第1話 GFハウス
第1話 GFハウス
幸せな孤児院での暮らし
グレイスフィールドハウス孤児院。
イスに腰掛けて手芸をしている女性は、楽しそうに戯れてくる子供と同じように笑っている。
ボールで楽しそうに遊んでいる子供たち。
エマと呼ばれた少女が元気良く返事をして走っていく。
朝6時に鐘の音が鳴り、大きな部屋に10個程度並べられたベッドから子供達が一斉に起き始める。
最年長のエマが、自分よりも幼い子供たちの着衣の世話をする傍らで、メガネの少女が、朝から元気良く走り回っているやんちゃな子供二人を注意する。
幼い子供を抱っこして廊下に出るエマ。
コニーという幼い女の子と一緒に歩いている男の子、ドンに挨拶する。
コニーの抱えるウサギのぬいぐるみーーリトルバーニーにも、と付け加える。
食堂に到着したエマの背中に、先ほど部屋で駆け回っていた男の子がわざとぶつかる。
にたーと笑い、エマを楽しそうに揶揄う二人の男の子に、エマもふざけて二人を廊下に出て追いかけ回す。
楽しそうに戯れる様子を見たメガネの女の子が、やってるやってる、と言ってエマたちを見ている。
その場にいる子供たちみんな笑顔で食堂に着くと、そこにはノーマンとレイという二人のエマと同年代の男の子二人が朝食の準備をしている。
朝ごはん前なのに元気だね、とにこやかなノーマン。
歳いくつだ、と冷めた様子のレイ。
エマは、2人と同じ11歳、と突っ込む。
その光景に、くす、と笑う女性。
それを見たエマは、ママまで、とショックを受けたような顔をする。
エマの背後に回っていた幼い男の子は、そんなエマの顔を両手で挟んで楽しそうにしている。
ママに泣きつくエマ。
ママは、エマのそういうところが好き、とエマを頭を撫でながらあやす。
中身5歳のところ? と聞き返すエマに、家族みんなをとても大切に思っているところ、と返すママ。
エマは嬉しそうに、ありがとう、と笑う。
食堂に用意された席に、ママと38人の子供全員が座る。
お祈りをし、食事が始まる。
テスト
食事の後、雰囲気は一転し、張り詰めた空気の中でテストが行われる。
皆、天板にモニターのついた机につき、ヘッドホンをしてモニターにペンを押し当てていく。
エマたちは、毎日行われているこのテストに関して、学校の代わりだとママから説明を受けていた。
子供達は皆、様々なテストを集中して解いていく。
テストが終了し、結果を読み上げるママ。
ノーマン、レイ、エマは300点満点だと顔を輝かせる。
無邪気に喜ぶエマと顔をあわせて笑うママ。
テスト後、外で遊ぶ子供たち。
ノーマンが鬼で、鬼ごっこをしようとしているエマたち。
エマが木陰で一人本を読んでいるレイを誘うが、けんもほろろにレイは断る。
10数え終わったノーマンが森の中に散った子供達を追いかけ始める。
子供達は広いハウスの敷地を駆け回る。
近づいてはいけないと言われている場所の一つ、森の中に張り巡らされた柵の向こう側を、エマは足を止めて見つめている。
エマは、もう一つの場所、門と合わせて二つの先には行ってはいけないという規則、そして幼い頃、ノーマン、レイの3人で門に内緒で行ったことを思い出す。
門は閉じており、誰もいない。
ノーマンは、門扉が自分たちのいる内側からは開かないのを確認して呟く。
「一体何から僕らを守っているんだろう」
レイは、ママから言い含められていた、危ないから近寄ってはダメよ、という言葉を呟き、あんなの嘘に決まってる、と切り捨てる。
そうかな、とだけ返すノーマン。
そして3人は何事もなくその場を後にする。
メガネの女の子と外についての話題で会話するエマ。
これまで施設を出て言った子供達から手紙が一通も来ていないのを根拠に、メガネの女の子はママが言った外は危ないというエマの言葉に疑いを見せ、早く外に出たいと待ちきれない様子を演じるのだった。
エリート
ノーマンを鬼とした鬼ごっこはドンが捕まり、残りはエマ一人となっていた。
エマは、迫り来るノーマンに追いつかれないよう、真剣な表情で森の中を逃げる。
10分後エマは捕まる。
レイは落ち込んでいるエマに、一人で10分持ちこたえたのは新記録だ、と声をかける。
かけっこでは負けたことがないのに、鬼ごっこでは勝てないのは何故なのかと不思議がっているエマに、レイは戦略の有無だと説明説明する。
鬼ごっこに戦略があることを疑うエマに、ノーマンがにこやかに、そこが鬼ごっこの面白さだ、と言い、レイは僕よりずっと策士だと謙遜する。
その光景を見ながら、あのレベルが一度に3人はハウス史上初だと呟くメガネの女の子。
