第2話
次の連載のアイデアも思い浮かばず、静かに追い詰められていく深澤。心動かされる女の子に出会う。
前回、零落第1話の詳細は以下をクリックしてくださいね。
零落 第2話のネタバレ感想
壊れていく日常
深澤は、自宅でシャワーを浴びて、排水口に溜まった髪を見ている。
風呂場の外から妻、のぞみが声をかける。
「タオルここに置いておくよ深澤くん」
深澤は返事をせず、風呂場でしゃがんでいる。
風呂から出て、リビングにいる深澤とのぞみ。
のぞみは、担当の牧浦先生の原稿の上がりが遅く、今夜も遅くなると深澤に言う。
うん、わかった、お疲れさん、と抑揚なく受ける深澤。
当面仕事場で生活するからチー(愛猫)の面倒をよろしく、と階段を下っていく。
「…私は別れるつもりはないから。」
のぞみが深澤の背中に声をかける。
二人を追いかける白猫のちー。
疲れたならしばらく休んでも誰も責めない。
できることならこれからも描き続けて欲しいけど……。
のぞみが深澤を淡々と慰めるように言って、最後、玄関を出て行く深澤に言う。
「自分の漫画が売れなくなったからって…私に当たられても困る……!!」
その言葉に反応しない深澤。
雨の中、仕事場へ街を歩く。
仕事場で、深澤が寝ているところに電話がかかってくる。
アイデアは出てきているがまとまらない、と電話先の相手に言い訳をしている。
「春までにって言っておいてもう4月ですもんね……」
目途が立ったら連絡する。夏までには必ず、と言って電話を切る。
深澤は、街のゲームセンターでクレーンゲームをしている。
ゲームセンターから出て、煙草をふかしながら街頭を歩く人波を見つめる。
目の前を歩いていく制服を着た女子高生を見るともなく見ている。
一方、仕事場ではアシスタント二人が外に出て景色を眺めている。
「…あれ、深澤さんは?」
「…急いで今こっちに向かってるって。」
「えーまた遅刻?」
仕事場に到着した深澤。
二人を前に、本当に申し訳ないんだけど、と話を切り出す。
次の連載が決まるまで事務所を解散させて欲しいという深澤。
男のヒゲのアシスタントはシフト調整が他で利くから構わないと言うも、女アシスタント冨田は、私は困ります、とはっきりと拒絶の意思を示す。
直ぐ連載が始まると聞いていたから、友達のスタッフを断って深澤の事務所に無理に残ったのだと主張する冨田。
深澤は冨田にゴメン、と頭を下げて謝罪し、来月分の給与と、友達のところに説明に行ってなんとかしてもらえるようにすると言う。
冨田は淡々と、もう無理ですよ、売れたからって融通効くなんて思わないでください、と言う。
深澤は冨田に頭を下げたまま、本当に申し訳ない、と再び謝罪。
「はぁ…? 謝られたって仕方ないんですよ……仕事なめてんじゃないですか…!?」
冨田の厳しい言葉に深澤は頭を上げることができない。
深澤は、検索窓に「深澤薫」と打ち込んでエゴサーチをしている。
深澤薫、さよサン終わったっきり連載始まんねーな
才能枯れたかwwww
kikumaro2013(キク麻呂) – 昨日 7:26
深澤はソファに仰向けに寝そべり、腹の上でパソコンを操作している。
漫画家深澤薫に向けられたひどいツイートが画面に表示されていく。
@futurepunk42 深澤薫作品は総じて自意識過剰な中学生のポエム集といった印象。
自己陶酔はほどほどにして、漫画を一から見つめ直し出直していただきたいですね。
happappa128(風切り羽根) – 5/27(火) 23:45
深澤薫クソつまらん死ね
7yuta(ゆーた) – 5/27
無表情のままの深澤。
起き上がり、パソコンを振りかぶる。
フローリングに落ちているパソコン。画面は真っ黒になっている。
深澤は片膝を抱えるようにしてじっと座っている。
街の家電量販店に行った深澤は店員から落下は保証対象外だと告げられ、直すより買った方が良いというアドバイスの通りにパソコンを購入する。
その帰り、街頭を歩きながら深澤はスマホをのゆんぼのプロフィール画面を見ている
無料情報の店に行き、カウンターに3つの写真が並べられる。
ゆんぼは体調不良で休みだというクロスーツの男はこの子は爆乳ですよ、とゆんぼに近い娘を勧める。
