第6話
目次
零落 第5話のおさらい
ちふゆの地元にちふゆと一緒にやって来た深澤。
深澤はちふゆの運転する車の助手席に乗り、辺りをドライブする。
ちふゆが風俗店に勤めていた理由が、15万の部屋をルームシェアしていたパートナー相手が急にいなくなり、その引っ越しの代金を貯めるためだったと知る深澤。
徐々に金銭感覚が風俗で稼ぐ高給に慣れてしまったというちふゆを心配する。
ちふゆは地元の幼なじみの友達が古本屋に100円の本の為に毎日通っていて、そんなショボイ選択肢しかないような田舎ではなく、価値のあるものを求めて東京に出たことを深澤に話す。
ちふゆの話を聞いて、東京でやりたいことがあるのか問う深澤に内緒とだけ返すちふゆ。
深澤は、ちふゆのことが心配だと口にし、部屋を探しているなら、来月から一人暮らしで部屋の空きもある自分の家にくればいいと言う。
ちふゆは笑って、深澤を変な人で、何者なのか分からないと言う。
漫画のネタにしようとしているのか、とちふゆに問われ、自分が漫画家だと言ったっけ、と面食らう深澤。
ラインの交換をした際、その登録名で検索して分ったのだというちふゆに、深澤は疲れた表情で「台無しだよ」と呟く。
翌日、深澤が乗る駅の改札前で、ちふゆがリュックから「さよならサンセット」を取り出して深澤にサインをねだる。
サインするとちふゆはしきりに深澤に感心する。
深澤はやんわりと否定し、不自然な作り笑顔でちふゆと別れる。
深澤は、改札前でずっとちふゆに見送られ、ホームに辿り着いてから向かいのホームに自分とちふゆ、その子供という親子の妄想を見る。
深澤は、電車がホームに到着するというアナウンスを聞きながら、何をやってるんだと自嘲する。
田園風景を走る電車。
深澤は目を閉じ、リュックを抱えて電車の座席にじっと座る。
前回、零落第5話の詳細は以下をクリックしてくださいね。
第6話
時間が経過
深澤がちふゆの田舎にちふゆと一緒に行ってから時間が経過していた。
深澤は夏の終わりに町田のぞみと別居、仕事場を引き払って自宅に戻っていた。
それから数カ月経っても手つかずで片付かない部屋、そして仕事。
一人になったことで一番堪えたのが猫に会えなくなったことであり、他人には全く期待していない深澤。
深澤は、ソファに仰向けに寝そべり、スマホを操作している。
アカリ@akari_pikapikari
@fukazawa_kaoru
深澤先生。お元気ですか?「さよサン」完結からもう一年ですね…
先日少し悲しい出来事があってまた読み返してました。
やっぱり大好きな作品です!
日が落ちるのが早くなって冷え込んできました。体調崩さぬようご自愛ください。
返信する深澤。
↓@akari_pikapikariさんへの返信
いつもありがとう!新作が早く発表できるようにがんばります!
アカリちゃんも風邪ひかないように気をつけてね!
たまの人恋しさもこうしてSNSで解消できてしまう。
夏にちふゆの地元の駅で別れてから、ちふゆには連絡をとっていたなかった深澤。ちふゆからも連絡はこない。
パーティーにて
奨学館コミック局感謝の会というプレートがかけられたパーティー会場。
イケイケの女流漫画家である牧浦に早く仕事を再開させなさいよ、次こそは漫画賞獲れるって、と声をかけられる深澤。
まぁ、どうですかね……、とテンション低く、無表情で答える深澤。
町田のぞみが牧浦に草刈先生がお見えになりましたと声をかける。
深澤から離れる牧浦。
深澤に気づく町田。
深澤は町田を見ないように視線を外している。
ちふゆに連絡しない深澤
年の瀬が近づき寂しくなってちふゆをLineで食事に誘うが、既読がつくのみで返信が来ずに年を越す。
パソコンの前に座る深澤の開いているのは風俗店のページだった。
ちふゆの画像には「人気!!」と表示されている。
まだ風俗店で働いていたちふゆ。
店で会うのも癪だと考える深澤はただページを見ているだけ。
深澤は、ちふゆの目は猫のようであり、しかし野良猫ではなく飼い猫のそれだと考え、他の客に愛想を振り撒いているのだろうと考えていた。
さらに時間が経過
確定申告