ドンがノーマンに、ノーマン以外全部鬼で2回戦を持ちかける。
いいよ捕まらないから、と快諾するノーマン。
ドンはコニーに、最後は絶対に捕まえよう、と声をかける。
里親の元へと巣立つコニーを見て、いよいよ最後か、としみじみと呟くエマ。
先を越された、と返すノーマン。
施設を出るコニー
その夜、施設を出るばかりとなったコニーはよそ行きの服を身にまとっている。
コニーはエマたちに、ハウスを出てもリトルバーニーがいるから大丈夫、と抱いたウサギのぬいぐるみを見ながら気丈な様子を見せる。
さらに、リトルバーニーは6歳の誕生日にママからもらった宝物だと言い、自分はトロくて優秀ではないけど、大人になったらママのようなお母さんになりたい、と笑顔で宣言する。
絶対子供を捨てたりしないの、と言うコニーの言葉にエマは涙し、コニーをぎゅっと抱きしめる。
笑顔のママに付き添われ、玄関を後にするコニー。
エマたちは、元気でね、と見送る。
掃除で食堂に来たエマは、コニーが宝物だと言っていたリトルバーニーがテーブルの上にあるのに驚く。
コニーが大切な宝物だと言っていたリトルバーニーを持ち、どうしよう、と焦るエマに、レイはまだ門の灯りがついてるからコニーは出発していないんだと思う、と説明する。
ノーマンは、コニーの気持ちを考えて、早く届けてあげようとエマに笑いかける。
裏口にも鍵がかかっていることを嘆くエマだったが、ノーマンは鍵穴に針金を入れて扉を開けてしまう。
「後で一緒に叱られよう」
エマとノーマンは、夜道を門まで一気に駆けていく。
驚愕
門扉は開いており、門の中に進んでいく二人。
止まっている車に向けて、コニー? とエマが呼びかける。
ノーマンは、車の運転席と助手席にはコニーがいないのを確認する。
エマは、リトルバーニーを荷台に載せようと中を覗き、目の前に広がたている光景から受けた衝撃で思わずそれを地面に落とす。
エマの様子がおかしいことに気づくノーマン。
「ノーマン…」
エマとともに荷台を覗いたノーマンは、胸に植物を刺され、絶命しているコニーの姿を発見する。
誰かいるのか、と何者かが近づいている。
素早く車の下に隠れるエマとノーマン。
エマが近づいて来たのが誰なのかをそっと確認すると、そこには人型の怪物がいる。
鬼は、人間の肉が一番だ、と呟きながらコニーを液体に満たされた容器にいれていく。
(食人鬼…)
驚愕するノーマン。
鬼に襲われる本の内容を思い出すエマ。
(門と森の奥の柵へは危ないから近寄ってはだめよ)
エマの脳裏に、ママがこのことを言っていたのか、という閃きが走る。
そしてエマはママの安否を心配する。
鬼たちは、この農園の人肉は全部金持ち向けの高級品なんだぜ、と会話しながら作業をしている。
その言葉から、ある答えを導き出し思わず感情を失うエマ。
(私達はずっと食べられるために生きてきたの?)
残酷な真実
作業していた鬼は、上司らしき鬼に、儀程(グプナ)は? と問われ、大方終わったと返す。
さらに、6歳と並の収穫が続いているが、ようやく上物、フルスコア3匹も摘めるように仕上げておけ、と新しく現れた人影に向けて声をかける。
畏まりました、と出てきたのはエマ、ノーマンたちの前に出てきたのはママ。
鬼の命令に返事をするママをエマとノーマンは信じられない様子で見つめる。
仕事が終わり、車が出ようとする直前に鬼が車の下が匂うとそこを覗き込む。
その頃、エマとノーマンは森を抜けてハウスへ向かっている最中だった。
荷台の子はコニーではなかったとノーマンに同意を求めようとするエマに、ノーマンはあれはコニーだった、と答える。
ノーマンは、地面に四つん這いになって泣き叫ぶエマの肩を抱く。
ハウスに戻ったエマとノーマンを迎えたレイ。
どうだった? とレイに問われ、ノーマンは、間に合わなかった、とだけ答える。
鬼がリトルバーニーを手にしている。
車の下に落ちていた、と言う鬼は、ママに処分を指示する。
コニーの死を目の当たりにし、泣き崩れるエマに、ノーマンは逃げようと告げる。
エマ、レイ、そして自分の3人なら、と続けるノーマンに、エマは他の子供を置いてはいけない、これ以上家族が死ぬのは嫌だ、と大粒の涙を零す。
「…無理じゃない」
ノーマンはエマの頭を撫でる。
「大丈夫 みんなで一緒にここから逃げよう」
エマに笑いかける。
自分が泣いたからノーマンが笑った、と思い至るエマ。
エマはもう泣かないことを決める。
(頼れる大人はいない あの化物からどう逃げる?)