深澤は、胸は小さくていいからできたら細い子でお願いします、とリクエストする。
出会い
ホテルで女の子を待っている深澤。
ベッドに仰向けに寝転がって「君の命が消えるなら僕は歌を口ずさむ」を片手で開いて読んでいる。
本を閉じ、ベッド脇のカラッポのゴミ箱に君歌を放り込もうとした時、ドアをトントンとノックする音がする。
ドアを見る深澤。開けるとそこには猫顔の細い女の子が立っている。
一瞬言葉を失った深澤。
……あ、どうぞ、と女の子を部屋に招き入れる
失礼しま――――す、と部屋に入っていく女の子。
店に連絡を入れる、と深澤に断り、深澤の隣で電話する。
深澤は電話をしている女の子のうなじを見ている。
…ですか? という女の子の声に、え? と聞き返す深澤。
女の子は静かな笑みを湛えて深澤を見つめている。
「…仕事帰りですか?」
「あー…そうだね。…いや違うかな……」
答えに迷う深澤。
「ん? どっち?」
「…いや、ちょっと君の目が…猫みたいな目をしてる。」
ふふ、と笑い、たまに言われる、と答える女の子。
あと、その髪型いいね、と女の子と目を合わせずに誉める深澤。
「…これ、すごい評判悪いのよね。」
静かに笑う女の子。
女の子は、枕元に散乱する君歌を見て、漫画読んでたんですか、と問う。
お店の子に勧められた、泣けるんですよね? 漫画好きなんですか? と作業でもするかもように服を脱ぎながら深澤に問いかける女の子。
深澤は眼鏡を外しながら、仕事で読んでおく必要があって、と答える。
「君は? 君は漫画好き?」
「んー…ごめんなさい…どちらかというと嫌いかも。」
女の子は答えながら淡々とパンツを脱いでいる。
「いや全然…俺も嫌いだよ。あの漫画もただ時間の無駄だった。」
女の子のすぐ背後に近づく深澤。
「…時間を潰すにももっとやるべき事があっただろうに。」
深澤は女の子を後ろから抱きしめる。
「そう。大変なのねお仕事。」
女の子は特に表情を変えることなく答える。
日も暮れ、ホテルの外に出た二人は並んで街を歩いている。
今日はもう家に帰るの? という女の子に、仕事場に、と無表情で答える深澤。
「そう。でも無理しないでね。あなたすごく元気ないもの。」
並んで歩いている女の子が自分の手の甲を深澤の手の甲とくっつける。
深澤が女の子の手を握る。
「…そうだね。ありがとう。」
そういえばセーラー服着るの忘れてたね、と女の子が深澤に言う。
ああ、そういえば、と深澤が思い出すようにつぶやき、今度はちゃんと指名して着てもらうよ、と答える。
「…私案外似合わないのよ。」
「ふふっそうなの それは残念だな……」
「じゃあ俺 駅向かうからここで…」
「オッケー。」
別れ際、深澤が、そういえば名前、と女の子の顔を見てつぶやく。
「『ちふゆ』」
口元に静かな微笑を湛えたまま、ちふゆは答える。
深澤の目に少しだけ力が戻り、常に下がっていた深澤の口角が少しだけ上向く。
感想
ちふゆの存在は、深澤にとって耐えがたく閉塞していく日常の中で、ようやく見つけた居場所となるのか。
どこか大人びた、妖艶さを持っているちふゆはどんな内面を持っているのか。
深澤がちふゆにどんどん溺れていく展開になるのか。
まだ2話で話がどう展開していくかわからない。
ただ、2話を読んで、やはり作者の浅野いにお先生が自身を反映して作られたキャラクターが深澤なのかな、と感じた。
浅野いにお作品にはいわゆる「自意識過剰」と評される素地がある。
それだけ繊細な心のひだが表現できているということだと思うのだが、そうしたオーディエンスの反応に辟易している部分があるんだろうなぁ、と感じた。
なにしろ描写の数々がものすごくリアルだ。
仕事場でパソコンでエゴサーチしている時に画面に表示されたツイートの数々。
罵詈雑言は悉くアニメアイコンのアカウントに語らせてるあたりも浅野先生の実体験に基づいているのではないかと思う。
この零落という作品はそういう自分の気持ちも下敷きとして描かれているのかなと思うと興味深く、面白い。
以上、零落第2話のネタバレ感想と考察でした。
次回、零落第3話の詳細は以下をクリックしてくださいね。
https://creative-seeker.com/reiraku-kanso3-333
コメントを残す