第10話
第9話のあらすじ
教師は校内放送で猪が侵入した事や猟友会が駆除にやってくる事を伝達する。
それに従い、下校を始める女子生徒たち。
撃たれても自己責任と、放送が続く。
そんな教諭に、別の若い教師が問いかける。
「軍の越権行為じゃないでしょうか。」
そう問われ、この世界で生きたけりゃ『見ざる言わざる聞かざる』と答える教師。
相変わらずひなたと楓の前から、猪が去る気配はなかった。
「余計なついちゃった。」
楓はひなたを揶揄う。
「『オス』にもモテるのね~」
ひなたは、言葉に気をつけた方がいい、危険だと注意する。
わかってる、と楓。
「その度に転校してるからね。」
こわくないの? と問いかけるひなたに、間違ってるのは社会だから、と楓。
猟友会の車が校内に入っていき、助手席の髭を生やした女性が猟銃で猪を仕留める。
「キミ達ダメじゃん。」
猪を仕留めた人物が檻に近づき、二人に言葉をかける。
その人物は、楓に対して、足が悪いなら送っていくと申し出る。
友達と帰るという楓に、ハンターは危険だからと車で送ることを決める。
ひなたが、一緒に送ってもらおうよ、と口にするが、ハンターはひなたに対して、キミは歩けるでしょ? と牽制する。
それに同意せざるを得ないひなたは、楓が車に乗り込むのを見ているしかなかった。
ひなたがひとりで帰ろうと校庭を歩いていると、微かに声が聞こえる。
「…助けて。」
声が聞こえてきた方向に足を運び、確かめるひなた。
「……誰かいます?」
そこには、積まれたタイヤの間に腰を下ろしている人物がいた。
ひなたは、誰? と声をかける。
「誰って 僕を知らないの? 僕は、『男』だ。」
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第10話
男に冷たいひなた
「…ふーん。まあ、よかったね。」
男を名乗る、正体不明の人間を前にしたひなたの反応は冷めたものだった。
男は、全然よくないよ! から逃げてきたんだ! と返す。
どこから逃げてきたのかというひなたの質問に、軍隊だよ、と男。
さっき見たろ? と同意を求める。
男の言葉はひなたに全く響いていない。
ひなたはさっきの人たちはイノシシを追っていただけ、勘違いではないのかと返す。
「違う。」
男は即答する。
「軍隊だ。」
ひなたは、どっちでもいいけど去ったから帰りなよ、とその場を後にしようとする。
「帰る場所がないんだって。お前の家行っていい?」
男はひなたの背中に問いかける。
ひなたは振り返り、会ったばかりの人を家にいれるわけない、と、ぴしゃりと男の要求を跳ねのける。
ウソだろ!? とひなたの返事に対して意外だという反応を見せる男。
「俺の言うことは、女は全部きいてくれるって言ってたぞ。」
誰が言ったのよ、とひなたの態度は変わらない。
それに対し男は、自分を逃がしてくれた連中だと答える。
その連中曰く、男は人権を蹂躙されており、手や脚にGPSが埋め込まれていたため、それを取ってくれたのだという。
そして男はそのGPSをつけたイノシシを囮にして、連中がそれに引っかかったのだと笑う。
「あんたのせいで、猪一匹死んだじゃない。」
ひなたの言葉に、へ? と声を上げる男。
そして、猪一匹の命と僕を比べるな、と笑う。
「俺は希少動物で誰よりも価値があるって言われてんだぞ!」
あっそ、とひなた。
そのケガも頭と一緒に病院で直してもらいな、と言い捨てて、その場を立ち去ろうとする。
男は、病院は色々痛いことをするからあんたの家がいい、と訴える。
そしてうつ伏せになると、わざとらしく痛みを訴える。
「もう歩けないんだ。助けてよっ。」
ひなたは男の体を支え、立たせようとする。
しかし男はしきりに痛がるばかりで、ムリムリ、と泣き事を口にする。
「駄目だっ。おんぶしろっ!!」
わがままだなぁ、と返すひなた。
しかし男が裸足であることや、そもそも上にセーターを羽織っただけという服装に目がいき、すぐ戻るから待ってろ、と男に命令し、校舎に向かおうとする。
ひなたに対して、戻ってこいよ、必ずだぞ、と念を押してくる男。
「わかったわかった。座ってなー」
帰路
ひならは校舎に入り、教室を目指して廊下を歩いていた。
誰もいない自身の教室に到着すると、自分のロッカーからジャージを取り出す。
「全然洗ってないけど、まあいいか。」
今日は色々あるなー、と呟きながら男の元へ戻る。
それ着といて、と渡されたひなたのジャージを言われるままに男が着る。
なんで、と問いかける男にひなたは、その格好ではあやしいから、と答える。
「なんかにおうな。」
ジャージの袖を嗅ぐ男。
「かぐなっ! 嫌ならおいていくよ。」
ひなたは男を背負って歩き始める。
「あんた軽いねー 楓より軽いわ。」
楓? と問い返す男にひなたは、私の友達、と答える。
「男が女より軽いわけないだろ。」
自分だったからいいものの、と前置きしてからひなたは男に忠告する。
「『男』って言葉、あんまり使うと危険だよ。」
なんで? と男はきょとんとしている。
男を背負ったひなたは、すでに学校を出て、道路を歩いていた。
道の脇にはたんぼがある。
「そりゃ、『男』ってのは昔から忌み嫌われていて『田』も『力』もあんまり使われないじゃん。」
だからなんでだよ、と男。
それに対し、大昔、さんざん女に迷惑かけたから、とひなた。
「そんで、勝手に絶滅しちゃってさ。」
絶滅という言葉の意味が通じていない男に、誰もいなくなること、とひなたが説明する。
「『男』は17年前に日本からいなくなったんだって。」
「だから私たちは、ゼロ世代なんて呼ばれているけどさ。17年前よりずっと前から『男』はほとんどいなくて、滅多に見られるものじゃなかったくせにさ。」
その説明を受けて男は、そういえば僕以外の男を見たことがない、と呟く。
「ねぇ 『男』って何?」
「俺は、比べたことがないからわからない。」
ま、そーだよね、とひなた。
「男なんて、居ないんだもん。」
感想
本当に男なのか?
