第41話 野盗
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響を待ちわびる受賞会場
鮎喰家。
台所で響の母が唐揚げを作りながら響の父に電話をしている。
テレビでは芥川直木の受賞者を知らせる速報テロップが流れている。
響母は、響の発案で友達と動物園とディスティニーランドに行ったから今夜はパーティーだ、と電話先の響父に向って喜びを伝える。
テロップが受賞者の名前を表示している。
『芥川賞に響「お伽の庭」豊増幸「屍と花」』
『直木賞に響「お伽の庭」が受賞しました。』
響母は画面を見ることなく、響父との電話に夢中になっている。
芥川賞を受賞した豊増幸が待機しているファミレス。
幸が涙を浮かべて愛娘に電話している。
自分のことを久美と示しを合わせてだましているんじゃないのかと泣く幸。
久美はレジで会計をしている。
店員に領収書の宛名を尋ねられ、涙を浮かべて答える久美。
ファミレスを出て、すぐ目の前の受賞記者会見の会場に入る二人はマスコミの溢れるロビーを歩いていく。
「私が芥川賞なんて全然実感わかないよ、正直絶対無理だと思ってたし。」
「私は信じてたわよ。」
「絶対ウソだ!」
エレベーター内でマスコミの多さに疑問を持つ久美は、何かあるのかしら、と呟く。
「何かって芥川賞直木賞の記者会見…」と幸。
「ロビーに溢れるほどいないわよ。会見場内で待っててくれるから。」
エレベーターのドアが開くと到着階で待機しているマスコミがざわつく。
「響さん…じゃないですよね?」
「え? はい違います。」と答える幸。
「ああもう一人の豊増先生ですね。」
笑顔で幸に声をかけるマスコミ。
「芥川賞受賞おめでとうございます。」
ありがとうございます、と礼を言う幸。
なるほど、と悟る久美。
「『響』目当て…」
お伽の庭の初刷り冊数
小論社。
「ディスティニーランド!?」
大坪が受話器を片手に驚いている。
「花井お前、なんでそんなトコに」
「……響ちゃんか。」
会見場には向かっているのか? と問う大坪。
編集部では電話が鳴りやまない。
その様子を伝える大坪。
まだ話そうとしている大坪の受話器を取る編集長。
「花井 『お伽の庭』初刷り部数決まった。30万だ。」
「芥川受賞作の初刷りが大体5万。直木は10万てとこか。」
「それと女子高生って話題性でプラス5万の計20万。」
「残りの10万は、『お伽の庭』は傑作だ。何もしなくても10万は売れる。」
想像の内訳だ、と笑顔の編集長。響の事は任せる、と目を閉じる。
「野盗」に襲われた鬼島
受賞会見会場でマスコミがざわついている。
発表から2時間経ったが姿が見えない。
「響来ますかね。」
カメラを持ってしゃがんでいる男が隣で立っている男に尋ねる。
「まあ来ないだろうな。」
ノミネートされた時からずっと取材完全NGの人間が記者会見に来るわけがない、と頭をかく。
芥川直木ダブル受賞の女子高生なら多少不細工でもアイドルなのに、とカメラの男。
エレベーターのドアが開く。
受賞者控室。
緊張している幸。
遅れているが、これ以上待てないから始めるか、とスタッフが会話している。
(響抜きで始められないでしょ。どう考えてもあっちが主役じゃない。)
イスに座ってカップを傾けている久美が不貞腐れ気味に思う。
久美は、実感がない、という幸に「胸を張れ」と即答する。
面白くなさそうに舌打ちする久美。
スタッフから、芥川賞審査員の一人が挨拶に来ると聞き、幸の落ち着きがなくなる。
「アンタもプロの作家でしょ。」と諫める久美。
ドアのノックのあと、「失礼します」と入って来たのは鬼島だった。
(鬼島仁。)
幸は口を開けて言葉を失う。
「芥川賞受賞おめでとう。」と、フレンドリーに握手する鬼島に、幸が恐れ多いと答える。
鬼島の選評を聞き、芥川賞を受賞した実感を得て幸は涙する。
スタッフに響が来ていないことを報告されて、知っていると答えた鬼島はスタッフに、かけておいて、とコートを渡す。
受けとったスタッフはそのコートのサイズの小ささを不思議がる。
鬼島はホテル前で野盗に襲われてコートの交換をさせられたと答える。
良く分からない様子のスタッフに鬼島は野盗からの伝言がある、と頭をかく。