確定申告に必要な書類を税理士らしき男に渡す。
色々買い物されてますね、と言う税理士。
衝動買いが抑えられず、と謝る深澤。
多少はいいのでは? 次の連載は決まってるんですよね、と問う税理士になるべく早くとは思ってるんですけど、と答える深澤。
しばらく休んでも平気でしょう、と気楽に言う税理士。
深澤は、重版もかからず、何も描かずにいるのは不安だと伏し目がちに答える。
八桁の預金
昔の自分と同じように、ちふゆは東京に自由を求めていたと考える深澤。
自由を手に入れるために10年死に物狂いで仕事してきたと末に、ほんの数年の自由を手に入れた、と残高八桁の通帳を見つめる。
背水の陣で原稿に向かう
スマホで徳丸に電話する深澤。
留守番電話に向けて、連絡できなかったことを謝罪する。
新作は出来ていないしヒット作を求められるプレッシャーがきついので、一度自由に描かせてほしい、そしてそれが没ならそれで良いから、新人と同じように出来上がった原稿を読んだ上で才能があるのか確かめてほしい、と留守電に残す。
自宅で原稿に向き合う深澤。
10代なら自由さ、20代なら焦燥に任せていればよかった頃とは違い、他人に受け入れられる感動や期待される苦しみを知った30代半ばを過ぎて自分に残ったのは疲れた体と幾らかの貯金だけだ、と悲観的になる。
パソコンの前で紙の原稿に向かうが、目を閉じじっとしている。
自分には何も描きたいものがなく、なぜ漫画家という仕事を選んだかもうまく思い出せないという深澤。
自由は手段であり目的であってはならない、とちふゆに伝えるべきだったと考えるのだった。
意外な来訪者
家のチャイムが鳴る。
深澤がドアを開けるとそこにいるのは冨田だった。
冨田の原稿を読む深澤。面白い、よくできてる、と呟く深澤。
すごいよ、才能あるよ、と冨田を見て褒める。
冨田は、企画もプロットも担当が作ったもので、自分はそれをなぞっただけ、と浮かない表情をしている。
深澤は、漫画として仕上げたのは冨田だ、と自信と持ってがんばれ、いい経験になるから、と励ます。
はい、と目頭をこする冨田。
それを見て、飲み物を持って来る、と席を外そうとする深澤。
冨田が、深澤に意を決したような様子で、あのっ、と声をかける。
辞めた後難癖つけたり訴えることをちらつかせたことを、鬱っぽくて、と言い訳を交えて謝罪する冨田。
深澤は微かに笑って、それはもういい、俺にも問題があった、と言う。
「だからもう私の事は金輪際忘れてください…」
冨田の言葉の思いがけない言葉に、ん? と返す深澤。
お願いなので圧力かけたり足をひっぱったりしないでください、と涙を浮かべる冨田。
今年29歳で後が無いから、とお願いを重ねる。
「…編集部に私の悪い噂とか流されたら困るんですッ!!」
「私はこの一作に賭けてるんです!! 本気なんです!!」
突如、語気強く深澤に言葉を投げかける冨田。
無表情の深澤。
何言ってんの? そんな事する訳ないじゃん……、とぽつりと返す。
息を整えつつ、ホントですか、ならよかった、わかってもらえて、と落ち着く冨田。
冨田は、深澤は漫画業界を終わってるとバカにして、売れてる漫画を認めようとしないから不安だったと続ける。
もし私が売れた時、嫉妬されたら私が迷惑じゃないですか、と冨田は涙を拭う。
深澤の目から生気が失われる。ゴミを見るような視線を冨田に向ける。
口元に笑顔を浮かべる冨田。
「深澤さん、漫画を舐めないでくださいね?」
「素晴らしい漫画だって沢山あるんです…」
「深澤さんと違って私は漫画を愛してるんで……!!」
「…帰れよ。」
深澤はテーブルに手を置き、冨田と視線を合わせることなく言う。
「…軽々しく漫画愛とか言うな。」
「お前みたいな奴が漫画を語れば語るほど、俺の中の漫画の価値が下がる。」
深澤を見る冨田の表情が軽蔑で満ちる。
深澤が続ける。
「口動かす暇があったら、手を動かせよ……」
はぁー、と長めのため息をついて、嫌だ、と立ち上がる冨田。
「全然通じないわこの人…」
深澤は、俺が嫌いなのは漫画じゃなく漫画家だからな、と帰ろうとしている冨田の背中に向けて言う。
