第85話 鳴き声
第84話のおさらい
パピコの葬儀は世界各国の首脳が集う中、国葬として執り行われた。
零はパピコ喪失のショックで、母の心配をよそに食事も摂らず、中島からの電話にも出ず、自室のベッドで泣き続ける。
ベッドに身体を横たえた零は、パピコとの想い出をひたすら反芻していた。
やがて起き上がり、パピコのマンションへと向かい、合鍵で部屋に入ると、誰もいない部屋で独り、パピコを想い涙を流すのだった。
零はスマホでパピコの写真を眺めていたが、ふと思い立ち、パピコのAVを再生する。
パピコの声が響く中、泣きながらスマホでパピコの写真を見続ける。
ベッドに何度も拳を打ち付けるなどして暴れた零は、テレビのそばにある「超ULTRA」とプリントされたDVDケースに気付く。
そのディスクを再生すると、長嶋大佐がテレビに映る。
長嶋大佐は記録を続ける。
「仕方ない 可能性は低いが、ファーストプランのほうを……私だけで実行しようと思う。」
「バナー博士がもうすぐ、事故にあって死ぬはずだ。」
「バナー博士の命を救うことができれば、簡単にAIの反乱を止めることができるかもしれない。」
零は画面をぼーっと見つめて、長嶋大佐の報告に耳を傾ける。
「うまく行けば未来を変えられる。可能性は低いが…」
第85話 鳴き声
零はDVDを見続けていた。
長嶋大佐は息を切らせて、全力で街中を走っていた。
「あそこかっ。」
建設中の建物のそばの歩道を3人の男性が歩いて来る。
「バナー博士だ!!」
博士、博士! と駆け寄っていく長嶋大佐。
前から走って来る何者かに自分の名を呼ばれていることに気付くバナー博士。
バナー博士まで数メートルまで接近した長嶋大佐の目の前で、落下してきた数本の鉄パイプがバナー博士に降り注ぐ。
鉄パイプの内の一本はバナー博士の後頭部から頭頂部までを貫いていた。
「ふう……やっぱりダメだったか……」
長嶋大佐はざわつく通行者たちを背に現場を後にする。
「では、桃ノ木達を待って…本来のミッションに戻ることにしよう……」
零は涙を拭い、DVDを停止してトイレに向かう。
用を足している最中、涙が零れて来る。
「ちほさん……」
その時、外から犬の鳴き声が聞こえて来る。
パピコの部屋で零を待っていたのはもちだった。
もちを両手で抱き上げて、なんで? と何度も不思議がる零。
そして、もちをそっと床に下ろし、困惑した様子で呟く。
「何が起こってるんだ…なんだ…なんだこれ…ああ…わっかんない…」
もちが少し苦しそうにしている。
そしてもちが何かを吐き出したことに気付いた零は、それを拾い上げる。
「これって……あ、」
零は超ULTRAのDVDケースのDVDディスクを収納する部分の脇のスペースにある小さなボタン、あるいは補聴器のようなものを取り出す。
「これだ…」
それを口に含むと、零の視界に「Departture」という文字と「2021:02:23」という数字の羅列が表示される。
「これって……え? え? え?」
口の中でデバイスを転がしていくと、文字は「Arrival」に変化し、数字が切り替わっていく。
一旦デバイスを口から取り出し、零はこれがタイムマシンであると確信する。
そして再びDVDを再生すると、長嶋大佐がバナー博士を救おうと全力疾走している時の、画面に表示されているタイムレコードを確認する。
2019-03-23 13:45:46PM
「この日の前日に行ければ…本当に……これで…?」
零は胸を高鳴らせて、口中に含んだデバイスを操作する。
arrival 2019:03:22
「あっ」
「Flight……」と表示されて、視界が真っ暗になる。
視界が開けた次の瞬間、目の前にちょこんと座っていたはずのもちが檻の中にいて、すっきりしていたはずのテーブルや床には雑誌などあらゆる物が散乱していた。
零は、直前までいた部屋の様子とは明らかに異なることに気付く。
感想
もちが帰還した。
桃ノ木少佐たちはその内戻って来ると言っていたけど、ようやくもちがセットしてしまった時間がきたらしい。
そしてもちが小さいイヤホンのようなデバイスを吐き出したのを見て、これを口に入れる発想を得て、タイムマシーンを起動できたわけだ。
口中に含み、舌で転がして操作するとか面白い発想だと思う。
タイムマシーンがこんな風に感覚的に使えてしまうなんて、この物語の未来の技術は一体どこまで進んでいるのだろうか。
結局、長嶋大佐はバナー博士を救えなかった。だからAIの反乱を止めることができなかったということらしい。
しかし疑問が残る。どうして長嶋大佐はすぐに過去に戻って再びバナー博士を救おうとしなかったのか。バナー博士が鉄パイプに頭を貫かれた後、すぐにタイムマシーンで10分前くらいに戻って、事故現場まで空を飛んで移動すれば十分に事故が起こる前に間に合うような気がするんだけど……。
諦めるのが早過ぎる。そもそも過去を変えるために現代に来たわけで、過去は絶対に変わることがないというわけじゃないだろうに……。
タイムマシーンのエネルギーが無かったのか?
バナー博士が事故に遭う前日に飛んだ零。
果たして零は過去でバナー博士を救えるのだろうか。
もちがパピコの部屋に出現したということは、時間移動を行うと今いる場所で時間だけ経過するということだろう。
パピコの部屋で時間移動したということは、過去に飛んだ零がいるのはパピコの部屋なんだろう。
そこにはもち、そしてパピコがいる。
パピコの前で亡くなった長嶋大佐がパピコに巨大化デバイスを継承するわけだから、巨大化できるようになる前のパピコに会うことになる。
まだその頃は零が一方的に憧れていただけの頃になる。まだ出会ってもいない頃かもしれない。
次回すごく楽しみだな~。
以上、ギガント第85話のネタバレを含む感想と考察でした。
第86話に続きます。
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