第25話 「苦しい」
第25話 「苦しい」
死に場所を求め街を彷徨う柳女
ビルの屋上。
柳女が「屋上への立ち入り禁止」というプレートが掲示された金網の前で立ち尽くしている。
![ROUTE END 第25話 屋上](https://creative-seeker.com/wp-content/uploads/2017/12/re25_01.png)
表情には何の感情も無く、ただその場に幽鬼のように立つのみ。
ゆっくりとビルを降り、別のビルに登る。
屋上に出る為の扉が開いておらず、何度かのノブを回すが諦めて再び他のビルに登る。
![ROUTE END 第25話 柳女](https://creative-seeker.com/wp-content/uploads/2017/12/re25_02.png)
どのビルも屋上には出られない。金網に塞がれ、扉が開いていない。
屋上を求める行脚を行う柳女の脳裏は「苦しい」という言葉で満たされていた。
屋上へ出る事を失敗し続けた柳女は、階段の手摺に力なくもたれる。
(もう自分を組み立て直せない)
(臣がいない)
(生きているだけで苦しい)
柳女は再びビルの外階段を降りていく。
(それはずっと昔からだった気がする)
(変える場所がない)
両親の横顔を思い出す。
(逃げ込む場所がない)
(孤独を共有できない)
屋上に出られるビルを求めて街を彷徨う柳女。
(神様もいない)
柳女は、誰にどうやって助けを求めるのかわからず街を歩き続ける。
柳女に見えているのは左右が順番に動いていく自分の足だけ。
もはや何故自分が苦しいのかすら不確かになりつつあり、柳女の思考は闇に溶けていく。
わからないわからないわからない。
気付くと、柳女はビルの屋上で落ちる寸前の場所に立っていた。
![ROUTE END 第25話 柳女](https://creative-seeker.com/wp-content/uploads/2017/12/re25_03.png)
柳女の表情には力が無く、ただ諦めたような表情で遥か下を見るともなく見ている。
「助けて?」
苦しみに顔を歪ませ、ゆっくりと中空に向けて身体を傾けていく柳女。
![ROUTE END 第25話 柳女](https://creative-seeker.com/wp-content/uploads/2017/12/re25_04.png)
屋上から足が離れるまさにその瞬間、柳女の背後から何者かの手が勢いよく伸びる。
柳女を救ったのは……
何者かが柳女を背後からしっかりと抱き締めて、落下を止める。
![ROUTE END 第25話 柳女](https://creative-seeker.com/wp-content/uploads/2017/12/re25_05.png)
ゆっくりと閉じていた目を開く柳女。
「柳女 お前は一人でため込み過ぎる」
柳女を抱きしめている男が口を開く。
「案外死ぬ程のことでは無いんだぞ」
「橘さん!?」
驚愕する柳女。
そこには、既に死んでいるはずの橘が穏やかで、しかしどことなく寂し気な微笑を浮かべている。
「なんで…? 死んだんじゃ…!?」
橘を見上げたままその場にへたり込む柳女。
「すまないな…」
橘は柳女をじっと見つめながら、静かに口を開く。
「加藤を救えなかった」
![ROUTE END 第25話 橘](https://creative-seeker.com/wp-content/uploads/2017/12/re25_06.png)
見当違いをしていた、と続ける橘に柳女は不思議そうに、どういうこと? と呟く。
橘は座り込んでいる柳女の腕を引いて立たせる。
「アウンに寄って帰りなさい」
橘は柳女の両肩を持って、しっかりと目を見つめながら続ける。
「加藤の両親が待ってる」
え? と訳が分からない様子の柳女に、早く行け、行違うぞと急かす橘。
橘に支えられる事なく、自分の足で立つ柳女。
口止め
「俺に会った事は忘れるんだ 誰にも言うな」
橘が続ける。
「特に春野にはな」
どうして? と呟く柳女。
橘はその質問には答えない。
「俺は生きている事実は墓場まで持って行ってくれ」
橘は有無を言わせぬ迫力を目に宿らせて柳女を見つめる。
「出来ないならお前を殺さないといけなくなる」
![ROUTE END 第25話 橘](https://creative-seeker.com/wp-content/uploads/2017/12/re25_07.png)
「…………」
橘をじっと見つめたあと、柳女が目を伏せる。
「いいですよ殺してくれても 死のうとしてたんだから」
「加藤の両親に会ってから決めろ」
説教をするわけでもなく、淡々と告げる橘。
そうですね、と諦めたような様子で呟く柳女。
「せめて謝ってから死なないと」
「謝る?」
呆れたような、少し怒気を籠めたような表情で、はっ、と嗤う橘。
「とにかく会え」
