本好きの下剋上の感想。これはただの異世界転生ラノベではない。丁寧に作られた物語を見逃せない。

本好きの下剋上

本好きの下剋上という作品が個人的に熱いです。
本好きの下剋上
どーも自分です。

本記事の題材である本好きの下剋上という作品は、もともとは「小説になろう」で連載されている小説です。

で、それを原作として、ニコニコ静画で漫画版が連載されているわけです。

ネット上の創作物に触れている人なら「小説になろう」発と聞くと「異世界転生」モノだろ? と脊髄反射で眉をひそめる人がいるかもしれない。

 

確かにこの作品は「異世界転生」モノだよ。でも面白いよ!

 

昨今乱発される「異世界転生」モノの中でも設定と物語のテーマ、展開において独自の地位を築き着実に人気を得ている作品のひとつと自信を持って言える。

原作小説自体も中二感満載で読みやすさを勘違いしたような軽薄な文体で雑文と紙一重のようなラノベとは一線を画している。口語体の文章だけどウザさ控えめ。

といっても自分は基本漫画で読みたいので漫画で進んでいるところまでしか原作全てを読んでいるわけではないのだが、読みやすい文章と言える。
なろう系特有のウザさ(主人公・展開・文章表現)をあまり感じないのが良い。

ともすれば、「小説家になろう」に限らず、昨今の「異世界転生」というフォーマットに則っている作品というと、

「どうせ俺tueeeだろw」

「出世早すぎw」

「桃鉄かよw」

「ハーレム乙」

などとこれまたテンプレ的な反応を返されてしまうことが良くある。

それは偏見なのだが、テンプレ展開のツギハギ作品が多いのもまた事実。

しょうがないとも言えるが、しかし「本好きの下剋上」に関してはロクに読まれずそんなレッテルを貼られてしまうとしたら悲劇だ。

読みもしないで脳内の未読リストに入れてしまう人はもったいないと思う。

原作小説の良さはまた別の機会に譲るとして、まずはあらすじから、次に小説版を原作とした漫画版の良さを書いていこうと思う。

本好きの下剋上のあらすじ

主人公で卒業を控えた女子大生の本須麗乃(もとすうらの)は本をこよなく愛し、様々な本を読むことに幸せを感じていた。

しかしある日、地震によって降り注いできた本に誤って押し潰されてしまい、命を失ってしまう。

死の間際にあっても願うことは「生まれ変わっても本を読めますように」。

気づくと麗乃は小さな女の子になっており、病気に苦しんでいた。

身体を横たえていたのは粗末なベッド。周りに見えるのは殺風景な部屋。

母らしき女性が心配そうな顔で部屋に入ってきて、麗乃を「マイン」と呼ぶ。

その瞬間、マインとしての記憶が麗乃の脳に流れ込み、麗乃の記憶と融合し、「母さん」と呼び返す麗乃。
「麗乃」から「マイン」になってしまった瞬間だった。

死んでしまい、転生したという事実よりも、まずは本を求めたマインは部屋を見回しても、立ち上がって家中を探しても本はおろか字すら存在しないことに絶望する。

街に出ると商品には値札がついている。字の存在は確認できた。

そしてマインは、買い物中の母を商店で待たせてもらっている最中、棚の中に厳重に飾られていた本を発見する。

本の存在に喜ぶマインだったが、本があまりに高価な為試し読みはおろか触れさせてすらもらえない。

自分で本を作ることを思い立ち、持てる知識を総動員して資源も技術も乏しい中世ヨーロッパのような世界において、本を一から製作することに挑むのだった。

自分が考える本好きの下剋上の良さ

極端な「俺つえー」的な展開の少なさ。

まずはこれだ。一番に挙げるとすればこれ。

実は、冒頭でちょいちょい異世界転生を腐す発言をしてはいるものの、

自分は「異世界転生」モノ好きです。比較的。

「俺つえー」な展開もやられまくる主人公よりはスカッとするし、どんどん強くなったり出世していったりするから。

創作の世界の中くらいは無双して、チヤホヤされて、でも驕ることなく余裕をもっているから大概の人からは好かれる、みたいな完璧な主人公が活躍する話を楽しみたい時もあるんだよ。
大人には。

