第41話 不在
第40話のおさらい
零の母は、テレビの前に立ち、画面を見つめて涙を流していた。
リポーターは、パピコ一人で日本を救ったと実況を続ける。
街の人たちは、涙を流してパピコの勝利と自分たちが命を拾ったことを喜んでいた。
パピコは新宿の中心で、ビルにもたれかかる。
そんなパピコを取り囲み、彼女に感謝している人々が手を振る。
自衛隊の隊員も、パピコの戦いぶりに感嘆していた。
電車が動くようになり、盛り上がる乗客たちと違い、零は電車内の床に正座しスマホの画面を呆然と見つめていた。
新宿で降りた零はパピコの元へ走る。
その道中ですれ違う客はパピコの話題ばかりだった。
パピコは自分に向って一生懸命手を振る民衆たちをじっと眺めていた。
パピコの元へ向かって必死に走っていた零は、ようやくパピコいる場所に到着する。
パピコはちょうど、自衛隊の輸送車に乗り込む直前だった。
その場の多くが笑顔でパピコの名を叫びつつ、手を振る。
零は彼らの背後からパピコの名を呼ぼうとする。
しかし零は言葉にすることなく、口を閉じてしまう。
その後、零はただパピコが乗った輸送車を呆然と見つめて、走り去るのを無言で見送るのだった。
パピコが去り、集まっていた人たちは日常に戻っていく。
零もまた駅に向かいながら、スマホでニュースをチェックしていた。
パピコ孤軍奮闘 3体のサタン倒し日本守る
21日 新宿で開始された巨大サタンによる街破壊。
自衛隊輸送機により輸送されたパピコがたった一人で
3体のサタンを止めることに成功した。
感動した涙が出た!!
だって女の人が一人で!!たった一人でだよ!!
自衛隊が全く役に立たなかったのに!!
セクシー女優がとかまだ叩く人いる_
この人国民栄誉賞でしょ!!
インターネット上でもまた、パピコを褒め称える声が溢れていた。
零の元に母親から電話がかかってくる。
母は、零の心配をしつつ、パピコを逃がさないよう忠告する。
零は母と話しながら地下に降りていくのだった。
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第41話 不在
街もネットも、絶体絶命の窮地から3体の破壊神を倒し、見事に日本を救ったパピコの話題でもちきりだった。
スマホでネットをチェックする零。
その中の一つは、もう自分たちだけのパピコではない、世界のものだという書き込みだった。
「あたしも髪 ピンクにする!!」
零は通行人たちの会話から漏れ聞こえてくる内容から、パピコのインパクトの大きさを感じていた。
「顔めちゃくちゃ可愛いよね!! ね!!」
駅のホームも電車内も、明らかにパピコ話題ばかりだった。
零はそれらの会話が聞こえてきても、特に表情を変えることもなかった。
何気なくスマホをチェックする零。
ニュース記事は首相がパピコに国民栄誉賞の授与を考えていると伝えていた。
帰宅までの道のりで、零がパピコの話題を聞かない瞬間はなかった。
それは自宅にたどり着くまで続く。
玄関に入った零を走って出迎えたのは母だった。
母は零を抱きしめて零の無事を喜ぶ。
夜。
会社でパピコと破壊神の戦いの様子を見て盛り上がっていたと楽しそうに話す父。
父は本人主演での映画化の企画が出ていると得意そうに続ける。
「まさかパピコさんに……コネがあるとか……」
怪訝そうな表情で尋ねる母。
父は特に悪びれることもなく、予算15億を全て自社で出すのだと答える。
「信じられない。」
表情で夫を咎める母。
「何? 息子の彼女とか言ったの?」
父は一足先に食べ終えて自室に戻ろうとする零に、頼むよ、と声をかける。
しかし零は父からの問いかけを無視して、もちをおなかの前で抱えて二階に上っていく。
零は自室のベッドに寝転びLIMEのやりとりの履歴を眺めていた。
そこに中島からの安否確認のための電話がかかってくる。
互いの無事を喜んでから、話はパピコに移っていく。
自衛隊の車に乗っていってしまったという零の言葉から、当分戻ってこないかもしれないと中島。
中島は、特赦によってパピコが無罪放免となったが、その代わり次には、軍事機密として保護されるのではないかと推理を続ける。
パピコはこれからどこに? という零からの質問に、中島は、わからないが専用の住居が用意されて、いつでも出撃できるように自衛隊基地の近くにでもいるのではないかと答える。
ETEの掲示板には、パピコを批判する声で溢れていた。
眠っている零のスマホにパピコからの連絡が来る。
それはパピコのマンションの鍵を机の上に返しておいてほしいというものだった。
それに対して、無事なのか、会いたいがどこにいるのかと返す零。
零の心臓の鼓動は、どのような返信が来るのかとにわかに音量が大きくなっていた。
零はいてもたってもいられず、夜の街を自転車で飛ばして、パピコのマンションに到着する。
パピコの部屋に入る。そこは、かつて彼女と一緒に時間を過ごした頃のままだった。
机の上に鍵を置く。
h2>感想
せっかく仲が良いカップルだったのに、離れてしまったのか……。
パピコの状況があまりにも劇的に変わってしまったことが大きいが、それに伴って零もまたパピコに対して気後れしてしまっている気がする。
世間のパピコに対する熱狂を実感するほどに、果たしてこんな自分が、彼女のようなすごい女性と付き合っていた良いのだろうか、自分と付き合うことは彼女の幸せを減じることに繋がっているのではないか、という疑念が次々と浮かんでくる状況なんじゃなかろうか。
稀代の大犯罪者から一転、日本の重要な軍事機密のような扱いになってしまった以上、パピコはもう、いち民間人に過ぎない零が簡単には会えない身分になってしまった。
まぁ、そもそも零と会えたとしても、パピコが未成年の彼と以前のように大っぴらに付き合うことなんてとても出来ないだろう……。
パピコの零に対する連絡が冷たい印象なのは、パピコの心が零から離れたからだとは思えない。
おそらく零やその家族に迷惑がかかるという理由が最も考えられるんじゃないかな。
もしくは、パピコを監視している政府の何物かが代わりに零との関係性を断つためにこんな連絡をしたとか?
鍵は返して欲しいけど、もちを返してと言ってこなかったことが、実はパピコが仕込んだメッセージだったりするかも?
まさか、零やその家族の身がどうなるか保障できないと遠回しに政府に脅されたとかね。さすがにそれはありえないか。
でも、パピコが本気になればそういう周囲から押し付けられるあらゆる事情を全部ぶっちぎって零の元に向かえるのではないか。
それができないというのは、パピコの中でどこか零を信じきれない部分があるのかなと思った。
もちろん、パピコは零から愛情をきちんと受け取っていると思う。
母の前で自分を庇ってくれたし、ほかにも様々なシーンで零から大切に想われていることを実感してきただろう。
しかし零彼が未成年で頼りないということはもちろんのこと、何よりパピコには、何かを犠牲にしてまで自分の欲望、気持ちを優先させることができない優しさがある。
互いに想っていればこそ互いに身を引いていくという何とも悲しい状況なのではないか。
そもそも一体目の破壊神の登場から、パピコとの関係から世の中まで何もかも変わってしまった……。
果たして二人の関係はこのまま終わってしまうのか。
以上、第41話のネタバレを含む感想と考察でした。
第42話に続きます。
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