橘は柳女の背中を、バン、と叩いて屋上から送り出す。
「行け」
![ROUTE END 第25話 柳女と橘](https://creative-seeker.com/wp-content/uploads/2017/12/re25_08.png)
「…………」
暫くその場に立ち尽くした後、一歩踏み出した柳女。
「柳女」
その背後から橘が声をかける。
柳女が橘に振り返る。
「加藤が生き返るとは思うなよ」
毅然とした様子で柳女に言い含める橘。
「誰も生き返りはしない」
「……」
柳女は暫く橘を見つめた後、目を閉じる。
「わかってる なんとなく…」
![ROUTE END 第25話 柳女](https://creative-seeker.com/wp-content/uploads/2017/12/re25_09.png)
「橘さんが特別」
「……」
橘は柳女を冷たささえ感じさせるような目で観察するように見つめる。
「行け」
感想
極限まで弱り切った柳女
大切な自分の理解者だった加藤をむざむざ亡くしてしまった後悔と喪失感は柳女の心を殺していた。
脳裏を満たす「苦しい」という言葉。
飛び降りられる屋上を求めてまるで幽霊の如く街を彷徨う柳女の姿が悲しすぎた。
ついに見つけた屋上に上がれるビル。
何の迷いもなくビルから中空に体を傾けた柳女。
しかし、その表情にはこれで楽になれるという喜びすらない。
柳女は色々考えた末にビルから飛ぼうと思ったように見えて、実は衝動が柳女を支配していたに過ぎなかったのだろう。
柳女は、死んでいたと思っていた橘に救われたことで、死を邪魔された事への怒りでもなく、橘が生きていた喜びではなく、ただただ橘生存の事実に驚愕したそのショックを受けた。
それが柳女の死への強い衝動を押し流した感がある。
実は生きていたにも関わらずこれまで姿を現さなかった橘が、柳女が飛び降りるタイミングで初めてその姿を見せたのはナイスタイミングだった。
前回25話のラストでは加藤の後を追うのだとばかり思っていたが、予想外の展開になって驚く。
橘の生存
まさかの橘の生存。
これに関しては全く予想できなかったな……。深く。
死んでいたと思っていた重要人物が実は生きていた、という展開はサスペンスにおいては定石の一つ。
せめてその可能性を考えて、言及するくらいの読み方が出来ていたかった……(笑)。
しかし、橘が生きていたとなれば、色々な事が変わってくる。
特に、春野が橘が生きているのを知ることになれば、彼がこの事件に関わる意味が結構な割合で無くなるのではないか。
橘が生きている事を知っても、今度はエンドの事を橘の仇ではなく加藤の仇として追うんだろう。
それでも橘が生きている事を知れば、橘を慕っていた春野にとってはかなり違うと思うんだよな。
そして、橘が春野のそういう気持ちを分かってやれないはずがない。
何故、春野を安心させてやらないんだろう。姿を現す事が出来ない理由とは?
橘は春野がエンドを追っている事は知っているような雰囲気だ。
そもそも柳女が屋上から飛び降りるのを助けられるあたり、春野だけではなく、アウンの社員全員の同行を詳しく知っているように思える。
アウンの事務所に加藤の両親が来ていることを柳女に伝えたり、情報を収集しつつ、しかし自分の気配や痕跡を春野達や警察にまで一切悟らせないステルスっぷりはエリート諜報員レベルじゃないの、コレ(笑)。
橘は一体何を相手に、どうしようとしているのだろう?
そもそも特殊清掃業に従事するようになったいきさつも謎だらけだし、橘に関して謎は深まるばかりだ。
橘は味方なのか?
そもそも、橘はエンドを追う春野達の味方なのか?
橘が何かを追っている事は間違いない。しかしその対象はエンドなのか?
橘は他に何か目的があり、エンドとはむしろ何かしらの協力関係なのかもしれない。
橘がエンドと敵対しているのであれば、春野や警察の前に姿を現して協力したら良い。
しかしそれが出来ないということは、春野達とは立場が違うということだろう。
何故自分の死を偽ってまで春野達の前から姿を消したのか。
大きな謎が出来た。
橘は柳女を脅すような真似をしてまで春野に自分の生存を伝えないように口止めをした。
その際の橘の目の冷酷さは、本当に柳女を殺してもおかしくないくらいに真剣なトーンだったように思う。
口止めするためとはいえ、柳女に対して殺さないといけないとまで言い切ったことに、何か尋常ではない背景を感じざるを得ない。
何を覚悟して動いているのか。
そもそも、何故生きているのか。
今後、橘の動きも描写されるのか?
だとすれば春野達との立場がどう違うのかが分かる。
以上、ROUTE END(ルートエンド)第25話のネタバレを含む感想と考察でした。
第26話の詳細はこちらをクリックしてくださいね。
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