第89話 映画
第88話のおさらい
テレビのニュースは、アシモフのロボット三原則の遵守がAIの標準となり、ターミネーターのような未来は起こらなくなった。
学校帰り、中島と新宿を歩きながら映画談義をしつつも、零は未来から来た戦士たちのことや、巨大化したパピコのこと、そしてパピコと行った石垣島旅行のことを思い出していた。
手を繋いで歩くカップルばかりが目につく。
「ちほ……さん……」
夜、零はベッドの中で涙を流していた。
「ただの童貞じゃん。俺………」
夢の中、零はパピコの部屋でベッドに寝転び他愛ない会話をしていた。
零はパピコの腕に抱き着き、涙を流す。
「ちほさん僕……独りぼっちになっちゃった。ただの童貞。」
パピコはそっと零を抱きしめて、零が人類を救ったこと、それはすごいことだから胸を張って生きてと告げる。
無理だと泣く零を、パピコは励ますのだった。
「大丈夫…零君は……大丈夫……」
そしてパピコも涙を流し自分を迎えに来て欲しいと告げる。
「私…何度生まれ変わっても……零君、見つけるって言ったでしょ……」
朝が来て、目を覚ました零の目には涙が浮かんでいた。
第89話 映画
オファー
1年前に彼氏と別れていたパピコは、新人映画監督からの主演のオファーを受けていた。
制作陣との顔合わせの現場に到着したパピコは、そこでパピコにオファーを出した新人映画監督の零と対面する。
零の父から、今回の映画の監督の横山田零さんと紹介を受けるパピコ。
同じ名前だと呟いたパピコに、親子なんですよ、と零の父が笑顔で返す。
よろしくお願いします、と握手を求める零に、パピコが訊ねる。
「なんで? なんで私に? いいんですか? 主演とか。」
零は悲しそうにパピコを見つめる。
しかしパピコはあ!! と何かを思いついた様子で、昔やっていたAV女優だからですかと問いかける。
たどたどしく、昔、ファンで、とだけ答える零に、パピコは嬉しい、AVやってて初めてよかったと思った、と笑う。
違和感
撮影初日、主演のちほ・ヨハンソンさんですと紹介を受けるパピコ。
パピコは身体にぴったりのTシャツを衣装として着ていた。
パピコは零を見つけると、自分が昔こんな格好をしていたと伝える。
撮影が進んでいく。零は、パピコと、相手役の菊池が仲良くしているのを遠くから見つめていた。
菊池はパピコの演技が上手いことを褒める。
しかしパピコは、訳がほとんど自分そのものだから地のままやっているだけだと答える。
監督は絶対にあてがきしていると思うと、菊池は零に話を振る。
零はビクつき、頼りなく笑い返すだけだった。
別のシーンの撮影で、カメラが止まった後、パピコはただボーッと何かを考えていた。
パピコと菊池の演じる横山が一緒にお風呂に入るシーンの撮影が始まる。
「いいの? 僕なんか、只の高校生なのに…」
「玲司は私のすべて、玲司は私の命」
セリフの応酬が続いていくが、パピコが突然黙り、撮影が一旦ストップする。
別のシーンの撮影で、パピコは南国の風景が広がる場所で自転車にまたがっていた。
物思いに耽り、またしてもセリフが飛んでしまうパピコ。
スタジオでの撮影の日、パピコはNGばかり出してすみませんと零に謝っていた。
零はこのままパピコを主演として使うのかとスタッフに暗に問われ、このまま行きますと即答する。
零の父親に同じことを確認されても、零は、最後までこのままでいいですからと答える。
現場のスタッフの間では、パピコの演技はクランクインの時は良かったが、撮影が進むたびに様子が変になっていったと評されていた。
どうしたら良いかわからず、顔を覆うパピコ。
抱擁
夜の街を自転車の二人乗りで走るシーンを撮影していた。
自分たちを撮っているドローンを見つめていたパピコは、あることを思いつく。
スタジオでの撮影の日、パピコは零に、自分のストーカーではないかと切り出す。
慌てて否定する零に、冗談と言って笑うパピコ。
しかしその後、脚本の中の自分が自分そのもので、まるで昔経験したような気分になると続ける。
なんなんだろ、と呟いたパピコに、零は答える。
「……全部……実際にあったこと……です……」
え? とパピコ。
零は自分が過去を変えたせいで自分とパピコが付き合っていないことになっていると懸命に説明する。
しかしパピコは若干戸惑った様子で、明日の最後の撮影頑張りますと言ってその場を後にするのだった。
撮影最終日。
パピコは玲司役の菊池と抱き合い、会話するシーンを撮影していた。
そのセリフは、零が未来を変える前の世界で、パピコが宇宙船に乗り込む前に交わした会話そのままだった。
「ちほさん赤ちゃんいるんだよ? 駄目だよ!! このまま帰ろうよ!!」
「私 強いの知ってるでしょ。絶対!! 帰って来るから。」
泣く玲司をパピコが説得するセリフが続く。しかし途中で徐々にセリフが途切れ、黙ってしまう。
カメラが一旦止まっても、両手で腹部を押さえたまま呆然としているパピコ。
やがて、その瞳から涙が流れていく。
パピコは零をじっと見つめて、ぽろぽろと涙を零していた。
(零は……私のすべて。零は……私の命……何度………生まれ変わっても、絶対……見つける……)
かつての世界での記憶がパピコの脳裏に蘇っていく。
(世界でたった一人………私の全てを心から愛してくれた人)
パピコは零に駆け寄り、縋りついて泣いていた。
その様子で零はパピコが記憶を取り戻したのだと理解し、涙を流す。
周りのスタッフを気にすることなく、二人は強く抱き合う。
感想
おそらく零は、これが最初で最後のパピコへの接触と決めていたのではないだろうか……。
彼女のために映画監督になり、彼女のために過去に自分と共に経験したことを脚本にして、彼女を主演に据えた。
パピコに元の世界線の記憶が戻ることまで期待していたのかはわからない。でもこれが零にとっては、世界を変えた後の自分のどこにも行き場の無かったパピコへの想いを昇華させる唯一の方法だったのかなと思うと何とも切ない。パピコにストーカー扱いされたのも切ない(笑)。
零の書いた脚本による撮影は、結果的にパピコの記憶を揺り動かし、見事にハッピーエンドとなった。しかし仮に何事もなく撮影が終わっていたら果たして零はパピコを諦められただろうか。まぁ、映画監督ってモテそうだし、映画撮影中の零とパピコの関係も悪くないから付き合ってた可能性はかなり高いんじゃないか。
零にはパピコがかつての記憶を取り戻していることが重要なんだろうけど、記憶が戻らなくても、付き合っていれば、かつての深い関係性が再構築されてもおかしくないと思った。基本的に相性が良い二人だと思えるからこそ、こんな想像が出来るのだと思う。
あと、パピコが記憶を取り戻したきっかけは零が齎したものだけど、でも彼女自身がかつての世界で持っていた零への想いの強さも少なからず作用していたように思う。
下手すると、どっちかが死んで、生まれ変わって出会うみたいな終わり方になるかもしてないと思っていたから、思いの外ハッピーエンドで終わって良かった。
映像化はかなり難しいと思うけど、映画やアニメになったら視聴したいと思う。服を着ていない巨大な女性と、異様なデザインの巨人との戦いは見ごたえがあると思う。
誰か意欲的なクリエイターがいたら挑戦して欲しい。
以上、ギガント最終話のネタバレを含む感想と考察でした。
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