「どいつもこいつもどうして身勝手なんだよ、たかが漫画家のくせに……」
冨田は、身勝手なのは深澤も一緒で、自分も否定するのかとぴしゃりと言う。
口答えすんなッ!! と怒鳴る深澤。
「俺に何か言いたいなら俺より売れてから言えッ!!」
ドアの前に立つ冨田。
売れることがそんなに偉いんですか? あなたが一番落ちぶれてますよ、と冷静に言い放つ。
近くの段ボールを持ち上げて冨田の出て行ったあとのドアに投げつける。
投げつけた段ボールから零れた大量の紙は、さよならサンセットの返却原稿だった。
そのまま玄関に座り込んでいた深澤は、ポストに何かを入れる音に気付く。
「…何やってんだよッ!! 早く帰れッ!!」
冨田だと思って怒鳴りながらドアを開けると、そこにいたのは町田のぞみだった。
顔を合わせたまま立ち尽くす二人。
感想
マジできついんだが。何この閉塞感。
深澤は世間的には成功した部類に入る漫画家であり、社会人だと思う。
さよならサンセットという代表作を持っていて名前も知られており、貯金も3000万円に届こうかという額を得ている。
もっと胸を張っていいと思うんだけどな。
自分の気に入らない作品が売れていき、軽々と自分の作品を凌駕していったり、才能が枯渇したのではないかという危機感であったり、妻に気後れする自分だったり、といった複合的な要素が深澤を苦しめている。
深澤を苛むのは自分のことをわかってほしい、とかそういう思春期の学生みたいな気持ちではない。
そもそも人に対して大きなものは望んでいないように見える。
周囲からの期待に応えなくてはいけないとか、描きたいものが思い浮かばず描けない苦しみは漫画家ではない自分にも何となくわかる。
そして、漫画家を嫌悪するというのもなんとなくわかる。
きっと、や〇み〇るとか石〇じ〇んとか〇川〇也みたい人たちは大嫌いなんだろうな(笑)。
漫画家なら手を動かせ、というのはその通りだと思うし、深澤は弱々しく生命力が枯渇しているように見えて、熱い思いは持っていると思う。
自分は、この漫画を読んでいて、深澤の漫画への姿勢に割とマッチョな思想を感じるんだよなぁ。
真摯に、あまりにも真正面から自己表現に取り組もうとして、しかし売上などの現実も考慮しなくてはいけないことを踏まえた結果、こうなってしまった感じがする。
この危機を乗り越えた先に深澤の新境地が切り拓かれるのではないかと思うのは楽天的過ぎるだろうか。
まぁ、この漫画のタイトルは「零落」だから、ここからの深澤の捲土重来は期待しない方が良さそうだ。
しかし毎度のことながら、この人物描写のリアル感はさすが浅野いにお先生だと感じる。
この零落という作品自体が浅野いにお先生自身を投影した物語じゃないかと以前に書いたが、今回の冨田のヤバさはすごい。
先生は、冨田みたいな人間と相対してこんなやり取りをしたことがあるんだろうか。
自分がそこにいて非難を受けているような気分になった。
漫画読んでこれだったら、実際リアルでこんな場面に遭遇したらめちゃくちゃストレス溜まりそうなんだけど……。
冨田のメンヘラっぷりと、同時に深澤に対して野心を隠さない姿勢が必死に生きている人間らしくて恐ろしく思える。
「編集部に私の悪い噂とか流されたら困るんですッ!!」
「だってもし私が売れた時、嫉妬されたら私が迷惑じゃないですか…?」
こんなセリフ、リアルで言われたことがあるのかな。
全くオブラートに包んでいない、冨田の深澤への猜疑心、なりふり構わぬ保身を生々しく感じられたセリフだった。
冨田みたいな女性が怖くてしょうがないけど、同時にここまで必死になって醜い自分を曝け出せることに羨ましさも覚える。
ラスト、ポストに何かを大量に投函している町田と再会したが、もしかしたら寄りを戻す展開になるのか?
ちふゆとの関係はこれで終わりなのか。
そもそも深澤は零落し続けるのか、それとも再生するのか。
気になる。
以上零落第6話のネタバレ感想と考察でした。
次回、零落第7話の詳細は以下をクリックしてくださいね。
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