「あのガキ 俺を使いパシリにしやがって。」
「『遅れたから控室に寄らずに直接会見場に行く』ってさ。」
え…? と控室にいる皆が呆気にとられる。
受賞会見場にやって来た響
無数のフラッシュがたかれる会見場。
姿を現したのは大き目のコートを着て、フードを目深に被った響と、響の両肩に手を乗せてすぐ後ろを随伴する花井だった。
顔を撮らせて、フードをあげて、こっち向いて、とカメラマンから声がかかるのを無視する二人。
何があっても手を出すな、と静かに呼びかける花井。
響は、わかった、と答える。
「くそっ あれだけフード深く被られると…」
カメラマンがロープパーテ-ションをくぐって響に近づこうとする。
「響にしろ違うにしろ、とにかく顔撮らないと!」
片手で持ったカメラを下から仰角に構える。
響はそのカメラがまるでサッカーボールに見立てたようにして蹴り上げる。
カメラが弾き飛ばされ、壁にぶつかる。
文句を言おうと響に食ってかかろうとするカメラマンをフードの下から睨みつける響。
花井が響の頭を抱く。
「足もダメ!」
わかった、と答える響。
今目の前で起こった光景に、マスコミがざわめく。
足が当たったとかじゃないよな、新人賞受賞パーティーの場でパイプイスを振り回した噂は本当だった、と口々に言う。
スタッフがパーテーションの影から花井を呼ぶ。
パーテーションに区切られた場所に入った響と花井。
すみません遅くなりまして、と謝る花井。
そちらの子が、と響を見るスタッフ。
花井は響に新人賞受賞式と違って隠せないから手を出すなと言った、と問い詰める。
足…とだけ答える響。
「お待たせしましたっ。」
そこに幸と久美がやってくる。
「待たせたのはあっちでしょ。」と幸に言う久美。
遅れたことを幸に謝罪する花井。
久美は響に、あなたが響かと問う。
スタッフも、響ですか? と問う。
響は、うん、とフードを上げて顔を見せる。
本当に15歳の子供だったことに驚く幸と久美。
スタッフが会見の準備が整った、と報告にやってくる。
司会者が受賞記者会見の始まりをアナウンスする。
壇上には響とそのすぐ背後に花井。隣には幸。
無数のフラッシュがたかれる。
司会者が、撮影の時間は後に設けているので写真はご遠慮くださいと繰り返す。
しかしマスコミたちは構わずに写真を撮り、壇上の響たちはフラッシュの雨に曝されるのだった。
感想
幸と久美の反応こそが芥川賞や直木賞を受賞した作家や編集者にふさわしい態度なのだろう。
日本文学界の最高峰の賞を得れば天にも昇るような気持ちになる。
しかし賞に頓着が無い響は、全くそういった浮ついた様子が見えない。
花井も響のプライバシーの保護や、そんな花井の事を全く意に介することなく思うように振舞う素行にばかり気を配るあまり、受賞を喜ぶ余裕がない。
15歳の女子高生が、しかも芥川賞と直木賞をダブルで受賞してしまうという大偉業を成し遂げてしまったため、注目が響にだけ集まってしまったことを苦々しく感じている久美がちょっとかわいそうに感じた。
幸は芥川賞を受賞した事自体に喜びを感じているのと、マイペースなことが幸いして楽しめているようだが、編集者として、これから幸とその作品が注目を集めることを期待していた久美は、世間の関心の大半が響の方に向かってしまうことを感じ取っているように思える。
そして、編集者としてはもちろん、久美は人間として幸と向き合っているように感じるので、余計に悔しいのだろう。
実際は、大注目を受けた響と同じ場所に立っていた幸も恩恵を受ける可能性もあると思うから、ぜひそういうシナリオであって欲しい。
響が相変わらずの行動で良い。
世間の注目を一身に浴びる場であっても無礼なカメラマンのカメラを躊躇なく蹴り飛ばすその堂々とした態度がかっこいい。
そして、そんなことがあっても、幸や久美、スタッフに向けてフードを上げて見せた表情は、15歳のかわいい女の子のものだった。
このギャップが面白い。
次回は大荒れの予感。
以上、響 小説家になる方法 第41話 野盗のネタバレ感想と考察でした。
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