第1話 「終わりの始まり」
小便に濡れ、ぶら下がった足を見上げているランドセルを背負った子供。
主人公、春野は十歳の頃に、母に自殺という形で先立たれる。
その際に湧いた感情は哀しみより怒り。
春野は、十歳の頃の自分が母の生きる理由になれなかったことをトラウマにしていた。
目次
特殊清掃という仕事
住宅街。
アパートの前に停めた車の後ろのドアが開いていて、そこでツナギの作業着に身を包み、首にマスクを下げて作業している春野。
車内後部に置いてある機材を何やら探している。
そこに通りかかったのはおしゃべりに夢中になっている二人の女子高生。
女子高生たちが車の隣を通りがかると、車から漂う臭いに思わず会話を止めて鼻を手で押さえる。
「なんか臭くない?」
「うん だんだん強くなって――」
あの人から臭ってない? と春野に聞こえるように言う女子高生。
ほんとだ、ともう一人も同意する。
フロ入れよマジで、この悪臭もはや公害じゃん、と二人は春野に悪態をつく。
春野は怒るわけでもなく、ひとつため息をついて、おい! と女子高生を呼び止める。
指をさし大きな声で言う。
「今すぐケータイで『特殊清掃業』を検索しろ!」
春野から声をかけられて、怒鳴ってきた! と一目散に逃げる二人の女子校生。
取り残された春野は、怒鳴ったことより言葉の内容を理解しろ、と呟く。
しかし、朝から閉じこもって作業してるから、と臭いこと自体は否定しない。
アパートの一室のドアを開けると、部屋中をハエが飛んでいる。
春野の仕事、特殊清掃業とは、殺人事件や事故、自殺、そして孤独死などで放置され腐敗した遺体によって部屋についてしまった悪臭や汚れを取り除き、原状復帰を行う仕事のこと。
リビングの床と絨毯に人型の『跡』が残っている。
人型の『跡』に残され蠢いている蛆を片付け、部屋中に消毒剤を散布する。
腐敗液で濡れた絨毯を折り畳み、ビニール袋に入れる。
フローリングに残された人型の『跡』の部分を取り除くために、電動の丸ノコを床に入れていく。
フローリングの床材をビニール袋に入れ、さらにフローリングの下コンクリートにまで染み出し、こびりついた腐敗液をヘラで一心不乱にこそぎ落としていく。
春野がちらと傍らを見ると、ビニール袋でパウチされた母と子が笑顔で並んで写っている写真がツールボックスに立てかけてある。
腐敗した遺体の持ち主は写真に写っている68歳の母で、孤独死の死後一週間だった。
連絡がとれない娘が代わりに親戚に見に行ってもらい、そこで発見となった。
娘が頻繁に連絡をとっていたので比較的幸せな方だが、体液の形が玄関に向けて這った形だからちょっと苦しんだのだろう、と春野は目を閉じ、手を合わせる。
春野は「うっし! ひとまず完了!」と、きれいになった部屋を見渡す。
部屋から出ると大家が、お茶どうぞ、とペットボトルを渡す。
春野は、どうも大家さん、と挨拶し、2日後に臭いと蛆虫の確認に来る、と笑顔で伝える。
連続バラバラ殺人鬼”END”
車で移動している最中、ラジオから夕方のニュースが流れてくる。
春野は、都室町の一軒家でバラバラ死体が発見されたという内容を聞き「ここじゃねえか」と驚く。
ラジオは、3か月で相次ぐ一連のバラバラ殺人事件と同一犯とみて捜査を進める、と続けている。
春野の視界に、一軒家の前に立つ警察官とパトカーが目に入る。
まさかあそこの? と呟く春野。
五十嵐と小阪
一軒家に歩いていくポニーテールにパンツ姿で鞄を肩にかけた女性。
家の前に立っている警察官に、お疲れさまです、と挨拶をする。
一軒家の中では、鑑識がカメラを構え、その後ろに立つスーツの男がハンカチを鼻に当てている。
「お疲れさまです 小阪主任」
小阪の背中に声をかけるポニーテールの女性。
小阪はハンカチを鼻に当てたまま「おう 五十嵐」と返事をする。
五十嵐と呼ばれた女性は手袋をして部屋に近づき、臭いに顔をしかめる。
フローリングに置かれた死体は腐敗し、体液を滲ませている。
「”エンド”ですか?」と小阪に問う五十嵐。
小阪は「ああ”エンド”だ」と返す。
「いつものようにバラした遺体で『END』って書いてあるからな」
バラバラにされた遺体のパーツで『END』と並べられている。
ハエの飛び回る遺体。その周りには鑑識用の札が立てられている。
