第22話 歳の差
第21話のおさらい
破壊神を倒したパピコ。
巨大な姿のまま立つパピコを見上げながら、零は涙を流していた。
まず第一声で零に、ケガがないかと問いかけるパピコ。
零は顔をしゃくしゃにして無事です、と叫ぶ。
パピコは腕のデバイス使って体を元の大きさに戻すと、泣き叫んでいる零の元へ駆け寄る。
その場に立ち、ただ泣いていただけだった零。
しかしパピコが駆け寄って来たのを見て、零からもパピコの方へ歩き出し、二人は強く抱き合うのだった。
零の上着を着たパピコと、零は手を繋いで歩く。
歩きながら会話する二人。
ちほさんが死ぬかと思った、と告白する零に、パピコは零が死ぬと思って家を飛び出してきたと返す。
無茶しすぎですよ、と零。
そんな二人の元に、前から零の両親が駆けつける。
父は零の隣にいる女の子に気付く。
誰? と母も戸惑いの表情を浮かべている。
パピコもまた、突然の彼氏の両親の登場に戸惑っていた。
両親はパピコが零の上着を着ているのを恐る恐る指摘する。
父は興味深そうな様子で、さきほど破壊神を倒した巨大な裸の女がそっくりだった、と訊ねる。
その質問で、母も破壊神と戦っていた巨大な女性がパピコだと気づく。
パピコは気まずさを恐れ、目を伏せて黙ってしまう。
「この人が付き合ってる人。」
しかし零は両親に向けて堂々と彼女としてパピコを紹介する。
「僕を助けるために…ここまで気てくれたんだ。」
零の説明に一瞬固まる両親。
母は、ちょっと意味わかんない、と零に説明を求める。
父はただただ驚くのみ。
零は、パピコが大きくなれると説明する。
その言葉に、パピコは右手のデバイス操作して実際にピルの二階程度の大きさになってみせるのだった。
破壊神があれだけ暴れた後なので、さすがに流石にタクシーはなく、そして電車も動いていない。
前方からタクシーがやってくるのを発見して、父が手を上げる。
タクシーは止まったものの、パピコは不安でいっぱいだった。
パピコは街を破壊した自分の働きが、さながら犯罪者だと思っていたのだった。
零は両親を前に不安げなパピコを、大丈夫、と繰り返して落ち着かせようとしていた。
タクシーが発進する。
後部座席には零、父、母の三人が乗り、助手席にはパピコが座る。
母は助手席のパピコをじっと見つめていた。
パピコの部屋では、パピコが消していかなかったテレビテレビからワイドショーの音声が流れていた。
「東京の六本木では決着がつきましたが、アメリカ ニューヨークではいまだ闘いが続きています。」
タクシーの車内では母によるパピコへの質問が始まる。
名前、髪についてなど偏見に満ちた視線に晒されるののだった
「えっ、あ……ちほ…ちほ ヨハンソンです……」
前助手席からパピコは恐る恐る答える。
「歳は……? 年齢はいくつ?」
母は真剣に質問を続けるのだった。
第21話の詳細は上記リンクをクリックしてくださいね。
第22話 歳の差
説得
横山田家とパピコを乗せたタクシーが街を走る。
車内では母によるパピコへの尋問が続いていた。
年齢を聞かれたパピコは、長い沈黙のあと、言い辛そうに、24です、と答える。
車内を支配する重苦しい空気を一人、ものともしないのは母だった。
母は淡々と、それが犯罪だとわかってるんでしょうね、とパピコに問いかける。
その問いかけに対して、パピコはただただ黙ってしまう。
「まさか………こんな…子供に……」
母が何を聞いているのか、パピコには分かっていた。
「…………」
パピコは何も言葉を返す事が出来ず、ただただ黙るのみ。
そんなパピコの反応から、母は全てを察していた。
「まさか…ウソ!? あなた!! まさか!!」
母の受けた衝撃度合いを示すように、驚き度合いは大きくなってく。
それでもパピコに出来るのはただ黙っていることだけだった。
助手席のパピコの様子は、助手席のすぐ後ろの座席の零には見えない。
零は明らかに憔悴して弱り切っているパピコを救うべく声を上げる。
「助けに来れる……? 母さん達。」
「僕が…今日みたいに、死にそうになってるとき………」
両親は零を見つめる。
「ちほさんは……僕のために命がけで助けに来てくれたんだよ。」
毅然とした態度でパピコを庇う零。
「ちほさんみたいな人、いないよ……」
零はその言葉を噛み締めるように、自身に言い聞かせるようにもう一度繰り返す。
母は、零が若いから好奇心に惑わされてるだけ、と零に突っ込む。
「僕のこと!!」
零は母のパピコとの交際を反対する空気を吹き飛ばすように語気を強める。
「僕のこと本当に思うなら!!」
「こんな立派な人と!! 息子がつき合ってるだけで!! 祝福してくれるべきじゃない!? 親だったら!!」
思わぬ零からの主張に、母は何も言い返す事が出来ない。