(戦略だ)
エマは、昼間にも行っていた鬼ごっこと同じだと考えていた。
カレンダーを見て、エマは今後どうすれば自分たちが生き残れるのかそしてその方法を考え始めるのだった。
感想
エリート
エマとノーマンが自分たちが食用の家畜であった事を知り、ハウスの子供全員で逃げることを誓う第1話。
純真で可愛いコニーの無残な姿にはショックを受けざるを得ない。
単行本の調整ページで、門に向かうまでにママと手を繋ぎ、夜空の星を見て喜ぶコニーの笑顔が悲し過ぎる。
そして、そんなコニーに向けるママの愛情深い視線が恐ろしい。
これから向かう門でコニーの辿る運命を思うと辛い。
コニーは心の底からこれからの人生が明るいものと信じて疑っていなかった。
しかし、ママはコニーのそんな気持ちを何の罪悪感も感じる事もない。
出荷する事を前提で育てているからだ。
確か、牛や豚といった家畜には名前はつけなかったはず。
飼育者は愛情をもって育てるが、それだけに下手に名前をつけてしまうと、いざ出荷する際に辛くなるだけだからだろう。
しかしママはどうか。
ママの子供達に向き合う態度は、きちんと子供の名を呼び、まるで自らの子供を育てるようだ。
ハウスの子供達が皆、明るく生き生きとした表情で生活しているのが証拠と言えるだろう。
第2話でわかるが、コニーがいち早く出荷されたのは、優秀ではなかったから。
テストで満点をとるエマ、ノーマン、レイの優秀な3人はハウスでも最年長になるまで生き延びている。
出荷の機を窺い、その時まで可能な限り特上品としての品質を高めているのだ。
エマたちに次いで成長しているドン、そして1話では名前は出てこなかったがギルダもまた優秀なのだろう。
残酷な真実
年齢に比例して求められる頭脳の水準は上がり、その基準を満たせなくなった、つまり成績が伸び悩んだ個体は”熟した”と見做されて出荷されていく流れ。
エマ、ノーマン、レイの3人はその基準値を常に超えていくから出荷を免れ続けている。
限界まで熟すのをママは待っているのか。
鬼の食用に飼育されているエマたちだが、テストの結果で品質が決まるとすれば最も重要視される部位は脳である可能性が高い。
考えてみれば、家畜は残酷なシステムなんだよなぁ。
普段、大半の人間は牛や豚や鶏が飼育、屠殺、解体という工程を意識する事がない。
ただスーパーに並ぶパッケージングされた肉を購入しているだけだから、何も思わないのだ。
あるいは、それを知ってもなお、肉は美味い。
人間が食物を摂取して生き続ける生物である限り、これは人間の業だ、と開き直っていく。
鬼たちにとっては、人間は、人間にとっての牛や豚などと同様の存在だと言える。
それまで、いつか里親が見つかるまで子供達と楽しく暮らしていくのだと信じて疑っていなかったエマたちだけに、自分たちがいつか食べられるために育てられていることを知って受けるショックは計り知れなかった事だろう。
伏線
76話まで読んだ時点でこの感想を書いているが、きちんと伏線があって、それが回収されているのがわかる。
かつて幼いエマ、ノーマン、レイの3人が覗いた門の中の、テーブルの上に蓄音機が置いてある部屋は、死んだと思っていたあの人物が、あの重要人物と会話を交わす場所なんだな。
あと、儀程(グプナ)という単語も既に出ていた。
後に、エマがある人物から教わる、鬼がヴィダという植物を胸に刺して収穫を感謝する宗教的行為だ。
コニーは鬼からすればきちんとルールに則って処理されていたらしい。
人間からしたらそんなの知ったことじゃないと思うけど、それは牛や豚からしたら同じことなんだよなぁ。
鬼の行動を否定するなら人間もまた省みなくてはならないことがある、というのが、考えるほどに湧いてくるこの複雑な感情の源泉なのだと思う。
ここから、エマたちは子供達全員とこのハウスから脱走するために知恵を絞り出す。
エマたちは子供達と一緒に脱走できるのか。
以上、約束のネバーランド第1話のネタバレを含む感想と考察でした。
第2話の詳細はこちらをクリックしてくださいね。
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