わかりやすい、と感想を言う五十嵐。
自己顕示欲の高い奴だ、と小阪。
五十嵐は「その欲の高さで名乗り出てくれませんかね」と混ぜっ返す。
小阪は「軽口言ってる場合じゃない」と言い、4人目の犠牲者が出たのに容疑者が絞れてすらいないと続ける。
「県警のメンツもガタ落ちだ ”エンド”め」
「END捜査本部が立つのと同時期にお前に身内に不幸がおこらなきゃもっと捜査も進展してたかもな」
小阪は五十嵐に振り向いて言う。
捜査難航を自分のせいにするのかと言う五十嵐に、小阪は「軽口だ」と言う。
五十嵐は、軽口言ってる場合じゃないですよ、と返す。
小阪は、弟が死んで数日はぼーっとしていたのは事実だろ、と五十嵐の肩をポンと叩く。
聞き込みに行くぞ、と言って部屋を後にする小阪。
残された五十嵐はハンカチを鼻に当てたまま少しの間沈黙した後、はい、と小阪に向けて返事をする。
鑑識が小阪に「相変わらず辛辣だな」と声をかける。
小阪は、いつまでもうじうじしてるからだ、と振り向きもせずに言い捨てる。
特殊清掃アウン
アパートの一室。『特殊清掃アウン』のプレートが掲げられている。
新居の家賃が2万円だということに驚き、なぜそんな安いんだと春野に問う男――加藤。
春野は、俺たちの現場と一緒の事故物件だからだと返す。
なるほど、と納得する女――柳女(やなぎめ)。
家帰ってまで現場なんですね、と言う加藤に、春野は、正確には現場”だった”だな、と返す。
「どうです? 同業の仕事後は? シミとか残ってたり」
「残ってる訳ないだろ」と言いながら部屋に入ってくる初老の男。
「俺が仕事したんだ」
社長が? と驚く一同。
社長――橘は、いつ頃かと春野たちに問われて3カ月前だと返す。
春野は事務所からも近く、利便性が良いから、社長が仕事してる時から狙ってた、と笑う。
目敏いやつだ、と笑う社長。
春野は、社長の仕事だから安心ですよ、と笑う。
春野の新居
夜。満月が浮いている。
市役所、消防署、警察署、銀行諸々、病院以外の大概の施設が徒歩で行ける場所に揃っている新居「沢村マンション」に帰ってきた春野。
駐車場に車を止めて、マンションのすぐ近くの小山を見る。
(小山の周りを取り巻いて色々あんだよな)
自室に帰って来た春野。
ベランダに出て階下を見下ろすと、小山に向けて石段がある。
鬱蒼と生い茂った森のトンネルのようになっており、石段の続きは見えない。
春野は室内に視線を転じ、ドアを見つめる。
アウンの社員だから、と話してもらったことを思い出す。
(ここのドアノブでね 首を吊ってまして)
(社長さんには奇麗にして頂いて――)
自殺か、とドアノブを見ている春野。
“END”の現場へ
数日後。
仕事休みのはずの春野はスマホの着信で起こされる。
社長からの仕事の電話で、春野は”END”の現場に行って欲しいと告げられる。
ラジオを聞いていた時に通りがかった一軒家だと予感する春野。
「終わるんだ」
アウン事務所。
柳女が別の現場の予定があるがどうするのかと問う。
加藤は柳女に追随し、仕事がいっぱいなのに何故引き受けた、と続ける。
社長は、現場は知り合いが大家だから断れなかったと答える
らしくない、と指摘する春野。
社長は春野の指摘には答えず、加藤と柳女の現場を自分が行き、柳女と加藤、春野でエンドの現場を頼むと言う。
休日返上ですまんな、とツナギの作業着を着て車に乗り込もうとする春野に声をかける社長。
春野は、エンドに興味があるし、良い機会です、と返す。
社長は両手で春野のそれぞれの肩を持つ。
「お前が『特殊清掃アウン』の後継者だからな」
春野は突然の言葉に驚き、自分でも社長の一番弟子と勝手に思っているが、なぜ今そんなことをいうのか、と問う。
「お前が十八で俺の所に来た時はこいつは死の世界から来たって思ったもんだ」
社長は、春野の質問に答えず、春野に向けて一方的に語り掛ける。
戸惑うばかりの春野。
社長は、いいか春野、と続けて、意味深な一言を言う。
「終わるんだ」
春野はその言葉の意味がわからず、今日おかしいですよ、と指摘する。
運転席から「春野さん行きますよー」と加藤が呼ぶ。
春野は社長に、行ってきます、とと言って車に歩き出す。
社長は沈黙したまま、その場にじっと立っている。