でもそれも程度問題で、ご都合主義と言えるレベルになっていくると話は違ってくる。

あまりに過ぎるとバカにされている気分になるんだわ。

大概よほどのことがない限りは一度読み始めた作品は我慢強く読み切るんだけど、ムカついてもう続きは読まない作品はある。

その点、本好きの下剋上は本をたくさん読んで身に着いた知識の範囲内で無双する。

例えば転生した中世ヨーロッパにも似た世界では文明度も中世で、当然シャンプーなんてものはなく、現代の人間から見たら男女ともに髪は現代にくらべると不衛生と言えた。

しかしその世界でマインはアボカドに似た植物の実を潰して油を採取し、それと薬草や塩を組み合わせてシャンプーを作る。

見事髪がつやつやになったマインは、美容と言う分野においてその世界では優位に立つことになる。

たびたび他の人の目を惹きつけ、印象を残す。

そして、後にその簡易シャンプーに有用性、商売のチャンスを見出した商人との交渉で、マインは目的である本作りの為の交渉の材料として簡易シャンプーを使うことになる。

進退窮まったら

スキルでボーン

魔法でバーン

最終的には

固有スキルor魔法でバババーン

みたいな展開じゃなく、地に足を着けた知識から生じたアイデアによる優位点で「なるほど、そうなるよな」という平和的な展開で無双する。

バトル以外での無双展開、「俺つえー」展開の作品もあるが、本好きの下剋上はとりわけ現代知識の活かし方が自然だと感じた。

もちろん膨大な量の本から得た知識からくる無双だから「そんな事知ってるのかよ」と突っ込むこともあるかもしれない。

その点、マインは、きちんと知らないものは知らないので少なくとも勝ちっ放しの展開は無い。

分からなくてもめげることなく、現代では普通だった事でも今は分からないからこれから頑張って見出していこうという前向きな姿勢がマリンにあるのも良い。

その最たるものは本を作るために必須の「紙」の存在で、作り方も何となく材料も道具も知っているけど、肝心の製造工程に関しては曖昧で、マインは探りながら紙作りに挑んでいく。

本好きの下剋上において「俺つえー」展開がバランスを欠くとどうなるか。

マインが紙の作り方の詳細を知っていて、紙作りに取り掛かってから数日で紙が完成。紙が貴重な世界で製品も製法も売りまくる……、と、とんとん拍子に桃鉄的に資産を増やしていくのも悪くはないが、やはり苦労するところは苦労してもらった上で成功してくれた方が好き。

ちなみにマインは体も極端に弱いので、目標に向かって電車道、とはいかず、一歩進んで二歩下がる、ジリジリと目標に近づいていく過程も好き。
 

マインがかわいい。

その理由は作画の鈴華先生の絵がかわいいからとか、マインが小さい子供だからというばかりではない。

子供の容姿ではあるが中身は22歳の女性がアイデアの実現に喜び、実現したい理想と現実とのギャップに泣く素直な感情表現には好感が持てる。

とにかく本を読むことが好きというかもはや軽く狂人の域に達している。
知識を蓄えることが目的ではなく読むこと自体を求めているという意味で真の本好きと言えるだろう。
そしてその姿勢がずっと一貫しているので傍から見ていて面白い。

このページでは漫画版の感想を書いているのだが、漫画版では原作にあった部分が削られていたりするのでマインに焦点をあてる本項では少しだけ原作に触れておく。
何よりも本を愛しているため、周りを困らせてまで自分の考えを実現させようとするところがあったり、また、原作においては序盤で家族の不潔な様を嫌う描写があり、作者の香月美夜先生も、

※最初の主人公の性格が最悪です。ある程度成長するまで、気分悪くなる恐れがあります。

と一言断りを入れている。
自分としてはマインが不潔だと判断した家族から触れられることすら嫌がることはそんなにおかしなことではないと思うんだけど、文句を言う人がいるということなのだろう。
そりゃ間違いなく家族だというマインとしての意識もあるけど、麗乃からしてみれば対面して間もない他人同然の人たちでもあるというのに。

人間的で、リアルな反応だと思うんだけど、それが漫画版では若干マイルドな表現になっていたり、あるいは全く削られてしまっていたりするのが惜しい気もする。

まぁとにかく基本的に善人ではあるけど聖人君子ではない、どこにでもいる人みたいな人物だと思う。キャラ立ちしているのはとにかく本好きな部分。

欲望がはっきりしているキャラクターは面白い。

例えその欲望の対象があまり公序良俗に沿わないものであっても求めてやまない姿には読み手に対して何かしらの印象を与える。
キャラ自体の人格がおかしくなければそれは好印象になりやすいと思う。

リアリティを以って中世ヨーロッパあたりの世界における生活を描いている。

本須麗乃の転生先となったマインの世界は現実世界との違いとして魔法が存在しているが、それ以外は中世ヨーロッパに似た文化及び文明度だ。

日常生活で不衛生な様子も描かれているし(といっても控えめだが)、身分の違いなども描かれる。

中世ヨーロッパの不衛生さなどを知ってガッカリした経験がある人は多いと思うが、原作者の香月美夜先生もそうなんじゃないかと思わせるくらい本好きの下剋上の中で衛生環境の悪さなどについての描写がある。

まだ原作ストックはたくさんある

現在連載されている漫画は既刊4巻で第1部のようやく4分の3程度。おそらく5巻で1部が修了するのではないか。

乱暴な計算だが、仮に1部が5巻の配分で進むように調整されているとして、現在原作は第5部まで書かれているので巻数は25巻になる。

しかし、4部と5部は1部に比べると話数が多いので実際に必要な巻数はもっと多くなるだろう。

まだまだ続く物語にワクワクを抑え切れない。本好きの下剋上は今後も目が離せない作品だ。

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