父もまた口を開くことなく、零の言葉にじっと耳を傾けていた。
「うう――うううううううう」
両手で顔を覆って泣きだすパピコ。
泣き続けるパピコを両親はただ黙って見つめていた。
「ちほさん………」
零はパピコの心情を想い、目に涙を浮かべる。
ニュース
「ありがとうございました。」
自宅のマンション前でタクシーを降りたパピコは、零や両親に頭を下げる。
ゆっくり休んでください、連絡します、と零が告げ、横山田一家を乗せたタクシーは走り去る。
自宅の玄関に入ると、駆け寄って来るもち。
パピコは愛おしそうにもちを抱き上げ、自室に入っていく。
そこでパピコは点けっぱなしだったテレビからの情報に釘付けになる。
ニュースは、判明しているだけで死亡者重軽傷者の数が現時点で900人を越える、東京の被害は甚大だとアナウンスしている。
そして戦いの舞台となった六本木に中継が入る。
六本木にいるレポーターは、女性型の巨人が姿を消したことや、破壊神の死体がビルにもたれかかっているとレポートを続ける。
そして、警察は女性型巨人はテロの疑いも考慮してその行方を捜索するのだと言うレポーターの言葉にパピコは青ざめる。
もちを抱きながら、パピコは全身が震えていた。
どうしよう、という呟きを繰り返す。
パピコはトイレに駆け込み便器に顔を突っ込んで吐いていた。
吐き終えても、どうしよう、という呟きは続く。
涙を流すパピコ。
自室に戻るとニュースはニューヨークの様子をレポートしていた。
パピコが零を救うべく家を出た際に見たニューヨークでの戦いはまだ続いていたのだった。
アメリカでは、化け物と戦っている星条旗をあしらったコスチュームを身にまとったおっさんの巨人は、ヒーローとして応援されており、また注目も集めているとニュースは伝えていた。
パピコはテレビの画面をじっと見つめる。
そしてニュースの話題は、世界中でもっと話題になっていることに移り変わる。
テレビ画面に映し出されたのは六本木を全裸で歩く巨大な自分の姿だった。
アナウンサーはパピコのことを、驚異の速度でサタンを倒した女ヒーローであり、今、世界で最も検索されている人物であると告げる。
画面を見つめているパピコの目から涙が溢れていく。
感想
明かされた年齢
パピコ、24歳だったんだ。
確かここまでこの情報は出て来なかったような……。
22話にしてようやく出てきた情報だ。
率直な感想としては何となく19~22歳くらいだと思ってた。
まぁ24歳と大して変わらないけど、イメージ的にはもう少しばかり若いのかなと。
パピコが落ち着いているのは年齢よりも元々の正確、気質の影響が大きい思う。
そういえば零って何歳だったっけ……?
勝手に16か17歳くらいだと思っているけど、15~18歳と24歳なら個人的にはまだありだと思う。
いや、……15、16だとギリギリかな(笑)。
零の説得にはとても力があった。
直前に零だけじゃなく、両親も含めた、破壊神によって危機に晒されていた都民の命を救ってくれたわけで、”こんな立派な人”という表現は全然誇張ではない。
そりゃ、そこを押されるとさすがに母親も黙るよね。
大きくなれるというのはかなり特異なことであり、零がそんな彼女と付き合うのがとても心配というのはわからんでもないけど、それを理由に付き合うなとまでは言い辛い感じ。
ただ、職業に関して説明してないんだよなぁ。
そっちの方が両親の了解を得るハードルは遥かに高いかもしれない……。
ほぼ口を開いていない親父さんに関しては、何だかそれを説明してもギリギリで了解がとれそうな感じはする。
ただ母親の説得は、うーん……。それでもかなり苦労しそう……。
零の渾身の説得の効果
零が両親に対して熱心に説得していたけど、実は一番心に響いていたのはパピコだったと思う。
家族や職場、交友関係全ておいて、かなり不遇の環境下を生きてきたであろうパピコにとって、おそらくこれまでの人生の中で自身の人格をこういう形で称えられた経験がなかったのではないかと思われる。
読者はパピコが苦労していることを物語を通じて理解している。
人によってはイライラしてしまうくらい、クズ(家族だけどw)に対しても非常に情が深く、それが彼女を幸せにしない大きな要因の一つになっているのは明らかだ。
非常に苦労していて、でもそれが報われる感じが一切なくて本当に可哀想な身の上なんだけど、そんな事情を全く知らない人がパピコを見れば中々彼女がどんな人間なのかその正確なところは中々想像し辛い。
下手すればパッと見で、パリピじゃん、でレッテル貼られて終わってしまう。
寄ってくるのは竜二とかパピコを餌に男を捕まえようとする女みたいなクズばかりだとしたらやはりあまり人に恵まれる体質ではないよな……。
