2018年初めから過熱していた問題が円満な方向で収束したようなのでまとめ。
特に漫画業界に提言などないし、真新しい論調があるわけでもないですよ、と断っておきます。
カクイシシュンスケ先生による三田紀房先生への残業代請求
流れ
今年初め、ヤングアニマル嵐で柔のミケランジェロを連載中のカクイシシュンスケ氏が、独立前にアシスタントとして働いていた三田紀房先生に対して残業代を請求した事に端を発した騒動があった。
まず、2018年1月6日にブログに残業代請求のいきさつについてツイート。
そこから佐藤秀峰先生、うすた京介先生といった名のある漫画家がツイッターで意見を表明することで議論が深まったり、あるいは別方向に飛び火するなどしながら、漫画業界の師匠とアシスタントの関係や、労働契約、果ては漫画家の収益の構造を考えさせられる大きなトピックへと成長していった。
まず結果として、1月17日にカクイシシュンスケ先生がブログで三田紀房先生に残業代を支払ってもらったと報告があった。
カクイシシュンスケ先生のブログによれば、その手紙の内容に関しては、カクイシ先生を責めるような文言は一切書かれておらず、むしろ今回の事を感謝するとまで書かれていたそうだ。
さらに弁護士ドットコムに1月22日に掲載された今回の問題に関するカクイシ先生のインタビュー記事を読むと「お互い漫画家になったんだから頑張ろう」というような内容だったとある。
形としてはとりあえず円満に終わったようで、自分としてはホッとした。
三田紀房先生の対応の素晴らしさ
三田紀房先生の対応は素晴らしいと思う。
労働環境に関する問題に国民が敏感になってきたという風潮への考慮、あとは今後ご自身が描く、あるいは描いていこうと構想している漫画にビジネス的な要素が出てきた際に説得力を失わないようにするためにも、この一手はとても立派だ。
今回の三田先生の対応を受けて、他の漫画家に何かしら影響が波及していくかもしれないと思った。
2018年1月23日日本テレビのニュースZEROで三田紀房先生が登場した。
まず番組で取り上げられたのはこれまでの漫画家のイメージを覆すような効率的な仕事環境に関してだった。
三田紀房先生のネームを書いて、ペン入れを完全に外注してしまうという超効率的な原稿の仕上げ方や、アシスタントの人たちが週3日で休日をとれるようになったということ。
特にコンドウ十画という漫画家の方はアシスタントをしつつ雑誌の漫画賞を獲るという実績を挙げたと三田先生の職場の魅力を紹介していく。
そして、次作であるドラゴン桜2を取り上げるのと併せて、最後に今回の残業代問題に関して三田紀房先生が言及した。
発言の内容に関しては、まず、漫画業界のそういった慣習があるということでアシスタントに甘えてしまったと前置きし、カクイシ先生から請求された残業代は払い、さらに自分の所で他のアシスタントに対しても同様に支払うとのこと。
かなり大きなトピックへと成長していたし、三田紀房先生自身、かなり批判を受けただろう。
残業代を支払ったとは言え、この問題に触れるのは結構勇気がいるところだったのではないか。
そこをあえて触れて、きちんとアシスタントに対して甘えてしまったとまで口にしているのはすごい。
この問題は業界を変えるか?
この結果は、カクイシシュンスケ先生にとってはひとつの大きな結果と言えるが、しかし一方で他の漫画家からのリアクションがあまりに少ないことに寂しさを覚えているのだという。
「アシスタントは半人前で修行の身なんだから決まったアシスタント代が出るだけ感謝すべき」
「きちんとした労働者なんだから労働基準法は遵守すべき」
自分には何とも言えない。
どちらも完全に間違っているということは無いように思う。
どちらかと言えば後者の立場だけど、それだと一定の技術を持った人しかアシスタントとして雇用してもらえず、規定に満たない技術しかない人はアシスタントとして学ぶ機会が少なくなるということでもある。
原稿料上げればいいじゃんと言う意見もあるけど、雑誌、単行本などの売上が落ち込んでいるこの出版不況で軽く提案できることではないだろうし。
全くの門外漢だけど漫画業界は難しい局面にあるということは分かる。
結局前述の通りになってしまうけど、今回の問題と、その結果が漫画業界の労働環境を改善の方向にもっていく為のきっかけになれば良いなと思う。ただそれだけだ……。
ちなみに、現在連載中のヤングアニマル嵐の編集部からも特に何か言われたりといったことは無かったそうで、個人的に、ここが一番心配していた部分だったので正直ほっとした。
ここがおかしい、と手を上げて発言したカクイシ先生があっという間に業界から葬り去られていたなんてことになったら怖いよ……。
柔道漫画は好きなジャンルのスポーツ漫画なのでカクイシ先生には是非頑張ってもらいたい。
コメントを残す