ENDの現場にて
現場の一軒家。
死体の跡がENDになっている床に向けて春野、柳女、加藤の3人が目を閉じ、手を合わせる。
やるぞ、と仕事を始めようとする春野に加藤が話しかける。
「春野さん 俺たち いつものを……」
ここでもか、と問う春野。
ここでこそです、と返す加藤。
先にやるか? という春野に、加藤は、ある程度片してから、と返す。
それを受けて春野は、エンドの床の作業を進めるから勝手にやっとけと加藤と柳女に言う。
「はい」と加藤。
「いつもすみません」と柳女。
エンドの床を見て腐敗した体液が下のコンクリにも染みているはず、とバールとトンカチでフローリングを剥がしていく。
フローリングの下に何かを見つけ、叫ぶ春野。
叫びを聞いてリビングに駆け付けた加藤と柳女が見たものは、フローリングの下から自分たちを見据えるように仰向きに納められた白骨死体だった。
奇行
五十嵐晶乃墓と書かれた墓石の前に立つ五十嵐。
スマホに来た着信をとると、小阪だった。
「エンドの現場から白骨死体が見つかったぞ」
白骨死体!? と驚く五十嵐は、近いから先に行くと言って車に乗る。
現場に向かう道中、白骨がエンドに関係するものなのかいう疑問を持つ五十嵐。
現場の一軒家に着いた五十嵐は、外で社長に電話している春野に気づかずに家の中に入っていく。
(一番乗りか)
まだ臭いはとれてないのか、と鼻をつく臭いに顔をしかめる。
五十嵐は、足元にビニール袋を装着し、高祖根署捜査一課の五十嵐です、と自己紹介しながらエンドの現場の部屋に入ろうとする。
「清掃作業お疲れ様で――」
停止する五十嵐の時間。
そこには白骨死体の隣で、一心不乱にまぐわう加藤と柳女がいた。
(は?)
思考が停止する五十嵐。
そんな五十嵐を無視して、加藤と柳女はむさぼるように行為に及ぶ。
そこに、突然、春野が五十嵐の腕を掴む。
どうもご苦労様です! と言うその顔は一面に焦りの色が浮かんでいる。
春野は、とりあえず外へ! と、戸惑う五十嵐を家の外に連れ出す。
外に出た二人は家の外で自己紹介し合う。
なんですかあいつらは、と春野に問う五十嵐。
春野は、五十嵐の目を見ずに、同僚です、と答える。
窓から「あっ! あっ!」とあえぎ声が響く。
ビクッとなる春野と五十嵐。
五十嵐は春野に「…セックスしてる?」と問う。
ええ、と答える春野。今日はさすがに止めとけって言ったんだけど、と続ける。
今日は? と驚く五十嵐。
「常習なの!?」
人が死んで腐臭に満ちた所でいつも!? と五十嵐は怒気を滲ませて春野に確認する。
「まあ…はい」
春野は、五十嵐と目を合わせず、手を後頭部にやって申し訳なさそうに答える。
「イカれてる! 死んだ人にも失礼だわ!」
怒る五十嵐。
「いやむしろ イカれないためにやってるんですよ」
「……」
春野の予想外の返答に、五十嵐は一瞬言葉を失う。
その間も「あっあっ」と虚しく響くあえぎ声。
五十嵐は、はい!? と怒気を含んだ声で春野に問う。
「と 本人たちは言ってます」と答える春野。
変態なだけでしょう! と指摘する五十嵐に、いやでも、と切り返す。
「変態ってたいてい悲しい奴だし?」
ああっ! と一際大きな声が聞こえてくる。
黙って部屋の方を見る五十嵐。
終わった、と呟く春野。
二人が現場の部屋に行くと、2回戦が行われている。
呆然としている五十嵐。
顔に手を当てている春野。
春野は、あー、と五十嵐に対して言葉を切り出そうとしている。
震えている五十嵐。
「たぶんいつもは死体そのものはないんで白骨死体あるぶん盛り上がっちゃったのかな~」
大きく息を吸う五十嵐。
「セックスやめろお!」
五十嵐の大声が家中はおろか、周辺に響く。
現場に行っていない社長
アウン事務所。
電話を受けている春野が、社長が現場に行ってない? と驚く。
すぐに対応するので、と電話を切った春野に加藤が、社長が現場に行っていないのか、と問いかける。
そうみたいだ、と答える春野。電話にも出ないと報告する。
事故に遭ったのかと心配する春野は自分が現場に行くと加藤と柳女に告げる。
加藤と自分たちが行くと主張する。
柳女は、自分たちのせいで春野まで刑事に怒られたし、と続ける。
春野の回想。
玄関前の廊下。
