を装備した零が歩いていく。
パピコの部屋に入るなり、二人は激しく抱き合う。
事が終わったと、零は日本中がちほさんだらけだと報告する。
嬉しいけど夢見てるみたい、と素直に感想を述べるパピコ。
そしてマネージャーに自分たちの関係がバレたと零に切り出す。
「零と別れるくらいならやめるって、言った。」
パピコは当たり前のことのように答える。
「…………」
零はただ黙っていた。
第44話 平穏
長身イケメン
新宿の駅前、街頭ビジョンの前に立つ三人の若い男。
三人は背中に楽器を背負っている。
彼らの近くを通る女性たちはみんな、その中心にいる背の高いイケメンに見惚れていた。
三人の男たちはビジョンに映ったパピコを見て、思い思いに欲望を口にする。
街を歩く三人。
通りすがりの女子高生が背の高いイケメンを見て黄色い歓声を上げている。
この状況を受けて、傍らのメガネは、陵と歩いていたら自分たちのバンドが売れている気分になると呟く。
もう一人の男に、声優の彼女は元気にしているかと訊ねられ、元気だと返す陵。
声優は抱くときに良い声を出しそうだというゲスな呟きに、陵は得意げにその通りだ、今度エヴァに新キャラの役で出ると答える。
モテるパピコ
踊るししゃも御殿という番組にパピコはゲストとして呼ばれていた。
司会者から僕のベスト10の中の1位がパピコだと伝えられ、パピコは笑顔で感謝する。
その番組を、零はパピコの部屋でパピコと一緒に観ていた。
司会者からの連絡先交換があったかと零に問われ、マネージャーからそういう話があったが、彼氏がいると断ったとパピコ。
零は次に、他にも芸人が言い寄ってくるのかとパピコに質問する。
パピコは、芸人はもちろん、スポーツ選手や俳優も来ると答える。
一緒に風呂に入りながら、話の続きをする二人。
零は言い寄ってくるハイスペックな男たちに比べて自分は何もないただの高校生だけど良いの? と問いかける。
零に背を預け、幸せそうな表情で肯定するパピコ。
「零は私のすべて。零は私の命。」
それが信じられない様子の零に、パピコは零の良いところを100個以上言えると言って、本当に列挙し始める。
スラスラと5つ目が出たところで恥ずかしいからと零はパピコを制止するのだった。
パピコの影響力
教室で零は中島と向かい合って座っていた。
少し離れたところで男女で集まっているグループで、男子生徒がパピコのファンクラブに入ったという話題を切り出す。
羨ましがる女子高生たちは、3人ともパピコと同じ髪型をしていた。
スマホを見て、ああー、と残念そうな声を上げる中島。
ETEの再来かと慌てて訊ねる零に、中島が見せたのはクラスの掲示板だった。
『1-Fのハタチになっても童貞そうな男子ベスト3 結果発表!!』と書かれたランキングの1位が中島、2位が零という結果が表示されている。
中島が、零はパピコと付き合ってるんだからいいよな、と言うのを必死で止めようとする零。
帰宅途中、零と中島が電車を待っていると、同じように電車を待っている男子学生二人がパピコの話をしているのが聞こえる。
二人はパピコの彼氏がいるとしたらどんな男なのかいうテーマで会話していた。
サッカー選手か、勢いのあるイケメンの俳優か、芸能人を射止めたバスの運転手か、イケメン青年実業家か、と会話は淡々と続く。
零は黙ってその会話に耳を澄ましていた。
零と中島は下校していた。
中島はスマホを見ながら、パピコのAVが全て廃盤になり、ヤフオクで10万のプレミアム価格がついていると呟く。
「全部持ってるけど、もう…見れないや……」
零の言葉に、そらそうだな、と納得する中島。
中島と別れたあと、自宅へ向かう途中で、零は集まっている幼い3人の子供もパピコを話題にしていることに気付く。
その頃、パピコは東京ガールズアワードに出演していた。
歓声の中、堂々とランウェイを歩く。
零はその様子をテレビのニュースで見ていた。
テレビの中の笑顔のパピコを、零も笑顔で見つめる。
自室のベッドの上に横たわり、零はパピコに電話でニュースで東京ガールズアワードに出ていたのを見たと伝えていた。
零は明日パピコと会う約束を取り付けて声を弾ませる。
愛してると言って通話を切った後、零はため息をつくのだった。
とある家庭。
主婦はスマホで「ETE 代わり 本物」と検索していた。
ホームで電車を待つサラリーマンはETEにアクセスして「みんなのお願いベスト3」というページを見ていた。
1位の「東京 震度 3」以下、2~5位まではパピコ関する悪意のある内容だった。
陵は女性と一緒に、パピコが使われている街頭広告の前で立ち止まってスマホを操作していた。
これも偽モノか、と呟いた陵が表示させていたのはETEだった。
みんなのお願いベスト5
1.パピコが街を破壊しまくる
2.パピコの裏ビデオが出る
3.パピコの彼氏が死ぬ
面白くねー、と吐き捨てる陵。
「帰ってパソコンでダークウェブ漁ってみるか――」
感想
効力を失ったETEに表示されているお願いベスト5の内容がひどすぎる。
以前は世の中が滅ぶとか地震が来るとか対象は漠然と世の中全体が多かったように思う。
それが今はパピコに関するお願いばかり……。
自分の人生に絶望し、世の中を呪っているからというよりは、日本を救った英雄として、世間への露出が急激に増えたパピコに対する嫉妬なんかも多分に含まれている気がする。
日本滅亡の危機から一転、世の中が明るくなったその裏で、確かな悪意の胎動を感じる……。
ETEのせいで散々な目にあったはずなのに、その代替を求める人が一定数いる。
でもこれがリアルなんだろうなーと思う。
まぁ、世の中の全員が一糸乱れず全く同じ意見になるということこそ異常ではあるんだけどさ……。
破壊神の脅威にさらされたのは東京だけだった。
だから地方からしたら破壊神との戦いは単に面白い見世物としか受け取れないような想像力の欠けた人はいくらでもいるだろう。
それに首都圏に住んでいたとしても、そもそも生きる希望を失い世界が滅べばいいと捨て鉢になっている人もいる。
平和になり、世を救ったパピコには充実した日々が訪れた。
しかし今回か、もしくは次号くらいで安息の日々は終了かな。
もう間もなく、次の悪意が牙を剥く予感がする。
その中心は今回の話の冒頭とラストに登場したイケメンバンドマンの陵なのか?
奥先生の描く漫画の悪役はイケメンが多い。
イケメンの方が絵になるから、それは正しい選択だと思う。
陵はダークウェブを使って一体何に辿り着くんだろう?
確か色々なものが取引されているとニュースで見たことがある。
でも違法薬物とかじゃないのかな……。
ETEに比肩するような世の中を直接悪意でぶち壊すような、何かがあるとは思えないんだけど……。
違法薬物はじわじわ世の中をぶっ壊していくから十分恐ろしいが、それと比較すると破壊神を呼ぶような装置は即効性があるからやはりとても危険だ。
果たして陵は世の中にどんな悪意をばら撒こうというのか。
以上、ギガント第44話のネタバレを含む感想と考察でした。
第45話に続きます。
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