我らコンタクティが面白いから評価や感想(ネタバレ有りと分割済)。森田るい先生の次作も期待。マンガ大賞2位も納得。

マンガ大賞で2位を獲得した我らコンタクティ(著:森田るい先生)が面白かった。

アフタヌーンで2017年4月から10月まで連載されていた5話構成、全1巻の漫画。

 

これはとても良い作品だったので、せっかくだから感想を書いておこうと思った。

ネタバレ無しの感想→ネタバレ有りのあらすじ→ネタバレ有りの感想と分割済。

我らコンタクティ (アフタヌーンコミックス)

我らコンタクティの簡単なあらすじ

どんな漫画かあらすじを簡単に説明すると、個人でロケットを開発している技術者の同級生のある純粋な想いにOLの主人公が感化され、当初はその同級生の金しか見えていなかったのが最終的には誰よりもロケットを飛ばす事に思い入れを持つようになり……、という感じ。

 

最後まで書かなかったけど、全1巻だしオチは分かると思う。
「バッドエンドではない」と書けば自ずと答えは出るでしょう(笑)。

 

完全にネタバレを含む感想は下に分けるつもりなんでとりあえず現時点ではここまでで。

 

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感想(ネタバレなし)

幼少期に抱いた純粋な夢の実現の為にロケット開発する話

第1話を読めばオチはある程度見えるかもしれない。
それはつまり、シンプルな物語であるということ。
基本的には主人公とその同級生がロケットを飛ばすという目標に向かって奮闘するその様子を読者は一心に追う事が集中出来る。

 

オチに至るまでの過程と、その描かれ方が読んでいて気持ち良い。
自分は全然科学技術の知識に自信は無いけど作中で考案される技術には説得力を感じたし、同時に「夢があるなぁ」と感じた。
こんな風に、自分の幼い頃に得た純粋な想いを大切にして、立てた目標の達成に一心に向かっていきたい。何かにこのくらい真っ直ぐに熱中出来たらなぁと思う。

 

実際にいるでしょう。例えばナウシカが乗っている”メーヴェ”という風に乗って空を飛ぶ乗り物を実際に再現してしまった人とか。




この作品でロケット開発しているかずきはそういう類の、昔夢見たことをそのままで終わらせずに現実にしようと大人になっても真面目に考え続けられたタイプの天才だったわけだ。
自分にも何か、元々自分の内にそんなものがあったような気もするんだよなぁ。
いつの間にか無くしてしまったらしいけど。

 

そんな事を思ったのも相俟ってラストシーンで涙……まではしなかったものの、これまでの人生をふと考えてしまった。

 

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キャラクター作り – 黒田硫黄を感じさせる独自性

作中のキャラ達の会話――つまりはキャラの作り方にもセンスを感じた。
モブ的なキャラ一人一人に対しても”ああなんかこういう人いるよなぁ”という親近感を覚える。

 

絵に勢いがあるし、セリフ回しのセンスもテンポも良い。
自分は森田先生の作風にアフタヌーンを盛り上げてきた偉大な作家である黒田硫黄の遺伝子を感じた。

実際に森田先生が黒田先生から影響を受けているかどうかは不明だが、映画に毛が三本という映画批評の本を出している程の映画好きである黒田先生と、森田先生の映画好きという共通点に着目せずにはいられなかった。

黒田先生は、ぶっとい線で描かれたクセのある絵が特長で、非常に独自性に溢れる自分にとっては”ザ・アフタヌーン作家”だ。
とりわけキャラクター間のやり取り、セリフ回しに非常に独特な味があると感じている。

森田先生の描くキャラからも、それに似た空気感を覚えるのだ。

森田先生もこの淘汰の激しい漫画業界において、黒田先生のような他に代わりのいない独自のポジションをとれるポテンシャルを持っていると思う。

映画が好きという動機で描いたというだけあって、物語の進み方が映画のように感じた。
画面の構成――カメラワーク、コマ割りが巧みで読みやすい。

 

途中、ドロドロの人間関係や、それに疲れたキャラによる暴走が描かれたりするが、基本的に物語に一貫して通底しているのは人間の持つ前向きさ、明るさだ。

 