ひなたは男を名乗る彼が、本当にそうなのかどうか半信半疑のように見える。
まだ男だということが信じられないのだろう。
それまでの常識が「男は絶滅した」というものだったし、何より出現が唐突過ぎる。
男は男だけど、体がゴツいわけではないし、楓よりも軽いと言われてしまうくらいに華奢ということも、ひなたがまだ彼を男かどうか判断しかねている大きな要因なのかな。
多分声もそこまで低くないのだろう。
男だけど、かなり中性的なタイプだからひなたにとってこの男はそこまで異質感がないんだろな。
彼は一見、女に見えないこともない。
自分のように、明らかに男にしか見えない男だったなら明らかにひなたから警戒されるだろうな……。
おんぶなんてしてもらえるはずがない(笑)。
それまで見たこともなかった、でも自分の興味の対象だったものがいきなり何の前触れもなく目の前に現れたら、自分もこんな反応をとってしまいそうだ。
しかし彼はいくら華奢とは言え、女性とは骨格が違う。
ひなたもそれを何となく感じ取っているんじゃないかな……。
新しく判明したこと
今回新しく判明したのは、彼が軍隊に捕まっていたこと。
病院では実験体だったらしい。
彼の手脚に埋め込まれたGPSを外し、逃がした勢力がいる。
おそらくは彼女たちから、誰よりも価値がある、と言われていた。
そして彼は社会で男という単語を使うことすら危険という事を知らない。
自分以外に男を見たことがない。
そもそも絶滅という単語すら知らない。
このくらいか。
多分、彼は人生の大半を軍隊や病院で囚われの身として過ごしたのかなと思った。
おそらく、ろくに学ぶ機会もなかったのではないか。
そんな彼の状況を知り、人権蹂躙だと義憤に駆られて彼を逃がす勢力がいる。
男という単語を発するのも危険というこの世界は、おそらく男性を弾圧する勢力が支配している。
その勢力の対抗組織があるということだろう。
楓の祖母もそういった組織に所属していたんじゃなかったかな?
その組織と、彼を逃がした組織が同一のものかはまだ全くわからないが、ここらへんはいずれ繋がってきそうな感じがする。
軍人に送ってもらった楓のその後
男が言う通り、楓が送ってもらったのが軍隊だとしたら何か引っかかる。
そもそも前話を読んだ時から、必死に楓を車に乗せようとするあの隊員たちの様子を自分は怪しく感じていた。
男が言っていたように、あの猟友会っぽい人たちが軍隊だった場合、楓の身が心配だ。
男という単語を使ったら危険ということは、高い強制執行力を持つ軍隊が日常のあらゆる場面で幅を利かせている可能性がある。
軍隊が隊員の横暴を許さないくらい厳しい規律を保っているなんてことがありえるだろうか。
上官にバレないように民間人に対して好き勝手する隊員がいてもおかしくない。
この社会において軍隊の影響力が大きい場合、暴走する奴も出てきて当然じゃないのか。
そうなると、もしかしたら楓があの隊員たちに何かされている可能性がある。
あの隊員たちも女性だったけど、おそらく男性ホルモンを投与されており、その実態は男に近いのではないか。
もしかしたら楓が彼女らのおもちゃにされ、最悪その辺の原っぱで死体で見つかるとか……?
それか死なないまでも、精神崩壊した状態で放置されるとか。
ひなたが楓を好きなのは間違いない。だから当然激怒する。
好きな女性のために復讐を誓い、軍隊に対して戦いを仕掛けていくみたいなハードな話になっていったら面白いな。
はい、妄想全開でした(笑)。
以上、たかが黄昏れ第10話のネタバレを含む感想と考察でした。
第11話に続きます。
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