両親は、パピコが命がけで自分の息子、ひいては自分たちを救ってくれたのを知っている。
零の説得は、パピコがそれをやり遂げたことを両親に自覚させるだけで効力は十分だった。
この説得の一番の効用は冒頭に書いたがパピコの心を捉えたこと。
泣き出してしまったパピコの姿に父はもちろん、母も何も言えなくなってしまった。
今回の事で、間違いなくパピコと零の絆は深まった。
それに零の説得は両親の心にも確実に響いていた。パピコの職業なども含めて、根気強く説得すれば両親の了解は得られるんじゃないかな……。
ただ問題はパピコ自身かもしれない……。
彼女は特に母の自分に対して向けられた厳しい視線に耐えられず、零から身を引くという選択肢を頭に思い浮かべてそうなんだよなー。
実は付き合う時から、”いつでも零から手を引く”という選択肢は常に彼女の内にあったのではないか。その選択肢がパピコの心の中でクローズアップされてるんじゃないかと思ってしまいちょっと心配かな。
今後の展開によっては十分そういう流れになることもあり得る。
その時、零がどう男を見せるか。
世間の評価
大都会の街中で、あれだけの戦いがありながら死亡者重軽傷者が900人……いや、これは戦いを終えて直後の数字だからこれからもっと増えていくのか……。
テレビのニュースを見つめているパピコの胸中はもちを抱く震える手が雄弁に物語っている。
パピコが戦わなかったら破壊神による被害者は時間が経つごとに爆発的に増えていったことは間違いない。
ETEユーザーは東京都民を100万人にするというあの破壊神の目的を知っていたから、むしろ犠牲者数はパピコの登場によって劇的に抑えられた理解しているはず。
マスコミもその情報に気付いているはずで、そう報道すればいいんだけど、サイトの投票結果が実現するとか中々真剣に報道するのには勇気がいるよな……。
メディアとして死ぬ可能性がある。少なくともまだ戦いの直後で犠牲者の正確な数も分からない状況では難しい。
警察発表をそのまま流しているとはいえ、パピコのことをテロの疑いがあるとか、彼女の捜索を行うだとか、これから暫くはパピコにとっては心をすり減らす日々になっていくのかな……。
ましてやテレビのMCが女性型巨人の街の破壊による死傷者に言及するとか……。パピコが震えているのも、思わず吐いてしまうのも当然だわ。
パピコは街を破壊している最中の破壊神を倒したわけで、それをいきなり手放しで称えろとまではいわないが、その事実を伝えることは出来ないものかな……。
街を破壊する巨人を女型の巨人が倒してから姿を消した、というのが客観的事実だろうに……。
一方ニューヨークでの巨人同士の戦いでは、星条旗が描かれたコスチュームに身を包んだ巨人がヒーローとして注目を受けている。うーん不公平だ。パピコも全裸じゃなくて自身をわかりやすくヒーローと主張するようなコスチュームがあれば受け入れられ方も違ったのかもしれない。
しかしパピコは世界中の注目を集めているらしい。
驚異の速度でサタンを倒した、とあるけど、確かにニューヨークではまだ戦いは続いているのに、パピコは既に倒して帰宅してる……。
零を救いに家を出る前からニューヨークで戦いが行われていたから、確かに驚異的な速度なんだろう。
その美貌と全裸という強烈なビジュアルのインパクトも相俟って、パピコは”世界で最も検索されている人物”になってしまった。
なんだか世界が評価することによってパピコがヒーローに押し上げられそうな雰囲気を感じる。
日本のマスコミは世界の評判に逆らってまでパピコを下げる報道は出来ないだろう。おそらく世界の評価に引きずられるようにして称賛報道を開始する。
パピコの存在がポジティブに受け入れられ、一躍ヒーローになるのはいいけど、注目度が俄然上がって有名人になるということは、Av女優であることも世間に広く知られてしまう……。
AV女優としてはイマイチ売れていないとはいえ、彼女のことを知っている一人のユーザーが声を上げれば情報の伝播は早い。
そのAVはとんでもないペースで売れるんじゃないのかな……。パピコはどうしたら売れるのかと日々考えていたようだけど、こんな形でも売れたら満足なのか。好奇の目に晒されて病むような展開は勘弁して……。
零は彼女を守らないといけないぞ……。
つらつらと書いていたら、二人の行く先は茨の道、という感じにまとまってしまった。
実際これからどうなるかわからないけど、今回、両親を懸命に説得した零のパピコへの強い気持ちがあればどんな難局も乗り切れると信じたい。
……自分はなんだかんだでこのカップルが好きなんだなぁ。色々と心配になってしまった。
以上、ギガント第22話のネタバレを含む感想と考察でした。
第23話に続きます。
あわせて読みたい記事。
コメントを残す