こういう気持ちの良い物語が世間で話題になり、しかもマンガ大賞で2位になるというのは嬉しい。
森田先生を見出したアフタヌーンの編集さんももちろんだが、リアルタイムで追ってきちんと単行本を買った読者はホント見る目があると思う。

自分はマンガ大賞ノミネートが決まった時に近くのTSUTAYAに駆け込んで何とかゲットしたという体たらく……。
この作品がもっと売れたら良いなぁと思う。

 

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我らコンタクティのドラマ化or映画化を望む

2時間ドラマか実写映画化して欲しいな。

 

森田先生自身、単行本カバー裏のそでに「人類が滅んでも地球がなくなっても映画だけは残って欲しい」とコメントするほどの映画好きのようなので、昨今の漫画原作映画の濫造の風潮に関して一家言ありそうだけど、面白いと思うんだよなぁ。

 

”黒田硫黄を感じる”と前述したけど、黒田先生の代表作品である茄子やセクシーボイスアンドロボは映像化されている。茄子に関しては”アンダルシアの夏”と”スーツケースの渡り鳥”と二編もアニメになっている。

森田先生の作品に関しても今後映像化の可能性は十分あると思う。映画ドラマはただでさえ漫画原作に頼っているわけだし。

 

映画化して、いっそ制作に関わらせたら良いのにと思う。非凡なセンスを発揮してくれるんじゃなかろうか。

 

自分は、漫画はあらゆる技能が複合的に必要なメディアだから、漫画家は脚本とか書いても良い仕事してくれそうだなと考えている。
そもそも、日本においては才能あるクリエイターは漫画に集中し過ぎではないか。

 

まぁ、森田先生は次作を生み出すのに忙しいだろうから難しいだろうけど……。

何かしらのメディアミックス展開に期待したいところ。

 

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以下はネタバレがあるので未読の人は注意!
 

 

あらすじ第1話のみ

主人公はOLの椎ノ木カナエ。
性格は明るく元気だが、冒頭一コマ目でいきなり会社の社長からパワハラを受けるなど、社会人として苦労しているらしく少々屈折している。

 

社長からの理不尽で執拗な絡みに耐えかねて一緒に飲んでいたバーを抜け出したカナエに、小学校の時の同級生である中平かずきが工場を営んでいる家に来て欲しいと声をかける。

 

カナエがかずきと向かった先の工場では、かずきが個人で製作したロケットのエンジンがある。

 

カナエに燃焼実験に立ち会って欲しかったと言い、かずきはロケットに火を入れる。

 

そのあまりの迫力に”このロケットの個人開発を何とか金に出来ないか”という閃きがカナエの脳裏に走る。

 

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かずきに潤沢な予算があるのかと問いかければ、同じく工場で働く兄から部品をちょろまかしているので製作費は0円だと返答され、カナエは帳簿を誤魔化してくすねるのを諦める。

 

帰宅した後も、ロケット開発をネタにクラウドファンディングやベンチャーキャピタルからの投資を募り、それを持ち逃げすれば会社を辞められるなどと企むカナエだったが、いずれのやり方も面倒だからとパス。

 

それでも考え続けていると、昨夜、社長たちと飲んでいた際に隣の席にいたおじさんから名刺をもらっており、その際に自分は社長でお金を持っていると自己紹介を受けていた事を思い出すカナエ。そのおじさんに電話で今夜時間が作れないかとアポをとり、その夜、カナエは社長を連れてロケットの前で計画への出資を訴える。

 

女性用の下着メーカーの社長でありながら、社長がロケットに一定の興味を示されたことに好機を見出したカナエは、燃焼実験の記録を出すようにかずきを促すが記録はとっていないと返答を受ける。

 

その間に社長は工場の床に無造作に積まれた映画のフィルムを見つける。
かずきは映写機ごと宇宙に飛ばして上映するのだと説明するが、社長は帰ってしまう。

 