仁王立ちで、全裸の加藤と柳女、そして春野を説教する五十嵐。
「プロ失格じゃないですか! 死者や遺族に失礼だとは――」
何も言わず、申し訳なさそうに立っている3人。
「なんだこの状況」
現場に到着したばかりの小阪が呟く。
「そうか? じゃあ頼むわ」
春野が加藤と柳女に現場を頼む。
(こいつらまたやんのかな)
発覚する驚きの事実
白骨死体の見つかった現場。
五十嵐、小阪、鑑識官が白骨死体をENDと読める正面から見下ろしている。
Nの部分に空いた空間に白骨死体が収められている。
コンクリートを削った穴に遺棄したと五十嵐が分析する。
小阪は、別の場所で白骨化した後ここへ移したんだろう、と続ける。
白骨死体のそばにしゃがむ五十嵐。
「誰なのあなたは…”エンド”との御関係は?」
捜査員が小阪に大家が到着したことを知らせる。
おう、と返事する小阪。
実は8年前にもあの部屋で人が死んでいまして、と告白する大家。
え、と驚く五十嵐。
小阪は冷静に、どうしてそれを言わなかったんです、と問う。
8年前は病死で、今回の事件には関係ないと思った、と大家が理由を説明する。
小阪は、あの部屋に死体は三つあったわけだ、と状況を整理する。
五十嵐は、病死した人間に関して質問する。
河井慶太という中年で病死だったと答えた大家。
夏場で発見が遅れて腐敗がひどく、床を張り替えてもらったと続ける。
白骨の遺棄はその際に行われた可能性が高い、と小阪。
「張り替えた人は誰です?」と大家に問う五十嵐。
大家は、五十嵐の質問に、今回と同じアウンの橘浩二社長だ、と答える。
謎だらけの社長の行動
スーツ姿に手提げカバンを持った社長は、森の中、鳥居の先で上に伸びている石段を見据えている。
鳥居の前に歩いていく社長。
社長を案じる春野
春野は社長に電話をかけるが、繋がることすらなくなってしまう。
社長の身を案じる春野。
感想
特殊清掃員というのは、本当に大変な仕事だと思う。
核家族化が進み、一人暮らしが多くなった昨今、そうした人間が誰にも知られないまま亡くなった場合、発見されずに放置された死体が死体の独特の臭いから一気に強烈な腐敗臭になってしまう。
そうなると、もはや片付けようにもどうにもならない。
そんな絶望的とも言える状況で、依頼された片づけをこなして現場を原状復帰させる、現代に無くてはならない仕事だ。
映画、ドラマ、アニメ、そして漫画でもサスペンスは個人的にはとても好きなジャンルで、この第1話を読んでとても先が気になった。
特殊清掃というあまり手垢のついていない職業を、物語の重要な要素として取り入れているが、今後どう料理されるのかが楽しみ。
主人公、春野は母に自殺によって先立たれたという重い過去がある。
その過去がありながら、死体を扱う過酷な職業に身を投じているのは春野に内にある、ある種のトラウマがそうさせていることはなんとなく想像がつく。
一見、安定した仕事及び生活ぶりだが、今後話の中でそれがどう変わっていってしまうのだろう。
そして、春野にも増して気になるのは加藤と柳女による現場での「奇行」だろう。
加藤たちの代弁だが、春野曰く「現場でイカれないためにやっている」と言うことで、かなり闇が深そうだ。
むしろこっちが主人公でもいいんじゃないか、というくらい濃い設定だと思う。
正直、主人公の春野よりも加藤と柳女の奇行の理由の方が気になるかもしれない(笑)。
とりあえずこのコマには笑った。
社長は現場を放っておいて一体どこにいるのだろう。
鳥居と石段があるが、ひょっとしたら春野のマンションのすぐ裏の小山の石段を登った先ではないか。
そして、もっと重要なのは、そこで何をしていたのかだ。
社長が手に下げた鞄に何か重要な物が入っている予感がする。
多分、連続バラバラ殺人犯のエンドと関係があるんだろうけど、一体どういう関係なのか。
サスペンスやミステリーにありがちな展開として、エンドは案外身近な人間だったりするのだろうか。
今後の展開が楽しみ。
以上、ROUTE END第1話「終わりの始まり」のネタバレ感想と考察でした。
次回、第2話の詳細は上記リンクをクリックしてくださいね。
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