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自身の欲望を満たす計画が頓挫したことを悟り泣き崩れたカナエに、かずきは小学校3年生の時にカナエと一緒に体育館で見た映画に感動して、その映画を観た翌日に公園でカナエと一緒に遭遇したUFOに見せたいのだと訥々と語る。

 

小学生以来抱いてきたであろう純粋過ぎる野望に大笑いするカナエ。

 

そして、社長には見せなかった燃焼実験を自分には見せたその理由が小学生の時に一緒にUFOと遭遇したからだと理解する。

 

大笑いするカナエを放っておいて淡々とロケットの製作するかずき。

 

笑い終えたカナエはかずきの作業を見ながら、あの日目撃したUFOの眩しさを思い出すのだった。

 

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感想(ネタバレあり)

 

この漫画を何度か通読してまず感じる良さは、キャラクターが本当に生き生きと動いているところだ。

最初から最後まで本当によく動く。退屈するコマが無い。

 

この漫画のオチを振り返ると、ラストは公安の制止を振り切ってロケットを飛ばすことに成功する。
ラストシーンではかずきよりもむしろカナエの方がロケット発射やその後の制御に前のめりになっていて、かずきはそんなカナエに引っ張られるようにしてロケット発射作業に集中する。挙句カナエはかずきを庇い、自分だけが公安に連行されていく。

 

カナエはラストでかずきはロケットの監視役として残し、自分だけを連行するよう公安に主張する。
そんな言わば自己犠牲の姿勢とは真逆の、物語冒頭のカナエを思い出すとその変化があからさまでわかりやすい。

 

冒頭のカナエは、とにかく自分の置かれた境遇から抜け出す事だけを考えていた。いや、病んでいたといっても良い。
当初カナエはかずきがボロ工場で造った自前のロケットを見て、本当に金になるとしか思っていなかった。
社長に理不尽に絞られ、もう会社にいたくないという一心が原動力になっているという同情できる点はあるものの、ロケット開発をダシにどうやって金を抜くかを犯罪的手法も含めてかなり真剣に検討している。
色々小賢しく検討した結果、飲み屋で隣に座って名刺をもらった補正下着会社の社長に出資させようと思いつき、実際にかずきのロケットの前まで引っ張り出す。

 

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結局かずきの予想外の主張により社長は帰宅。カナエの企みは失敗するのだが、もしその詐欺のアイデアが成功した場合、被害者となるかずきや社長はおろか、自分の家族にまで迷惑がかかるであろうことを彼女は1ミリたりとも考えなかった。

 

そんな自分のエゴのみを純粋に追求していた姿と、ラストで見せた自己犠牲との対比が非常に分かりやすく見事だ。
カナエが見せた人間としての成長から、清々しい感情を得られた。

 

ただ、カナエがかなり屈折した不健全な精神状態に陥っているところ物語が始まるものの、不思議な事にそんなカナエに対して悪感情は湧かなかった。
社長からパワハラを受けていたり、最終的にはエゴから自己犠牲へとカナエの性質がひっくり返るという点も大きいが、何より欲望に直結した行動力が読んでて気持ち良いと感じたからだと思う。
欲望に従って軽快に動くキャラは面白い。

 

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その猪突猛進な欲望はロケット開発の工程や、かずき達に関わっていくうちにどんどん金からロケット発射成功自体へと一心に注がれていく。
前述したが、ラストでは金の事はおろか、自分を公権力の犠牲にしてでもロケット発射させようとする。

最終的にはカナエがまるで我が事のように(実際ロケット発射がカナエ自身の夢になっていくのだが)率先して動くという、このダイナミックでわかりやすい変化が秀逸。

 

かずきの工場のすぐそばでスナックを経営している梨穂子や、かずきと犬猿の仲である兄のテッペイも物語の中で変わっていく。

 

人間として活き活きと動いているキャラたちが、立ち直ったり和解したりしてかずきのロケット発射に協力していく様子は、そんな仲間が見当たらない自分にとっては何とも羨ましい。

 

マンガ大賞の結果発表前までは書籍版の在庫が全く無かったので、潤沢に在庫がある今、ぜひ手に取ってもらいたい。

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